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12-10 脱出

 後ろから(たしな)められて、水をぶっかけられたように冷静になった。

 ………なんだろう、この、家族の前で幼馴染とやりあってしまったかのような気まずさは…。いや、まあ確かに? パンドラもフィリスも白雪も、知り合って1年も経ってないけど、俺にとってはコッチの世界の家族と言っても過言ではないけども…。いやいやいや、そこじゃねえよ!?

 この気まずい空気どうすんだっつー話だよこんちくしょう!?


「ね、ねえ…?」


 気まずい空気を破って第一声を発したのは、困惑気味に俺の顔をチラチラ見ていたカグだった。


「本当に……貴方が、リョータなの?」


 どこか怯えたような目。まあ、そりゃあ幼馴染がいきなり小さな外国人になってたら信じられなくてビビりますよねぇ…。俺自身もロイド君の体を自分と認識出来るようになるまで時間かかったし…。


「おう。まあ、体は借り(もん)だけどな? 中身は間違いなく俺だよ」

「その可愛い見かけでアンタの口調だと、無茶苦茶不気味だわ」

「おめぇ、本当にぶっとばすぞ……。あと可愛いって言われるの凄ぇ微妙な気分だからやめて下さい」

「でもリョータ…なんで外人の子の体に?」

「その説明は、もうちょい落ち付いた場所に移動したあとでな」


 カグから視線を外して、通路の奥―――サファイアのばら撒いた炎の明かりが届かない闇の奥に目を向ける。


「おい、そこに居るだろ? 隠れてねえで出て来い」

「え? なに? 何か居るの?」


 状況をイマイチ理解出来ていないカグが、俺の視線を追って闇の奥を見るがその反応って事は何も視えてないのか…。≪白≫から何かしらの感知能力をデフォルトで貰ってる筈だけど、それでも何も視えてないらしい。

 そしてようやく周囲の異常さに気付いたらしく顔を引き攣らせる。


「何ここ!? 超気持ち悪いんだけど!? 壁に目とかついてるんだけど!? 趣味悪いホラーハウスみたい!? でも、ちょっとワクワクするかも!!」


 冥府の不気味さにビビりつつ、何地味にテンション上げてんだよ……以外と余裕あるなコイツ…。


「騒いでないで危ないから後ろ下がってろ」

「何よその命令口調…」


 文句を返そうとしたカグを、パンドラが有無を言わさず引っ張って行った。


「マスターの指示に従って下さい」

「え? 何このメイドさん……誰?」


 元々人見知りするカグだ。見知らぬ他人に強く出られると拒否できないポンコツなので、パンドラの対応は100点満点です。

 カグがパンドラに引っ張られてフィリス達の所まで下がったのを確認してから、改めて通路奥の闇を見る。

 さっきの言葉を聞いても変化無し。


「サファイア~」


 呼ぶと、白雪を乗せてパタパタと飛んでくる。

 クイッと通路の奥に向かって顎をしゃくる。すると、サファイアが俺の言いたい事を読みとって空気を吸い込み―――火炎弾を吐きだす。

 赤い尾を引いて闇に向かって撃ち出された火炎は、突然水に沈むようにスゥっと闇に消えて見えなくなった。

 しかし、それ以上の変化無し。


「おい、いい加減にしろよ? 3秒以内に出て来ない場合は、次は原初の火をブチ込む」


 脅しではない事を示す為に、右手に黒い炎を握る。


「はい、3、2―――」

「待て」


 少しだけ闇が晴れて薄くなり、鈍色(にびいろ)の骸骨仮面の異形が立っていた。


「何あの不審人物感満載の骸骨仮面?」「先程まで貴女の体を使っていた冥王ハーデスです」「はぁ!? ちょっとリョータ!! 私にぶん殴らせなさいよ!!」


 幼馴染ちょっとうるさいから黙ってて欲しい…。変にビビって大人しくなられても不安になるけど、これはこれで場の空気が(たも)てないから勘弁してほしい。


「居るならさっさと出て来いよ。俺の事が恐くて便所にでも引き籠ったのかと思ったわ」

「…………チッ……」


 仮面の下で舌打ちしたのが分かった。

 カグをアッサリ取り戻された事がさぞ悔しいのだろう。

 そもそも魔神を体に宿した時点で、俺達継承者の体は、精神干渉に対して笑えるくらいの高い耐性を持っている。

 そんな体をハーデスが自由に出来ていた理由は、カグの意識が何かしらの方法で完全に“閉じて”いたからだ。

 カグが目を覚ました時点で外に叩きだされるのは当たり前。


「で、()んの? 土下座すんの?」


 原初の火をチラつかせると、ハーデスが怯えた。態度や言葉には出さないが、雰囲気や…なんつーの…闘志? みたいな物が完全に逃げ腰になっている。

 まあ、俺が原初の火を引っ張り出した時点で、ハーデスの勝ち目はゼロになったのだから、逃げ腰になるのは当たり前。ずっと昔に原初の火へのトラウマを刷り込まれているのなら尚の事だ。

 脅しを口にしたが、まあ、流石に冗談だ。

 ウチの連中に色々してくれた事についてはまだ頭にきているが、戦意の無い奴をボコろうと思う程人間腐ってない。……いや、まあ、水野みたいな放置する事に百害あって一利無しみたいな奴ならボコるけども…。

 少なくてもハーデスは絶対的な敵と言うわけではない。状況的な流れで殺し合いになってしまったが、無理に叩く理由はない相手だ。


「なんつってな。そっちが手を引くなら、これ以上冥府を荒らすつもりはねえ。帰り道さえ用意してくれんなら、さっさと帰る。だからちゃっちゃと道を開いて下さいこんにゃろう」


 数秒の沈黙。

 俺との戦いは避けたいが、このまま冥府の侵入者を無事に逃がしていいものか? まあ、そんな感じで迷っているのだろう。

 迷っているのならば、その天秤を傾けてやろう。俺達を逃がす事で傷付く冥王としてのプライドよりも、俺達―――と言うより俺をここに留めておく事の方が圧倒的にリスクがデカイと言う事を分からせてやる!

 黒い炎の燃える右手をピンっと弾いて、小さな火の粉をハーデスの右腕に飛ばす。避ける間は与えない。

 攻撃への警戒が薄まって居たせいもあって、ハーデスの反応が明らかに遅い。

 ボロ布のような黒いローブと共に右腕が一瞬で灰も残さず焼け落ちた。


「ぐぁああああッ!!?」

「仲間への色々は、腕1本で許してやる」


 って言うか今頃言うのもアレだが、死なない特性って痛覚無効セットにしてないと結構欠陥能力じゃね?

 ま、そんな事はともかく、原初の火で燃やした腕はもう2度と再生出来ない。1度体を完全に崩壊させてから蘇生させたとしても、右腕だけは元に戻る事はない。原初の火に燃やされた右腕は、完全に肉体のデータから削除されているからだ。


「だから、さっさと俺達を精霊の城に帰せ」

「くっ………ぉのれ…」


 骸骨仮面の奥の目が殺意でギラついている。が、それ以上の行動には出ない。

 怒りに任せて攻撃しても、俺が原初の火で反撃すればその瞬間に自分が消されるのは目に見えている。

 ほーれ、こんな危険人物を自分の庭に置いておくなんて危な過ぎるだろ? さっさと追い出す為の道を開けなさいな。

 そんな思考が伝わったわけではないだろうが、ハーデスが諦めたように残った左手を不気味な無数の瞳が輝く壁に向ける。すると……壁の一部が獣の口の様に開き、その奥には歪んだ空間。

 これ、見た事あるな? もどきの所から元の世界に戻る時に通った転移門的な奴だ。多分だけど、通常の転移魔法やスキルよりももっと上位の移動効果―――次元転移的な奴じゃないかな……いや、まあ詳細は分かんないけど。


「そこを通れば、精霊の城に戻れる」


 白雪が喜んで、早速空間の歪みに入ろうとする。


「やったー、ですの!」

「白雪待て」

「……ですの?」


 何故俺が止めたのか分からず、白雪が不安そうな顔をする。パンドラとフィリスも首を傾げているし、カグは状況を理解出来ずに無表情になってるし。

 ハーデスを睨む。


「で? その歪みに入るとどこに飛ばされるんだ?」

「………!?」

「はっ、やっぱりかよ」


 あの歪みの出口がどこかは知らないが、少なくても人間が生きていられる場所ではないだろう。海の底か、溶岩の中か、下手すりゃ宇宙か。

 “敵の親玉の素直さは信用するな”ってのは、俺の偽物とのやり取りで身に沁みてる。勉強代の支払いがロイド君だったのは……どう考えてもボッタクリだろうとは思うけど。


「おい、もう1度だけチャンスをやる。次にちゃんとした出口を出さなかった場合は、冥府ごとテメェを焼き殺す」


 まあ、ただの脅しだけどな。コイツを消滅させたら、俺達も冥府から脱出出来なくなるし。


「っつ………」


 悔しそうな息を吐いてから、今度は左手を壁ではなく天井に向ける。

 天井の闇の一部が晴れて、白い空間の歪みが現れた。


「あれが“本当の”出口か?」

「…………ああ」


 一応原初の火をチラつかせて反応を見るが、ビクッとしただけで視線を逸らす事はない。今度は大丈夫そうだな?


「おーし、皆天井の歪みが出口だ。帰るぞ~」


 (いま)だ目を覚まさないJ.R.の体を「よっこいせ」と小脇に抱える。

 J.R.自身の持っている治癒スキルと、フィリスが回復魔法かけ続けてくれたお陰でもう全快してるっぽいな………なんかスヤスヤと鼻ちょうちんしてるし…。

 あとはもう引っ叩いたら起きそうだなコイツ。まあ、起こすのは落ち着いてからにしよう。せめてカグへの状況説明してからじゃないと色々面倒臭い。


「フィリス、浮遊魔法でパンドラの事浮かせてやってくれ」

「はい、お任せを!」

「カグ、お前自力で飛べたよな?」

「うん飛べるわよ。どうやって飛んでるのかイマイチ分かんないけど…」


 多分風力操作的な何かで浮かせてんだよ、知らないけど。


「エメラルド達は―――」

「我等の役目は終わったようなので、ここで失礼致します」

「お? そうか、毎度すまんな?」

「お気になさらないで下さい。主様の役に立つ事こそ我等の生甲斐でございます。では、御前から失礼致します」


 狼と蜥蜴と仮面が、それぞれペコリと頭を下げて炎になって消える。

 俺の中に戻ったエメラルド達に心の中でお礼を言う。


「じゃあ、戻るべ」


 サファイアが居なくなって、俺の肩に戻って来た白雪を一撫でして【浮遊】で体を浮かせる。


「んじゃな冥王」

「………2度と来るなよ! 君の存在その物が、私にとって迷惑極まりない」


 酷い言われようだ。ま、コッチも好き好んでこんな場所きたくねえけど。

 


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