2-3 ソグラス
アーマージャイアントの交戦後は、魔物とのエンカウントは無くスイスイと順調に歩は進み、まだ日が高いうちにソグラスに到着。
ソグラス。位置的には王都ルディエのお隣の町。まあ、隣町と言えば身近に感じるが、実際には徒歩4日の距離だ。
ルディエの街の巨大さに驚かされたものだが、この町も負けず劣らすデカイ。しかも、人通りが多くて活気もあってコッチの方が王都っぽくね?
「ルディエはほら、魔道皇帝の件があったからね」
「ああ、言われてみればそうか…」
「さて、んじゃ日が出てるうちに宿取っておくか。俺達の馴染みの宿があるから、そこで良いかい? 俺達の紹介なら少しは安くして貰えるぜ」
「是非お願いします!」
実は現在そこそこ金はある。と言うのも、冒険者登録時の課題で提出した魔道皇帝の魔晶石がエライ高い金額で換金され(それでも安いと言われたが…)そのお陰で現在背負っている旅に必要なアレやコレやもそれなりの質で用意する事が出来た。まだ金銭的に余裕はあるが、これから先は安定した収入を得られる保証は無いので節約は出来るならしておきたい。
「それじゃ、まずは宿ね。その後はこの町の色々な所に案内しておくわね。ギルドの場所とか旅用の道具揃えたり補充したりできる店、知っておかないと不便でしょ?」
「そっスね、お願いします」
その後、宿を目指して歩きながら、「あそこの家の爺さんは昔どっかの国のお抱えの魔法使いだったらしい」とか、「あの井戸で延々話してる女性達の噂話は情報源としてバカにできない」とか、「あそこは肉料理が美味いがスープがいまいち」「でも良いお酒置いてあるから私的には一押し」だの、色々な話を聞かせてくれた。流石に地元民だけあって情報の地域性がパネエな。
宿に着くと、料金を払って背負っていた荷物は部屋に放り込む。扉に鍵が付いてないのが若干不安だったが、盗られて困る物もないのでまあ良いか…。
3人揃って荷物を置いて身軽になると宿を後にして町に出る。
傷を治療出来るポーションを扱っている道具屋と、武器や金物の手入れをしてくれる鍛冶屋にまずは案内して貰った。即効性の高いポーションは結構値が張るなあ…でも命には代えられないし……買うかどうかはもう少し悩んでからにしよう。鍛冶屋…は今の所、用はないな。
「はい、そしてここがソグラスの冒険者ギルドね」
ルディエのギルドより若干小さいが、それでも立派な建物だ。
中に居るのはやっぱりむさ苦しくてガラの悪そうなのが多い…。ダメだ、アッチの世界で不良に会った時のような気分で委縮してしまう…。そのガラの悪い集団が輪になって真剣な顔で何やら話しているのだからなおの事だ。
輪になっていた男達の1人が入って来た俺達に気付き声をあげる。
「おっ! アルト、レイア! ようやく戻ったか、お前達が戻って来るの待ってたんだぞ!」
輪になっていたのが全員コッチに歩いて来る。
一瞬ドキッとしてしまったが、俺は関係なさそうだな。
「俺、先に換金済ませて来ますね?」
2人に断って受付に向かう。
ソグラスの受付をしていたのは見事な口髭を生やした、眼光の鋭いオッサンだった。……受付ってさあ、お姉ちゃんがやるもんじゃないの…? 何この近付きたくない感じ…勘弁してほしいわあ…。
「魔石の換金お願いします」
魔石の入った袋と、首から下げていた白のポーンのクラスシンボルを机に置く。
「ここじゃ見かけねえ顔だな?」
ジロジロと俺を値踏みするような視線。このオッサンからだけじゃなく、ギルドのあちこちからも俺に向けられた視線を感じる。
そういや、冒険者は大抵決まった町を拠点に活動するから、縄張り意識からよそ者の同業者にはあんまり良い感情を抱かないって、アルトさん達が言ってたっけ…。
「はい、先日ルディエで冒険者になったばかりです」
「新顔か…しかもこんな子供を。ルディエのギルドは何考えてんだ?」
ブツブツ言いながらオッサンが俺のクラスシンボルを手に取ると、白かったポーンの駒が赤く染まる。そして、駒の底に刻まれた俺の名前を確認。
「本物だな。名前は…アーク?」
「………」
名前について突っ込んだ質問されるのは恐い、なにせ偽名だからな。一応アルトさんが規約違反じゃないし、そう言う人間は結構多いって言ってたから大丈夫だと思うが…。
内心の不安を悟られないように極めて平静を装う。
そうだ、こう言う時は意識をこのオッサンに集中しなきゃ良いんだ。
思いつくや否や、意識を後ろの方で話しているアルトさん達の会話に耳を澄ます。
「どうしたんだ皆揃って?」「何、大規模討伐の依頼でも入ったの?」「違ぇよ! 良いか? 聞いて驚くなよ?」「なんと、アーマージャイアントが出た!!」「いや、待て、まだ驚くな! 本題はこっから」「それも3体だ!!」「あの、クッソヤバい魔物が3体だぞ!?」「へ、へえ…」「そうなんだ…」「何だ反応薄いな…?」「バカ、当たり前だろうが! アーマージャイアント3体だぞ!? こんなの俺だって信じられねえよ」「それで、今どうにかして町に近付く前に仕留められないかと思って戦力を集めてたんだ」「最悪でも町から遠くまで引っ張って行って時間を稼がねえと…」「下手すりゃ全滅の危険もあるが、お前達も参加してくれるだろ!?」「あ、ああ…それは構わないけど…なあ、レイア?」「う、うん…でも、それ多分必要ないと思う…」「必要無いってバカか!?」「いつ町に来るか分からねえんだぞ!?」「いや、そうじゃなくて。そのアーマージャイアント3匹、戻って来る時に出会ってさ…」「お、おいマジか!?」「良く無事だったな!?」「ええっと…無事って言うか、そいつら倒して来たの」
「「「「「「はあっ!?」」」」」」
話が盛り上がっているようで何よりです。
ぶっちゃけワイワイガヤガヤし過ぎて何話してるか良く聞こえねえけど…。
「確認した。魔石を見せて貰おう」
「はい」
袋の紐を解いて中身の魔石を机の上にゴロゴロと転がす。
「ん? コイツは…ナイト級の魔石…?」
アーマージャイアントの核だった魔石を手に取って、改めて俺を見る。さっきまでとはちょっと違う視線。驚愕、恐怖、疑惑、読み取れるのはそんなところだろうか?
それより、さっきから後ろの話声が五月蠅くなって来てるんだけど…。
「おい、ちょっ!? 倒したってどういう事だ!?」「冗談だろ!? あんなもん1匹だって2人で倒せる訳ねえよ!!」「本当だよ」「ええ、間違いなくね」「いやいやいや、嘘だ、嘘だって!」「そうだよ、だってアーマージャイアントだぜ!?」「じゃ、じゃあ! ど、どうやって倒したのか言ってみろよ!!」「倒したのは俺達じゃないよ」「3匹全部倒したのは、今魔石換金してるあの子」
ん? 何だろう? 後ろから刺さる様な視線を感じる…。
恐る恐る振り返ると、さっきまでザワザワしてた連中が信じられない物を見る目で俺を見ていた。
何? 何なの…。あんな目で見られる覚えがねえんだけど…。
輪の中心に居た知り合い2人に聞いてみよう。
「なんか、ありました?」
「ああ、うん。アーマージャイアント3体をアーク君が倒したーって話」
「はあ? それがどうかしました?」
「おい、おいっ!! ちょっと待て坊主! 本当にお前がアーマージャイアント3体を倒したのかっ!?」
「ええ、そうですけど?」
なんでこんな大騒ぎしてんだこの人達…。
「ど、どうやって倒したんだよ!? 見た所まともな武器もねえし、魔法か!? 実はその見た目で凄腕の魔法使いなのかっ!?」
どうって…。
男達に手の平を向ける。
えーと、建物の中だから威力は絞ってっと。
「こうやって…」
手の平から迸る火炎。ギルドの内部が一瞬にしてサウナのような熱さになる。
「燃やした」
何かに火が移る前に素早く手の平の火を散らす。
「え……何、今の炎……? 魔法…じゃ、ないよね…」
何と聞かれても、そりゃ火だろ。
「お、おま、お前いったい何者だよッ!?」
「何って言われても……単なるポーン級だが?」