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2-2 炎使いのアーク

 朝だ。あたーらしい朝が来た、の朝だ。

 ああ、今日こそはまともなベッドで眠りたい。あと贅沢を言えば硬いパンと干し肉と野草以外のマシな食べ物も食べたい。

 朝食は軽く済ませてさっさと出発する。


「今日中にはソグラスに着くなあ」

「そうね、ここら辺の景色を見ると、ようやく帰って来たって気分になるわねえ」


 いつもより若干ウキウキしている2人。

 遠出して地元帰って来た時の安心感はなんか分かるかも…。アッチに居る時に旅行帰りで似たような経験あるからなあ。


「そう言えば、ソグラスってどんな町なんですか?」

「簡単に言えば商業の町だな」

「ソグラスはね、南に行けばアステリア王国の海路の要と言われてるジェレストがあるし、北に行けば鉱山の町ダロスがあるのよ。どっちからも大量に物が流れるから、その道中にあるソグラスは自然と人も多くなって、今じゃその人を目当てに商人が集まってるってわけ」


 なるほど、物流拠点的な扱い…って認識であってるかな? いや、違うか。物流の大量のトラックのお陰で賑わう道の駅って方が正しいか。

 まあ、何にしても人が集まるって事は情報も集まる。上手くいけば、蘇生の方法とか、肉体から精神引き剥がす方法とか分かるかもな。それともう1つ、≪赤≫についてだ。皇帝が何やら言っていたが、俺はこの力について全然知識が無い。これを狙ってくる奴等が本当に居ると言うなら、俺も色々知っておかなければならないだろう。

 それと、これは別の話だが関連して1つ。俺自身の戦闘能力を鍛える必要がある。今の俺はそこそこ卑怯臭いスキルを持っているとは言っても根本的にさほど強くない。これから先、魔道皇帝以上の化物が現れる可能性がある以上、強くなる事は情報収集と同レベルの最優先事項と言える。


「ん? レイア、アーク君ストップ」

「何?」「何ですか?」


 口を開いた俺とレイアさんに、シッと口に指を当てるジェスチャーを返してくる。

 静かにしろって事は分かるけど、何だ……ん? 音? 遠くからズシンズシンって…足止めて意識しないと分からないけど微かな振動も。

 【熱感知】で周囲を見ると、森を抜けた先辺りに大きな熱源が3つばかり移動しているのが見えた。


「森抜けて少し行った所に、でっかいのが3つ居ますね」

「本当に?」

「ええ、間違いないです。人間にしては熱量低過ぎるんで、多分魔物だと思いますけど」


 そうそう、こうして旅に出て多くの魔物を目にするようになって気付いたが、魔物は人間に比べて平熱が大分低い。そりゃあ中には高い種類も居るかもしれないが、少なくても俺の見て来た魔物は全部低かった。


「…どれくらいの大きさか分かるか?」

「俺2人分くらいです」

「人型?」

「当たりです。良く分かりましたね?」

「あー…マズイな…」


 アルトさんとレイアさんが顔を見合わせて苦い顔をする。どうやら、先に居る魔物はあまりエンカウントしたくない奴らしい。


「あの魔物に心当たりが?」

「ああ。ここらで巨人型の魔物って言ったら、アーマージャイアントしか居ない…」

「加えて言うと。ソグラス周辺で出る魔物の中じゃ1番強い奴よ」

「前に1体倒した事あるけど、全身鉄で出来てるんじゃないかってくらい硬くてさ。結局討伐パーティー11人で倒れるまで魔法ぶつけたんだけど」


 1体倒すのに11人がかりか…。なるほど、それが3体も群れてるとなれば、さっきの2人の苦い顔も頷ける。


「魔物のランクで言えばナイトの黒…ヤバいぞコレ…。その3体と戦闘になったら勝てる気がしねえ…」


 現在コッチは、ナイトの白のアルトさん、ビショップの黒のレイアさん、そしてポーンの白の俺。

 ふむ、なるほど等級使っての戦力判断はこうやってするのか。


「どうするアルト? 避けて通るのは良いけど、ここもうソグラスに大分近いわよ? 下手に放置したら町が襲われるわ」

「だよなー…なんとか戦わずに町から離して、その後急いで町に戻ってギルドで討伐隊を組んで倒すってのが1番良いんだろうけど」

「……うちのギルドの戦力でどうにか出来るのかって話よね…」

「…ああ。うちは1番強い奴でもナイトの黒が2人だし、結構ギリギリだよなあ…」


 うーん。何か絶望的な空気が漂っている…。

 でも、2人がそこまで警戒する魔物か…俺自身の力がどの程度通じるのか、一当てしてみたいな。戦闘経験値はいくらあっても困らないしな。


「とりあえず、仕掛けるだけ仕掛けてみませんか? ダメそうなら俺が殿するんで、2人は先に離脱して下さい」

「ちょっ、何言ってるのロイ…じゃないアーク君!」

「俺の事は大丈夫ですよ。こう見えてやるときゃやるんで」


 まあ、最悪の展開として【赤ノ刻印】使う事も視野に入れて置く。刻印出してる状態なら、相手が皇帝以上でもない限りは力押しでどうとでもなるし、ならないならならないで逃げれば良いし。でも、まあ、使わずに済むなら済ませたい。アレは、人から見たら明らかに異常な状態だし…下手にそれで噂にでもなったら、それこそだ。


「そりゃ、まあ、ルディエで君が戦ってるのは見たけど…」

「ほらほら、アーマージャイアントとやらがどっか行かないうちに行きましょう!」


 いまいち納得していない2人を連れて、3つの大きな熱源の方に歩いて行く。

 森を抜けて視界が開けたらすぐにそれは見つかった。

 距離はまだ20mくらいあるのに、それでも分かる巨体。魔物の証である黒いモヤを全身に纏い、殺すべき相手を探して辺りをウロウロしている。その姿を説明するなら、手足の生えた巨大な松ぼっくり、かな。その手には人間1人分以上の長さのぶっとい棍棒。確かに、今まで見て来た動物型とは違って強そうだ。


「うわ…本当にアーマージャイアントが3体居るよ……」

「夢なら覚めて……。もう、魔道皇帝の件が片付いたと思ったらコレよ……」

「どうします? こっそり近付いて不意打ちかまします? それとも正面から行って顔面ぶっ飛ばします?」

「……アーク君、本当にやるのか?」

「だって、放置するとソグラスも危ないかもしれないんでしょ?」

「ううむ、そうだけど……」


 敵を目の前にして及び腰になっている2人。俺のように無知な人間ではなく、敵の強さと自分達の実力を冷静に天秤にかける事ができる2人だからこそだろう。そして多分、それは魔物との戦いで生存能力を問われる冒険者としては正しい。正しいが―――…。


「あっ、敵に見つかった」

「「えっ!?」」


 こういう状況じゃ戦うしかなくね?

 2人が慌てて戦闘態勢に入ろうとしているが、そんな事を気にせずアーマージャイアントの1体が土煙を上げながらドタドタとコッチに走って来る。あー、見た目の鈍重さとは裏腹に結構動きが速いな。

 さてと、戦うように進言したのは俺だし、責任とって俺が一番槍と行きますか!!


「んじゃ、仕掛けます!」


 勢い良く飛び出す。【フィジカルブースト】で身体能力を肉体限界以上まで引き上げて、更に加速。急速に巨大な松ぼっくりとの距離が詰まる。

 巨人が走りながら棍棒を上に振りかぶる。


「アーク君っ!?」


 後ろから聞こえるアルトさんの声を聞き流し、棍棒が振り下ろされるより早く、無駄にデカイ体の下に潜り込む。

 あら、なんて事でしょう、こんな叩きやすい所にお腹が。んじゃ、遠慮なく、せー…、


「のッ!!!」


 全力で拳を叩き込む。

 デコボコしていた鎧だか表皮だかの一部が拳の形で拉げ、3mくらいある巨体が2m程空中を泳いで地面に落ちる。


「拳…いってぇ…」


 なるほど、こりゃ硬い。殴った手をプラプラさせて痛みを散らしながら、敵を観察する。

 アーマージャイアントはムクリと起き上がりまた向かってくる。同時に、戦ってる事に気付いた残りの2体もノッシノッシとこっちに向かって来る。

 さて、どうするかね? あの様子じゃ物理ダメージは薄いか……なるほどなるほど、“アーマー”ジャイアントの名前は偽りの看板じゃなさそうだ。

 再び俺に棍棒を振りかぶりながら突っ込んでくる。芸がねえなあ…もうちっと攻め方工夫してくれ。

 振りかぶった手を【魔炎】で発火させる。たちまち空気中の魔素を喰らって火種が成長して火炎となりアーマージャイアントの腕全てを呑み込む。

 物理ダメージが通り難いのは分かった。コイツがそれなりの驚異であるのも分かった。

 でも、まあ――――…。


「はい、1匹」


 手の平を、炎をどうにかしようともがくアーマージャイアントのお腹…さっき拳でヘコませた所に優しく置き、【レッドエレメント】のスキルを発動して手の平から膨大な熱量を流し込む。

 ボシュンッと熱に耐えきれなくなった巨人の体が破裂し、周囲に真っ黒な魔素を撒き散らす。

 でも、まあ―――…炎熱に耐性がないならそこまで警戒する相手じゃねえな。

 上から落ちて来たゴルフボールくらいの魔石をキャッチする。

 さて、残る2匹はどう料理してやるかな?

 こっちの物理打撃の通りが悪いってんなら、わざわざそれに付き合う必要はない。距離を詰められる前に焼き殺す。

 近くに居た方の足元に火柱。狙い通りに、巨人が慌てて足を止める。


「2匹目」


 指先を軽くヒュッと振ると、火柱が意思を持って動いたかのようにアーマージャイアントに抱き付く。身を焼かれながら必死に火を消そうとしているが、体に火が移った時点でもう完全に詰んでいる。

 その横を通り過ぎて3匹目が突っ込んでくる。

 2匹殺られる姿見ても、懲りずに近接戦闘に持ち込もうとするって事は、コイツ等は魔法とか特殊な遠距離攻撃とか持ってないのか? だったら、なおの事近接に付き合うメリットがない。

 2匹目と同じ手は通じるかな…? 3匹目の足元にも火柱を。が、どうやら魔物にも学習能力があったらしく、火柱に焼かれる事も構わずスピードを緩めず突っ切って来た。

 おっ、抜けられた。多少ダメージが通ったけど、行動不能にするにはまだ足りないか。

 松ぼっくりの胴体部分を発火させるが、それでもまだ足が止まらない。

 チッ、硬いだけじゃなくて耐久力もそこそこあるか。先の2匹は有無を言わさず焼いちまったから気付かなかったな。

 距離が縮まる。改めて距離取っても良いけど……。

 棍棒が振り下ろされる。

 回避、即座に地面に叩き付けられた棍棒を足場にして飛ぶ、ゴツゴツした肩に手をついて、そのまま首元に取り着く。


「ああ、そうそう。別にお前等に恨みはねえけどさ。巨人型の魔物相手だとちょっと力入っちまうんだわ!!」


 間違いなく即死レベルの熱量を宿した拳を、巨人の後頭部に叩き込む。

 体が地面にめり込みながら、魔素を撒き散らして四散していく。


「恨むんなら、どっかの自称皇帝を恨んでくれ」


 地面に転がった魔石を拾うと、燃え尽きた2匹目の魔石の回収に向かう。

 うーん。やっぱり人間相手より魔物相手の方が気が楽だな。手加減の必要もないし。



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