11-21 最後の四大精霊
≪白≫の大精霊とのばば抜き大決戦(?)を終えて「さあ、次は≪黒≫の所に向かうぞー」と思ったら、≪白≫に呼び止められて再戦を申し込まれた。正直気分的には全力でスルーしてしまいたかったが、それをやると「精霊王には会わせない」とかまた言いだされそうで、仕方なく渋々応じる……。
しかも今回は、≪赤≫と≪青≫の大精霊も無理矢理参加させられていた。どうやら、俺達には勝てないけど、自分と同じ条件の精霊2人になら勝てると踏んだらしい。………どんだけなりふり構わずだ。
炎人間と水人間がちゃんとカードに触れるのか不安だったが、以外にも燃やしたり濡らしたりする事なくプレーしていた。まあ、本人達も無理矢理引っ張り込まれた風だけど、最初のゲームを結構楽しそうに眺めていたので、実際はノリノリだったのではないだろうか?
………あ、ちなみにその後20回以上付き合わされたけど、全部≪白≫が最下位でした。ええ、もう弱過ぎて話しになりませんね。
そして―――…
「疲れたぁ……」
野原に倒れ込む
延々カードを引いたり引かれたりしていたせいで、むっさ目と頭が疲れた。
頭の中で数字がグルグルと渦を巻いている。若干数字酔いしたかもれん……気持ち悪さを覚える疲れ方で、立ち上がるのも億劫だ。
「まだだ! もう1回やろう!」
この透明小僧…自分が勝つまでやるつもりか…!? 永遠に終わらねえぞ!?
「≪白≫よ…また今度にしないか?」
「そうね…それがいいわ」
≪赤≫と≪青≫も若干げっそりしている。心なしか炎が弱くなったり、流れ落ちる水の勢いが緩くなっている気もする…。
「えー…勝ち逃げってずるくなーい?」
何、この遊び足りない子供と、早く寝かしつけたい親みたいなやりとり…。
とりあえず俺は親組を応援しよう。流石に付き合いきれん。
「勝ち逃げじゃないよ、これはアレだ…えーと…そのー…そう! 勝負を預けるって奴だよ! まだ決着はついてないから、また今度勝負しようって言うアレだよ!」
我ながら物凄いその場の思いつきの言い訳だった。こんなん誰が納得するんだよ……。
「なるほど! そう言う事なら仕方ないね、じゃあまた今度決着をつけよう」
納得すんのかよ!?
そして≪白≫を引かせた俺に、皆がグッジョブと親指を立てて称賛を送って来た。
「それで、どうする魔神よ? このまま≪黒≫の元へ向かうか?」
「……ちょっと休んでからで良いですか?」
「…うむ。正直私達も少し休みたい……」
≪赤≫がぼやくと、≪青≫がうんうんっと頷いて同意する。
精霊もこう言う時には普通に疲れるんだと分かったら、ちょっと笑えた。
まあ、ともかく一旦小休止……。「休んでる場合じゃねえだろう?」と自身を急かす気持ちが無いわけではないが、急いては事を仕損じる、急がば回れと言う諺も残っているし、急いでいる時程落ち着いて状況を正しく認識するべきだ。
「なあ、最後の四大精霊の≪黒≫ってのは、どういう精霊なんだ?」
白雪がおやつと簡単なティーセットを出して、パンドラが食後のティータイムの用意を始めるのを横目で見ながら訊いてみた。
「どう、とは?」
「いや、だから、どんな性格とか、何が好きとか嫌いとか」
俺の質問に、3人の精霊が顔を見合わせる。言葉に迷っているのがすぐに分かった。
え? 何その反応? 四大精霊の中でも面倒臭い系の奴って事?
「堅物」「頭が固い」「無口でつまらない」
………なんだろう。この分かりやすいんだか、分かりにくいんだか評価に困る感じ。
「ゴツゴツしてる」「川を流れて丸くなれば良いのに」「土の中で寝る」
若干批判が混じってる気がするけどスルーしよう。
「重い」「硬い」「でかい」
「うん、もう良いや………ありがとう」
「そうか。では、≪黒≫には十分気を付けろよ?」
「うん? どう言う意味?」
俺達の会話を気にせず、J.R.がカードをシャッフルしながら≪白≫の精霊にスピードを教え始めた。元気だなぁ、正義の味方……。
「≪黒≫は絶対に、お前に無理難題を押し付けてくるぞ? 下手をすれば死ぬかもしれないレベルの試練を要求してくるかもな」
「え……そんなに?」
「ええ。≪黒≫は私達の中でも特に魔神を敵視しているもの。まあ、流石に有無を言わさず殺すような事はない……と思うけれど」
何その自信無い感じ……凄い不安なんですけど? 命をかける覚悟はして来たっつっても、出来る事なら穏便に済ませたいんだがな。
≪黒≫が最後の難関だってのは間違いないか……。最後の試練を前に、ガッツリ休んで置いた方が良さそうだ。
「マスター、お茶が入りました」
「サンキュー」
高級感の欠片も無い実用性一辺倒のカップを口に運ぶ。
あー…紅茶ウマー。あっちじゃ全然飲まなかったけど、本格的にハマりそうかも…。
「父様、御茶菓子もありますわ」
「ありがとう」
パタパタと両手でクッキーを抱えて飛んで来た白雪から受け取る。
サクッと言うよりガリッて感じの食感。コッチの世界じゃ真っ当な甘くてサクサクなクッキーなんてないからねえ。クッキーつっても乾パンみてぇなもんだし。
自分用のクッキーを持って来た白雪が、ご機嫌に俺の肩に座って自分の背丈の半分ほどもあるクッキーに齧りついた。
「肩に食べカス溢さないでくれよ…」
「わかってまふわ」
口いっぱいにクッキー詰め込んでリスみたいになってんぞ……。
そしてフィリスが咀嚼する動作もなしにクッキーを次々に口に放り込んで居るんだが、あれはどう言う理屈なんだろう……? 「カレーは飲み物」なんてセリフは聞いた事があるが、固形物を飲み物のように流し込む怪物は初めて見ました……。
「時に魔神よ?」
「何?」
「今更だが、お前はどうして精霊王に会いたいのだ? いや、友の為と言うのは聞いたが…。あの眠ったまま目を覚まさない、もう1人の魔神の少女の事か?」
「ん……いや、アイツの事もそうだけど、あの時言った友ってのは―――」
自分の胸に手を当てる。
「ここに居る」
「「?」」
≪赤≫と≪青≫の精霊が揃ってクエスチョンマークを出しながら首を傾げる。まあ、事情知らない奴からしたら意味不明だもんな…。
どうしよう……魔神の敵だって事を公言してる精霊相手に俺の事情を話してしまって良いものだろうか? ……まあ、良いか。≪赤≫には良くして貰った恩もあるし、何か問題があったらその時に考えよう。
っと、ついでにこんな所まで付き合わせてしまったJ.R.にも事情説明を―――と思ったら…。
「うぉおおおおおっ!!!」「おりゃあああああああっ!!」
竜巻が起こらんばかりの勢いで特撮オタクと透明小僧がスピードで勝負していた。
スピード……それは、トランプゲームでは珍しい反射神経と体力を要求される過酷なゲーム。遊び方―――は面倒臭いので割愛。
向かい合った2人が、凄まじい速度で手を動かして手札を場に出しては引いてを繰り返す。……っつか、早過ぎて2人共手の動きが見えない。更に周囲に衝撃波が発生していて近付けない。だと言うのに、透明小僧が周囲の空気を操っているのか、2人の手元だけはさざ波程の風も流れていない。
とてつもない速度でお互いの山札が消費されて、30秒もかからず勝負はついた。
「ぃよっしゃああああああああああ正義の勝利ぃいいいい!!!」「人間にも負けたああああああああッ!!!」
なんて無駄にレベルの高い戦いしてんだあの2人……。
「まだこのゲームに慣れてなかった! もう1回勝負しろ!!」「良いだろう!! 正義の味方は挑まれた勝負から逃げないっ!!」
J.R.への説明はまた今度にしよう……っつうか、あんな暴風結界の中に飛びこむような元気ねえわ。
っつか、どう考えても人外スピードの≪白≫の精霊に難無く付いて行ってるJ.R.マジで半端ねえ…。
「実は、俺はこの体の本当の持ち主じゃなくてな―――」
俺の事情を話す。
この体がロイド君の物である事。俺が異世界人である事。魔神を手にした経緯。そして、ロイド君が殺された事。
………
…………
……………
「ふむ…なるほど。その体の本当の持ち主の精神を蘇らせる為に精霊王に会いに来たのか」
「ああ」
精霊2人が顔を見合わせる。何かを話そうとしているが、話して良いのか判断に迷っているって感じか?
結局話して良いと言う結論に至ったらしく、一瞬溜息を吐く様な間を取ってから話しを再開した。
「王ならば、恐らくお前の願いを叶える事が出来る」
「本当か!?」
「ああ」「ただ―――」
2人の雰囲気でその先の言葉を察する。
精霊が魔神の絶対的な敵対者であるのなら、その王である精霊王も同じと言う事だ。つまり―――
「精霊王が願いを聞いてくれるかどうかは別の話だがな?」
……だよなやっぱり…。精霊王に会える事と、願いを聞いて貰える事はイコールじゃない。≪黒≫の許しを貰えて実際に会えたとしても、精霊王自身に門前払いされる可能性だって十分にある。
まあ、けど、それは行ってみるまで分からない。実際に会ってみたら、結構すんなりと聞いてくれるかもしれないしな?
* * *
開かれたままの≪白≫の大精霊の部屋の扉。
その扉の脇から、音も無く岩の塊が中の様子を窺っている。
――― 土と石の象徴たる≪黒≫の大精霊
部屋の中で精霊達と話している人間―――いや、人間の体に宿っている≪赤≫の魔神を憎々しげに睨む。
「…………魔神………」
一言だけ呟き、踵を返して音も無く己の部屋に向かう。
「………消さなければ………世界を存続させる…為に……」
どうやら自分以外の四大精霊が、あの魔神が精霊王に会う事を認めてしまったのだと理解し、人間にとっては永遠とも思える時間を共にしてきた3人の精霊達への怒りが湧く。
そしてふと思いつき、エントランスの扉の1つに目を向ける。
4色の紋様によって封印された、精霊にとっても禁忌の扉。
――― 魔神を始末するには丁度良い
「消さなければ………魔神も……与する人間も………全て…消さなければ……」