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11-19 白の大精霊

 大草原の上に俺達は立っている。

 建物はおろか木の1本すら無い。遮る物が何1つない草原を、春の陽気に当てられた暖かい風が楽しそうに走り抜ける。

 雲1つ無い青い空に、太陽だけが寂しそうに輝いている。

 こんな状況でなかったら、お弁当を持ってピクニックにでもくり出していたかもしれない。

 心地良い風と光は良いんだが、1つ訊いておかなければならない事がある。なので、臆せず隣の炎人間に訊いてみた。


「なあ?」

「なんだ?」

「ここ……部屋ですよね?」

「そうだが、何か?」


 いや、そんな「何当たり前の事訊いてんの?」みたいな反応返されても……。

 そう、そうなのである。この風景番組の1つでも撮れそうな大草原は、≪白≫の精霊の部屋なのである。

 白い(ふち)の扉を開けたら……そこは一面の大草原! うん、意味が分からんな。

 後ろを振り返れば、そこには草原の真ん中にポツンと白い縁のドアが立っている。「どこでもド●かよ!?」とツッコミを入れようとして、前にもこんな感じのツッコミを入れた覚えがあるなぁ、と記憶を辿る。まあ、辿るまでもなくこんな特殊なツッコミを入れるような状況は1つしか思い浮かばなかった。“もどき”の所だ。


「この広さは(なん)なの? 城の外観よりも明らかに部屋の方がサイズが大きいんですけど…?」

「その小さな守人(もりびと)―――」


 俺の肩に腰かけている白雪を指さし、


「その守人の種族が持つ異空間と同じだ。あのドアを支点に、別の空間に接続されている」


 よく分からんけど……まあ、やっぱりどこでもド●と思っておけば間違いじゃない…と思う。

 「トンネルを抜けたら雪景色」的なノリでドアを抜けたら別世界になられても反応に困る。ビビるって言うか、困る。俺以外の皆も大小の違いはあるけど、どんな反応をして良いのか困ってるしな?

 ≪白≫の部屋がコレだとすると、≪赤≫と≪青≫の部屋はきっと相当ヤベエな? 溶岩だの水の底だのと、なんの冗談を言っているのかと思っていたけど、ガチでそう言う部屋っぽいし……人間立ち入り不可過ぎるだろ…。

 理解しているつもりでいたけど認識が甘かった。人間と精霊って当然だけど色々違い過ぎる。ズーンッと暗い気持ちになりそうになっていると―――風が吹いた。

 今まで吹いていた穏やかで優しい風ではない。風の通り道にある全てを薙ぎ倒そう、吹き飛ばそうとする凶悪な突風!?


「うぉ!?」「ひゃっ!?」


 咄嗟に飛ばされないように踏ん張って、白雪を手で覆って護る。皆の状況を確認したいが、風が強くて目が開けられない。音は全て流されて聞こえず、辛うじて【熱感知】で近くに居る事を確認するのがやっとだ。

 白雪が身を小さくして必死に俺の手にしがみ付き、俺も白雪を離さないように突風が通り過ぎるのをジッと待つ。

 5秒程息もできない程の、竜巻の尾のような風に曝されたが………全員無事だよな?


「マスター」「アーク様!?」

「大丈夫、無事だ。そっちは?」

「私も背中の女も問題ありません」


 あんな凶悪の風の中でも動じない重量級ボディーが今だけは羨ましい…。

 フィリスが乱れたローブを着直しながら辺りを見回す。


「今のはなんだったのでしょうか?」

「さてな?」


 いつの間にか、隣に居た大精霊2人が10m離れた所に移動していた。


「ただ、良い予感はしねえなぁ……」


 精霊2人がそそくさと退避してるって事は…。



「キャははは!!」



 甲高(かんだか)い笑い声を響かせながら、何かが空から降りて来た。

 小さな子供のように思えるが……物凄く体が透けていた。それに実像がぼやけているようにも思える。

 まるで、蜃気楼のような、居るのか居ないのかあやふやな存在感。


「飛んでっちゃえば良かったのにねー、ざーんねんキャははははは!!」


 楽しそうに透明な子供が笑う。

 今のセリフから察するに、さっきの突風はこのインヴィジブル小僧が起こした物か。


「話しは聞いてるよ~? 精霊王に会いたいなんて馬鹿な事を言ってる魔神は君かなあ?」


 俺を指さしてクルクル回る。透明で存在感薄いくせにテンション高ぇなコイツ。


「ああ。アンタが四大精霊の1人≪白≫の大精霊か?」

「ここに居るのは僕だけなんだから当たり前でしょ~? 馬鹿なのかなぁ君は~? ああ、頭が悪いから精霊王に会いたいなんて事言いだしたんだぁ! おっかしいのキャはははは!!」


 何、この腹立つ精霊は…!? 無邪気に言うもんだからストレスがマッハなんだが。

 ……いや、落ち付け俺。大人になるんだ! 子供の言う事に一々イラついてどーすんだコノヤロウ。


「今の言葉をマスターに謝罪して下さい」「ですの!!」「貴様、アーク様を愚弄するのか!?」「レッド、ねえ殴って良い!? ねえコイツは殴って良いの!!?」


 俺よりも周りの人達の方が落ち着いてなかった。


「いや、子供の言う事だろ……全員落ち着こうぜ?」

「僕は子供じゃないですぅ~! この世界の創生から生きてるんだから、お前なんて比べ物にならないくらい長生きなのが分からないの? 本当に頭悪いんだな~可哀想にキャはははは」

「ぶっ殺すぞクソガキ!!?」

「マスター落ち着いて下さい」


 おっと、つい挑発に乗ってしまった…ビークールだ俺。

 ダメだ、さっさと話しを進めないと相手のペースに呑まれてまともに会話出来ない。無理矢理でも本題に入ろう。


「ご存知でしょうが、改めて自分の口から言います。精霊王にお会いしたいのですが?」

「ダメに決まってるじゃん? なんで王様に魔神なんか会わせなきゃならないんだよ?」


 ぅ…なるほど、≪赤≫≪青≫が言っていた通りの完全否定派だ。正直、前2人がすんなり行ったからちょっと油断してたな。


「そこをなんとか」

「ダメダメ! ぜぇーったいにダメ!!」


 取り付く島もねえな。

 「これ以上の会話はしない!」と言う意思表示のように、透明な体がそっぽを向く。

 うーん、なんとか話しを聞いて貰わなければ……そして謁見の許しを貰わなければ。

 そこでふと思い出す。≪白≫は楽しい事、面白い事が好き…と言う情報。その辺りから気を引けないかな?


「……じゃあ、勝負しませんか?」

「しょーぶぅ? 何? もしかして僕に勝てるとか思ってんの? 言っとくけど、僕ちょー強いからね?」


 まあ、だろうな。

 下位精霊の水晶の奴と雪の奴ですら、今の俺じゃ手も足も出ない相手だ。多分もっと上の戦闘力を持ってる四大精霊なんて、戦ったら秒殺されるだろう。


「それは分かってます。戦ったら、きっと……いや、絶対勝てない」

「ぅん? へぇ~、魔神にしては謙虚だね? 自分の力を(わきま)えてるのは良い事だよ。過信や増長した奴よりずっと好意が持てる」


 横を向いてコッチの話を聞く気ない体勢をとっていた体が、改めてちゃんと俺と向き合う。


「だから、ゲームで勝負しましょう」

「ゲーム?」

「はい。どうですか?」


 迷う素振り。ゲームと聞いて、楽しい事に誘われて気持ちが動いたらしい。しめしめ、予想通りであざーす。

 っつか、ゲームって言葉の意味が通じた事に安心してしまった。うむ。


「………ちなみに、どういうゲームなのかなぁ?」


 さっきまでとは違い、興味を示しているのが言葉の調子から伝わってくる。

 いや、っつか……どうしよう……。興味を引くところまでは想定内だけど、具体的になんのゲームで勝負するのかは考えてなかった……!!? えーとえーと、か、かくれんぼ! いや、ダメだ。こんな遮蔽物が何も無い平原でどこに隠れるんだっつーの。鬼ごっこ……もダメだな。相手は風と雷を(つかさど)る≪白≫の大精霊だぞ? どう考えたってスピード勝負は分が悪過ぎる。

 スピードやパワーで勝負するゲームは勝ち目がない。肉体に依存する能力で勝敗が決まるゲームはほぼ全てダメって事だ。

 俺がもし勝てる要素があるとすれば―――…


「じゃあ、カードでどうですか?」


 ――― 運だ。



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