11-18 精霊王の城
精霊王の城に足を踏み入れる。
だだっ広い30m以上ある巨大なエントランス。鏡張りのような、俺達の姿を映し出す壁面。そして床は―――暗闇が広がっていた。
硬い床を踏んで居る感触があるのに、その床は見えず、どこまでも底無しの闇が口を開けている。まるで、城に足を踏み入れた者を問答無用で食い潰そうとしているような…そんな恐ろしい、深い深い闇。
部屋を飾る調度品は一切無く、エントランスには上階への階段と6つの扉だけ。
1つは勿論、外に通じる巨大な城門。そして4つの扉は、それぞれ縁の色が赤、青、白、黒に塗られている。恐らく、4大精霊の部屋ってところだろう。
最後の扉は―――異様だった。
赤、青、白、黒…4つの色で扉には何かの紋様がビッシリと刻まれ、扉自体が鼓動を打つようにユックリと明滅を繰り返している。
扉の紋様は封印だ。……分かる。理解出来ないのに、それが凄まじく強力な封印だと言う事が分かる。そして、その強力な封印を持ってしても、扉の向こうに在る何かの禍々しさが漏れ出ている。
扉の向こうに何が有るのか…または何が居るのかは分からないが、絶対に近付きたくない、絶対に関わり合いになりたくないと思わせるヤバさがプンプン臭って来る。
……なんだ? 心なしか≪赤≫の魔神がビビってる気がする……まあ、ロイド君が居ないから魔神の感覚が遠過ぎて、気のせいかもしれんけど。
俺が6つ目の扉に意識を向けている間に、皆はエントランスの中央付近まで進み、城内の説明を始めていた。
「上の階は王の部屋よ。私達全員の許可なく上がる事は許されないので、くれぐれも気をつけなさい」
許し無く上がろうとする者は殺す、と言う脅し。
俺は勿論、フィリスもパンドラも俺が許さない限りはそんな無茶するような奴じゃないから安心だが、J.R.は勢いでやりかねないのでちょっと注意しよう。
「周りにある4色の扉は、それぞれ私達四大精霊の部屋だ。≪白≫と≪黒≫に会いたいのならその色の扉に入れ」
やっぱり、色の付いた縁の扉は四大精霊の部屋だったらしい。まあ、あの色の並びを見たら誰でも分かるか……。
「それと、あの部屋だが―――」
6つ目の部屋を指さす。
「死にたくないなら近付くな」
直球どストレートな脅しだった。
変に回りくどい言い回しで言われるより、この方が分かりやすくて……恐い。が、そんな恐怖を感じなかった奴が1人。
「はいっ!! あの扉の先には何があるんでしょうか!! 邪悪な魔物とか居るのなら、このジャスティスリボルバーが倒さなければならない!!」
J.R.もあの扉の奥から漏れ出るヤバさを感じ取ったらしい。けど、あえてそのヤバさに突っ込んで行こうとする辺りが俺と特撮オタクの違いだな…。
「扉の先に在るのは、邪悪な物ではない。だが、私達精霊も、人や魔神も…何者も触れる事を許されない。そう言う物があの扉の先には在るのだ」
何が有るんだろう? と言う興味は正直湧く。とっても湧く。けど、それ以上にやっぱり近付きたくない気持ちが大きい。藪を突いて蛇でも出て来たら堪らんしねぇ…。
「ともかく、あの扉には階段同様に近付くな。まあ、もっとも、あの扉は四大精霊でなければ開ける事が出来ないがな?」
開ける事が出来ない扉の注意をしたって事は、相当ヤバい物が封印されているのだろう。ゲームで言えば、伝説の武器的な? ラスボスを倒す為のアイテム的な? そんなランクの物が有るんじゃなかろうか?
ま、精霊王に会ったらさっさと精霊界から出て行くから、何が封印されているのかを知る機会はなさそうだけど。
精霊達が黙って一歩引く。どうやら「説明は終わったら、ここから先は自由にしろ」と言う事らしい。
「マスター、どうしますか?」「どうなさいますか?」「父様、どうするんですの?」「よしレッド! 悪を倒しにいざ行かん!!」
全員の声が俺に向かって来た。この先どうするかの決定権は俺持ちか……。まあ、俺の用事でこんな所まで来たんだから当たり前か。
えーと…目先のすべき事は、残りの≪黒≫と≪白≫の精霊に会って精霊王への謁見を許して貰う事。どっちも行かなければならないが、≪黒≫に関しては情報全くねえんだよなぁ……。とりあえず面白い物好きって言う≪白≫の方から当たってみるか?
いや、でもその前に―――…
「カグをどこかで休ませたいな? 背負ったままだとパンドラもしんどいだろ?」
「しんどくはないですが、さっさと下ろしたいです」
うわ……パンドラが珍しく露骨な嫌な顔をしている…。まあ、普通の人間が見たらいつも通りの無表情に見えるくらいの微妙な表情の変化だけども…。
パンドラはカグの事を嫌っている……いや、警戒している、のかな? 今までが俺の敵だったから警戒は当たり前か。それに、まだ洗脳が解けたかどうかも分からないしな?
安全に休ませる事が出来る場所が無いかと、視線で精霊達に訴えかけてみると……
「その辺の床で休ませれば良い」
精霊は色々と容赦なかった。
城だのなんだの豪華な建物に入ってみたいってのは小市民根性として当然のように俺の中にあるが、だからと言ってその建物の床で寝たいかどうかと言われると断じてNOなんですけど…。ましてや年頃の女子を寝かしたいかと問われると、起きた時に殺されるから死んでもNOなんですけど…。
「……外から来た身でこう言う事言いたくないんですけど、もうちょっとマシな寝床を用意して下さいコノヤロウ」
「先程の説明で、四大精霊にはそれぞれ部屋が有ると言いました。貴方達の部屋で休む事は出来ないのですか?」
お、パンドラ超良い意見!! グッジョブ、流石出来るウチのロボメイド!
「溶岩の部屋だが大丈夫か?」
「いや、なんでだよ!? どう考えてもダメだろ!?」
っつか、部屋に溶岩て!? どんなインテリアだ!?
「私の部屋は水の底だけど大丈夫?」
「いや、だからなんでだよ!? 普通に死ぬじゃん!? っつか、もっと普通の部屋ねえのかよ精霊!?」
「待てレッド! 修行と思えば、そんな部屋も楽しいかもしれないぞ!!」
「なんでだよ!!? 死ぬっつってんだろうが!!?」
「大丈ーーー夫!! 行ける行ける!!」
「行けねえよ!? むしろ逝くだろ…」
「じゃあ、もう≪白≫の所行けば良いんじゃん?」
「そうそう、≪白≫の所は人間も過ごしやすいんじゃないの、私達の所とは違って」
自分等の部屋が否定されたもんだから、大精霊が2人揃ってヘソ曲げやがった!? むっちゃ投げやりな感じに……子供かお前等。
精霊の厳か神々しい感じの存在感がメッキの如く剥がれ落ちているのだが、色々(主に体裁的に)大丈夫なのか?
精霊2人の機嫌が直りそうにないので、言われた通りにさっさと≪白≫の精霊の所に行こう。
「じゃあ、≪白≫の所行くか?」
「はい」「そうですね」「ですわ」「正義が迸る!!」
「へぇ~、本当に≪白≫の所に行くんですか、そうですかあ! 私達の部屋は見る事すらしないのに、≪白≫の部屋にはそんな簡単に行くんですかぁ、へ~そうですか~」
「≪赤≫の…そんな事を言ってはダメよ。所詮魔神と私達は相いれないと言う事よ」
メンドクセぇ……! なんだこの2人!?
さっきまでは確かに、真面目で不思議な神秘的な存在だった筈なのに、へそを曲げた途端に鬱陶しい構ってちゃんになりやがったぞ!?
「レッド、殴ったら直るかもしれないぞ?」
「オメェもメンドクセぇなあ!!」