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11-17 青の大精霊

 突然、10mを超す巨大な扉が開く。

 ゴゴゴッと地面―――お盆の大地を揺らす轟音と震動が5秒程続き、巨大な両開きの扉の間に隙間が出来る。


「む…」


 ≪赤≫の精霊が少しだけ警戒した様な声を出して、扉の隙間の先へ視線を向ける。俺達もその視線を追うと―――人影が何かを待つようにポツンっと立っていた。

 その人影は……何と言うか水だった。隣に立っている≪赤≫の精霊を炎人間とするなら、コイツは水人間だ。

 体の表面を頭の天辺(てっぺん)からつま先まで水が流れ落ち、体の内側の流れが水を頭の上まで噴き上げる。体の表面と中で水が循環している。

 流線型の曲線美。精霊に性別的な物があるとすれば女性だろう。

 城の中に居るって事は、恐らくこの水人間が―――


「≪青≫の……出迎えに待っていてくれたのか?」


 やっぱり、コイツが四大精霊の1人…≪青≫の大精霊か。


「まさかでしょう? 私が貴方を待つ理由がないわ」


 水面越しに喋った様な聞きとり辛い女性の声。

 

「だろうな」


 それで精霊同士の会話は済んだらしく2人共黙る。

 ≪青≫の目―――流れ落ちる水の隙間の部分―――が、俺を見る。


「先程、水晶と雪が貴方が魔神を連れて来ると騒いでいたけれど……まさか本当だったとはね?」


 敵意…ではないが、警戒の眼差し。理由は良く分からんが、魔神と精霊は敵対している…らしいからな。この反応は当然か。とは言え、今から俺はこの警戒心をなんとかして、精霊王に会わせて貰えるように説得しなければならないのだ。

 とりあえず、この警戒心をなんとかしなければならない。ここは他愛ない会話でもして友好度を上げておこう。


「女性ですか?」

「マスター、第一声がそれはどうかと」


 フィリスと白雪が頷く。更にはJ.R.まで頷いている、と言うか≪赤≫の精霊まで力強く頷いていた。え? 何? そんなにまずかったかしら? 白雪がむっちゃ『父様、失礼ですわ!』と思念を送って来ているので、ちょっと(へこ)みそう…。

 だが、当の言われた本人は気にした様子もなく、何の感情もなく淡々と答えを返して来た。


「精霊に性別はない」

「あ、はい…そうですか」

「だが、お前達がその方が話しやすいと言うのなら、そうしよう」


 水で作られたボディーライン。その流れが少しだけ変わり、出る所が出て引っ込む所が引っ込む。

 ……何、そのボンッキュッボンッな体形…。

 体系だけでなく、頭の後ろの方から髪のように水が流れ落ちる。

 これはいかんな……。体が女性を意識させる物になったら、裸の女性を目の前にしたような居たたまれなさを感じる。あと、目のやり場に困る。


「ふむ、こんな感じで大丈夫か?」

「えー…あー……はい」


 正直言えばさっきの方が話しやすかったのだが、コッチに気を使ってくれたのを否定するのは良好な関係を築こうとしている相手に失礼であり、完全な悪手だろう。

 俺が視線を≪青≫の精霊の周りをウロウロさせると、パンドラが若干怒った目で俺を呼んだ。


「マスター」

「いや、別に下心もやましい気持ちも無いですよ? ええ、本当に、まったく、ちっとも、ええ、ええ本当に」

「父様……!」


 白雪まで怒るし……、この流れだとフィリスも怒ってるかなぁ、と思ったら親の(かたき)のような目で≪青≫の胸にぶら下がる水風船を見ていた。

 え? またですか? だから、エルフってそんな身体的特徴を気にする種族でしたっけ?


「……あれを()いで、私の胸に……!」


 無茶苦茶不穏な事を口走っていた。


「フィリス落ち付け。あの胸は水だぞ」

「悪の女幹部はセクシーである事が条件だ!!」

「特撮オタクはちょっと黙ってて」


 俺のツッコミ終わりのタイミングを見計らって、≪青≫の精霊が俺の反応を確かめるようにゆっくりと喋る。


「魔神よ。お前は精霊王に会いたいのだとか?」


 お、先にコッチの世界に帰って来たらしい水晶の奴等が話したのか…。まあ、説明の手間が省けて有り難い。


「はい。その為には、貴方達四大精霊の了承が必要だと聞きました」

「その通りよ」


 落ち付いた返しと共に静かに頷く。やっぱり仕草1つ1つが女性っぽい……意識的にそうしてるのか、素なのか……まあ、どっちにしても凄ぇ(さま)になってる。


「それで≪赤≫の? 貴方がここに連れて来た、と言う事は魔神が王に会う事に賛成派…で良いのかしら?」

「どちらとも言えんな。私以外の3名…お前達が良いと言うのなら私は構わん」

「消極的賛成派、と言う事ね?」

「うむ」

「そう言う事なら、私もそれで行きましょう」


 え…? 精霊の中でも相当偉い感じの2人なのに、主体性無さ過ぎない? 大丈夫なの精霊? 大丈夫じゃないよね精霊?

 そんな心の中の不安を見透かされたのか、炎と水の精霊は肩を揺らして笑った。


「私達が()えて肯定も否定も選ばない理由を教えましょうか?」

「残りの2人、≪白≫と≪黒≫の奴は確実に猛反対する。だからこそ、それを説得できたのなら、たとえ魔神であろうとも王に謁見するに(あたい)すると私達は判断した」


 結果を残りの2人に委ねたって事は、それだけそいつらは難敵って事ね。この場合は俺……っつか、魔神への敵対心が強いって意味かな? だとしたら、会ってまともに話すだけでも骨が折れそう…。


「頑張ってみろ。あの2人がまともに話を聞いてくれるかは保証できんが」


 最低限そこだけは保証して欲しかったです。


「レッド! 相手が話を聞かなくて困った時は―――」


 グッと拳を握って見せてくる。


「肉体言語だ!!」

「アンタ、マジでちょっと黙ってて……」


 そんな力技で解決出来るってんなら、いっそ気が楽―――でもねえか…。いつもならともかく、今は戦えねえからなあ…。まあ、よしんば戦えても戦うつもりはねえけど。


「≪黒≫にはともかく、≪白≫に対しては良い手かもしれないわね」

「え!? 嘘でしょ!? 肉体言語って意味理解してます!? ど突き合いって事ですけど!?」

「≪白≫は自由で楽しい事が好きだからな。戦いで楽しませれば、もしかしたら協力的になるかもしれない」


 そんな感じで良いのか大精霊……。


「なるほど、つまり殴れば良いんだな?」


 J.R.がニヤリっと正義の味方らしからぬ笑い方をする。

 普段は特撮オタクって皮を被って誤魔化しているけど、コイツの根っ子は多分強者を求める戦闘狂じゃないかな? 戦ってる時の雰囲気っつか、オーラっつか……まあ、そんな感じの奴が、凄い嬉々としていたように思えたからだ。つっても、J.R.の正体がバーサーカーだろうと仮面●イダーだろうが驚きゃしないけども。


「まあ、半分は冗談だが…」


 誰にも聞こえないようにJ.R.がチッと口の中で舌打ちしたのが分かった。が、その次の瞬間にはいつもの能天気な特撮オタクの顔に戻っていた。


「そもそも言いたくはないが、お前達全員でかかっても四大精霊である私達の1人さえ倒す事はおろか、傷付ける事も出来ないぞ?」


 過剰な自信―――じゃないな。

 例えば俺が魔神になっている時、敵として今のコチラの面子が立ち塞がったとしたらどうだろう? 結果は間違いなく圧勝だ。しかも俺が怪我を負う事は絶対にない。

 まあ、つまりはそう言う事だ。四大精霊と言う物がどんな存在なのかは正直まだ良く分かっていないが、少なくても魔神と同じ“色”の名を持つ事は偶然じゃない。目の前の2人を含めた4人の大精霊は、魔神に匹敵する存在だ―――多分。


「≪白≫が楽しい事が好きなのは本当よ?」


 面白い事が好きと言われても……。

 笑い話の1つでもしたら許してくれるかしら? ……うん、成功する未来が見えないから止めておこう。



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