11-14 四大精霊
俺達と、ダメージでボロボロの精霊2体の間に割って入って来た火炎人間。
無駄に炎がでかくて威圧感が凄い。背中の白雪も、気当たりして小さくなっている。
この炎野郎が何なのかは判らないけど………なんだ? 凄ぇ変な感じ……。なんつーか、自分が目の前にいるような感じ…? いや、自分でも言ってる意味分かんねえけど。
「双方、剣を引け。この場は私が預かる」
低く濁った男の声で言いながら、両手をそれぞれに向けながら仲裁に入った。
「はっ!」「はい!」
さっきまで戦闘意欲満点だった精霊2体があっさり引く。
四大精霊って呼ばれてたっけ……? それだけ精霊の中じゃ偉い立場の奴って事かな?
「おい、炎の奴。お前はそこの2人と違って話しが判りそうだな?」
「ふむ…」
炎の体の頭の部分が俺を見る。
目の部分には穴が開いて、どう言う理屈か炎の中にあるのに暗くなっている。その暗い目の部分が、俺を観察するように上から下に眺めている。
………居心地が悪い。野郎に見られていると、なんだか判らんが落ち付かない。
「主が、≪赤≫の魔神の継承者か?」
「おう」
コイツと言い、前の2体と言い…精霊ってのは俺等魔神の継承者同士みたいに、相手の中に魔神が居る事を感知出来るのか?
「私は四大精霊が1人、炎熱を司る≪赤≫の大精霊」
炎熱を司る≪赤≫………俺の中の魔神と同じ?
「よもや、こんな場所で出会おうとは思ってもみなかったが……お互いの≪赤≫については良い。今は、何故魔神を宿した者達がここに居るのか、だ」
水晶霊には有無を言わさず断られたけど、戦闘を止めに来たって事は少なくても話聞く気はあるって事で良いんだよな?
「精霊王にお会いしたい」
「人が……まして魔神を宿した者が会う事は不可能だ。王はお会いにならない」
「何とかなりません?」
「無理だな。だが―――要件は聞いておこう」
「精霊王は生き物の精神に干渉する力を持つと聞いた。その御力をお借りしたい」
水晶と雪の奴が「魔神が何を言う!」「都合の良い事を!!」と騒いでいるが、炎の奴だけは何かを迷う数瞬の沈黙。
「何の為にだ?」
「俺の友を―――半身を取り戻す為に」
何かを問うように見つめて来る。何を問われているのかは知らないが、ここで視線を逸らしてはいけない。
「……お前が並々ならぬ決意を持っている事は理解した。だが、王に会わせる訳にはいかん―――」
「…………」
くっそ…結局話し合いではどうにかならねえって事かよ…。
落胆してテンションが落ちそうになったが、相手の言葉はまだ続きがあった。
「―――私1人の意思では…な」
「え?」
言われた意味を理解出来ずに、思わず周りの皆の顔を見て「どう言う事?」と訊いてしまった。皆の答えは「判りません」「交渉は一応上手く行ったのではないでしょうか」「父様頑張って下さい!」「良いよね、正義って」だった。とりあえず全員一致で「意味不明」と言う事で良いだろう。あと特撮オタクはスルー。
「精霊王への謁見は、私を入れた4人の四大精霊の了承があって初めて許される。お前が真に望むと言うのなら、他の3人を説得する事だ」
あれ? もしかして、この炎の奴は以外と友好的なのかしら?
「し、四大精霊様何を言っているのですか!?」「人―――いや、魔神を王に会わせるおつもりですか!?」
後ろの方で首なしとガラス片が抗議の声をあげるが、炎がジロッと見た途端に静かになる。
「勘違いするな。あくまで、王に会う為の方法を示したに過ぎん。それを実行出来るか否かはこの者達次第だろう?」
「そ、そうですが…」
「それよりも、お前達は早く精霊界に戻れ。長居すると体が再生できなくなるぞ」
このまま俺達を野放しにして戻って良いのか迷う沈黙。
そんな様子を見て、炎の奴が更に言葉を続ける。
「この者達は気にするな」
「それは、どう言う…?」
「このまま精霊界に連れて行く」
「なっ、何を言っているのです!?」「御言葉ですが正気ですか? 事によっては、他の精霊を敵に回す行為ですぞ?」
「理解している」
何やら、俺達の意思を無視して精霊達の間で話しが進んでいる……。
精霊界…と言うのが何かは判らないが、水晶と雪の奴のはんのうを見る限りは、恐らく精霊達の隠れ里とか、そんな感じの場所ではないだろうか? そして、炎の奴が俺達をそこに連れて行こうとしているって事は、そこに他の四大精霊が居るって事かな。だとしたら、是が非でも行かねばならない。
「この者達がアチラで何か事を起こしたのなら、その場で首を落とせば良い」
え? 何それ? アンタ味方ちゃうん?
白雪が突然の過激な発言に驚いて慌てて引っ込む。
「コチラ側で力を制限されたまま戦うよりは、アチラで殺す方がずっと可能性が高いのではないか? それに、アチラでの戦いとなれば私達四大精霊も手を出さざるを得ない故、この者達の死は必至だろう?」
炎の奴の説得に「確かに…」「それはそうですが…」と若干納得する方向に傾く2人。まあ、お前達は実際に負けてるしな? ………倒したのは魔神と何の関係も無い熱血正義バカだけど…。
「精霊界では、この者達は私自らが見張る。心配は要らん」
その言葉が決め手になったらしく、渋々と納得した。
「四大精霊様御自らと言うのでしたら……」
「他の四大精霊様達へは報告させて頂きますが、宜しいですね?」
「構わん。元々、アイツ等に会いに行くつもりだったからな」
「では、お先に失礼致します…」
首なしの雪の彫像と、地面に散らばっていたガラス片が音も無く消える。転移……じゃないよな? なんだ今の?
2人が居なくなった事を確認して、炎の奴が改めて俺達に向き直る。
「改めて言うぞ? 精霊王に御会いしたいのなら、四大精霊を説得しろ」
「それは判ったけど、どこに居るんだ?」
「精霊界。私達精霊が、毒に満ちたこの世界から逃れる為に生み出した、こことは別の世界だ」
え……? って事は、異世界なの? ちょっとビックリどころの話じゃないんですけど? いや、まあ確かにターゼンさんからこの世界を去ったとは聞いてたけど、ガチで異世界に行ってたとか予想外じゃん? しかも何? 自分達でその異世界を生み出したって?
「さっきの帰った2人に、俺達を連れてってくれるって言ってたけど?」
「うむ。本来ならば人はおろか、魔神を私達の世界に連れて行く事は許されないのだが…」
ですよね? さっきも2人が死ぬほど嫌がってたし。
しかし、そんな禁忌を侵すような真似をする程肩入れしてくれる理由が判らない。そしてそれは横に居たパンドラ達も同じだったようで…。
「何故そこまでマスターに協力的なのですか?」
「そうだな。先程の精霊達は有無を言わさずアーク様の命を狙いに来た。お前がその精霊の上位者だと言うのならば、納得のいく答えを聞かせろ」
「ピンク、グリーン、それは正義の心だよ」
最後の特撮オタクの言葉をパンドラは無視し、フィリスが華麗な蹴りでケツを蹴り上げてツッコミを入れる。
「ふむ、断じて正義の心ではないが……」
炎の奴が真面目に対応を返してくれたので、ちょっとだけ「ごめんなさい」したい気分になった。
「私とお前は同じ≪赤≫を司る存在だ。だから……と言うわけではないが、お前に興味がある。お前が何を想い、何を見て、何の為に炎を振るい……そして、何故魔神となったのか」
ジッと俺を見る目や態度に敵意は見えない。本当に、純粋に俺に興味があるだけのようだ。
うちの女性陣はまだ納得していない様子だが、俺としてはこの≪赤≫の精霊への警戒心は大分薄れた。これ以上問答始める前に、話しを進めてしまおう。
「そう言う事なら、連れてって貰えますか? 精霊達の世界に」
「うむ。任せよ」