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11-11 水晶霊

 精霊2人……!?

 クリスタルの奴のレーザーもどきの対処だけでも困ってるっつうのに、本気でちょっとだけ泣きたい気分。いつもの戦闘力が俺に有れば、あるいはもっと心に余裕があったかもしれないが、現状の弱体化した状態ではそんな余裕は一切ない。


「水晶の、あっちの背負われているもう1人の魔神はどうするの? 私が相手をしましょうか?」

「いや、腐っても相手は魔神だ。1人づつ確実に潰すとしよう」

「それもそうね。それなら私は、守人の娘が手を出さないように見張っておきましょう」


 精霊達の話はまとまったらしい。

 カグが狙われないのは有り難いが、これで俺は2人の攻撃を同時になんとかしなければならなくなった。

 ……こりゃあ、本気でフィリスに転移して貰って仕切り直した方が良いかもしれん…。っつか、それがベストじゃね? この状況からどうにか出来る未来が見えて来ないんですけど…。

 グダグダ考えている間に、水晶の体が突っ込んで来た。

 地面を走っていない。微かに体を浮かせたホバー移動。(まばた)き1つする間に、ギュンッと近付いて来る。距離が詰まって初めて気付く、コイツ以外とでかいな…2m弱ってところか?

 振るわれる水晶の腕。角張っていた形が変形して、薄く鋭い刃になる。

 いつものように、スキルを使った力任せの防御は出来ない。選択肢は避けるか、受けるかだ。

 ヴァーミリオンに手を伸ばしかけて折れている事を思い出し、【魔素形成】で周囲の魔素を固めて剣を作り出す。

 よし、色んなスキルが使えなくなったり弱体化したりしてるけど、神器に付与されてるスキルは問題無く使える。


「むっ!?」


 黒い魔素の剣と、水晶の刃がぶつかる寸前に、精霊が逃げる様に手を引いて距離を取る。

 

「流石は魔神と言うべきか」「精霊の天敵たるに相応しい力ね」


 なんか意味不明に警戒された。

 なんだ? 今のくだりのどの部分に引っ掛かったんだ?

 反応速度……はギリギリだったし違う。剣…は確かに【マルチウェポン】があるからそれなりに良い振り方だったが、精霊に警戒されるレベルの事じゃない。とすると、武器か? 確かにさっきの水晶の奴の回避は、魔素の剣に触れる事を嫌がったように見えたし。

 もしかして、精霊は―――魔素が弱点なのか? だとすれば、少しは勝機がある……かもしれない。

 もし仮に魔素が精霊にとってマイナスな物だとすれば、魔素が満ちているこの世界全てが精霊にとっては敵になる。

 ……あれ? もしかして、精霊がこの世界から姿を消したのって、それが理由なのか?


「魔神め、それで勝ったなどと思うなよ?」


 思ってねえし。そんな勝利を確信できる程の余裕ありませんし。

 水晶の至る部位から光が放たれる。レーザーもどき―――しかも、一発ではなく複数同時に…!?

 いや、でも待てよ? この攻撃の正体は判らないけど、光の性質を持った物だって事は間違いない。だとすれば、対処法はあるんじゃないか?

 【魔炎】の制御力を手放して、全開の炎熱をばら撒いて地面の凍りかけている雪を焼く。瞬時に雪が融けて、水分が蒸発して周囲を水蒸気が白く染める。

 光が襲いかかってくる―――が、威力が弱い。多少痛いがそれだけだ。


「ぬぅ!?」


 雲が太陽光を遮るのと同じ。

 これで、レーザーもどきは恐くない! ……が、思っても無い事態に気付く。水蒸気が視界も遮って、氷柱に紛れて水晶の奴の姿が見分けられない。【熱感知】も、精霊には体温が無いのか役に立たない。こんな時に【魔素感知】が有ってくれれば…と思うが、無い物ねだりしても仕方ない。

 全神経を研ぎ澄ます。

 強力なミドルレンジを潰されたとなれば、奴は必ず―――


 水蒸気を引き裂く様に、左後ろから水晶の体が襲いかかる。


――― 奴は必ず、近接戦で俺の首を取りに来る!!


 見えていない。けど―――微かな風を切る音が背後に聞こえた。その音に向かって、振り向きざまに魔素の剣を振る。

 ギィンッと甲高(かんだか)い音をたてて剣と水晶の腕がぶつかる。

 上手く受けれた。と思った次の瞬間には力任せに腕を押しこまれ吹っ飛ばされた。


「ぐぅっ!!!?」


 3m程空を泳いで、背中から落ちそうになったが白雪が居る事を思い出し、慌てて体を捻って右半身から転がりながら着地。

 なんつうパワーだよ…!? それに加えて、コッチは両手で剣を持っていても左手は添えているだけでほとんど力が入っていない。実質片手で剣を振っているから力が入らん。

 パワー勝負じゃ勝ち目がない。スピードもアッチが上。なんか勝ってる部分ねえのかよ…。

 再び水蒸気のカーテンで水晶体の姿を見失う。

 レーザーもどきを封じるのに必要な事とは言え、自分の首まで締まってるのはどうなのよ俺…。


「父様……大丈夫ですの?」

「大丈夫」


 ……じゃないけど、一応白雪の手前は強がり言っとかないとね。まあ、俺のこの思考も伝わってるから意味ねえんだけど。


『ですわ』


 はい。と言う訳で、表面上だけの強がりだ。


『どうするんですの?』


 どうするも、こうするもねえっつうの。切り抜けるしかねえだろう―――


「よっ!!」


 白く濁った視界を突き破って突き出された、透き通るクリスタルの刃を剣の腹で受けて横に力を逃がす。


「チッ…」


 水晶の奥から聞こえた舌打ち。

 俺を仕留め損ねた事に対する苛立(いらだ)ちではなく、魔素の剣に触れた事が不快だったらしい。

 こりゃぁ、精霊が魔素を嫌ってるってのは、ほぼ確定だな。ただ、触れると死ぬってレベルの物ではなく、人間にとってのゴキ●リとか、ヘドロのような、「触れたくない」「見たくない」くらいの物だと思う。触れる事でダメージを多少負っているかもしれないが…まあ、それもドアノブに触れて不意打ちの静電気を食らう程度の物だろう。怯んだのは最初だけで、さっきから魔素の剣に突っ込んで来てるし。

 

「むぅ、んっ!!」


 片腕を弾かれた精霊が、物理的に肉体が負うべき瞬間的な拘束を無視してもう片方の…棍棒のような六角切りの腕を振り被る。

 動きが早えぇ!?

 ギリギリのタイミングで、ヴァーミリオンを抜く。刀身は折れていて、しかも抜いたのは左手。

 ガンっと鉄を打ったような衝撃で左手が痺れる。ヴァーミリオンを落とさないように保持するのが精いっぱいだった。対して、向かって来る水晶の腕はまったく威力が死んでいない。

 いつもなら、最低でもバックステップで逃げる。けど……見えているのに、体が反応に着いて来ねぇ!?


――― ゴッ


 直撃を受けて体が再び空中を泳ぐ。


「父様!?」


 背中を叩く白雪の声にハッとなる。

 気が付いた時には、地面を転がっていた。ダメージで少しだけ意識が飛んでいたらしい。

 辺りの雪が赤い。口の中で鉄の味がする。

 この赤いのは、俺が吐いた血かよ……。ヤバい…マジで殴られた腹が死ぬほど痛い…。肋骨何本か折れてるかな……? 内臓が潰れてたらアウトだ。無事であることを祈るしかない。

 立ち上がろうとしたら、全身が痛くて体が動かなかった。

 ……うっそだろ…? こんなアッサリやられんのかよ…?

 弱体化してんのは自覚してたけど、それにしたって……コレは酷過ぎる…。魔神の支援とロイド君が居ないと、マジで全く戦えねえじゃねえか…!?


「他愛も無いな魔神よ」


 どこか残念そうに言いながら、水晶の精霊が近付いて来る。


「どれ程の強さの物かと警戒していたが、蓋を開ければ随分と呆気ない」


 ダメだ……悔しいけど、俺1人でどうにかなるような相手じゃない。


「諦めろ。お前では私には(かな)わん」


 ああ、そうだな。だから―――


「助けて! ジャスティスリボルバー!!」

「何を言って―――」


 音速の壁を超えるけたたましい音と衝撃波を撒き散らして現れた正義のヒーローが、曇りないクリスタルの顔面を遠慮なく殴り飛ばした。


「ごゥっ!!?」


 見るからに重い水晶の体が吹き飛び、その衝撃で水蒸気が辺りに散る。


「誰かの声が俺を呼ぶ! 助けを求めて俺を呼ぶ!」

「何者だ?」


 その問い返しを「待ってました」とばかりに、キレッキレの格好良いポーズをとる。


「悪を貫く正義の弾丸、ジャスティスリボルバー見参ッ!!」



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