11-7 寒さの国のクイーン級
「そう言えば、我が国のクイーン級も丁度この町に居ますから、お会いして行かれてはどうでしょうか?」
「え? この町に居るの?」
真希さんから聞かされた情報が頭を過ぎる。
近接戦なら最強クラス。ただし凄い頭が悪い。………ゴリラか。いや、ゴリラが野生動物の中じゃ頭良い部類だっつっても、知能指数的にみれば人間と比べるようなレベルじゃない。
いやいやいや、ゴリラに想いを馳せてる場合じゃねえよ!
そんな人型ゴリラに関わるなんて、絶対面倒事じゃんって話だよ。
「はい、元々色んな場所を渡り歩いている方なので、頻繁にここにも来られるんですよ?」
「そうですか……」
まあ、でも、会いたいとは思わねえな。
他のクイーン級に顔繋ぎしたい気持ちはあるけど、それ以上に現状で面倒臭いの絡まれたら堪らんし……。
「ええっと……会いたいのはやまやまですけど、そちら様も忙しいでしょうから会うのはまたの機会に…」
「ご心配には及びません、今は物凄く暇しているようなので、むしろ丁度良いかと」
ええぇっ!? 相変わらず俺ってばタイミングが良いんだか悪いんだか!?
「ではお呼びしますね」
「え? ちょっ、待って―――」
宿屋かどこかに呼びに行くのなら、その前に制止すればギリギリセーフ……とか思ったら考えが甘かった。
「助けてー! ジャスティスリボルバー!」
「はぁ?」
突然受付のお姉さんが意味不明な事を言ったので、思わずパンドラ達と顔を見合わせる。とは言っても、2人共まったく興味が無いらしく物凄く白けた目をしていたが……。唯一白雪だけが何事かとキョロキョロしている。
エントランスに満ちた微妙な空気を真っ二つにして、バンっと扉が壊れそうな勢いで開かれる。凍りそうな外気が一気に室内に流れ込み、その空気に押されるように1人の男がギルドにユックリと入って来る。
「誰かの声が俺を呼ぶ! 助けを求めて俺を呼ぶ!」
どこか幼さの残る顔立ちに、首に巻かれた腰元まで垂れた真っ赤なマフラー。ギルドに入る時に扉の脇に立っていた男だった。
まるで、「満を持しての登場」とでも言うように、ギルドの床を一歩一歩踏みしめて近付いて来る。
開きっ放しだった扉を待機していた冒険者のオッサンがそっと閉める…。
「悪を貫く正義の弾丸、ジャスティスリボルバー見参ッ!!!」
マフラーをバサッと翻し、特撮ヒーローみたいなキレッキレのポーズをとる。
え? っつか、なんだこれ? どんな流れだ?
「えーっと…貴方がこの国のクイーン―――」
俺が問おうとすると、バッと手の平を向けられて制された。
「赤い~マフラーとぉ、鉄の拳ぃ~」
ええっ!? なんか昭和のアニメのOPみたいなの歌い出したんですけどっ!!?
状況が解らず、この赤マフラーを呼び込んだ張本人の受付のお姉さんに説明を求める視線を向ける。
「ああ、気になさらないで下さい。いつもこんな感じですから」
「いつもコレなの!?」
「はい。あっ、ちなみにコレは歌い終わるまで話聞いて貰えないので、もう少々お待ち下さい」
「しかもこの歌のくだりスキップ不可なのっ!?」
俺がツッコミを入れている間にも、気持ち良さそうに歌っている。サビッぽい部分では、何やらポーズも決めているし……。周りの冒険者達は全然気にした様子もなく寛いでいる。
……なるほど、確かに周りの反応が完全に慣れきっている……この赤マフラーの奇行はいつもの事らしい。
「戦えぇー、ジャスティスリボルバーっ!!!(ジャジャン)」
どうやら終わったらしい。っつか、SEも自分の口でやるんかい。
赤マフラーは、おもむろに懐から丸めた羊皮紙を出して、それを俺達に広げて見せる。
「ジャスティスリボルバーはご覧の提供でお送りします」
「まさかの提供テロップ!?」
ちなみに羊皮紙には“アヴァロア”と書かれている。いや、まあ確かにクイーン級冒険者は国の支援で活動するけども……なんか間違ってない?
「マスター、テンションが高いようですが?」
「そら、こんなのが現れたら高くもなります!」
ああ、なるほど理解した。真希さんが「特撮オタク」つってたのはこう言う事か…。
特撮の事を早口で喋りまくる根暗っぽいのが出てくるのかと思ったら、まさか自分で特撮をやる方が出てくるとは思わなかった…。
「呼んだ?」
OPのくだりが済んだら普通になんのかぃっ!! クソ、ツッコミてぇ…ツッコミたいけど、ツッコんだら負けな気がする……!!
「あ、はい。アステリア王国のクイーン級のアークさんがご挨拶をと」
「そうか」
赤マフラーが迷い無く俺を見た。
俺の事を値踏みしている様子はない。ただ、まっすぐにジッと俺を見ている。
「アステリア王国冒険者ギルド所属のアークです。新参ですが、宜しくお願いします」
一応先輩の顔を立てて、後輩としての対応をする。
「ヨロシク! 俺はアヴァロアのクイーン級のアスラだ! コチラこそヨロシク!!」
「アスラさん―――」
再びバッと手を出されて言葉を制された。
「俺を呼ぶ時はジャスティスリボルバーと呼んでくれ!」
「はぁ…」
くっそ面倒クセぇ!!!!! マジで関わり合いになりたくねえぞこの人!!
「それで、君はこの国に何をしに来たのかな?」
「あー、それは…」
流石に正直に説明する訳にもいかず……と言うか、色々込み入り過ぎて説明するのが面倒臭い。俺の事、ロイド君の事、魔神の事、カグの事。全部を理解して貰うには相応の量の説明をしなければならないからな。
「いや! 言わなくても分かっているよ!!」
「え?」
「全部理解している」と言わんばかりの悟った目。
っつか、この人一々声でかい…。
「君は―――この国に正義をしに来たんだね?」
「違います」
思わず無表情に即答してしまった。
「いや、そんな謙遜しなくても良い!! 俺には分かって居るよ、君の瞳の奥には正義の炎が燃えているからね!!」
無駄に格好良いポーズでズビシッと指差された。
燃えているのは正義の炎じゃなくて、≪赤≫の魔神じゃねえの…? っつか、この人話聞きゃしねえな。
「そうなんだろう? そうだと言いたまえ! そして、俺と共に正義の為に戦おう!!」
暑苦しい程の熱血馬鹿……いや、単なる馬鹿か。なるほど、戦隊ヒーローで言うところのレッドポジションっぽいな………それがどうしたって話だが…。
「正義の為に来た訳じゃねーですけど、もう面倒臭いんでそれで良いです…」
「そうか! やはり君も正義に目覚めた戦士だったんだな!!」
「………はぁ」
俺が微妙な反応を返しても気にした様子はない。
「アーク様が正義なのは当たり前だろうに」「ですわ」「マスターが正義でないのだとしたら、誰を正義と定義するのかが分かりません」
……そんな絶対正義な存在じゃないんですけど俺…。
しかし、フィリス達の言葉を聞いて「やはりな!」と大きく頷くアスラ……もといJ.R.(ジャスティスリボルバー)……。
「よし!! 君をジャスティスレッドに任命する!!」
「要らないです」
「では、そちらの女の子達は―――」
聞けよ話を!
「そっちのメイドの彼女は、ジャスティスピンクだ!」
「何故ピンクなのでしょうか?」
確かに、パンドラのどこにピンク要素があると言うのか?
「なんとなくっ!!!!」
何処の世界も話を聞かない奴は無敵過ぎる…。
「そっちのローブの君は、ジャスティスグリーンだ!」
「何故私がグリー…」
「なんとなくだっ!!!!」
「…………」
この人、全部勢いで押し切ろうとしてない…?
「では、レッド、ピンク、グリーン! 今こそ正義の出動だ!!」
「…え? どこに?」「ピンク呼びに納得していないのですが」「その呼び方を2度とするな!」「私にはないのですか?」
まとまりが無さ過ぎて、戦隊は開始と同時に消滅した。いや、まあ、始まってすらいないと言えばそうなんだけど…。