11-5 事情説明
「ショタ君は、次から次に問題を抱えるねぇ……。もう少し落ち着いたら?」
と溜息を吐きながらコメントしたのは、家主である真希さん。
執務部屋に案内された俺達は、挨拶も早々に大量の丸めた羊皮紙に囲まれた真希さんに事情を説明した。で、貰ったのがさっきのセリフです。
「別に好き好んで問題抱えてる訳じゃねーですけどね?」
「まあ、だろうね? ショタ君が好んで面倒を抱え込むドMだったら、それはそれで私は嬉しいけど」
「ポリスメン呼ばれるぞショタコン」
「コッチの世界じゃ恐くないから別に良い」
「………」
ダメだこのショタコン…。コッチの世界だと無敵かもしれない…!?
「今のショタ君は、全然腕力もないんだよね?」
「そうっスね」
「ちょ、ちょっと寝室に行かない?」
「行かねーよ」
この人の性癖は理解したから、さっさと正気に戻って欲しい。
両隣に座っているパンドラとフィリスが、俺が真希さんの誘惑に乗らないように手やら服の裾やらを掴んでるし……。
「本題に戻って良いですか? 真希さんを訪ねて来たのは―――」
「そのロイドって言う、体の本当の持ち主の精神を生き返らせる方法を聞きに来たんでしょ? 残念ながら、蘇生魔法はこの世に存在してないよ。体の方も、心の方もね」
「そッスか…」
魔法でどうにかなると思っていたわけじゃないが、それでもやっぱり可能性の1つが潰れて落胆してしまう。
いやいやいや、気落ちしてる暇ねえっつうの! それならそれで、もう1つの用件は伝えておかねえと。
「それでお願いがあるんですけど」
真希さんが日本人然とした美しい動作で緑茶を口に運びながら、視線と手で「どうぞ」と先を促してくる。
「その方法を他国に探しに行って来るんで、その間のウチの国のクイーン級指定依頼をお任せしたいんですけど?」
「まあ、出来る限りは協力するけど」
「あと、ガゼルも今留守にしてるんでグレイス共和国の方もお願いします」
「おいガキンチョ、ええ加減にせえよ? いくら魔法で万能つっても、国3つ回れるような余裕ないからな?」
「無茶押しつけてるのは自覚してますよ。グレイス共和国の事にしたって、ガゼルに頼まれたのは俺だし……それを人に渡すのは野郎への義理って意味でも正直凄ぇ嫌だし……。けど、他に頼める知り合いも居ないですし」
一応他にもルナって選択肢があるけど、キング級な上に魔神の事のアレやコレや動きまわってるらしいからクソ程忙しそうなんだよなぁアイツ…。
「あーあー、ショタの体でそう言う顔しないで。わかった…わかったから! 出来る限りフォローできる範囲でやって置くから」
「ありがとうございます!」
「じゃ、今度お礼にデートしてね」
「…………」
「返事は?」
「…………考えておきます」
ウチの女性陣からの視線が妙に痛いんですけど……? いや、別に本当に行こうかどうか考えてるわけじゃねえよ? あとでその話題持ち出されても、あやふやに答えて置けば誤魔化せるから、そう答えただけだからね!?
「それで? このあと具体的にどこに行くのかは決まってるの?」
「東の大陸にあるアヴァロアって国です」
「私は行った事は無いけど、魔素が濃くてそこらをうろついてる魔物もそこそこ強いって話だから気を付けて。まあ、もしアレだったら特撮オタクに声かけてみたら? 多分協力してくれると思うけど」
うん? 今特撮オタクって言った? 日曜朝に早起きしてテレビを観る人の事か? って事は、異世界人?
俺が疑問符を浮かべて、女性陣が更に意味不明な顔をしていると、真希さんが自分の言葉の足りなさに気付いたらしく補足説明を加える。
「ああ、ゴメン。特撮オタクってのは私が勝手に呼んでるだけなんだ。アヴァロアのクイーン級冒険者の事だよ」
「クイーン級が居るんですか!?」
「そりゃ居るよ。しかも近接での戦いに限定すれば、多分クイーン級最強の奴が。ああ、でも本気出したショタ君には流石に敵わないだろうけどね?」
近接最強か…。
真希さんの言う通り魔神になった俺とやりあえる程ではないだろうけど、少なくてもあのガゼルより強いって評価されてるわけか……。人の姿のままか、【竜人化】してる状態なのかで評価のレベルが全然違うが…少なくても超絶的な強さなのは間違いない、か。
「あ、それと―――」
「なんですか?」
「凄まじく頭が弱い」
とんでもねえ弱点過ぎる。
馬鹿だけど強キャラ……。また地味に関わりたくねえタイプの説明だなぁ。その上あだ名が“特撮オタク”って……完全に変人じゃねえか!? クイーン級には本当に変人しか居ねえんじゃねえのか!!?
「まあ、少なくても悪い奴じゃないと思うよ? 近くに居ると鬱陶しくて殴りたくなるけど」
聞けば聞く程関わり合いになりたくなくなるんですけど……。
* * *
真希さんにお礼を言って屋敷をあとにし、フィリスの転移でカスラナに戻って宿屋に急ぐ。
いい加減カグが目を覚ましているかと思ったら………まだベッドの上で眠っていた。
そこでようやく俺も異常さに気付く。
――― もしかして、寝てるんじゃなくて眠らされてるのか?
いや、もう今さら驚きゃしねえけども…。
あの野郎がただでカグを返してくれるなんて、小指の先程度にしか思ってなかったから、絶対何か面倒な事になるって予想してましたもん。
………驚きはしないが、怒りは湧いて来る。つくづく人の幼馴染をコケにして俺を怒らせたいらしい。
次会ったら―――マジで殺す…ッ!!! 俺の体だろうが関係ねえ、ブチ殺さなきゃ気がすまん!
…いや、ちょっと落ち付け俺。クールダウンだ。ここで頭カッカさせたって何も変わらない。冷静になって思考を回せ!
まず、カグを起こす方法。魔法―――では無理だろうな。連中だって、こっちに魔法のスペシャリストの真希さんが居る事を知ってる。そんな簡単に解除できるような生温い手を使う訳がない。とすると…何かしらの特殊なスキルか、もしくは未知の力か…。
何にしても、簡単にどうこう出来る話じゃねえだろう事は間違いない。だとすると、カグを1人にしておく訳にもいかないし、一緒に精霊の所に連れて行くか。もしかしたら、ロイド君の件も一緒にどうにかなるかもしれないし……ってのは流石に楽観視だけど。
問題が次々に積み上がって嫌になる……。
「カグもアヴァロアに連れて行こう」
「え…?」「御言葉ですが、どこかに預けて行った方が良いのでは?」
「預けるってどこにだよ…」
流石に≪白≫の継承者をエルフの所に連れてくわけにはいかねえし、かと言って下手にギルドやらに預けるのもねぇ……コッチはクイーン級の業務休業させてる身分ですし…。
そもそもの話として、カグが突然目覚めて暴れ出す危険性が少しでもある以上、俺等の近くが一番周りへの危険が少ないって言う事情がある。
「色々文句はあるだろうけど、ここは従ってくれ」
「はい」「………はい」
はぁ、しんどい。
今までのように、自在に力が使える訳じゃないってのは、思ってた以上に肉体的にも精神的にも恐いな…。それに―――いつも近くに居た、ロイド君が居ないのもな……考え方が妙に後ろ向きになっちまう…。
ああ、クソッ! どんだけポンコツだ俺は…!!