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10-29 ぶつかり合う力

 巨大な拳が地面にめり込む。

 音、色、匂い、熱、あらゆる物が一瞬消失する衝撃。

 地盤(プレート)をひっくり返したような振動。土砂の雪崩のような土と泥が辺りに降り注ぐ。

 黒い土の雨が止まると、目の前にあったのは―――クレーター。

 その底に向かって突き立ったビルのような1億トンの拳。その下には―――片腕でそれを受け止める≪青≫。

 マジかよ……!? 本気で「なん…だと…!?」とか小物臭い事を口走りそうになったが、なんとか堪える。途中で気付いたからだ。決して≪青≫は軽々と1億トンを受け止めている訳ではない、と。

 まあ、そりゃあそうだ。どんなに肉体能力強化したって1億トンなんて意味不明な重さを体1つ―――ましてや腕一本で余裕のよっちゃんイカとはいかんだろう。

 今もエメラルドの腕を受け止めている腕と足は、よく見ると微かにプルプルと震えている。

 あの状態から逃げるには、転移でもするしかない。

 だが、転移はしない―――いや、出来ない。俺が居るから。

 そもそもの話として、魔神同士の戦いでは転移は長距離の移動以外では使うメリットが無い。肉体能力が飛び抜け過ぎて、普通に走るだけで雷よりも早く動けるからだ。雷以上の速度が出せるなら、多少の距離は転移するより走った方が早い。

 転移は相手に先読みされる危険が有るし、俺の様に転移を誘導する能力だってある。相手に先手を取られる危険がある転移を使うくらいなら、普通に走った方が安全で無駄がない。まあ、最終手段として転移阻害無効を引っかけて転移するって方法もあるにはあるけどな?

 ともかく、今のうちにやらせて貰いましょう!

 エメラルドに、そのまま押さえて置く様に視線を送ってから、≪青≫の周囲を包むように炎を撒く。炎に“転移誘導”を付与しつつ駆けだす。

 雷よりも速い動きでエメラルドの拳の下の隙間に潜り込み、巨大な中指を必死こいて受け止めている≪青≫にヴァーミリオンを振る。

 動けないまま【冷纏】で作り出した氷の盾で防ごうとするが―――魔素が薄くて防御力は大したこと無い。構わずぶった切れ!!


――― バキンッ


 右斜め上から振り下ろした剣。薄氷を切り裂いて、深紅の刃が肩から反対の腰に向けて斬り抜ける。


「―――ガッ!?」


 盛大に鮮血が舞う。

 けど―――浅い! くっそ、左腕に上手く力が入らねえ!? 魔神の浸食でまた身体機能が奪われてるのか!!?

 ≪青≫の体から一瞬力が抜け、支えていた拳が落下を始める。が、下に俺が居る事を理解しているエメラルドがすぐさま拳を引く。

 ナイス判断エメラルド!

 俺への迎撃の体勢が整っていない≪青≫に、更にもう一撃! 今度は左手に力が入らない事を計算に入れて、少しだけ深く踏み込む。

 さっきの袈裟切りの傷は、すでに何らかの回復スキルで塞がり始めている。やっぱり生半可な攻撃ではダメージにならない。


 首を落とす―――!!


 ヴァーミリオンが≪青≫の首に食い込む。

 振り切―――2cm入ったところでガキンッと何かに阻まれる。インディゴ…氷の刀身ではなく、藍色の棒―――神器の本体部分で受け止めた。

 間合いの内側なら、剣として振り回すより棒のままの方が反応が早い。首落とされかけたくせに冷静な判断しやがる。


「そう簡単に、首はやれないな?」

「そうかい」


 回復が早い。首から噴き出そうとしていた血を押し留めるように、とてつもない速度で傷が消え始めている。

 けど―――俺の攻撃を受け切ったつもりだろうが、甘いぜっ!!

 【魔素形成】発動。

 月の涙(ムーンティア)の中に溜め込んだ魔素を消費して、≪青≫を取り囲むように様々な武器を生み出す。剣、槍、斧、弓、鎌、ハルバード、槌……俺の記憶にある様々な武器を引っ張り出し、片っ端から形にした。

 簡単に首を落とせるなんて思う程相手を過小評価してないし、自身を過大評価していない。―――それでも、


「そんじゃ、無理矢理にでも奪いに行く!!」


 それでも、コイツの首は確実に落とす!

 魔素で作った黒い武器達が、一斉に≪青≫に襲いかかる。≪青≫は、それを(わずら)わしそうに横目で一瞬見たが、結局視線は俺にだけ固定される。

 武器1つ1つの攻撃力は決して高くない事を見破られたか……。【魔素操作】で命一杯の力で武器を振っても、俺自身が武器を振るのに比べれば威力は半分以下だ。その程度の火力では、≪青≫の防御を突破してまともなダメージは通せない。

 だから―――武器を燃やす。そして【炎熱特性付与】で“貫通”“切断”を付与。これで、まともなダメージが通るようになる。一応、燃焼効率を良くして魔素の消費を抑えては居るが、魔素武器の寿命はこれで確実に短くなった。

 ≪青≫も流石に全周囲から襲って来る武器を危険と判断したのか、俺の体を蹴って引き剥がし、走りまわる事でかく乱し、速度に物を言わせて的を絞らせないつもりらしい。

 逃がすかよ!? 一気に畳みかけろ!!


「ゴールド!!」


 俺の呼びかけに反応して、炎を纏った狼がクレーターの中に突っ込んでくる。


「追い込めっ!!」

「ガルルルァッッッ!!」


 いつもの甘えるような返事ではない。聞いた者が(すく)み上がってしまうような、低く響く恐ろしい声。

 ≪青≫の逃げる方向に雷を追い越す程の速度で回り込み、分身体を生み出してけしかける。分身体では≪青≫の速度に着いて行けないが、即座に爆発させる事で視界と聴覚を瞬間的に潰す事が出来る。感知能力を積んで居ても、五感が瞬間的にでも使えなくなるのは嫌なもんだ。

 ゴールドが作った隙を狙って、≪青≫の体を炎を纏った槍が突き、剣が斬る。けど、ダメージが浅すぎる……!? これだけお膳立てしてもこの有様かよ!? 本当に魔神相手は嫌になるなっ!!


 ………やっぱり、致命打を与えたいなら俺が直接やらなきゃダメだ。同じ魔神の力を纏ってる俺じゃないと、あの防御力は突破出来ねえ。けど、≪青≫だってそんな事は分かっている筈だ。俺自身の攻撃は警戒されてる………。しかも、剣戟を見せすぎて動きを見切られかけてる………実際さっきも首落としに行って止められたからな…。

 同じ動きじゃダメだ! もう一歩先を行く…!


 逃げ道を塞いで来るゴールドが相当邪魔だったようで、≪青≫が周囲に水の散弾をばら撒く。とてつもない速度と攻撃面積に避けきれず、ゴールドが直撃を受けて地面を転がる。


「邪魔だ狼」


 立ち上がろうとしたゴールドを凍結させる。

 ここまでだな。


「お前等、よく頑張った。ありがとうよ」

「主様!?」


 何か言おうとしたエメラルドを制して、3匹を俺の中に戻す。


「良いのか? これでまた一対一だぞ?」


 迫っていた斧を、虫でも払うように迎撃しながら≪青≫が足を止める。


「ああ、ここから先は―――俺1人で良い!」


 空気を置き去りにして≪青≫に向かって走る。

 空中を飛び回る様々な武器を避け、落とし、流す≪青≫。鳥とでも戯れているような余裕さえ感じる。

 その余裕を今から剥ぎ取ってやる。

 ≪青≫の間合い2歩手前―――インディゴで俺を迎え撃つ気満々な動作。それに対して俺は……


――― ヴァーミリオンを上に放り投げる。


「?」


 思いがけない行動に、≪青≫の視線が深紅の剣を追って空中を泳ぐ。

 ここだっ!!

 空中を舞っていた炎に包まれた槍を掴む。流れるような動作で、体を引き絞る。頭の中でガゼルの姿をトレースする。

 ≪青≫が俺の動きに気付いて回避行動―――だが、遅い!


「死ねっ!!」


 ≪青≫の心臓目掛けて、槍を全力で投げる―――。



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