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10-21 カスラナリターン

 カスラナ、ああ懐かしきカスラナ。とか何とか懐かしい気持ちに浸ろうかと思ったけど、この町は言う程良い思い出ねえな……。領主の娘にはヘイトを向けられ、住民や冒険者には嘘つき呼ばわりされて嘲笑われ……まあ、影の指揮者(シャドウコンダクター)とチンパンジーを倒した後は、それなりに好意的になったけども…。俺等次の日には出発したからねえ。

 町を囲む防壁は巨大化したチンパンジーに半壊させられたが、現在急ピッチで補修が進められているようで、今も組まれた足場の上で職人たちが大声で怒鳴り合っている。


「アークさん!!」


 頭上からの声をかけられて見上げると、見張り台の上で衛兵が手を振っていた。

 多分アッチは例の騒ぎで俺の顔を知っているんだろうけども………ごめんなさい、まったく見覚えの無い人です。

 とは言え、友好的な態度の人間を冷たくあしらっても良い事なんて1つも無いので、一応友好的な態度で返す。


「どーも。クイーン級への依頼で来たんですけど、通って良いですか?」

「はい、勿論です!」


 クイーン級と言う言葉を聞いて、衛兵の顔が上気したのが分かった。やっぱこの肩書があると扱いが違うよなぁ。

 町の中は、前に来た時から大して変化はない…まあ、当たり前か。ここはソグラスの様に町が壊滅するような被害受けた訳じゃないし。

 とりあえず依頼人の所に向かうか。

 依頼主はこの町を管理している領主。前に何度か顔合わせてるし、あそこの家の門番にも顔が利くから会う事は問題ないだろう。領主宅にはリアナさんも居るし……まあ、問題があるとすれば領主の娘にガン飛ばされる事くらいか…。


「んじゃ、ちゃちゃっと依頼人の所行くか?」

「はい」「はい!」「はーい」


 転移係のおば…姉さんとはここで別れる。こっから先は転移での移動はフィリスにやって貰うので、転移係は必要ないからだ。

 丁寧にお礼を言って別れ、残ったロボメイドとエルフと妖精を連れて歩き出す。改めて家のメンツを見ると、まともな人間が俺しかいねぇ……いや、まあ、魔神を宿した人間がまともかどうかはともかくとしてだが。


「懐かしい町ですわね」


 俺の肩でご機嫌にキョロキョロと辺りを見回す。


「そう言えば、白雪と出会ってから初めて来た町がここだったっけか」

「はい!」


 あの頃は光る球だったのにねぇ。

 そんな思考が白雪に伝わって、顔色があからさまに曇って体からやんわりと青い光が放出される。


「父様は…昔の姿の方が好きなんですの……?」


 震える声で言われて視線を向けると、今にも零れ落ちそうな涙を瞳に溜めていた。

 あっ…これはいかんな。


「んな事ねえよ。今の白雪はこうしてお喋り出来るし、食事も一緒に食べられるし、その姿の方が好きだぞ」


 「昔の姿も可愛くて好きだったけどな」と付け足して、あやすように指で泣きそうな顔をツンツンとしてやる。すると、「大好きですの!」と、その指にギューっと抱きついて来た。

 白雪が泣きだすのを回避出来たと安心していたら、今度は後ろを歩いていたパンドラとフィリスが貫く勢いで白い目を投げて来ていた。


「何……?」

「いえ」

「アーク様は、白雪には甘いのですね?」


 どこか棘のある口調だった。

 何? なんでいきなり微妙に御立腹モードなの? 俺、何かしたか?


「そうか? あんまり自覚ねえけど?」

「私達にも同じような対応を要求します」


 え? 急に何言いだしてんだこのメイドは……? 別に扱いに差を付けてるつもりは全くないんだが……って、フィリスがむっちゃ頷いてる!?


「同じようにしてるだろ?」

「「いいえ」」


 何て見事なシンクロ…。

 そんなに扱いに差があるかな? でも、まあ本人達が有るって言うなら有るのか? 俺の指に甘えている白雪も、どこか特別扱いに優越感を感じてるっぽいし。

 しかし、対応を変えろと言われても、俺自身は気にした事ねえから分かんねえな?


「具体的にどうして欲しいんだよ」

「触れて下さい」「愛して下さい」


 通りのど真ん中で何言ってんだコイツ等…。

 「触れて下さい」色んな意味で聞こえがヤバい。

 「愛して下さい」普通に聞こえがヤバい。

 結論、2人の対応を変えるのはヤバい。


「……………まあ、気が向いたらな……」


 2人が期待に満ちた目を向けて来るのを若干いたたまれない気分で受け止めつつ、領主邸に急ぐ。

 道中、俺とパンドラの顔を知っている町の人間に何度か呼び止められたが、特に問題無く到着。まあ、こんな短い距離を歩く間に問題が起きても困るが……。


「これはアークさんとパンドラさん、お久しぶりです」

「どうも。クイーン級への依頼の件で領主様にお会いしたいんだけど?」

「は、はい! 少々お待ち下さい!」


 前来た時にも顔を合わせた門番さんだったので、話が早くて助かる。


「父様、(わたくし)は挨拶されませんでしたわ!」

「仕方ねえだろ……。門番だって光る球が美少女フィギュアになってるなんて予想出来ねえよ」

「まあ父様ったら、私の事を美少女なんて」


 照れて顔を赤くした。

 いや、まあ、可愛い事は認めるけど。“美少女フィギュア”って言う名詞であって、お前の容姿を褒めた訳じゃ……ま、喜んでるから良いか…。

 後ろの2人からまた白い目を突き刺されながら待つ事数分。急ぎ足で戻って来た門番と執事らしき男。

 執事らしき老年の男に「領主様が外出中ですので、暫く待って貰う事になります」と丁寧に言われた。多分尋ねて来たのが普通の冒険者や町の人だったら、問答無用で「出直せ」だったんだろうけど、俺とパンドラはこの町を護った英雄だし、それが無くても俺はクイーン級の冒険者だからな。やっぱ扱いがねぇ…。


「待つ事は別に構いませんけど……それならリアナさん居ますか? 先に顔見せておきたいんですけど?」

「ぉお、そう言えばリアナとアーク様は御姉弟でしたね」


 俺は様付けでリアナさんは呼び捨て……まあ、ロイド君(俺)の姉つったって、ここの使用人だからねえ。


「今はルーリエント様とご一緒に庭に居ますので、どうぞあちらに」


 あー……ルリも一緒かぁ…まあ、そうだよなあ、ずっと一緒に居るもんなアイツ…。またあのヘイト満点な目で見られるかと思うとテンションが下がる…。


「行こう」


 諦めに近い覚悟を決めて敷地内に入る。

 貴族の家だけあって、それ相応に大きい家なのだが、ルディエで城に入った後だからかこのサイズの敷地に安心感を憶えてしまう。いや、それでも俺の家の倍以上の敷地だけどさ……。

 玄関の裏に回ると、小さな公園くらいの広い庭の真ん中で、ルリが両手を広げて魔法を詠唱していた。全力の集中モードらしく、俺達が来た事に全く気が付いていない。後ろでそれを見守っていたリアナさんが俺に気付き「あっ」と声を出しそうになって、慌てて口を塞ぐ。

 俺としても人の集中を邪魔する程性格は腐って無いので、後ろの2人と白雪にも注意を促し、物音をたてないように静かに近付く。

 リアナさんとの距離が詰まると、俺の意思を無視して、体が勝手に例のアレを警戒して身構える。……が、予想に反して例のアレが来る事はなく、リアナさんは俺……と言うかロイド君の無事な姿を確認して嬉しそうにニコッと笑う。一応まだ詠唱を続けているルリに気を使って、声を出さずにペコっと頭を下げる。

 何やらヒヤリとした…殺気にも似た気配を感じて振り返る。

 ………フィリスが瞳孔の開いた、殺人鬼みたいな目でリアナさんの胸を凝視していた。正気に戻そうと視線を遮って手を振ってみたが、一向に視線が離れる事がない。

 あかん…! 完全に()る気の目だ……!?

 なんで初対面の相手にここまでヘイトを全開に出来るんだ? フィリスが人間嫌いのエルフだっつっても限度があんだろうよ? いや、まあ確かに? 貧乳の巨乳に対する敵対心は親の仇の如く高いと聞くが……もしかしなくてもそれなのか? フィリスの胸は…まあ、御世辞にも豊かとは言えないが、エルフってそう言う身体的な特徴を気にするような種族でしたっけ?

 フィリスがリアナさん(の胸)に攻撃を開始する前に、ルリの魔法が完成した。


「【ファイアクラッカー】」


 魔法陣から放たれた火の球がポンっと弾け、花火のように小さな火の粉を辺りに巻き散らす。

 なんちゅーか、随分と威力が奥ゆかしい魔法だな……。でも、庭で練習するレベルならこんなもんか。

 魔法の発動を見届け、リアナさんがパチパチと惜しみなく称賛の拍手を送る。俺も一応客としての礼儀として全然感情のこもっていない拍手を送っておく。パンドラは称賛する程の魔法ではないと判断してノーリアクションだし、フィリスに至っては魔法が発動した事にさえ気付かず、リアナさんの胸のふくらみに向かって死の眼光を飛ばしている。唯一白雪だけが、俺の真似をして小さな手で拍手をしていた。


「リアナどうだっ―――――」


 振り返ったルリと目が合う。


「―――キャゃぁああああああああッ!!!!!?」


 うぇ、すっげえ悲鳴。聞いた人間を殺すマンドラゴラの悲鳴みたいだな……。っつか、単純にうるせぇ。ただ、悲鳴のあまりの音量の大きさにフィリスが正気に戻った事だけは感謝する。


「な、な、な、何で居るのよ!?」


 隠れる場所を探してリアナさんの後ろに飛び付き、顔を赤くしながら俺を指さす。


「冒険者ギルドに領主様が依頼を出したから、その件で来たんだよ。ついでにリアナさんに顔見せておこうと思ったら、お前が魔法に集中してたから静かにしてたって、それだけの話」


 おっと…ついついお前呼ばわりしてしまった。適当に流してくれると良いんだが…。


「そ、そう、ふーん…」


 流してくれた。セーフ!


「そう言えばアーク、貴方クイーン級の冒険者になったって噂で聞いたわ、本当なの…?」

「ええ、はい」


 首から提げているクイーン級の証を見せると、ジワっとリアナさんの瞳に涙が浮かぶ。弟(の体)が立派な地位について喜んでくれたのか―――


「もう! そんな危ない事をして!!」


 ガバッと抱きしめられる。

 しまったッ!? 完全に油断してた! このタイミングでくんのかよ!?


「どれだけお姉ちゃんを心配させる気なの!」


――― って違った!? 喜んでくれてたんじゃなくてそっちか!?

 っつか、息苦しい!! 毎回こんな事すっから弟の体に無意識に警戒されんだっつうの!!


 その後、半ギレのフィリスと平常運転のパンドラに助け出され………また2人から白い目を向けられた。

 ……………………俺、全く悪くないじゃん……?


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