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10-17 それぞれの領分

 お祭り騒ぎをしている大通りから転移して、再び地下に戻る。

 勿論目的は気絶させた残党たちを引き取りに来たのだが……。


――― 魔素が濃い


 地面に描かれた魔法陣が力を失っておらず、魔素を吐き出し続けてこの地下空間の魔素濃度をモリモリ引き上げている。

 今回のゴースト騒動のいきなり出たり消えたりする秘密は、多分ここの魔素濃度だろう。

 おそらくあの男の口ぶりから察するに、連中はゴースト……いや、皇帝の力を再現しようとしていたんだと思う。

 この空間に一定量の魔素が溜まると、それを使ってゴーストが作られて居た。ただし、ゴースト自体は核となる魔石も魔晶石も持っていないから、暫くすると形を維持出来なくなって魔素が勝手に飛び散って消えてしまう。

 多分あの男も、本当は自分で魔石呑み込んでゴースト化するつもりはなかったんじゃねえかな? でも、予想外に俺が現れてしまったから焦ってあんな手段に出た……って感じの話かな。

 ま、これは全部俺の勝手な推測だけど、ここでお寝んねしてる連中が色々吐いて(ゲロッて)くれれば真実は明らかになるだろう。……その前に絶望して自害するかもしんないけど……まあ、その辺りは全部団長さんにお任せしよう。

 さて、ゴースト騒動は一応落着したが、この魔法陣と溜まってる魔素は放置できねえな? 放って置くとここに魔物が生まれちまう。

 とりあえず、魔法陣ごと地面を焼く。

 地下空間に、赤い絨毯が敷かれたように一瞬だけ真っ赤に染まる。燃え広がる前にヴァーミリオンで炎と熱を回収してっと……よし魔法陣の光が消えた。

 残った魔素はどーすっぺ…。

 いや、これも丁度良いかも。エグゼルドから奪ったスキルがもう1つ残っていた。

 【魔素吸奪】。これはヴァーミリオンの持ってる【炎熱吸収】と同じカテゴリーのスキルだ。

 空間に存在している魔素を集めて溜めて置く事が出来る。ただ、このスキルは“吸収”ではなく“吸奪”だ。周囲の魔素を吸うだけではなく、魔素で形になっている物から奪う事も出来る。

 ………なんか、俺の手持ちのスキルって対魔物に特化してきてる気がする……いや、まあ別に良いんだけどさ?


「“吸奪(ドレイン)”」


 “月の涙(ムーンティア)”の中に、地下空間を満たしていた魔素が吸い込まれる。【魔素感知】で見ていると、まるで魔素の川が指輪に流れてくるような幻想的な光景。

 っつか……小さな指輪の中に、えらい量の魔素が吸収されてるんですけど? 何コレ? ヴァーミリオンに匹敵するくらいの食いしん坊過ぎません? どこぞの暴食(グラトニー)並みとは流石に言いませんけど……。

 まあ、とりあえず、これで地下空間の魔素は綺麗さっぱり処理出来たし良いか?


「よし、戻るか」


 と、ふと思い出して辺りを見回す。


「無いな…?」


 何を探しているのかと言えば、俺が初めて地下に落ちた時に見つけた白骨死体だ。別に死体マニアではない、断じて違う。

 あの白骨死体は、多分先代の≪赤≫だ。

 亜人戦争で両者の共生の道を探して人間と敵対し、最後は同じ魔神の継承者達との死闘の果てに散った女性。

 死んだ後も、その身に残った魔神の力を次に渡さぬように地下に封印され、600年の孤独を強制的に背負わされた。……それがどれ程の事かは、俺のたった17年の人生では察する事しか出来ないが……俺に繋いでくれた事への感謝は伝えたかったし、ちゃんとした埋葬をしてあげたかった。

 だが、どこにも見当たらない。

 もう誰かが回収して弔ってくれたのかな? 上に戻ったら団長さんに訊いてみよ。

 気絶している黒ローブ達を拾い集めて、【空間転移】で上に戻る。


「ただいま」


 うぇ…ちょっと頭痛い…。流石にこの人数連れての転移はシンドイな…。

 俺が両手に引き摺っている黒ローブを見て、お祭り騒ぎだった皆が一瞬ギョッとして静かになる。


「アーク君、その者達は…?」

「地下に居た魔道皇帝一派の残党です。多分今回のゴースト騒ぎの張本人達なので、尋問するなり斬首にするなり、そっちで好きなように後処理して下さい」

「う、うむ、そうか」


 いつの間にか集まっていた騎士団の人達に命じて、残党たちを受け取って魔封じの魔法を施して縄で縛らせる。

 これで、ゴーストの件は終了。いや、まあ後処理云々はあるけど、それは俺の仕事じゃねえから。


「それでちょっと訊きたいんですけど、地下にあった白骨死体がどうなったのか知りませんか?」

「ああ、それなら我々が回収したよ。あの戦いの後すぐに残党が潜んで居るかもしれないと地下に入ってね? ただ、何処の誰の骨なのか不明だったので共同墓地に弔ったが」

「そうですか…」


 ちゃんと墓に入って眠れているなら安心した。

 あとでもう1回墓地に行く用事が出来たな。


「父様~」


 パタパタと飛んで来た白雪が肩に止まり、ペタリと頬っぺたに張り付いて甘えてくる。


「どした?」

「いいえ何も」


 ただ甘えたかっただけらしい。

 指先で頭を撫でてやると「えへへ」と嬉しそうに笑う。

 そんな白雪を追って姫様が近付いてきた。


「アーク様と白雪さんはとても仲良しなのですね?」

「はい! 当り前ですわ!」


 エヘンっと胸を張る。

 姫様と仲良くなったからか、お嬢口調も解禁になったらしい……まあ、良いけど失礼がないようにな?

 ん? なんだろ? 姫様が若干沈んでいるような?


「姫様どうかしました? 白雪が何か失礼でも……」


 ウチのが何かやらかしたのなら、それは俺の責任でもある。ちゃんと謝らないとな。……謝って許される程度の話だと良いんだが……。


「え? いえ、そんな事はありませんよ? 白雪さんはとても楽しくて礼儀正しいですから」

「もう父様! (わたくし)は失礼なんてしませんわ!」


 白雪がプンプン怒って、体から怒りを表す赤い光がボンヤリと放出される。

 御立腹なウチの妖精の事は一先ず横に置いておき、テンションがダダ下がりになっている姫様に話を訊いてみる。


「何かありました? 力になれるようなら話聞きますけど」


 ……言葉にしてみて、ちょっと上から目線だったんじゃないかと内心冷や汗を流す。


『父様の方が失礼じゃないんですの?』


 はいはい、ごめんなさいごめんなさい。

 心の中で白雪を宥めていると、姫様が少し迷ってから落ち込んで居た理由を話し始めた。


「……私は、この国の王族の1人です」

「ええ、そうですね」


 「そんなもん改めて言われんでも分かっとるわぃ」とツッコミたかったが、なんとか喉まで出かかったそれを呑み込む。


「王族は、国民を護る事が義務であり使命です。だと言うのに……私は、皆が怯えて居る時に何も出来なかった……」


 ローブの中で、姫様が体を強張らせているのが分かった。

 王族の1人としての使命感と責任感を重く感じて、何も出来ない自分の無力さが許せなくなってる…って事かな?

 姫様が、泣きそうな目で俺を見つめる。


「アーク様が羨ましいです……。貴方様はとても、とても強い方。何が起こっても、誰が襲って来ても、皆を護る事が出来る…。私にも、そんな強さがあったら―――」


 望みを口にしている姫様が1番よく分かっている。姫様が俺の様になるのは不可能だ。

 それは、身体的な能力の意味でも、立場的な意味でもだ。

 でも、それで良いんだと思う。


「姫様が俺と同じくらい強くなったら、冒険者は仕事が無くなって餓死しますよ?」


 あまり雰囲気を重くしないように、出来るだけ笑い飛ばせる程度の軽い口調を心がける。


「戦う事で人を護ろうとする姫様の志は素晴らしいと思います。でも、それは領分の話ですよ」

「領分?」

「ええ。実際に戦う事は、俺達冒険者や団長さん達騎士の仕事」


 後ろで団長さんも小さく頷く。


「でも、俺達に護れるのは自分の手の届く所に居る人達だけです」


 俺だって、クイーン級やら<全てを焼き尽くす者(インフィニティブレイズ)>やら大層な呼ばれ方をしているが、護れるのは自分の周りのごく一部の人達だけだ。多少他の人よりも手と目が遠くまで届くってだけで、それは変わらない。


「王族の仕事がどんな物なのかは、一般人の俺の知るところではないですが……。政治や外交で全ての国民を護り、生活を豊かにするのがお仕事なんじゃないですか?」

「あ…」


 ハッとしたように姫様の目に光が宿る。

 そうだ、そうなのだ。王族が前線に立って戦えないように、どれだけ優れた戦闘能力を持って居たって、冒険者には(まつりごと)は出来ない。

 それはどっちが優れてるとか、どっちが良いとか言う話ではなく、戦える人間も政治が出来る人間も、どちらも世界には必要なのだ。だから、どっちもやれる人間がやれば良い。ただそれだけの単純な話だ。


「人には、それぞれ役割があるのですね?」


 どうやら、姫様にも俺の言いたい事がちゃんと伝わったようで良かった。説明下手だから、こう言う時は緊張する。


「私には私の……アーク様にはアーク様のすべき事がある……」


 王族には王族の、冒険者には冒険者の領分がある。それは、商人にも鍛冶師にも、炭鉱夫にも船乗りにもある。それぞれの仕事を羨む必要なんて無い。国と言う枠組みの中には、全部が無くてはならないんだ。

 何かが吹っ切れたように、姫様が今まで見た中で1番の笑顔を見せてくれた。


「ありがとうございます。貴方様に出会えわせてくれた虹の女神に感謝を」


 姫様がその場で両手を重ね、目を瞑って祈りを捧げる。

 いや……そんな大袈裟な…。とか思っていたら、後ろにいた団長さんも同じように祈っていた。

 何? 何なの? 信心深いの?



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