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10-16 全てを焼き尽くす者

 2体のゴースト……紛らわしいのでオリジナル以外はゴースト兵とか呼んでおこう…。まあ、ともかくその2体のゴースト兵を焼き殺した炎熱をヴァーミリオンに食わせて、更に歩を進める。


「どうした? かかって来いよ? 棒立ちのまま焼き殺されたいドMだってんなら別だが?」

「くっ…かかれ!!」


 ゴースト兵が命令を受けて動く。

 ドンっと石畳を軋ませるような踏み込みで、同時に突っ込んでくる。魔法が無いから、選択肢は近接しかないのは理解出来る。だが、それにしたってもう少し連携の仕方くらい考えたらどうだと思う。身体能力の高さに任せて全員同時攻撃なんて、子供の喧嘩じゃねえんだぞ?

 最初に突っ込んで来たゴースト兵を飛び蹴りで吹き飛ばし、すぐ後ろに居たゴースト兵にぶち当てて行動を塞ぐ。

 その隙に―――反対側から迫っているゴースト兵の首を貰う!

 左手のヴァーミリオンを振るう。


――― あれ?


 振った瞬間に、妙な違和感を覚える。

 何だ今の?

 ヴァーミリオンの刃がゴースト兵の首を切り裂き、同時に裂かれた傷口に真っ赤な炎が灯されて【自己再生】による回復を防ぐ。

 今、完全に首を刎ね落とすつもりで振ったのに……実際は首の皮一枚残ってしまった。

 相手の防御力を測り間違えた―――訳ではない。さっき剣を振った時の異和感のせいだ。その違和感の正体もすぐに分かった。

 左手に刻まれた、薄く浮かび上がっている魔神の刻印。身体機能を魔神に喰われている事を示す証。

 日常生活では全然気にならなかったけど、全力で筋力を使ったり、繊細な感覚を使う戦いの中だと異和感が地味に足を引っ張りやがる…。これぐらいの格下相手ならともかく、強敵相手に左手で戦うのはちょっと怖いな……気を付けよう。

 首の皮一枚残ったゴースト兵のどてっ腹にヴァーミリオンを突き刺し、熱量を解放して内側から焼き殺す。

 これで3匹っと。


「ぐっ…くぅ! 何をしている!! クイーン級とは言えただのガキだぞ!? 皇帝の御力を示すのだッ!!!」


 うっせぇな。

 皇帝皇帝と狂信者の様に唱え続けるのが耳障りで仕方無い。


「魔導国がどうのこうの言ってるが、あの野郎はそんな物に興味無かったと思うが?」


 コイツの言っている魔導国ってのが、皇帝の言っていたディブレアとか言う魔法を作り出した国の事を言っているのだとしたら、皇帝はそんな物に微塵も興味が無かった。奴はただただ自身の力を追い求める自己中で、国なんて大層な肩書を背負うような(こころざし)は欠片も無かった。


「黙れぇええッ!!!! 貴様にあの御方の何がわかるッ!!!!」


 迫って来るゴースト兵の攻撃を適当にかわしながら、溜息を吐く。

 俺に皇帝の何が分かるかって?


「何も分からねえよ。っつーか、あんな狂人の事何も分かりたくねえ」

「貴様ぁあ!! 我等が皇帝を侮辱するか!!?」


 突き出される拳をヴァーミリオンで刎ね落とし、放たれた蹴りを避けながら炎を撒いて数匹纏めて燃やす。


「別に? ただ、まあ…皇帝皇帝言ってるお前よりは、あの野郎がどう言う人間かは理解出来てるかもな?」


 その言葉でブチキレたのが分かった。

 先程までのゴーストの態度や言葉の中に見えていた余裕が消し飛んで、俺に向ける視線は憤怒と殺意に染まり、ゴースト兵を指揮する為に下がっていた位置取りも捨てて、ただただ俺を殴り殺す為に突っ込んでくる。


「死ぃねえええええええっ!!!!!!」

「嫌です」


 突っ込んでくるゴーストの全身を【魔炎】で発火させる。


「こんな物で、止まると思うなああッ!!!」


 別に思ってねえけど?

 ゴーストの体を包む炎に、【炎熱特性付与】で“吸引”を付与。残っていた5匹のゴースト兵が、炎に吸い込まれてゴーストの体に張り付く。


「クッ、ぬゥッ!!? 退()けっ邪魔だ!!!」


 ゴースト兵が邪魔で足が止まる。

 何とか引き離そうと頑張るが、炎がゴースト兵にも燃え移った事で更に“吸引”の効果が高まり全く離れない。

 もう完全にくっ付いて、6匹の巨人が揉みくちゃになった変なオブジェである。


「悪いけど、お前が暴れるとルディエの人達が恐がるんだわ? だから―――とっとと消えな」


 【魔素形成】で不気味な巨人のオブジェの周りに10本の槍を生み出す。

 【魔素操作】で槍を操り、6匹の体を縫い止めるように色んな方向、いろんな角度で刺し貫く。


「グゴぁッ!?」

「俺からの最初で最後の慈悲だ。最後くらい華々しく散らせてやる」


 ドンっと石畳を跳ね上げて距離を詰める。


「“我に力を”」


 【赤ノ刻印】を発動。全身にスキルとして設定されている方の刻印が広がり、知覚、膂力、スキル効果が底上げされる。

 左手の“魔神”の刻印は―――大丈夫変化無し。

 目の前の巨人のオブジェを蹴り上げる。


「ガぁブぉおおッ!!!!?」


 身体能力が倍近く強化された全力の蹴りを受けて、オブジェが10m上空に舞う。

 高さが足りない。もう少し蹴り上げて置くか?

 オブジェの炎に使っていた【炎熱特性付与】を解除して、【空間転移】を実行。空中遊泳を楽しんでいるオブジェを更に蹴り上げる。


「フンっ」

「ごゥぐぁあ!!?」


 こんなもんで大丈夫かな?

 【空間転移】で地上に戻り、オブジェが落下運動を始める前にトドメの一撃を用意する。刻印を出している事によって強化されたスキルを使い、手の平に最大火力の炎熱を限界まで圧縮。更にヴァーミリオンの中に溜め込まれている熱量も絞り出し威力を上げる。


「燃え尽きろ!」


 圧縮した熱量の塊―――深紅に輝く小さな光を上空に向かって投げる。

 花火の様に打ち上がった深紅の光は、ようやく落下運動に差しかかろうとしていたオブジェに追い付き、圧縮された熱量を解放する。


「“プロミネンス”」


 空が―――深紅に染まった。

 莫大な炎と熱量が天を覆い尽くし、青く澄んでいた空を赤く染める。かつて、ラーナエイトを焼滅(しょうめつ)させ、半端に受肉した魔竜の体を喰い尽くそうとした深紅の光。

 ゴーストとその兵隊が【自己再生】を持っていようとも、深紅の光が周囲の魔素を全て燃やし尽くしてしまうので魔素を取り込む事は出来ず、奴等の結末は膨大な熱量に燃やし尽くされる以外に存在しない。

 【魔素感知】でゴーストの反応が消えたのを確認して、天に広がっていた深紅の熱量放射をヴァーミリオンで回収しつつ、落ちて来た魔晶石をキャッチ。ついでに【赤ノ刻印】を閉じて、全身に広がって居た赤い紋様も消しておく。

 青い空が戻ると共に、静寂がルディエの街を満たした。


「あ、アーク君? ど、どうなったんだ?」

「終わりましたよ」


 お腹一杯熱量を食べて満足げなヴァーミリオンを鞘に戻しながら、討伐の証である魔晶石を見せて答える。


「お、ぉおおおお!! き、君はいったいどれ程の力を―――!?」


 興奮したように団長さんが駆け寄って来て俺の手を取る。

 先程まで緊張していたせいか握った手がやたら冷たくて、そして微かに震えていた。いや、でも震えているのは恐かったからじゃなくて、テンションが急激に上がったからっぽいな…?


「終わった……? 今度こそ本当に?」「凄えっ、アレがクイーン級の冒険者かよ…!?」「おい誰だお飾りなんて言ったの!? 化物みたいに強いじゃねえかっ!?」「噂には聞いていたが、アレが世界最強の炎術師……!?」「<全てを焼き尽くす者(インフィニティブレイズ)>……その名の通り、ゴーストを焼き尽くしやがった…!?」「凄い凄い凄い!! 私もアークさんを目指して冒険者になる!!」


 安全を確認して外に出て来た人達が口笛を吹いたり、何処から持って来たのか花を撒いたり……もうなんか、ある種のフェスティバルでも始まりそうな勢いの騒ぎだった。

 つっても、コッチはそんなお祭り騒ぎな気分じゃないけど…。

 “プロミネンス”。【魔人化(デモナイズ)】した時の最大級の炎熱攻撃。生身のままでも出来ない物かと試してみたが、威力は良いとこ5割って感じだなぁ…。刻印使って、ヴァーミリオンの熱量も消費して、今出来る最大限まで威力を上げたつもりだったが、やはり異形化した状態と人間のままでは能力が雲泥の差だ。

 出来れば、大きな戦いが起こる前にもう1つ2つ壁を越えて強くなって置きたいんだが…。

 今の俺には、原初(オリジン)に接続して“魔神”になると言う切り札がある。だが、あれはリスクが高過ぎるので、出来れば使いたくない。左手に薄らと浮き出ている魔神の刻印もそうだが………それ以上に気になっているのが、ロイド君の事だ……。

 今までも声が聞こえなくなる事はあった。だが、心の奥底にちゃんと“居る”のは感じる事が出来ていた。

 ………それなのに、今はロイド君が“居る”感覚が凄く薄い。いや、薄いと言うか、遠いと言うか…まあ、ともかく存在感が凄く希薄になっている。

 そこで考えた。もしかしたら、魔神になるのは、体の本来の持ち主であるロイド君に負担を強いるのではないか? と。

 身体機能を失う上にロイド君自身を弱らせてしまうのだとしたら―――もうあの力は使えない……。


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