10-14 ゴーストバスター
思考錯誤する事8本目の剣。遂に、ゴーストの攻撃を受けても壊れる事無く、受け止める事に成功。
作った剣がへし折られる度に、周りから溜息と「大丈夫なのか?」と俺の実力を疑問視する声が聞こえて来たが……コッチとしては【魔素形成】の練習をしているだけなのであまり期待をされても困るんだが…。まあ、でもようやくまともなのが1本作れたかな?
何度か剣を作るうちにコツが掴めた。
まず単純に、武器を作る時に籠める魔素量を多くする事。大量の魔素を圧縮して濃度を高くすればする程作った物体が硬くなる。これは、下級の魔物より上級の魔物の方が硬い理屈と同じだ。
そしてもう1つ、武器作成の際に俺のイメージ力がダイレクトに反映されているって事だ。武器の形をあやふやにイメージすると、魔素が固まり切っていないガラス細工のような脆さになってしまう。逆に、重さや硬さ、形を明確にイメージするとそれをそのまま再現する事が出来る。
この2点に気付いたら早い。
踏み込んでくるゴースト右手を魔素の剣で刎ね落とす。しかし、即座に魔素を吸収して再生を開始する。
【自己再生】での回復を無視して、更に体を捻って斬撃を放つ。袈裟、右足、左手、首、腹を貫き、最後に胴体を真っ二つにして離れる。
――― ヨシ、耐久度完璧!
目にも止まらぬ斬撃の嵐。しかし、【自己再生】が有効になっている限りダメージにはならず、すぐに傷は消える。
また周りから溜息……。
多分傍目には、俺が必死に攻撃しているのに、全くダメージを与えられなくて焦ってるように見えてるんだろうなぁ…。まあ、実際は焦るどころか、ようやくスキルのコツが掴めて喜んでるんだが…。
ゴーストのダメージにしたって、わざと回復出来るような攻撃しかしてないだけですし。
唯一白雪1人だけが、俺の考えている事を理解しているので微塵の不安も無く戦いを眺めている。
「白雪さん…アーク様は大丈夫なのでしょうか?」「大丈夫ですわ」「しかし白雪殿、先程から何やら武器を出しては砕かれているぞ? 私も手を出した方が良いだろうか?」「父様の邪魔になりますから要らないと思います」
白雪ー、その2人お偉いさんだから言葉使いとか対応に気を付けてねー…。
「……ん?」
ゴーストの魔素が急に不安定になった? いや、不安定っつか、散り始めてないか?
そう言えば、団長さんが急に現れて、急に消えるって言ってたっけ。だから“ゴースト”なんて呼び名なんだっけか?
これ、消える予兆だよな? そんじゃ、逃げられる前にトドメ刺しておくか。
「練習に付き合ってくれてアリガトさん。お礼に応用編も見せてやるよ?」
【魔素形成】で剣を作成。
魔素で作られた5本の黒い剣が空中を舞う。すかさず、エグゼルドから奪ったもう1つのスキルを発動。
【魔素操作】。読んで字の如く、魔素の流れや魔素製の物体を操る異能。
見えない糸に釣りあげられたように、魔素の剣が空中で静止する。
パチンっと指を鳴らすと、剣先が一斉にゴーストに向き、間を置かずに撃ち出された銃弾の如く飛び出して風切り音だけを残し、次の瞬間にはゴーストの右足に剣が突き刺さる。
「足止めてて良いのか?」
俺の言葉に反応して、慌てて回避行動をとる。2本目、3本目を危いところで回避するが、4本目が深々と左わき腹に刺さり、5本目が右腕を貫く。
そこでゴーストの動きが完全に止まり、避けた2本目と3本目がクルリと方向転換して心臓と頭を抜く。
この攻撃のみそは、回避が困難だと言う事ではない。敵に突き刺さっている武器が全部“魔素で出来ている”と言う点だ。
それはつまり―――
「“点火”」
魔素の剣が発火し、ゴーストの体を構成する魔素ごと燃焼―――そして、爆発!!
それはつまり―――相手の体に爆弾をブチ込んだのと同義だ。しかも、俺の支配する魔素の塊を体に叩き込まれたので、相手の魔素の支配力を一時的に無視出来る。【魔炎】と合わせて使えば、魔物相手なら即死コンボである。
倒したは倒したけど………ふむ、なんか色々引っ掛かるな?
皇帝の劣化コピーが何で現れたのか……それに、出たり消えたりするのも意味不明だし。
「た、倒した…のか?」「ゴーストを倒した?」「やったああ!!」「これで、もう怯える必要無いんだ!!」「良かったー! よかったよー!!」
周りが喜びの声を上げる中、俺は1つ気になる事を思い出していた。
ゴーストが現れる前触れのように、地面から噴き出した魔素の奔流。普通の人間では認識できないあの現象が、どうにも引っ掛かっている。
そもそも街の中は、人間が魔素を吸ってしまうから外に比べて魔素が圧倒的に薄い。だからこそ、街中では魔物が生まれないのだ。だが、ゴーストは事実街中で顕現した…。原因は間違いなくあの噴き出した魔素……何で地面から魔素が…? いや待てよ? 地面よりもっと下……地下か!?
いや、でも地下には魔素が無いんじゃ………まあ良いや、確かめるだけ確かめてみよう。無駄足でも構わないし、そん時は他の可能性を考えれば良い。
「ちょっと地下見てきます」
白雪と一緒に喜んでいる姫様と、その隣で警戒を解かずに難しい顔で周囲の歓声を聞いている団長さんに短く言うと、返事を待たずに【空間転移】で地下に飛ぶ。
日の光に照らされた世界が、一瞬でジメッとした暗闇に切り替わる。
久方ぶりの地下だ。
魔道皇帝の件の時に空いた天井の穴がまだ塞がっておらず、そこから差し込む光だけが頼りなく地下の空間を照らす。
その中にあって、煌々と輝く物が―――…魔法陣?
地面に大きく描かれた魔法陣が、怪しく光って魔素を吐きだしている。そのせいか、地下空間には凄まじい量の魔素が満ちていた。
ゴースト出現の時に噴き出した魔素は、やっぱり地下からだったか。
しかし、さしあたって気になる部分はそこではない。まず俺が気にしなければならないのは―――
「何してんだ、お前等?」
魔法陣を囲んでいる黒いローブで全身を包んだ男達。
一斉に黒ローブの視線が向く。俺の体を物理的に貫こうとするかのような圧力のこめられたいくつもの視線。
「上のゴースト騒ぎの犯人はテメエ等か?」
「総員迎撃! 即時排除せよ!!」
黒ローブが、虫の群れのように黒いローブをはためかせて動く。
「【ファイアボルト】!!」
1人が炎の矢を放つ魔法を唱えるが、炎熱系なので無視して短剣を構えて突っ込んでくる3人の対応に回る。
最初の1人を殴って沈め、2人目の足を下段蹴りでへし折って転がす。2人が何も出来ずに地面に転がったのを見て、3人目の足が止まる。それを逃さず転移で目の前に飛び、腹に一撃入れて意識を狩り取る。そこでようやく、俺を追って飛んで来た6本の炎の矢が当たる。しかし俺には【炎熱無効】が有るので火傷1つのダメージも食らわない。
「なっ…完全耐性だと…!?」「いや、高位の魔法防御かもしれん…」「気を付けろ、ただのガキではないぞ!?」
残ったのは4人。
3人が瞬殺された上に、魔法が効かなかった事でかなり警戒をして、対応が慎重になった。これなら話聞くかな?
「おい、お前等、もしかして魔道皇帝の手下の残党か?」
コイツ等の黒ローブ姿は、例の一件の時に嫌という程見た。
皆してこんなアホな格好をする集団が他にもあるとは思えない……思いたくないので、多分そうだろうと一目で判断した。
「貴様…何者だ?」
否定しない。ビンゴか。
「アステリア王国冒険者ギルド所属、クイーン級冒険者のアークだ。テメエ等がゴースト騒ぎの犯人なら、素直に縛に付け。さもなきゃ―――」
俺が言い終わらないうちに、1人が腰の剣を抜いて突っ込んで来た。
「ぜぁあああああああああああっ!!!!」
「かかって来るなら、最後まで聞いてからにして欲しいもんだ…」
溜息混じりに振り降ろされた剣を掴む。とは言っても、素手で…ではない。ヴァーミリオンを少しだけ抜いて【火炎装衣】を発動している。熱の防御膜が俺の手に食い込もうとする刃を完全に防いでいる―――いや、防ぐどころか1500度近いの熱量が刀身を一瞬で真っ赤にし、次の瞬間にはドロリと融かしてしまう。
「ヒッ!?」
「邪魔」
手に付いた融けた鉄を、軽く手を振って目の前の男に振りかける。
ローブで隠して居ない顔面に1500度の融けた鉄を浴びて、男が悲鳴もなく地面に倒れる。
さて、残り3人は―――
「同志よ! お前達の働きは無駄にはせぬぞ!!」
転移を始めていた。
「チッ!!」
顔に鉄を浴びて気絶した男を苦々しげに見下ろす。
コイツは、他の連中が転移で逃げるまでの時間稼ぎかよ!? 転移誘導…ダメだ、転移をスタートしてしまっている相手には効果がねえ!!
だったら答えは1つ。
転移する前に―――仕留めろっ!!
転移の詠唱終了から実際にその場から姿が消えるまでの時間は約2秒。
多少距離があっても、雑魚3匹なら狩れない時間じゃない!!
【魔炎】で手前の1人を焼くと同時に【空間転移】で突っ込む。火達磨になっている1人を無視して、両手を残り2人に手を伸ばす。
触れれば一瞬で焼き殺せる―――が、右側の男を護って左側の黒ローブが自分から俺の両手を掴んで来た。
「ぐぇあああああッ!!!!!」
途端に、【レッドエレメント】で放出していた熱量が男の両腕を炭化させる。
そして、転移が実行された。