10-11 謁見
2人の近衛兵に、若干鋭い目で見られながら待つ事3分。団長さんが嬉しそうに上気した顔で戻って来た。
「陛下がお会いになるそうだ!」
「う、うわー…やったー(棒)」
団長さんそんなに嬉しそうに……きっと言葉を尽くして王様に口利きしてくれたんだろうなぁ……とか思うと、無下に出来ないですよね…?
「では、剣は近衛に預けてくれ。陛下の前で剣を持つ事が許されるのは、剣を捧げた騎士だけなんだ」
ああ、そりゃあごもっとも。国のトップと会わせるのに、武器を持ったままじゃ危な過ぎるもんなぁ? まあ、俺は武器なんて有っても無くても人間相手ならあんまり変わらんけど。
「剣は預けないとダメですか? 俺の剣は神器なんで、俺以外が触ると怒るんですよ」
「神器!? そうだったのか…見事な作りの剣だとは思っていたが神器だったとは」
「とりあえず俺の手元に無ければ問題ないって事なら、剣は白雪に保管しといて貰えば良いんですけど、どうですか?」
「うむ、それで問題ないが…」
白雪に保管して貰うと言うのがイマイチ意味が伝わらなかったようなので、実際にやって見せる。
ヴァーミリオンをベルトごと抜いて白雪に渡す。
「白雪、ポケットに入れといて」
「はーい」
フードからパタパタと出て来た白雪の姿に、今までしかめっ面をしていた近衛兵達がギョッとする。
そんな様子を無視して、白雪が差し出したヴァーミリオンに触れると一瞬光に包まれて“妖精のポケット”に収納されて、俺の手の上から重さが消える。
「「「おお!!?」」」
3人の驚く姿に、白雪がドヤッと胸を張りながら俺の右肩に腰を下ろす。
妖精がそういう能力を持っている事くらいは知っていただろうが、実際に目にしたのは当然初めてだろうし、ビックリするのは無理もない。
よし、そろそろ腹も括れた。さっさと行ってさっさと終わらせよう!
「他には何か注意有りますか?」
「いや、特には無い。陛下も作法については気にせず良いと仰っていたから、自然体で居てくれれば問題ない」
自然体か……まあ、緊張して変な事言わないように気を付けよう。
白雪も、一応亜人代表みたいな感じになってっから、失礼がないようにな?
『心配ありませんわ!』
大丈夫……か? ま、今回は他の心配より自分の心配だな。
「では行こうか?」
「はい」「ですわ」
団長さんが両開きの扉の前に立つと、扉がユックリと開く。
扉の向こうは静寂と神聖な空気に満ちていた―――。
部屋の1番奥、アステリア王国の象徴である盾と鳥の紋のあしらわれたステンドグラスが、太陽の光を受けて輝いているその下にあるこの国の頂点だけが座る事の許された玉座。そこに座る、鳥を思わせる細い目の初老の男性。
白と金の混じっている整えられた髪に、ピンっと跳ねているカイゼル髭
どこか“好々爺”という言葉を連想させる雰囲気を纏っているが、同時に歴戦の戦士のような強さと厳しさを感じさせる。
あれが、アステリア王国の王……パウロ=アステリア・イム・ファンゲル。
隣の少し豪華さの劣る椅子に腰かけて居る女性が、王妃様……で良いんだよな? その王妃様の横に立っている綺麗な女の子が、お姫様…かな?
「陛下、冒険者ギルドよりクイーン級冒険者アーク殿をお連れしました」
「うむ」
王様が頷くと団長は俺達から離れて、壁際に並んでいた騎士達の1番王族に近い位置に立つ。
そして残された俺と白雪に視線が集まる。
部屋の奥に居る王族の視線も、右手側に並んでいる……多分国政に口を出せるレベルの偉い貴族達5人の視線も全部が俺達を値踏みしている。
俺が少しだけお偉いさん達の視線の圧力に気押されていると、
『父様』
っと…慌てて足を前に出して王様に近付く。残り4m辺りで、騎士達からピリッとした空気が伝わって来たので、多分ここらで止まるのが正解だろうと判断して足を停止させる。
「アステリア王国冒険者ギルド所属、クイーン級冒険者のアークです。お目にかかれて光栄です陛下」
ペコリと頭を下げる。
貴族の方々の視線に少し嫌悪感が混じったのが分かった。何だと思ったら、どうやら王様の許しが出てから口を開くのが正解だったらしい………いや、そんなん先言っといてくれないと知らんよ……。
喋り始めてしまったんだから、半端なところで止まってもその方が失礼かと思い、肩で固まっていた白雪を手に乗せて紹介する。
「こっちは俺……私の仲間の妖精の白雪です」
「し、白雪です!」
勢い良く頭を下げる。
王様相手だからか、お嬢口調は自重したか? 偉いぞ白雪。
流石に妖精…しかも子供の姿は珍しいのか、貴族達も「ほう…」と物珍しげにその可愛らしく美しい姿に見入っている。しかし、それ以上に興味津々に見つめていたのが、王妃様の隣に立っていたお姫様だ。キラッキラした目で白雪をジーッと見つめる姿は、ある種の狂気さえ感じてしまう。白雪もその視線が少し恐ろしかったらしく、立つ位置を変えて俺の頭に隠れる。
「うむ、良く来てくれたな? そなたの噂は、私の耳にも届いているぞ」
「良い噂だと良いのですが…」
「はっはっは、そう畏まらずともよい。何も、取って食おうと言うのではない。ただ、そなたにはアステリアの王として、1度礼を言いたかったのだ」
「礼…ですか?」
王様から何かお礼を言われるような事したっけ? 怒られる方向ならいくつか憶えがあるんだが……ラーナエイトの事とか…。
俺の問い返しにユックリと深く頷く。
「魔道皇帝の件に端を発し、各地に現れるクイーン級の魔物、それに釣られる様に凶暴化する魔物と魔獣、そして極めつけはラーナエイトの消滅……。今この国は、危機的な立場にある」
危機的か…。あんまり俺に実感は無いが、この部屋の空気が一気にドンヨリした事から見るに、どうやら相当危機感が煽られているらしい。
まあ、俺は根なし草だし、魔物の脅威なんて全く感じねえからなぁ…。
「そうですね」
一応話を聞く側として、失礼が無いように相槌くらいは返しておく。
「そなたには、魔物の脅威から我が国民を護って貰った恩がある。それに、魔道皇帝の件では逃げ遅れた者達を逃がす為に奮戦してくれたと聞いている」
団長さんが、他に気付かれないように目配せしていた。魔道皇帝云々の話の出所はアンタかよ…まあ、良いけど。
「ダロス、ソグラス、カスラナ。各地に現れたクイーン級の魔物を討伐したのもそなたとか」
「はい、私1人の力ではありませんが……」
本当の事を言っただけなのだが、強者としての謙虚な態度ととられたらしく、うんうんと頷かれてしまった。
「それに、冒険者として出会った魔物を討伐しただけの事なので、わざわざ御礼を言われる事ではありませんし」
「はっはっはっは、成程。その幼さでクイーン級となったのは、何も力だけの話ではないようだな? 精神も強者に相応しい姿をしていると見える」
うわ…王様が楽しそうに言うと、団長さんがすっげぇ嬉しそうにほくそ笑んでる…。
「城下に現れたゴーストも、そなたに任せておけば問題ないと確信できた」
確信されても……まあ、やりますけど。
話が一段落ついたようなので、ここで聞いてみたかった事を質問しても良いかな? 不敬とかなんとか怒られたら……まあ、そん時は謝ろう。
「あの、陛下。お聞きしたい事があるのですが宜しいでしょうか?」
「うむ、言ってみよ」
「原色の魔神をご存知ですか?」
周りの反応を見逃さないように精神を研ぎ澄ます。
しかし、貴族達も、騎士達も、王妃様も姫様も、王様ですらもクエスチョンマークを浮かべている。
………けど、王様の反応だけは若干怪しいな? 知ってるけど惚けてる狸爺の可能性は結構高いと見た。と言うのも、≪赤≫が封印されて居たのはこの街の地下だ。いや、違うな? 順番的にはルディエの地下に封印されて居たんじゃなくて、≪赤≫の封印の蓋をする為にルディエの街が作られたが正解だ。って事は、この街の……この国のトップには魔神の封印に関する話しが伝わっていてもおかしくない、と思ったのだ。
……つっても、真正面から聞いて答えて貰えるような話じゃなかったな? 魔神の封印の話は、人間の世界では抹消された亜人戦争の真実に繋がっている。
「いや、知らんな? それは一体なんだ?」
「いえ、ただの子供の戯言と御忘れ下さい」
ま、今回は別にその点をどうこうする為に来た訳じゃないし、深く突っ込むのも突っ込まれるのも止めておこう。