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10-4 人の世界に戻って

 ダークエルフの族長さんにお別れを言い、ついでに皆が戻って来たら俺達が宜しく言っていたと言伝を頼んで里を後にする。

 出がけに、フィリスが自分の背丈程もある細長い包みを大事そうに受け取っていたが、もしかしてアレが話していた“枝”だろうか?


 移動はフィリスの【長距離転移魔法(ハイポータル)】で一瞬。

 やって来たのはグラムシェルドの近く。

 闇色に染まりかけていた夕焼け空は変わらず………いや、変わって無いんじゃなくて朝焼けに変わってるのか。

 でも、まだまだ全然暗い…AM4:30てところかな。

 急いで出て来たけど、そう言えば時差がある事忘れてた…。

 グラムシェルドの街中に入る事は問題ないけど、今からギルドに行ってもほとんどの業務停止してるからなぁ…。しゃーない、宿取ってもう一眠りして日が昇るのを待つか。

 パンドラ達を連れて門に向かう。

 こんな時間でも、職務熱心な衛兵たちがダレる事も無くピシッと背筋を伸ばして立っている。関心感心、深夜のコンビニバイトなんて目じゃない勤勉さでとても良いと思います。いやまあ、客数の少ない時間のコンビニと、サボると街の安全に関わる仕事を比べたらアレだけどさ…?

 衛兵たちが、こんな時間に近付く怪しい影……っつか俺達に気付いて少しだけ警戒する素振りを見せる。

 対して俺は、警戒させないように出来るだけ軽い感じで話しかける。


「ご苦労さん」


 近付いた事で相手にも俺の顔が確認出来たらしく、急速に警戒レベルが下がる。


「これはアークさんでしたか! こんな遅くまでギルドの依頼ですか?」


 知り合い…と言う程ではないが、1人は何度か顔を合わせた事のある人だった。


「いや、ちょっとお出かけしてただけで、今帰って来たとこ」


 首に提げていたクイーンのクラスシンボルを抜いて渡す。


「そうでしたか。クイーン級の冒険者が戻って来たと街の皆が知れば、きっと安心するでしょう」


 俺のクラスシンボルに衛兵が触れると、固有認証の魔法が発動して赤く染まる。確認が終わると、若干恐る恐るな手付きで丁寧に返された。俺は普段から身に付けてるし、見慣れてるけど、普通の人間にしたら魔晶石製の物ってだけでもとてつもない貴重品だからな。


「安心するって? なんかあった?」

「いえ、特に何かあったと言うのではないのですが…その…アークさんの行方が分からないと冒険者達が噂をしていて、それで少し不安を感じていた者達が居たと言う話で」

「ああ…」


 なんか…とってもスイマセン。

 そういや、俺は研究所で行方不明になってから1週間ギルドに連絡取ってねえんだった…。そこらの冒険者ならともかく、この国でたった1人しか居ないクイーン級が行方知れずは、流石に皆に不安にさせたな。

 俺に続いてパンドラとフィリスがナイトのクラスシンボルを差し出す。2人の衛兵がそれぞれ受け取るが、俺の時と違って顔が若干赤い……。まあ、うちの女性陣は普通に美系だからな。

 2人の確認が終わったら、白雪の顔見せをして(基本俺の連れだから顔パス)グラムシェルドに入る。


「マスター、これからどうするのですか?」

「ギルドが仕事始めるまでまだ少し時間あるし、宿で一休みしようぜ」


 2時間くらいなら寝れるだろう。少し寝れば、多少は時差ボケも解消できる。日中、森と里の片付けをしてたお陰で体も若干疲れてるし、良い感じに仮眠とれそうだ。


「はい」「分かりました!」


 パンドラとフィリスが揃って返事をして、白雪はすでに浅い眠りに沈んでいるのが伝わってくる思念で分かった。この食っちゃ寝妖怪……妖精め。

 その後、クイーン級としてそこそこ顔が知れているお陰もあって、比較的簡単に宿がとれ、このまま起きていると言うパンドラに「2時間くらいしたら起こして」と頼んでベッドにダイブ。寝返りうってフードの中の白雪を潰すのも恐いので、先に脱いでパンドラに預けて置く。

 あー……やっぱ人間世界のベッドは、アルフェイルのベッドとは違うよなぁ…? なんか、クイーン級だってことで1番良い部屋を用意してくれたみたいだし……。

 ………ふぁ…ダメだ…横になったら……眠い…お休み…。


 ……


 ………


 …………


「マスター」


 体を揺さぶられる。

 良い感じに眠っていたのに起こすなよ……。眠りの海から這い出るのがシンドイので、抵抗を試みる。


「マスター」


 うるさい、もうちょっと寝かせとけよ…!


「起床のお時間です」


 冒険者は自由業だから、決まった起床時間はありません。はい、と言う訳でお休み…。


「マスター」


 なんてしつこい目覚ましなんだ……無駄に根性があり過ぎる…。

 何度か体を揺する対応が続いたが、ロボメイド目覚ましがそろそろ実力行使に出て来た。

 体の上に圧し掛かる人間サイズの暖かさと重さ。

 ここんとこ御無沙汰だったパンドラの朝の定番、肉布団体調管理兼87kgの目覚まし。

 ふっ、だが甘いなパンドラよ? 俺も魔神となれるまでに進化しているのだ。完全に眠っていて意識がない状態ならともかく、半分意識が起きている今ならば87kgの重さに耐えて、眠りの海に再ダイブする事が可能なのだ! ……多分。

 そして自分の全力を持ってしても起きない俺を見て、魔神の力の恐ろしさ(?)を再認識するが良い!


「マスター?」


 ………5秒程の沈黙。

 そろそろ体重をかけてくるかと身構えて待っていたが、一向に重量の暴力が襲って来ない。

 なんだ? もしや俺の行動を読まれているのか?

 こっそり薄眼を開けてみようかと思った時、俺の上に乗っかっている重さが微かに加重移動する。

 お? いよいよ来るのか? よし、ドンと来い! 俺は87kgに耐えてもう一眠りしてやる!

 顔の目の前に呼吸を感じる。顔近い顔近い…。


「マスター……」


 …ん? なんだろう、今の呼び方少しだけ甘えるようなニュアンスがこもっていたような…?

 次の瞬間襲って来たのは87kgの体重ではなく……唇を塞ぐ柔らかい感触…?

 んー…? この感触は知っているような…?

 薄眼を開けると、瞳を閉じて俺にキスをしているパンドラの顔が目の前にあった。


 これは………あれだな? 夢だな。うん。


 全速力で現実逃避しようとしていた思考を、唇を割って口内に滑り込んで来たパンドラの舌の感触がキャンセルする。

 ちょっ!? おいっ!!? これっディープキ……ッ!!!!?

 慌てて起き上がってパンドラの体を引き剥がす。


「おっ、おまっ、な、なっ、なっ、何してんだッ!!?」

「おはようございますマスター」


 なんていつも通りの反応!?


「お、お前、い、い、今、き、ききき」

「キスですか?」

「そーだよっ!! それをしたのかよ!?」

「はい」

「はいじゃねーよ!! なんでするの!?」

「はい。加重をかける事で速やかに起床頂こうかとも考えたのですが、現在のマスターに対しては効果が薄いと判断しました」


 その結果行き着いたのがキスって絶対おかしいですよね?


「粘膜同士の接触は刺激が強く、マスターに穏やかな目覚めを促すには最適と判断しました」


 穏やかさなんて欠片もねーけど!?


「如何でしたでしょうか?」

「2度とやらないで下さい」

「何故でしょうか?」

「何故って……お前おはようのキスってのは、その……恋人同士とか愛情を持った者同士の間でやるもんだろうが…」


 物凄い勢いで首を傾げられた。

 あれ? 伝わらなかった? いや伝わるよね? そんな小難しい事言ってねえよ?


「愛情は無いのですか?」


 …え?


「私とマスターの間に愛情は無いのですか?」


 ………いや、そんなションボリした顔するのずるくない? その顔した女に「ないです」とは言えねえだろうよ…。


「まあ……有るか無いかで言えば、有るけど」

「それはつまり、マスターは私の事を愛している、と言う事でしょうか?」

「愛してるってお前……いや、まあでも、アレだぞ? 家族愛とか友愛とか、そういう方向性の愛してるだぞ?」

「…………」

「おい、返事…」


 なんだろう、最後のところは右から左に聞き流された気がするんだが…?

 いや、もう良い…これ以上ツッコむのはよそう…。隣のベッドで寝ているフィリスや、俺のパーカーを寝床にしている白雪が起きて来たら、この騒ぎをどう説明すれば良いのか分からん。


 あー…朝っぱらから心臓に悪い。顔あっついし……こんな事なら惰眠を貪ろうとしなきゃ良かったよ…。やはり怠惰は罪と言う事か…?

 仕方ねえ…今日も1日頑張るか。

 


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