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9-28 幼馴染ですが何か?

 やたら鼻息荒く俺を見つめるショタコンを落ち付かせる。そんな俺に、少しだけ迷った様子を見せてからルナが忠告を口にした。


「お前が自分で体をどうにかすると言うのなら、それで構わないが…気を付けろよ?」

「何が?」


 ショタコンを宥めるの役目をガゼルに視線で押し付ける。


「お前の本当の体には、もしかしたら原色の魔神が宿っているかもしれん」

「はぃ? 魔神は4つだろ?」


 その全部に宿主が居るのに、どう言う意味だ?


「ふむ…確証がある訳ではないのだが、奴に触れた時確かに魔神の気配を感じた。お前の体が普通の人間だと言うのなら、今お前の体を動かしている何者かは魔神…もしくはそれに連なる何かを宿している。だから、戦う時には気を付けろと言った」


 俺の体に魔神の気配…? 勿論俺の…阿久津良太の体は超絶一般人だ。だとすれば、特異性を持っているのは動かしている中身の方…その判断は分かる……分かるけど…。

 ルナが魔神の気配を読み間違えるとは思ってない。って事は、確実に俺の体には魔神の気配を放つ何かが居るって事になる。

 ………自分の体に得体の知れない力が宿っていると思うと、なんだが本当に泣きたい気分だな……? 今さらながらロイド君ゴメン…。


「分かった。忠告感謝する」

「うむ。重ねて言うが注意しろよ? アレは、魔神の気配を抜きにしても一筋縄でどうにかなる相手ではない」


 ルナがここまで言うって…俺の体を使ってんのは本当に何者だよ…。

 だが、お陰で戦うその時になって変に慌てなくて済む。

 ルナからの忠告が終わったところで、“もう1人”の話に移る。


「俺の体と一緒に居た黒い髪の女の方は、秋峰かぐや…俺の幼馴染だ。アイツも当然異世界人だけど、俺と同じタイミングでコッチの世界に転移して来てたらしい」


 まあ、一緒のタイミングって言うか、半分はアイツを対象に発動した召喚魔法に巻き込まれて俺はコッチに来たんだが…。


「幼馴染? それなら、なんとか説得して仲間に出来ねえの?」

「うーん、どうかな…? どうやら、俺の体を使ってる何者かがカグ…アイツの精神に何かしらしてるみたいでな? さっきの戦いでは上手い事その洗脳の鎖が解けかけたっぽいけど、良いところで引っ込められちまったし…」


 思い出したらまた腹立って来た…! 次会ったら絶対俺の事ぶん殴ろう。


「と言う事は、少なくてもお前なら≪白≫を正気に戻せるのか?」


 ルナが興味深そうに訊いて来た。

 ルナとしても、継承者同士の戦いは避けられるなら避けたいんだろう。600年前の事もあるし、歴史を知っているなら当然か。


「そうだな。可能性はゼロじゃねえと思う」


 まあ、説得が出来なかったら、その時はその時で別の方法考えて、なんとしてでも正気に戻すけどな。

 自分の体については、渋々ながら切り捨てる覚悟が出来た。けど、カグの事はダメだ! 俺の中に、アイツを切り捨てるなんて選択肢は始めから頭にないし、きっとこれから先もそれを受け入れる事はない。

 カグを取り戻す事は、ロイド君に体を返す事と並んで俺の中での絶対に譲れない一線だ。


「ならば、≪白≫についてはお前に任せる。もし交戦した場合は、逃げに徹するとしよう」

「すまん、助かる」

「いい。私とて、無駄に魔神の力をぶつけたい訳でもないしな」


 ガゼルが「じゃあ俺もそうしとくわ」と軽い口調で続いた時、ふと痛いほどの視線を感じて横を見ると、左右から浮気現場を目撃した嫁のような目でパンドラとフィリスが俺を見ていた。


「何…その目は?」

「アーク様の幼馴染…ですか?」

「あ、ああ…」

「マスター、正直にお答え下さい。その幼馴染は、ただの幼馴染なのですか? それとも、恋人関係なのですか?」


 予想外の質問を、予想外の人物からされて、思わず咳き込んでしまった。

 恋人て!?


「ゲホゲホ…恋人って…俺とカグはそんなんじゃねーから!!」

「本当ですか?」「本当なのですか!?」


 ……なんで、俺が責められてる感じなの?

 ガゼルが腹抱えて笑ってるのが腹立つ…あとで引っ叩いておこう。そして、その横で「オネショタ…いやショタオネ…どっちでも行けるわ」と今までにない程真剣な目をしている真希さん…もといショタコン。


「そ、そんな事より!」

「誤魔化しました」「誤魔化した!?」


 左右からのステレオツッコミを無視して話を進める。


「連中は結局何がしたいんだ? 魔神の力を狙ってるってのは分かってるけど…」


 水野を連れていったり、カグを洗脳してまで手元に置いている事から見ても、そこは多分間違いないと思う。けど、それなら俺やルナに対しての対応がなぁ……仲間にならないなら潰してしまおうって事かな? 今の持ち主を殺せば、魔神は勝手に次の継承者を選ぶだろうし……いや、でも次の継承者が都合良くすぐに見つかるか?

 うーん…そういう事踏まえて考えると、アイツ等は自分達の手元に魔神を集める事にそこまで固執してないような気がするんだよなぁ。


「そうだな。だが、私は初対面から敵視されていたし、連中は魔神を集めようとする事をそこまで重要視していない気がする」


 お、ルナも同意見か。


「それに、神器狩りも連中の仲間のようだったしな」


 魔神を狙って、神器も集める…色々不穏な連中だなぁ。

 だが、やっぱり…その不穏さを考えると…。


「アークの言う“世界の終わり”、お前等継承者が関わってるけど直接的な破壊じゃないとすると、一番何かやらかしそうなのは連中じゃないか?」

「物凄く同感」


 皆…おお、なんと白雪まで「うんうん」と迷い無く頷いている!?


「連中の目的がどこにあるかは分からないが、少なくても捨て置いて良い者達ではない事は確かだな。冒険者の上位者であれば、出会う可能性は高い。この場に居る者だけでも、警戒はしておくべきだろう」


 ルナは言う事がいちいちごもっともですな。

 にしても…なんで連中は神器なんて集めてたんだろうな…? 戦力として神器を集めてるってんなら分かるけど、アイツ等はそういう形の戦力増強をするタイプとは思えないんだよなぁ…。まあ、何の確証もない勘だけど…。

 でも、だとすると……何の為に神器を…? ん? 待てよ…? 神器と魔神……。


「なあ、今ちょっと思ったんだが、魔神と神器ってちょっと似てるよな?」

「ふむ? どう言う意味だ?」

「魔神も神器も、持ち主を選んで(スキル)を与えるだろ?」

「まあ、確かにな…? それで?」

「それでって?」

「だから、似ているからどうしたのだ?」

「いや…別に。ただ、似てるなぁって、それだけだけど」


 微妙な沈黙が部屋を包む。

 え? 何? 俺が悪いの? 良いじゃん別に! 思い付きで言った事が、思わぬ事実に繋がるとかあるかもしれねーじゃんさ!!

 ルナが呆れたような溜息を吐く。ちょっと俺の精神にダメージ…。


「情報交換はこんなところか? 他に何か話し有る奴居るか?」


 答えは返って来ない。

 一先ずお堅い話はこれで終わりらしい。


「では、各々情報収集と能力の研鑽を怠らぬようにな」


 言うや否や、さっさと出て行こうとするルナ。


「行動早ぇな!? 話し終わったし、飯くらい食おうぜ?」


 正直、俺今すっごい腹ペコなのよ。

 なんてったって、研究所の地下に行く前から飲み食い一切してねえからな!


「無用だ」


 おお、即答即断ッスか…?

 なんて頑なな御方だ事…。孤独を愛する1匹オオカミってか?

 扉を潜って出て行く直前、一瞬…ほんの一瞬だったが確かにルナが悲しそうな目をフィリスに向けた。

 ルナの奴、もしかして…?


「フン、アーク様がお誘い下さったと言うのに、なんて失礼な奴だ!」

「そう言うなよ? 多分ありゃ、お前に気を使ったんだから」

「私に…ですか? 何故≪黒≫の継承者が私に?」

「≪黒≫の継承者だからお前に気を使ったんだろ…」


 ガゼルが俺の言いたい事に気付き「律義だねぇ」と苦笑しながらルナを称賛するように口笛を吹く。


「ルナは、多分自分が亜人に恐がられてる…いや、拒まれてる事を知ってる。だから、自分がここに長居するとフィリスが嫌がるって思ったんだろ? 他のエルフや亜人が戻って来た時に自分の姿があったら、フィリスが皆から変な目で見られるかもしれないしな?」


 フィリスもルナの心遣いを少しは酌んだようで…


「フンッ、ま、まあ…奴が、その…悪い人間ではない事は理解して置いてやろう」


 耳を赤くして、見事なツンデレだなこのエルフは。

 無理しない程度に仲良くなってくれたら、俺も嬉しいんだが…まあ、それにはまだ時間がかかるだろうな?

 少しだけ心の中が優しい温かみで満たされる。

 今まで関わる事を否定していた物が、少しだけ歩み寄った。小さい事かもしれないけど、もしかしたらこれから先の大きな一歩かもしれない。それが嬉しい。

 そんな中、事情を呑み込めていない真希さんが首を傾げている。

 ……ああ、はい、なんかスイマセン…。亜人と≪赤≫以外の魔神の継承者の間にあるなんやかんやは、流石に真希さんには伝わってないか。


「ま、それはともかく何か食べようぜ? 俺凄い腹ペコなんですよ?」


 言うや否や、見計らったようなタイミングで俺の腹が鳴る。その音に誘われるようにガゼルの腹が鳴る。


「右に同じ」

「それじゃ私も」


 と真希さんが続き、俺の膝の上で白雪が元気いっぱいに「下に同じですわ!」と手を上げたところで…、


――― ゴゴゴグゥ


 まるで巨大な魔物が唸るような音が部屋に…いや、アルフェイル中に響き渡った。

 音の発信源は分かっている。俺のすぐ隣だ。

 気まずい雰囲気に包まれながら、チラッと隣を見ると長い耳を死ぬほど真っ赤にしたフィリスが両手で顔を覆っていた。

 あー…はい。アレですよね? えー…お腹の虫が鳴いちゃっただけですよね? ちょっと虫の鳴き声がゴジラ級だっただけで…ええ、はい。


「す…すいません」


 両手の隙間から消えてしまいそうなか細い声が漏れて来た。

 大量に食べる事には羞恥心は働かないが、こう言う事はちゃんと恥ずかしいらしい。


「ええっと………」


 いかん、この空気のままではフィリスの精神的ダメージが致死レベルだ。


「では、私がご飯をご用意します」


 と、空気を読まずに淡々と作業を開始すべくパンドラが立ち上がる。


「「「「「お願いします!!」」」」」


 とりあえず気まずい雰囲気を脱出する為に、全員が全力でお願いした。



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