9-27 自身の体について
「でも、それって…ショタ君とルナちゃんが2人共暴走したらどーすんの?」
「それは…」
「どうしようもないな」
俺が言い淀んだ事を、ルナがアッサリと口にする。
いや、確かにどうしようもないのはそーなんですけど…。
「つまり、世界の終わり?」
「そうなる」
「それは、あくまで最悪の展開だろ? ビビらしてどーすんの…」
「だが、その状況が絶対に有り得ない訳では有るまい? その時になったら、第一に私達と相対するのは恐らくこの場に居る者達だ。覚悟くらいはしておくべきだろう」
そりゃあ、そうかもしれんけどさ。
オブラートに包むって事を学ぼうぜ……あ、コッチの世界にはオブラートなんて存在しませんとかってツッコミは要らないからな?
「まあ、俺等の暴走云々は、お互い気を付けるって事で…」
「そうだな。対策を立てられるような物でもなし、お互いに怒りに任せて魔神の力を振り回さないよう気を付けるとしよう」
ジロッと睨まれた。
はい、そうですね、俺は1度やらかしてますからね…気を付けます!
俺が若干肩身が狭そうだったのに気付いたのか、パンドラが話題を変える。
「次の話題に移りましょう。我々の敵について」
とりあえず、心の中で「ナイス話題逸らし!」とパンドラを褒めて置く。
皆も敵…さっきまで戦っていた連中の事について気になって居たのか、それを止める人間は居ない。
この話題に最初に口を開いたのはガゼル。
「色々連中については訊きたい事があるが、最初に訊きたいのは……アーク、お前奴等の中に居た黒髪の男女とどう言う関係だ?」
ああ…やっぱりそこ訊いちゃいます…?
皆も興味津々っぽいし。
「男の方は阿久津良太……」
あ……自分の名前…久しぶりに口にしたな。
「アクツリョウタ? お前の友達か?」
「友達っつーか、俺の事だよ」
「ぁん?」
「阿久津良太は、俺の本名。黒髪の男の方は俺……いや、まあ正確に言うと俺じゃねえか…?」
うぁ…皆して「何言ってんだコイツ?」って目をしてやがる…。ちゃんと事実しか口にしてねえのになぁ。
「俺が異世界人だってのは話しただろ? でも、もう1つ、俺には秘密が有ってさ…今皆の目の前に居るこの体は、俺自身の体じゃないんだ」
「ん…? どう言う事? ショタ君のショタボディは自前じゃない…?」
えー…切り出してはみたけど、どう説明すれば良いんだろう?
まあ、説明下手だけど、するだけしてみようか。
「実は、コッチの世界に転移する時に、諸事情により肉体と精神が引き離されちまったらしくてなぁ」
「「ん?」」
俺の説明に、パンドラとルナが首を傾げる。
ああ、そっか、この2人には「俺は死んだ」って説明してあったからか。
「パンドラ、ルナ、すまん。前に説明した時には俺の本当の肉体は死んだって言ったけど、どうやら生きてたらしい」
「と言う事は、連中の中に居たあの黒髪の男が?」
「ああ、俺の本当の体だ」
あ、予想通り、皆が無茶苦茶驚いてる。
まあ、そりゃあ、肉体と精神が離れてるってだけでも驚きなのに、その肉体が敵対行動取ってたら驚きますよねえ。正直、俺も若干泣きたいですし。
「……つっても、どうやら誰かが勝手に使ってるらしいけど」
「マスター、誰かとは誰でしょう?」
「さあ? それは俺にも分かんね。でも、次会ったら絶対ぶっ飛ばす…!」
「しかし、ぶっ飛ばされるのもマスターの体ですが?」
「フン、バカめ! 他人を殴れば傷害罪だが、自分を殴るのは単なる自傷行為だ」
俺がドヤッとキメていると、少しだけ躊躇うように…それでいてどこか責めるような口調でルナが訊いて来る。
「アレがお前の体だと言う事は理解した。その上で問うぞ? お前は奴をどうするつもりだ?」
ぶん殴る…と言う話ではないよな、ルナが訊いてるのは?
「取り戻せるなら、体を取り戻したい」
そりゃそうだろ? 死んだと思ってた体が生きてたんだ。俺の体があれば、ロイド君の体から離れる事も結構簡単に行くかもしれないし、取り戻さなくて良い理由が無い。
「……では、それが叶わなかった時はどうするつもりだ?」
重い言葉だった。
だが、俺が絶対に目を逸らす訳にはいかない問題。もし、体を取り戻す事が出来なかったら、俺はどうするのか…?
ルナがその問いを口にしたのは当然で、俺は今現在コイツに命を保留にして貰っている状態だ。ロイド君の体を離れる時には立ち合うと言う約束もあるし、“その先”もルナにとっては重要と言う事だろう。
問いに対する答えはとっくに俺の中で出ている。けど、それを口に出す事が恐かった。口から出してしまえば、もうその答えを受け入れなければならない。
少しだけ沈黙が部屋を満たす。
皆も、ルナの問いが俺にとって軽い物ではない事を理解してくれているのか、答えを急かすような事をせず、ジッと俺が口を開くのを待ってくれている。
皆の顔を順に見て、それで口を開く覚悟が固まった。
「その時は―――俺が、俺の体を殺す」
答えなんて、始めから1つだ。
俺の体を護る為に、この場に居る皆に剣を向けるような展開は論外だし…かと言って、誰ともわからない悪党に俺の体を好きにさせて置く訳にもいかない。
だったら、俺が自分で始末をつけるしかねえじゃねえか…。
他人にトドメを譲るつもりはない。そんな、最後の最後まで他人にケツを拭かせるような真似は絶対にしたくない。
「そうか…。その覚悟が出来ているのならいい」
少しだけ、ルナの目が優しかった気がする…。まあ、気がするだけかもしれんが。
「ま、アークが自分でどうにかするってんなら、俺達は極力野郎には手を出さねえ方が良いか?」
「いや、トドメ刺されたら困るけど、ぶん殴って転ばすくらいなら、いくらでもどーぞ」
皆が手を出さないのを良い事に、野郎が付け上がると困るし、それ以上に変に避けて通ろうとすると皆が危険になるかもだし。
「それで? 具体的に体を取り戻す方法はあるのか?」
「ない。けど、元々この体から俺の精神を引き剥がす方法を探してたから、もしそれが見つかれば、奴にもそれが使えると思う」
「なるほど、そういう事なら俺の方でも少しそれらしい情報集めといてやるよ?」
お、先輩頼りになるー。
「っつか、そもそもマキ? そういう事が出来る魔法とかないのか?」
おお、そうだよ!
聞けば、真希さんはこの世界に存在する全ての魔法を知る女だと言う話だし、もしかしたらポロっとそんな方法が出てきたり―――
「ない」
しませんよねー…。そんな都合良く行かねえよなぁ……あーもー、マジ神様ぶん殴りてえー。
と若干現実逃避しそうになると、真希さんがやたら真剣な顔で俺を見る。
「そんな事より」
そんな事よりって言ったよこの人…。俺にとっては重要な話よ?
「ショタ君の中身はショタじゃないの?」
「え? そこ?」
この人だけ話がまったく進んでねえな!?
「ショタなのに中身がショタじゃない…と言う事はコレは……!!」
クワっと親の仇のような目で俺を見る。
「ショタショタ詐欺か!?」
「何言ってんだオメェ?」
年上相手になんだが、本気で頭の心配をしてしまった。
そもそも何、ショタショタ詐欺って? おれおれ詐欺みたいに言われても、そんな詐欺この世に存在しねえよ!?
「ショタなのにショタに非ず、これはショタに対する反逆…いえ! 冒涜だわ!」
「はぁ…」
「いや、でも待って! 落ち付け私! 落ち付くのよ真希! 世の中にはロリ婆なんてジャンルもあるじゃない! って事は、ショタな見た目に大人な精神なのもありなんじゃないの!? ロリ婆に対抗してショタ少年も有りなんじゃないの!?」
ショタ少年ってなんだよ…そら普通の子供だろ。
そこでようやく周りからマイナス30度くらいの白い目を皆が向けている事に気付き、コホンッと咳払いをして正気を取り戻す。
「失礼。ところでショタ君?」
「はい?」
「何故短パンを履かないの?」
「正気に戻れショタコン」