表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
271/489

9-22 神から人へ

 パンドラへのスキルの譲渡が終わり、再び寝かせて離れようとすると、パーカーの裾をパンドラに引っ張られる。


「どうした?」

「………いえ」


 パッと手を離して、ユックリと引っ込める。

 ……なんだ? 離れるのが寂しい……とか? いや、それはないか。…え? ないよね?

 立ち上がって振り返ると、何時の間にやら真っ黒な執事服に身を包んだ赤毛の仮面と、毛の代わりに深紅の炎を身に纏う、8m程もある神狼が待っていた。


「ゴールドとエメラルド…か?」

「はい」


 返事と共に、揃って頭を下げる。後ろの方で、神龍のサファイアもしていた。


「何時の間に帰ってたんだ?」

「主様が、パンドラ殿と口付けされている時です」


 最悪のタイミングだな…。

 分かっていたけど、知り合いにキスシーン見られるとか、罰ゲームか拷問の類だろ…。

 恥ずかしさで顔が熱い、それに精神的なダメージで頭痛い…。思わず頭を押さえると、炎を纏ったゴールドが「クゥーン」と鳴きながら、鼻先をお腹に擦り付けて来た。

 サファイアと言い、ゴールドと言い…多少体が大きくなっても、甘え癖だけは治んないな…。まあ、でも可愛いから良いけど。

 燃える体を撫でてやると、嬉しそうに目を細める。


「そろそろ魔神から人間に戻る。お前達も元の姿に戻れ」

「畏まりました。では、その前にこれを」


 そう言って、バスケットボールのような大きさの魔晶石を差し出す。

 同じようにゴールドとサファイアも、似たような大きさの魔晶石をどこからともなく取り出していた。


「我等が討伐した魔物の核でございます。主様の旅にお役立て下さい」

「ありがとう」


 受け取ると、ズシッとクソみたいに重い。普通の魔晶石と比べて、ただ大きいだけではなく、身が詰まってる感じ。

 そこそこ邪魔な大きさなので、白雪に頼んでポケットの中に放り込む。


「お礼など畏れ多い! 我等は主様に創造された従者、お仕えし奉仕する事は当然の事でございます」


 同意するように、神狼と神龍が空気を震わせる声で鳴く。

 無条件に味方で居てくれる3匹の魔獣が、とても頼もしくて嬉しかった。

 離れた所に居たサファイアも呼んで、撫でてやると、ゴールドと一緒に甘えて来た。


「主様…御言葉ですが…私は撫でては貰えないのでしょうか?」

「え…? お前もして欲しかったの?」

「はい、それはもう! 主様に撫でて貰うのは、何よりの誉れです!」


 それは絶対言い過ぎだと思う…。

 まあ、本人がそう言うなら、それで良いけど…。

 跪いて頭を差し出すので、エメラルドの赤い髪を撫でてやる。…こんな長身の大の男の頭を撫でるのは、色々どうなんだと思うが…。


「ありがとうございます!」


 本人が喜んでいるので、良いとしよう…。


「それじゃ、戻るぞ?」

「はっ! それでは、我等はこのまま主様の中に戻りますので、御用が有りましたらお呼び下さい」

「ん、そうか? それじゃあ、また何かあった時には頼む」

「はっ」


 3匹が深々と頭を下げると、赤い光の粒になって四散する。

 さて、(オレ)も戻ろう。

 世界に対して開いていた意識を閉じ、≪赤≫の原初(オリジン)との接続を切る。

 周囲に広がっていた空間のひびが閉じ、(ボク)の体に浮き出ていた魔神の刻印が消える。


――― 一時的に取得していたスキルを【オリジン:赤】に返還します ―――


 途端に―――意識が混濁した。

 意識がひび割れて、記憶が遠くなる。

 頭が割れる様に痛い!?

 頭を押さえて地面に膝を突く。


「マスター!」「父様!?」「アーク様!!」


 あー…く? 誰だ? 誰の事を呼んでるんだ?

 コイツ等は誰だ? (ボク)は誰だ? ここはどこで…なんでこんな場所に居る?

 脳味噌を掻き毟るような痛みと苦しさ。

 自分が何なのか分からない。

 何だ? これは…ここは…何だ?

 近付いてこようとする耳の長い女と、小さな人形のような女…それとメイド姿の女が立ち上がろうとしていたが、それを全て押し退けて褐色の肌の仮面を着けた女が近付いて来る。

 (ボク)の前で跪くと、目を覗き込みながら優しい声で話し始める。


「私の声が聞こえるか? いや、返事はしなくて良い。ゆっくり深呼吸して、周りに居る者達の顔を順番に見て記憶を辿れ」


 言われて周りに居る人達を見る。

 上体を起こして、無表情だが…どこか心配そうに(ボク)を見るメイド姿の女。記憶を辿れと言われても、見覚えな―――いや、ある…? グチャグチャに掻き混ぜられて居た記憶の中から、あのメイドと一緒に旅をしていた思い出が引っ張り出される。


「パン…ドラ…」


 小さな羽の生えた人形……ああ、思い出せる。

 パンドラと一緒に居る時に、出会ったんだ…。


「白雪…」


 そこからは芋蔓式に記憶が繋がって行く。

 ドラゴンゾンビ討伐の為にグラムシェルドで野試合を仕掛けていたフィリス。

 ≪青≫を探していた時に出会った、グレイス共和国のクイーン級のガゼル。

 目の前に居るのは―――≪黒≫の継承者であり、キング級の冒険者のルナだ。


「サンキュー…もう大丈夫だ…」


 先程まで、皆の事も、世界の事も、自分の事でさえ判らなかったのが嘘のように、頭の中は晴れ渡っていた。

 ボク…いや、違う…“俺”は阿久津良太だ。

 ロイド君が俺と切り離された事で、意識の奥へと沈んで行くのが分かった。

 意識が混ざり合っていた時には見えていた、ロイド君の記憶が見えなくなる。


「なんだ…今の?」

「神と人の境界線を越える反動と言う奴だろう。私も始めの時は、自分と世界を認識できなくなって気を失った」


 お前もかよ…。

 でも、確かに…今のを1人の時に食らってたら、俺も気絶してたかもな…。

 それと……意識がハッキリして気付いた。


 左手の魔神の刻印が消えていない?


 他の場所の刻印はもう完全に消えているのに、左手にだけ、かなり薄いが赤い刻印が刺青のように残っている。

 …なんでだ?

 左手を見つめながら疑問に思っていると、その左手をルナがグッと握る。

 握られた手は異様な仮面や、超絶戦闘能力に反して、ちゃんと女の子の手をしていた。


「これが、魔神になる事の代償だ」

「…? どう言う意味?」

「詳しい話は後でな」


 そう言って手を離して立ち上がる。

 この消えない刻印が代償?

 その意味を改めて考えようとしたら、顔に猛烈な勢いで何かが張り付いた。


「父様!」


 白雪だった…。


「どした、そんなに泣いて…」


 小さな体をポンポンっと叩くと、「あれ?」と首を傾げられた。


「なんだよ?」

「いつもの父様に戻ってます?」

「そうだな、戻ってるな」


 肯定するや否や、またヒシっと俺の顔に抱きついて来る。「はいはい」と宥めていると、他の皆も寄って来た。


「アーク様、ご無事ですか!?」

「ああ、大丈夫だよ」

「おい後輩! ちゃんと説明するんだろうな、色々と! あとお前大丈夫か!?」

「説明するよ。あとお前の方が大丈夫か?」

「ショタ君、結婚しよう!」

「帰って下さい」


 そして、最後にやって来たのは………。


「マスター、ご無事ですか?」

「パンドラ…」


 お腹の傷も、折れていた右腕も全て元通りに修復され、着ているメイド服も【自己修復】の効果によって元通りの姿になっている。

 いつも通りのメイド姿で、いつも通りの無表情に、いつも通りに無感情に俺を心配する。


「ご無事ですか?」


 もう1度繰り返す。

 無表情過ぎて、本当に心配してるのかと疑問に思ってしまうが…まあ、一応ちゃんと心配してくれているんだろう…多分。


「ああ。そっちは?」

「良好です」


 パンドラが自分で良好と言うのなら、特に異常も後遺症も無いのだろう。

 いつも通りのパンドラの姿に感極まったのか、白雪が俺の顔から離れてパンドラの顔にしがみ付く。


「パンドラさん!!」


 それに対して、パンドラはいつも通りの無表情で…。


「誰ですか?」

「っ!!?」


 あ…白雪がダメージ受けて青くなった…。

 そりゃお前判らんて…俺だって判らなかったし…。

 流石に、今にも地面に崩れ落ちそうな白雪を見ているのは忍びないので、横から口を挟んでやる。


「白雪だよ」

「否定します。白雪との体格が一致しません」

「うぇえええん! 父様ーー!」


 精神的ダメージが許容量を超えて、泣きながらフードの中に潜り込んでしまった。


「ほら、この人の服の中に引き籠る感じ、白雪だろ?」

「はい。納得しました」


 こんな納得のさせ方で良いのかとも思ったが、まあ、良いか…。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ