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9-19 最後の手段

 2分程空を隠していた巨大な手が消えた。

 辺り一帯の陽の光が完全に遮られて暗くなった時は、コロニーでも落ちて来たのかと思ったが……まあ、流石にそんな事はなかった。

 多分…と言うか、絶対にアレはエメラルドの手だ。

 ウチの魔獣3匹には、キング級の魔物でも一方的に屠れるくらいの力を与えている。ゴールドとサファイアも相当強くしてあるが、エメラルドの能力は一線を画す。

 大陸1つ握り潰す事も容易な力……と言えば、そのヤバさが伝わるだろうか?

 正直、能力を与えた(オレ)でも、魔神になっていなければ対応に困るような強さだ…。呼びどころは考えないとだし、手綱はキチンと握っておかないとな? エメラルドなら、その辺心得ているから、多分大丈夫だとは思うが…。

 

 ……っと。ウチの連中の戦力評価は置いといて…今は目の前の事態を処理する事に集中しよう。

 エメラルドが能力使ったって事は、森の外に出ようとしていた魔物は片付いたって事だろう。ゴールドとサファイアは足が速いから、もっと早く片が付いてるだろうしな。


 唖然と、いつも通りに戻った空を、この場の全員が見上げている。

 ガゼルやフィリス達はともかく……ピンク頭達までそんな無防備で良いのか?

 驚いたのは分かったから、もうちょっと早く目の前の現実に戻れ。このまま首落として終わりにしてやろうか?


「おい、“外”の掃除も終わったようだし、コッチも終わらせて良いか?」


 無言で殺しても良かったが、相手が悪人でもそれをすると良心が痛むので一応声をかける。

 (オレ)の声に反応して、慌てて戦闘態勢に戻る。


「い…今の手は…?」

「気にするな。ウチの奴がちょっと暴れただけだ」


 気にするな、と言っているのに意識が空から離れていない。(オレ)を目の前にして、別の事に気を取られている余裕があるのだろうか? あるのだとしたら、それはもう生を諦めているとしか思えないな。


「目の前の事に集中したらどうだ? そんなに首を落とされたいのか?」


 そんな間抜けな状態で殺されても良いのなら、このまま殺すが。どうやら、それは嫌だったようで、戦闘モードに意識が戻ったのが雰囲気で分かった。

 だが、それ以上何かをしようと動く気配は無い。……いや、動かないのではなく動けないのか?

 ピンク頭は今ので奥の手を失った。巨人の方が切り札を使う気配がないのは、直接攻撃する武器か技だからかな? どちらも(オレ)の前では無意味だしな。

 相手が動かないと言うのなら、コチラから動いて行こうか?


「いくぞ?」


 軽く踏み込む。

 ズンッと大地が揺れ、空気が軋む。踏みしめた地面が砕け、周囲の景色と音を置き去りにして体が前に進む。

 文字通りの一足飛び。


 目の前には、反応出来ずに棒立ちのピンク頭―――


「ヒッ!?」


 ヴァーミリオンを首目掛けて振る。

 手加減なしの、完全に殺すつもりで振った刃。防御スキル無しで受ければ、確実に首が飛ぶ。

 だが、ピンク頭の首は落ちなかった。

 ヴァーミリオンの剣線を遮って、巨人の出刃包丁が地面に突き立てられたからだ。

 攻撃を受け止められて、一瞬だが(オレ)の反応が鈍る。それを見逃さず、恐怖から立ち直ったピンク頭が飛び退いて距離を取り、巨人が突き刺さったままの出刃包丁を捨ててそれを追って(オレ)から離れる。

 なるほど、一応戦う気はまだ捨ててないらしい。

 まあ、それならそれで良いけど。

 

「ほっ」


 目の前に突き刺さっている、自分の背丈の倍以上ある出刃包丁の底を蹴って圧し折り、倒れて来た本体をキャッチし、頑張って距離を取っている巨人に向けて投げる。


「返す」


 ズドンッと胸の下…ヘソの辺りを折れた出刃包丁が貫通して、背後の木に当たる―――寸前で【魔炎】で跡形も無く燃やす。


「グゴぁっ!!!?」

「ガランジャ!?」

「パンドラと同じ位置ぶち抜かれたんだ。文句はねえよな?」


 あっても聞かないけど。

 パンドラがやられた分の借りはこれで返した。ここから先は利子分だ。

 腹を貫かれてよろめいた巨人に、飛び上がって突っ込む。


「ほら、ちゃんと避けろ」


 巨人の脳天目掛けてヴァーミリオンを振り下ろす。

 そのまま縦に両断してやるつもりだったが、以外にも巨人の反応は早く、首を横に反らせて頭を護る。けど、図体がでか過ぎて完全には避け切れてない。左肩に食い込んだ刃を無慈悲に振り下ろし、片腕を貰う。


「ぐぅぁっ!?」


 空中を舞った左腕が黒い魔素となって四散。

 失われた左腕を抑える巨人。何とか下がって立て直そうとしているが―――そんな余裕与えねえよ?


「選べ」


 指先を軽く振って、巨人の残っている右腕を【魔炎】で発火させる。


「ぬぅ!!?」

「右腕も切り落とすか、そのまま魔素を燃やし尽くされて死ぬか、好きな方を選べ」


 この巨人の魔素量から算出した、選択に許された時間は5秒。

 死にたくないなら両腕を捨てる覚悟をしなければならない。もしそれに迷えば、待つのは死だ。

 さあ、巨人さんは死なない選択を出来るかな…っと。


「エスぺリア!」


 無言でピンク頭が、燃えている巨人の右腕を刎ね飛ばす。

 即決だったな? 迷ってそのまま燃え尽きるなら、それでも良かったんだが…。

 まあ、生き残る選択をしたんだから、一応拍手の1つでも送っておこう。無感情に手を叩いて正解を讃える。


「はーい、生き残りおめでとー」


 褒めたのに無茶苦茶睨まれた。褒めたのに……。

 まあ良いか…敵に友好的な目を向けられても反応に困るし。


「そろそろ死ぬ覚悟固めて貰えるか? これ以上長引かせる意味もないしな」


 コイツ等が情報を吐くと言うのなら別だが、期待できそうにないのでさっさとトドメを刺しにかかる。

 勝てない事を理解して、いい加減潔く首をくれるかと期待したのだが……。


「エスぺリア」

「皆まで言わないでぇ、分かってるわぁ」


 何やらまだやる気らしい。

 何をしても無駄だと理解しているだろうに…諦めが悪い奴等だ。これはもう、首を落として大人しくさせるしかねえな。元々それ以外の着地点なんて考えて無いけど。


「何かするつもりなら、さっさとやれよ? コッチは呑気に待つつもりないからな」


 片手でヴァーミリオン振ってみせる。

 その動作1つで相手を威圧し、萎縮させる。


「もう、なりふり構ってられないわぁ」

「うむ。我等の“個”を捨てる事になろうとも、このままむざむざ殺される訳には行かぬ」


 ギンッと2人の視線に闘志と覚悟が宿る。

 何するつもりだ?

 最後の一手だと言うのなら、付き合ってやりたい気もするが……そんな義理もないし、やっぱり良いか?

 構わず攻撃を始めようとした時―――2人の体に異変が起こる。

 2人の体を構成する魔素が空中に溶けだし、体の輪郭があやふやになっている。

 なんだ? 自殺………した訳じゃないのか?

 体から剥がれた魔素が周囲に散らずに、2人を取り巻く様に渦巻いている。2人分の魔素が合わさり、真っ黒な渦となって、その中心に2つの大きな魔晶石が浮いている。

 これは……まさか?

 魔晶石が重なり合って1つの塊になると、それを覆い隠すように黒い魔素の渦が形になる。


「まさかの合体か…」


 塊が周囲から更に魔素を取り込み、風船のようにより大きく、より丸く膨れ上がる。

 5、10、15、20、30m……でかくなれば良いってもんじゃないだろうに…。

 敵の無駄な大きさに溜息を吐きつつ、【浮遊】で体を森の上まで持って行くと、それを追い掛けて真っ黒な巨大な毬藻が空に浮く。

 恐いと言うか、不気味な光景だな…? それに、この球体から変化する様子が一切ないのだが…もしかしてこの毬藻が完成系なのか? だとしたら……あまりにも…その…何と言うか…可哀そ……いや、格好悪……いや、えー…その…シンプルですよね、うん。シンプルなのは良い事だよ、うんうん。


「「ころス……殺……ころ? ………転……コロ……スス」」


 ピンク頭と巨人の声が、同時に聞こえる。なるほど、本当に一心同体になったって事か?

 まあ、それならそれで良い。

 合体しようが、変身しようが、進化しようが、ここで確実に叩き潰す。


「良い事を教えておいてやる。最後の手段で巨大化する奴は―――死ぬ」



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