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9-11 無責任なもどき

 【告死の魔眼(デスゲイズ)】。

 平たく言えば、見るだけで対象を即死させる異能(スキル)

 ただし、相手に外傷は与えない。このスキルで潰すのはたった1つ。壊せば確実に相手を死に至らしめる部位、つまり―――


 心臓だ。


 心臓どころか内臓の存在しない魔物相手ではどうなるか? まあ、そりゃあ決まってるだろう。魔石が文字通り粉々になる。

 俺達を取り囲む500近い数の魔物を意識の中で捉える。

 このスキルの射程範囲は、本来ならば視覚の中だけだが、感知能力を持っている俺達ではちょっと違う。俺達にとっての射程は、“敵を認識できる範囲”だ。今の多彩で強化された感知能力がある俺達なら、軽く5kmくらいはスキルを届かせられる。俺達を狙って密集している前衛の魔物は元より、後ろにいる魔物も軽く射程範囲に入っている。


「テメエ等全員の命は、俺の手の平の上だ」


 俺達の言葉を理解せず、魔物達は襲いかかって来る。

 別にビビらせようとか、戦意を無くさせようと言う意図があって言った訳ではないので、スル―された事自体はどうでも良いのだが……、


「【告死の魔眼】」


 ポツリと呟くと、周囲の魔物達の体内から、パキンッと石が割れる小さな音が響く。

 魔素を魔物の体にしている核、魔石…あるいは魔晶石が粉々になった音。

 そして、核のなくなった魔物は―――魔素に還る。

 488匹の魔物が一瞬にして同時に消え去り、黒い魔素が霧のように辺りを満たす。


「邪魔くさい」


 飛び散った魔素を全て【魔炎】で燃焼させて消し去る。

 真っ白な空間に残ったのは、血の海に沈んだコピーの死体と、空中で本を片手に浮遊する神様もどき。


「よう」


 ヴァーミリオンを投げ捨てる。

 ここから先は、もう剣は必要ない。そもそも、このヴァーミリオンは、本物と同じであっても、俺達にとっては模造品だ。こんな物をいつまでも使っていると、本物のヴァーミリオンが手元に戻った時にヘソを曲げられてしまう。


 無言のまま、もどきが本から魔物を呼び出す。

 36匹。

 一瞬で、何の代償も支払わずにクイーン級以上の魔物をこれだけ引っ張り出すのは、俺達の世界の基準で考えたらチートもいいところだ。

 まあ、でも―――


「俺には、無意味だ」


 即座に【告死の魔眼】を発動して、魔物を消し飛ばす。

 空中を無表情に漂うもどきが、諦めたように開いていた本を閉じる。

 グッと足に力を込めて、一足飛びでもどきの目の前に間合いを詰める。そして、間を置かずに拳を振り被る―――。


「ふっ!」


 もどきは、コチラの動きを完全に視線で追っていた。

 一瞬避けるかと思ったが、そんな事はなく、むしろ無表情な顔を「どうぞ殴ってくれ」とでも言うように全く反応を見せない。

 その様子を不審に思い、拳をギリギリのところで寸止めする。良太なら、有無を言わさず一撃入れていただろうが、ロイドの意識が混じっているせいか理性がブレーキをかけた。


「何故そのまま殴らなかった?」

「お前こそなんで避けなかった? 今、動きを視線で追えてたって事は、避けるなり受けるなりの反応が出来ただろう?」

「ふむ…そうだな。避けようと思えば避けれたし、防御もしようと思えば出来た。だが、この一撃は嘘を言ってしまった罰として受けるべきかと思ってな?」

「嘘…?」


 話しを聞く姿勢として、【浮遊】で体を浮かせて、出していた拳を引いて、一歩分下がる。


「先程言った、『君が消えれば世界の終わりが回避出来る』と言ったアレだ」

「ああ、言われたな」

「君を奮起させ、もう一歩踏み込んだ力に至って貰う為だったとは言え、嘘を口にした事は罪だ」


 妙なところで礼儀正しい…流石もどきとは言え神様。

 ん? 「俺達が消えれば世界の終わりを回避出来る」ってのが嘘だったって事は、俺達……と言うより≪赤≫は、1週目の世界の終わりとは関係ない…のか?

 ッて言うか、コイツ…今の俺達の状態を引っ張り出す為にあえて痛ぶって、追い詰めるような事言ってたのかよ。


「≪赤≫は世界の終わりとは無関係?」

「いや、そう言う訳ではない。むしろ、密接に関係している。だが、1週目と同じ世界の終わりは、君達が……≪赤≫が消えたとしても回避できない」

「……?」


 どう言う事だ? ≪赤≫が密接に関係しているけど、≪赤≫が居ようが居まいが関係なく世界の終わりが訪れる? 意味が分からんな。


「と言うより、君達に関してはむしろ逆の意味合いがある」

「逆?」


 ますます意味が分からない。もう少し分かりやすい説明が出来ないのだろうか?


「うむ。君達が居なければ、2周目の…君達が生きている世界も1週目と同じように終わる、と言う事さ」

「……それは、俺が居れば“終わり”を回避出来るって意味と取るが?」

「そう、とも言い切れない。あくまで、回避出来る可能性がある、と言う程度の話だ。だが、君達が居なくなればその可能性さえ消失し、あの世界にはまもなく“終わり”が訪れる事になる。これは予想や予測ではなく、歴史としてここに保管されている、来るべき未来だ」


 俺達が居れば、世界の終わりを回避出来る…? それは、今の俺達自身が特殊な状態だからか? それとも≪赤≫の継承者だからか?

 うーん……?

 いや、一旦整理しよう。

 ≪赤≫が世界の終わりの原因の1つ。これは分かる。

 未来から来たパンドラの製作者達は、魔神の継承者を世界から排除しようとしていた。その条件は異世界の知識が有る事。当て嵌まるのはルナを抜かした3人。だけど、あの研究所の位置を考えれば、誰が最も早くパンドラを起こすかは歴然。間違いなく、ルディエに封印されていた≪赤≫だ。≪青≫と≪白≫がどこに封印されていたのかは知らないが、少なくても600年前の人間達が魔神の力を恐れて封印したんだから、近場って事は無いだろう…多分封印されていたのは他の大陸だ。

 つまり、パンドラの製作者達が第一のターゲットにしていたのは≪赤≫と見て間違いない。

 まあ、でも、製作者達が歴史を改竄する前の情報で狙いをつけていたのなら、それは俺達ではなく明弘さんだった訳だが…まあ、そこは良いや。

 ともかく、≪赤≫が世界の終わりに関係しているってのは、歴史の改竄者達の狙いから見ても疑いようはない。

 けど…≪赤≫が居なくても終わりが来るってのは、どう言う事だ? そもそも、その世界の終わりってのが具体的にどんな終わり方なのかが分からない。魔神の力が暴走して滅亡したってんなら、まあ理解出来るが……どうにも、そう言う事でもないっぽいんだよなぁ…。

 それに…俺達が居ればその終わりを回避出来る可能性があるってのもなぁ…。≪赤≫を持っている俺達がストッパー的な役割をするとか、そんな話か?


「具体的に俺“達”はどうすれば良い?」

「したいようにすれば良い」

「おい…世界の終わりとやらを回避する為のアドバイスとかは?」

「ないよ? 根本的な事を君達は理解してないね。俺としては、世界が滅ぼうが残ろうがどっちでも良いんだよ。俺の役目は、ここに歴史を保管し、観察する事だからね」


 いきなり何、突放しにかかってんだこのもどき…。


「ただ、“種を撒いた”責任として、あの世界に生きる者達が世界の存続を願うなら、最低限の手を貸すって、それだけの話さ」

「……敵なのか味方なのかハッキリして欲しいんだが?」

「2択で言うなら、一応味方だよ」


 ……嘘は言ってないと思う。多分。

 傍観者的な立ち位置ではあるけど、一応味方寄りではあるらしい。


「じゃあ、元の世界に戻る方法を教えてくれ」


 色々コイツから情報を引き出したいのはやまやまだが、今はそれ以上に残して来た連中の事が心配だ。多分、こんな場所に来れるのは、今回が最初で最後。そのチャンスを中途半端で捨てる事になるが……正直もどきのくれる情報は肝心なところを教えてくれないから、聞けば聞く程混乱するので、これ以上はお腹いっぱいだ。


「良いよ」


 え…そんなアッサリ?

 もどきがパチンっと指を鳴らすと、果てしなく続いていた白い空間の先に、真っ黒な染みのような現れる。

 黒と白の入り混じった……ああ、なんだろう…コーヒーにミルクを垂らしたような渦巻が、白い空間を呑み込むように口を開けていた。


「あの穴を潜れば元の世界だ」

「……こんなアッサリ戻れて良いのか?」

「元々俺が呼んだ訳じゃないし。居座られても迷惑だし」


 酷い言われようだ。

 でも、まあ、コッチも別に来たくて来た訳じゃないし、さっさと帰ろう。…っと、その前に。


「おい、一発殴らせろ」

「え…殴らずに帰る流れじゃなかったの…?」

「何言ってんの? 殺されかけるところまで追い詰められたんだから、一発殴らなきゃ収まらないじゃん?」


 さっきは潔く殴られる風だったから理性が働いて手を引っ込めたけど、殴って良いなら殴って置く。


「まあまあ待ちなさい。暴力は何も生まないよ?」

「テメエ、さっき人を殺す寸前まで追い詰めておいて、良くそんな口叩けるな…?」

「落ち着いて、穏便に行こうじゃないか。君が知りたいだろう話をいくつか聞かせてあげるから、その拳は引っ込めなさい」


 さっきは潔く殴られようとしたくせに、仕切り直したら諦めが悪いなコイツ…。

 しかし、俺が知りたいだろう話とやらは気になる。


「話してみろ、内容によっては手打ちにしてやる」

「うむ。まず、言った通りあの穴は君達が今まで居た世界に繋がっている。ここでは時間は経過しないが、元の世界に復帰する際に時間が経過する」

「…どのくらい?」

「誤差があるが、最低でも4日以上、長ければ2週間と言ったところかな?」

「もうちょっと何とかなんねえの? 1時間くらいに」

「あのね…本来の時間移動ってのは物凄くリスキーな物なの、御分かり? それを回避して元の世界に戻してやるんだから、それくらいの時間経過は呑み込んで欲しいんですけど。大体、下手すれば一ヶ月どころか10年くらい余裕で経過してもおかしくないのを、ここまで短くしてやってるんだから、感謝して欲しいね」

「へー…あざーす」


 爪の先程も心のこもってないお礼を言って先を促す。


「……一応、俺は神様に近い存在なんだけど、もうちょっと感謝とかさぁ…」

「知らねえよ、さっさと先話せや」


 若干テンションの落ちた口調で話しを進めるもどき。


「君達が世界から消えて6日目、エルフの森で戦闘が起こる」

「アルフェイルで? 魔物が襲って来るのか?」

「いや、相手は阿久津良太の体を使っている者と、その配下」

「はぁ!?」


 ヤバいな…。アルフェイルには今、亜人の戦士が多く居るけど、ピンク頭やパンドラの腹をぶち抜きやがった大男は、それこそ並みの戦士では相手にならない。それに…カグが居る可能性が高い…。いや、待てよ…、水野もアイツ等が連れて行ったし、もしかしたらアイツも居るんじゃないだろうか? だとしたら、亜人の全滅は免れない。

 いや、でも問題はそこじゃない。1番の問題は…。


「…なあ、もし穴を通る時の時間の経過が6日以上だった場合はどうなる?」

「戦闘が終わる」


 ですよね。

 ヤバい…俺達がその戦闘に参加出来ない可能性がある…。


「何とか5日以内に戻る方法ねえの?」

「神にでも祈れ」


 ……この野郎、マジでぶん殴りてえ。


「なんてね? 君達が出る時間は歴史ですでに決まってる。6日目の戦闘が始まった直後に、君達は世界に復帰する事になっている。出る場所は、エルフの森の外側」


 ………ギリギリで、間に合っている…のか?

 歴史でそう決まってるってんなら、到着時刻はもう動かしようがない。とにかく行ってみるしかねえか。


「分かった」


 穴に向かって転移する。

 黒と白の渦巻の目の前に着地。

 うぇ…グルグルしてて、近くで見てると酔いそうだ…。


「ストップ」


 呼び止められて振り返ると、もどきの手から白く光る小さな粒がふよふよと飛んで来た。それが何かを認識する前に、その小さな光は俺達の元へ辿り着き―――体の中に吸収された。

 何かヤバい物を入れられたのかと思ったが、別段変化はない。


「何今の?」

「君達の世界に送る、最初で最後の切り札(ジョーカー)。じゃあ、頑張って行ってらっしゃい」


 手をヒラヒラさせて、眠そうに欠伸をする。

 ………本当に何だったんだろう今の? まあ、特に異常はないから良いか?


「じゃあなもどき。2度と会いたくねえけど、社交辞令としてまたな」

「最後まで失礼だな君達は…さっさと行ってしまえよ」


 しっしっと手を振られて、渦巻の中に足を踏み入れる―――…。



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