決戦2
弱気になるな! 勝つ以外の選択肢はねえんだ!
とにかく、コイツの自己再生が問題だ。あのスキルがある限り、トドメはおろかまともにダメージを与える事もできない。なんとか能力の穴を見つけて攻略しねえとスタートラインにも立てない。
「素晴らしい力だな小僧? どうだ? 私の配下になるつもりはないか?」
お前はどこの魔王だ…。使い古されたセリフ言いやがって。
「何だそりゃ。世界征服のあかつきには世界の半分をくれるってか?」
「世界の半分? 随分欲張りな奴だ。残念ながらそこまでの報酬は確約できんな。だが、お前の望む全てを与えると約束しよう」
「なんでも? 本当に何でもくれんの?」
「無論だ。私の言葉に嘘はない」
「そうか、だったら―――」
ブレイブソードを握り直し、剣先を真っ直ぐ相手に向けて構える。
「テメエの首を寄越せ」
「くっくっく…本当に面白い奴だ。しかし、残念。交渉は決裂だな」
「大体テメエ何様だこの野郎! 魔道皇帝の仲間か?」
途端に、大声で笑われた。もう大爆笑かってくらいに。
「ははははははッ! そうか、この姿では気付かないのも無理はないな? では、名乗っておこうか、私がその魔道皇帝アデス=ジンエグリースだよ!」
「え!? マジで!? 魔物が自称皇帝なのかよ…」
副団長さんに続き、また実は偉い人オチかよ…。まあ、コッチは敵だからさほど気にしないけど。
「別に魔物な訳ではない。本来は人だが、肉の器が勇者にやられたので、魔素で作った仮初の器に意識を移したというだけだ」
……意識だけを移す? コレって、まさか俺の今の状態と同じ…?
「おい、1つ訊きたいんだが、その意識を移すってのは別の人間を対象にやる事もできんのか?」
「…? 不可能だな。入れ物に別の意識が入っていれば、当然異物として体が拒否する」
って事は、この魔物化した皇帝と俺はまったく別の状態って事か。この体をロイド君に返す糸口になるかもと思ったけど……まあ、良いや、この件は戦いが終わった後だ。
とにかく勝つ事に集中。この後に皇帝との戦闘があるかもと思ってたから、この一戦だけで済むと分かって、ちょっと気分が楽になったし。
「悪いね変な質問して。んじゃ、仕切り直しと行こうか!」
「気にするな、知識欲がある者は嫌いじゃない。惜しむらくは、それが敵であったと言う事か」
動き出しは同時。だが、圧倒的なリーチの差で相手の方が先に拳を振りに入っている。そして反対の手には何かしらの魔法。
ああ、そういや、魔物がなんで魔法振り回してんのか少し疑問だったが、コイツの正体が魔道皇帝ってんなら当たり前か。噂じゃ魔法のスペシャリストだもんな。
皇帝の眼前に炎を生みだす。頭を直接燃やしても良いが、コレの目的は視界を瞬間的に奪う事だ。
皇帝が構わず拳を振り切るが、そこにはすでに俺は居ない。
魔法を用意している腕の方に周り込みその腕を狙う。
「【フラッシュ】」
閃光。
目の前が真っ白になって、今度は俺の視界が奪われる。が、構わず剣を振って魔法を発動した手を斬る。腕の傷は即時再生、その腕から繰り出される裏拳。体勢を低くしてこれを回避。
大丈夫、ちゃんと見えてる。視界が使えなくても、熱感知があるからな。これだけ近ければ目視以上に広い視野を確保できる。
「ちっ」
自分のリーチの内側に入られている位置取りを嫌い、裏拳から流れるようにローキックに移行して俺を外側に追い出す。
あー目がチカチカする。まだちゃんと見えねえや。
「【ライトニングボルト】」
飛び退いた俺に魔法で追撃。
ブレイブソードを盾にして魔法を打ち消す。
「ほう、雷撃系の魔法はその速度ゆえ反応するのさえ困難なのだが…苦も無くそれをやるかよ」
苦も無くって程簡単じゃねえけどな。空気中の微かな熱の変化で撃ってくる位置を先読みして、後はもう勘だ。まあ、一々それを相手に言うような事はしないけど。
「ブレイブソードか。魔法殺しなどと大層な呼ばれ方もしているようだが、お前クラスの戦士が使うと確かにその名も頷ける」
「あっそう、そらどうも」
「だが、弱点があるのも知っているかな?」
「は?」
「【フロストヴァーン】」
熱感知で見えていた景色が一瞬で消える。
何だ!? と思う間もなく体に襲いかかる冷気。
うぉ、ちょっ、待って! マジで洒落にならないくらい寒い!?
慌てて自分の周囲に炎を撒く。熱感知で炎が灯った周囲だけが見えるようになる。
戻りかけた視界で辺りを見ると、目に見える範囲全てが凍っていた。そうか、熱感知が利かねえのはこういう事かよ。
っつか、何この笑えるくらいの威力の魔法!? 魔炎が使えなかったら確実に俺も氷漬けになってたぞ…。
それにブレイブソードが魔法の範囲内に入ってるのに反応してねえのはどう言う事だ!? もしかして、コレが弱点か? 広範囲…高威力、打ち消せる魔法のランクには上限があるって事かな?
って、呑気に分析してる場合じゃねえ!?
目の前に迫っていた皇帝の拳を危ういところでかわす。
「フン、流石炎使い。氷結魔法では仕留め切れんか?」
「そう簡単に仕留められてたまっかよッ!?」
逃げずにその場で斬り返す。
下手に移動しようとすると、凍った地面に足を取られると判断したからだ。同時進行で炎で地面を焼いて逃げ道を作っておく。
「フハハッ!」
振った剣を素手でガッシと掴まれた。手の平から魔素が噴き出すが、そのダメージを無視して剣を思いっきり引かれる。
ヤバいッ! と思った時にはもう引かれるまま体が地面から離れていて、皇帝の反対の拳が迫って来る。
くっそ! 舐めんなッ!!
自分も巻き込む覚悟で皇帝の全身を炎で焼く。どうせ俺は炎熱無効あるからダメージ受けねえからな。
が、皇帝の拳は止まらない! これは受けるしかない…けど、ただ殴られるのも癪だな。ブレイブソードから片手を離してブロックの体勢。直撃は避ける!
衝撃―――…!
体の芯を引っこ抜かれたような痛み。
「……グッ!」
吹っ飛ばされる衝撃を利用して、ブレイブソードを相手の指に滑らせる。噴きだす真っ黒な魔素、親指らしき指が空中を舞う。チッ! 指一本だけか、日本刀くらいの切れ味があれば指全部スッパリ落とせたのに!
吹っ飛びながら、指を落とした手を焼く。
…が、イメージ通りに火力が上がらない! クソ、何だコレ!?
背中から地面に落ちる。ああ、もう、痛えし冷てえなっ、チキショウッ!
ゴロゴロと地面を転がって勢いのまま立ち上がると、焼いた筈の皇帝の手と指は元通りに再生されていた。
「フフフ」
ダメージを受けても不敵に笑う皇帝。
強い。なんの誇張もなくチート級の強さだと断言できる。
こう言う時は、なんかコッチも凄いスキルがポンっと出て来て逆転とか出来ねえのかよ。
『キャパシティ不足』
赤がなんか答えてくれたっぽいけど意味不明。
『能力不足』
ご丁寧に言い直しされた。ようは俺のレベルが足りないって事か? まあ、レベル1でこんな怪物と真正面から殴り合えてる今の俺の状態は、野郎に負けず劣らず十分チート臭いか。これ以上は高望みだな。
……にしても、さっきからたまに魔炎が思い通りに発動しないのは何なんだろうな? 炎熱のダメージは耐性で軽減される上に自己再生で即回復するから、大小あんまり関係ないと言えばないんだが…ちょっと気になるな。
足元に炎を生みだし霜を溶かす。
うん、イメージ通り使えるよな? 何が違うんだ? 違和感があったのは2回、両方とも皇帝を直接焼いた時だけど、それ以外の時は普通に焼けた。うーん……。
炎…燃やす…魔物の体…魔素………燃焼…あれ? これ、もしかして!?
確かめてみる価値はある、かな。
「どうした? 痛みで闘争心が萎えた訳ではあるまい?」
「ああ、全然余裕だっつーのッ!!」
皇帝の足元から噴き上がる炎。蛇が巻きつくように炎が皇帝の巨体を呑み込む。
ヨシ、コレはちゃんとイメージ通り。問題はこっからだ!
凍った地面で滑らないように気をつけながら突っ込むと、皇帝が素早く炎を散らして反応してくる。
コッチが剣の間合いで捉える前に皇帝の蹴りが飛んでくる。ったく、このリーチの長さも卑怯クセえな…でも丁度いいや、この足を貰おう。
足を止めて、蹴りの下を潜りながらブレイブソードを蹴りに合わせて振り抜く。一瞬斬り落とされた足が体から離れるが、巻き戻し再生のように傷が元通りになっていく。
ここだ!!
塞がり切らない傷口を炎で焼く。が、魔炎がイメージ通りに反応しない。
ビンゴだ、大当たり!!
皇帝が次の攻撃を始める前に飛びずさる。
分かったぞ、あの自己再生の正体!
魔物の体は魔素で出来ている。当然、今の皇帝もそうだ。だから、ダメージを受けると周囲の魔素を急速に吸収して傷の穴埋めをする。これが自己再生の正体。生身の体の時にこのスキルが使えないのは当然、これは魔物と同じ魔素の体だから許されるチートだ。俺の魔炎は魔素を燃焼させるスキルだから、自己再生が発動して傷の周囲の魔素が薄くなると燃焼力がガクンと落ちるって訳。
正体は掴めた。次は攻略方だが、こっちももう考えてある。
覚悟しろよ皇帝、テメエの不死身性を今から引っぺがしてやる!