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9-7 最後への一歩

 人はよく「自分を1番理解していないのは自分」とか言うけど…ええ、まったく持ってその通りですね。

 俺自分の事、全然理解してねえわ。

 だって、目の前のコピーへの対応策がまったく浮かんで来ねえし!


 目の前に迫る深紅の刃をかわす―――いや、かわしたと思ったのに、浅く斬られた!? なんか、コピーの攻撃速度あがってる気がするんですけど!?

 もしかして、俺の行動読まれ始めてるのか!? 一応コッチがオリジナルなんですけどっ、対応力高くない!? ………いや、アッチも過去の俺の姿その物だから、偽物って訳じゃねえけどさ…!

 

「っと…!!」


 ヴァーミリオンが振られるたびに、コッチの傷が確実に増えて行く。

 距離をとったら攻撃出来ない。近接打撃は【火炎装衣】で防がれる。

 ……こんな展開前も経験した事あるなぁ…。ああ、インフェルノデーモンとやり合った時か。なんて、昔を懐かしんでいる間に足に傷が1つ増える。

 くっ…! いい加減呑気に構えてるじゃねえぞコレ!? 致命打は無いけど、傷1つ増えるたびにコッチの能力は確実に少しづつ削られてる。それに対して、まだ俺は有効打1つも入れてない。

 自分が一方的に追い詰められている事に焦る。向き合う相手が自分と同じ姿で、同じ攻撃をして来ると言うんだから尚更だ。

 何とか反撃したいところだが、攻め手が見つからない。攻撃の合間合間に少し隙があるのは見えているけど、そこに踏み込んだ後の展開が思いつかない…。

 せめてコッチにもヴァーミリオンが有れば、【炎熱吸収】で炎の鎧を剥ぎ取ってやれるんだが…。

 俺の回避に対する反応が良くなってきているが、俺の方もコピーの攻撃に少しづつ反応が速くなる。しかし、このいたちごっこは攻め手で武器を持っているコピーが圧倒的に有利。

 地形に高低差やら水場やらのギミックがあれば、それを利用した逆転の目もあったのかもしれないが、この果てしない平らな白い空間の中ではどうしようもない。

 俺に不利な要素が揃えた上で、逆転に使えそうな要素は排除する。もし、これが全てもどきの狙い通りだとしたら―――


――― 上に新しい熱源


 首の傷を押さえる手の位置を変えて、素早くその場を飛び退く。

 巨大な……人型の魔物が上から降って来た!? それで終わりではない、更に魔物が降って来る。

 狼型、蟷螂型、巨大な骸骨、アシュラナイト、インフェルノデーモン、ギガントワーム、その他にも見るからにヤバそうなクイーン級以上の魔物が何十匹…いや、何百匹と地面に降り立つ。

 何で魔物が? とは問わない、問う必要が無い。こんな状況で魔物が突然湧いて出てくるなんて―――神様もどきの手の中にある本から光が漏れ出て、魔物の体を作り出す―――アイツが本の中の記録から引っ張り出している以外に有り得ねえからなっ!! ああっ、クソッ、マジ腹立つ!!

 あの野郎、本気で俺を殺しに来てる…!

 冗談にしたって笑えない。コッチは自分のコピー1人でもいっぱいいっぱいだっつうのに、これ以上敵を投げ込まれても困る。いくら俺が、魔物に対しての絶対の優位性を持つ【魔炎】を持っていると言っても、クイーン級以上の魔物は燃やし辛いし、何よりこの数をコピー相手にしながら処理するなんて無理ゲー過ぎる。

 そんな俺の焦りと絶望感を見透かしたように、せっせと魔物を本の中から出しながら口を開く。


「どうした? 諦めたのか?」


 無表情だが、嘲笑うような口調。


「………ふざけんなよ…!」


 萎えかけていた闘志に火が入る。

 テメエが神様なのか、そうじゃないのか…んな事はもうどーでも良い! そんなもんは、頭蓋骨砕ける程殴った後で考える!

 先程もどきに感じていた恐怖心が無くなった訳ではない。でも、恐くても殴らなければならない相手が居ると言うだけの話だ。


 もどきから意識を離して、改めてコピーとその後ろに並ぶ魔物の群れに向かい合う。

 周辺の魔素が無いから正確な数は把握できないが、【魔素感知】で見る限り魔物の数は300ってところかな…? いや、まだ本から出してるって事は更に増えるか…。俺が死ぬまで無限POPさすつもりかあの野郎…!


 ビビんな! 動け! 囲まれたら数の利で一気に潰されるぞ!

 遠距離攻撃の的になるリスクを負ってでも、【空間転移】で離れる。途端に視界を遮るように赤いラインが空中に刻まれる。

 【レッドペイン】での追撃!?

 俺の思考であれば、転移で逃げる相手は転移で追いかける。ではコピーがそうしなかったのは何故か?

 決まってる―――俺の近くに居ると、魔物の遠距離攻撃の邪魔になるからだ。

 魔物達が俺に放つ黒い炎、冷気の塊、腐食のブレス、マシンガンのような毛針、正体不明のよく分からないオーラのような物を放射するのも多数。

 そして、その攻撃を遮らないように、攻撃の間を縫って数え切れない程の魔物が突っ込んでくる。

 あー…もう勘弁して欲しいわぁ…。

 大きく横に2度ステップして、遠距離攻撃の射線を外しながら、近付いて来ていた3匹の魔物に纏めて火をつける。


「燃えてろっ!!」


 蝋燭のような小さな火が魔物達の体に灯る。

 …チッ、やっぱりどいつもこいつも燃やされまいとする抵抗力が高ぇな…! 1度発火させちまえば放置して置いても勝手に消えてくれるんだが…。あの火の小ささでは、魔素の燃焼速度はそれ程じゃないから、消えるまで時間がかかるな…。

 もう1度発火させて火を大きくしようかと思った次の瞬間、魔物を焼いていた小さな火が消える。

 ヴァーミリオンの【炎熱吸収】か!!

 そう判断した時には、【空間転移】でコピーの俺が目の前に居た。


「くッ―――」


 ヤベエっ! コイツを先に何とかしねえと、炎が使えねえじゃねえか!?

 心の中で愚痴ってる余裕もなく、深紅の刀身が迫る―――


「“我に力を”!」


 瞬時に刻印が全身に広がり、身体能力とスキル効果が底上げされる。

 避ける―――いや、もう無理だ! 受けろ!

 振り下ろされたヴァーミリオンを咄嗟に左腕で受ける。

 ブシュッと刃が骨まで食い込んで血が噴き出す。


「――――ッッッ!!!?」


 声にならない痛み。

 【赤ノ刻印】のサポートがあっても、素手で受け切れる程ヴァーミリオンとコピーの俺の攻撃は甘くない。腕が落ちなかったのは幸運以外の何物でもなかった。

 すぐさま目の前のコピーの鳩尾を蹴って後ろに吹き飛ばす。とは言っても、蹴ったのは【火炎装衣】の上からなので肉体的なダメージは欠片もない。

 コピーの吹き飛びに合わせて、左手に食い込んでいたヴァーミリオンが傷口を滑って抉り、激痛が走る。


「いってえええええっ……!!」


 やっべぇ、クソ! 左手が洒落にならねえぐらいに痛い……。

 筋が切れたのか、肘から先が全く動かない。

 だが左手の心配をしている場合ではなかった。


――― すぐそこに魔物が迫っているのだから


 バイソンに良く似た魔物が、6本の太い足を動かし、その速度のまま突っ込んでくる。転移の用意があれば…あるいは感知能力でその姿を捉えていれば…左手の痛みに気を奪われて居なければ、難なく避けられたかもしれない。

 だが、結果は直撃だった―――…。

 激突された腹部が爆発したような錯覚。踏ん張ろうとしても足に力が入らず、体が後ろに流れる。

 空中での姿勢制御をする余裕はなく、真っ白な床に叩きつけられる―――その衝撃で、首と左手の血が溢れて止まらない。


 ああ……マズイな…これ……死ぬかも…



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