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決戦1

 ルディエの中央通りを全速力駆ける。

 道すがら、目についた黒いローブの連中は燃やす。兵士と戦っている黒ローブを燃やす。子供を抱いた母親らしき女性を襲っていた黒ローブを燃やす。物陰から俺に襲いかかってきた黒ローブを燃やす。

 ………走りながら火をばら撒いてると、なんか放火魔にでもなった気分で罪悪感が…。殺人者なうえに放火魔て……まあ、でも燃やすけど。

 南門が近くなって来たので警戒のレベルを上げる。不意打ちされたらたまらんからな。速度を緩めて、視覚と熱感知で注意深く辺りの様子を窺う。


「ん?」


 なんだ? 少し先の横道から、何か飛んでくる? いや、待て! この熱量と大きさって…人間じゃねえか!?

 慌てて緩めた速度を再び上げる。

 次の瞬間、鎧に身を包んだ騎士が俺の視界を横切って対面の壁に激突した。


「大丈夫ですか!?」


 声をかけてみたが反応が無い。熱感知が体温が急激に下がり始めた事を教えてくれる。

 ……くっそ、ダメだ、死んでる…。


「やれやれ。私の歩みを阻もうとはなんと罪深い事か。その対価は己の命で支払う事になったわけだが、あの世で―――ん?」


 重苦しい足音と共に、巨大な黒い影が現れた。

 ああ、テメエかよ…!

 見間違える事のない3m以上ありそうな巨大な体。魔物特有の全身を包む黒いモヤ。右肩の黒いマント。

 コイツだ…。明弘さんを殺した奴……!


「探したぜ、黒いの!」


 万感の思いを込めて言葉を吐いた。


「ブレイブソード? 小僧、どうしてそれを……いや、見覚えがある。そうか、お前勇者と居た小僧か」

「覚えてくれててどうも。そんじゃ、覚えついでにアンタの首を貰いたいんだが?」

「くっくっく、これは面白い。たまたま勇者の最後の場に居ただけの小僧が、ブレイブソードを手にして勇者を継いだと勘違いでもしてしまったかな?」

「継いだつもりはねえし、継ぐつもりもねえよ。勇者の肩書は俺には重すぎるし、この街でそれを名乗れるのは1人だけだ」

「ほう、勇者への義理立てか? まあ、良いさ。では、君は何を思って私の前に立つ? 敵討か?」

「それもある…けど、話はもっと単純だ。お前を放置すると、お前は俺の護らなきゃならない物まで壊しに来る、だから、ここで――――」


 踏み込む足に全力を込めて一気に距離を詰める。


「テメエをぶっ潰す!!」


 魔物の目が一瞬俺から離れて空中を泳ぐ。

 俺のスピードが完全に予想外で、油断しきっていた視覚が俺を見失った。

 踏み込んでみたは良いけどデケえな、くそ! ロイド君の体が多分150cmちょっと下くらいだから、相手は単純に倍のデカさがある事になる。

 まあ、でも、それならそれで良いさ。チビにはチビの戦い方がある!

 まず、相手の腿の辺りを横一閃。傷口から血の代わりに、真っ黒な魔素が空中に飛び散り、体がガクンと落ちる。

 ここにきてようやく魔物が俺に反応して、丸太のような腕を俺に叩きつけようと振り下ろす。けど、体勢が落ちかけている為、力が全然入っていない。構わず振り下ろされた腕をブレイブソードの腹で横に逸らす。

 そして、俺の目の前には相手の胸…ここからなら心臓にだって手が届く!

 半歩踏み込んで下から突き上げるように相手の胸部を刺す。


「ぉっらああああッ!!」


 硬い感触を無視してブレイブソードが魔物の胸を貫通し、一瞬視界が利かなくなる程の魔素が傷口から吹き出す。

 ………死んだ、よな?

 意外な程アッサリ終わったな? 気合い入れて挑んだ分、なんか拍子抜けだ。

 だが、世の中そんなに上手くいくわけはない。とかく神様が俺を嫌っているコッチの世界では…。


「はっ、なるほど……な…」


 ハッとなって慌てて剣を魔物の体から抜いて距離を取る。

 死んでない!? 魔素で形作られた魔物の肉体も、人間の体と同じ急所が存在する。肉体を構成している核である魔石のある心臓部、そして頭部。どちらをやられても肉体維持が利かなくなって体が四散する筈。

 なのに…なんで!?


「くっくっく…ただの子供でも、ましてや蛮勇という訳ではないらしい。軽んじた事を謝罪しておこう。まさか、その見た目で勇者以上だとは流石に予想ができなかったのでな?」


 体を起き上がらせながら魔物の視線が俺から全く離れようとしない。さっきまでの道端の石を見るようなものとは違う、コレは敵を見る目だ!

 魔物から油断が消えた。さっきみたいな不意打ちはもう使えねえな。

 にしても、何でコイツ普通に生きてんだよチキショウ……ん? 足の傷消えてね? 刺し貫いた胸の傷に視線を向けると、シュルシュルと時間が巻き戻るように傷口が消えていく。

 回復魔法…違う、魔法を唱えた様子はない。そもそもそれだと心臓ぶち抜かれて死んだ後に回復魔法を使った事になる。

 まさかとは思うが、不死身とかじゃねえよな? だったら倒せねえぞコイツ…。


「……」

「何故私が生きているのか分からないと言ったところか? 答えは【自己再生】のスキルだよ。魔素体で得たスキルだが、肉の体でもこのスキルが使えれば、勇者に後れをとる事はなかったんだがな? 格下相手でも油断は命取りになる良い勉強にはなったか」

「随分簡単にネタばらしすんじゃねえか? べらべらテメエの能力語る奴はあっさり死ぬと相場が決まってるぜ」

「フッフフ、出来るならやってみると良い。私も私を殺す方法に興味がある」


 無防備に両手を広げて、俺の攻撃を待つ。

 油断は命取りになるって勉強したんちゃうんかい! ツッコミが口から出そうになるが、魔物の目を見て慌てて腹の奥に引っ込む。

 油断している奴のする目じゃない。こりゃ、下手に突っ込んだら何が待ってるか分かんねえな。とは言え、ウダウダ考えて手と足が出なくなったらそれこそだ…。

 行動に迷うぐらいなら乗ってみるか。

 ブレイブソードを握り直す。

 1、2の…呼吸を止めて…3!!

 一足飛びで相手の懐まで間合いを詰める。が、魔物の右手が反応して振りに入ってる、けど、このスピードなら対応できる! 上の方から突き下ろされる拳をステップでかわし、その腕を足場にして跳躍、相手の首を跳ね飛ばす!

 ……いや、首が落ちない!? 切り離された首と胴体の間に糸のように魔素が集まって、即座に傷を消す。

 ちょっと待てよ!? 心臓ぶち抜いても、首を落としても死なないって…もしかしてコイツ、自己再生が有効になっている限り、肉体に死亡判定が入らないのか!?

 勝ちを焦って視野が狭くなっていた。だから、直前まで気付かなかったんだ。魔物の左手に展開された魔法陣に…。


「残念だったな? 【エクスプロード】」


 魔物自身をも巻き込んで、凄まじい爆発が起こる。


「ぐ…なろぅ…!!」


 爆発の熱ダメージは無効に出来るけど衝撃は消せない。爆風で後方に吹っ飛ばされる。意識が飛びかける程の衝撃だったがここで気絶したら死ぬ、と気合いで意識を繋ぐ。10m近く飛ばされたところで減速と同時に猫のように空中で体を捻って着地。

 途端に、


「カカカッ!」


 目の前で黒い巨体が拳を振り被った。

 追撃―――! させるな!


「焼けろッ!!」


 振り被った魔物の拳が炎に包まれる。動きが一瞬鈍り、攻守が逆転した!

 畳み掛ける!

 炎に包まれている拳を正面から串刺しにする。


「ぐぁッ!!」

「ちゃんと痛みは有るようで安心したぜ!!」


 反対の腕の手の平が微かに光った、同じ手は食わねえっつうの!

 相手の頭を焼いて気を逸らし、その隙に剣を拳から引き抜き、体を回転させた勢いのままもう片方の手首から先を落とす。が、やっぱり手首が落ちるより早く魔素が繋ぎ直してしまう。

 自己再生が優秀過ぎる! 部位欠損は狙えない。片腕潰せれば大分楽なんだが…。

 こういう時は、漫画で良くあるアレだ! 再生するより早く殺すって奴!!

 剣を振る! 魔物の腕、足、体、頭! 反撃されてもスピードに任せて半分は回避して半分は受け流す。

 相手をミンチにでもするつもりで体中を滅多切りにする。

 んで、最後に―――、


「焼け、爆ぜろッ!!」


 相手の傷から体内に炎を捻じ込むつもりで、全身を今俺が作り出せる最高の火力で焼く。

 ……アレ? 思ったほど火力が出ない。俺のイメージした炎の40%くらいしか火力が出てない。何でだ? 俺の集中が切れてんのか? それとも体力が切れて来てんのか?


「詠唱も無しに炎を出すとは…魔法ではなくスキルによるものかな?」


 まるで、生きているのが当たり前のように黒い巨人はそこに立っていた。

 全身に傷を負い、炎で焼かれた事で、血の代わりに噴き出した魔素がまるでオーラのように体を包んでいる。が、それも1秒もかからず収まり、全身の傷は即座に自己再生のスキルによって消える。

 あんだけ攻めてもダメージが通らないってか…。

 それに、もう1つ絶望的な事実に気付いてしまった。

――― 炎熱のダメージが薄い。

 耐性魔法であるならばブレイブソードが消してくれる、にも関わらずこのダメージの低さ…スキルか、全く別の何かかは分からないが、この魔物、多分ニュートラルな状態で炎熱耐性を持ってる。

 まあ、俺のような無効じゃないだけマシか。多少でもダメージは通るし……。でも、まいったな。決め手に出来ないなら、もう魔炎は目くらまし程度にしか使えない。

 近接攻撃は自己再生で即時回復される……。

 やべえぞ、コレ……。


 この戦い、詰んだかもしれない―――…!


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