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8-33 絶対強者

 アークが1人で前に出ると、大気が震える程の咆哮が響いた。


『ゥガアアアアアアアアアアッ!!!』


 エグゼルドが、地面がひび割れる程の力で自身の頭を叩きつける。

 混乱したのか、暴走したのか…? いや、違う。エグゼルドは、エスぺリアに施された支配を痛みと頭部への衝撃を持って解除したのだ。


『あ…か…!? ―――≪赤≫あああああああッ!!!!』


 ドロドロとした溶岩のような殺意を紫色の瞳に宿らせて、真っ直ぐにアークだけを見据える。


『ぉおおおおお! 小僧!! 忌々しい≪赤≫よ! 殺してやるっ、殺してやるぞっ!!!』

「オメエも懲りねえ野郎だな? どうやって復活したのかは知らねえが、何度地獄から這い出て来ようが、何度だって地獄の底まで蹴り落としてやるよ!」


 エグゼルドが、誰よりも早くアークの首を取ろうと、翼を畳んで4本の足に力を溜める。

 しかし、それを解き放ってダッシュしようとした瞬間、目の前に≪青≫の背中が舞い降りる。


『邪魔だ、≪青≫よ!!! 貴様なんぞに用はない、退けッ!!!』

「はぁ? ≪赤≫は俺の獲物なんですけどー? 爬虫類の分際で、何言ってんの? 人間様舐めてんの? そっちこそ邪魔だから退いててくんない?」


 今にも潰し合いを始めそうな、黒い竜と異形の姿の≪青≫。

 勝手に殺し合うならアークとしては、馬鹿2人……馬鹿1人と1匹を放置して、他を先に相手しようと思うのだが…。


「なあ? 喧嘩すんなら、そっちはそっちで勝手に決着つけてくんねえ? 出来れば世界の果てとか被害の出ない場所で、そして出来れば相討ちで両方死ね」


 無視して無言のまま他に攻撃を開始しても良かったが、その途端に後ろから1人と1匹が襲ってきたら鬱陶しいので、向かって来るのか来ないのかをハッキリさせておく。

 とは言っても、素直に水野とエグゼルドが「じゃあ決着付けたらぁ!」とどこかに飛び去る事を期待する程アークは楽天的ではなく、「こう言えばさっさとかかって来るかなぁ」程度の気持ちで言っただけだ。

 そしてその予想した通りに1人と1匹は青筋を立てて怒り、お互いの存在の事を忘れてアークに突っ込む。


「はっ、上等じゃねえの!? またズタボロにして地面に転がしてやるよっ!!」

『その首、我が食らってやるっ!!!!!』


 お互いの事を意識してない割に、アークを挟み込む形で向かって来る。


(他の奴等は、動かないな…?)


 意識の片隅で、待機の姿勢のまま動かないエスぺリア達を確認する。

 援護をしてくる様子はない。罠を仕掛けているような事も無い。完全に全員が傍観者に徹している。

 どうやら、アークの相手は水野とエグゼルドのコンビ(?)で十分だと判断したらしい。ただ、“阿久津良太”だけが、余裕の笑みを消した真剣な顔でアークの事を観察している。が、やはり動く様子はない。


(とりあえず、目の前の水野とエグゼルドに集中だな)


 意識が戦闘モードに切り替わるその一瞬にも満たない時間を使い、アークは自身の奥底から聞こえる声に耳を澄ます。

 意識の深い場所……自分では意識しても届かない奥底から響く《赤》の声。アークの意識を飲み込もうする荒波の如き破壊衝動の濁流。

 “1人”では抗えないその破壊衝動を、意識の奥底に押し戻して《赤》の力だけを引きずり出す。

 心の中でカチンッと歯車が噛み合って、今まで動いていなかった力が音も無く脈動する。

 アークの顔から表情が消える。


――― スイッチが入った


『ガルァああああああああッ!!』


 右から迫るエグゼルドの巨大な牙。アークの小さな体など、一呑みしてしまいそうなその(あぎと)にヴァーミリオンを振って、深紅の刀身を滑り込ませる。


『ぬッ―――!?』


 ガチンっと口を閉じ、牙が噛み合わさってヴァーミリオンを挟んで止める。

 言葉には出さなかったが、アークは心の中でエグゼルドに称賛の声を送った。


(上手い)


 だが、エグゼルドとしては慌てて…死に物狂いで口を閉じる以外の選択肢はなかった。何故なら、今ヴァーミリオンを振り切られていたら、間違いなく―――頭を口ごと横に割られて、死んでいたのだから―――…。

 結果として、エグゼルドがアークの右腕と、握られたヴァーミリオンを封じている形になった。

 それに喜んだのは、勿論水野だ。

 元々自分が負ける事なんて微塵も考えていなかった水野だが、アークの片腕と神器が使えなくなった事で、勝ちは完全に自分の物になったと確信した。

 邪魔な爬虫類を出し抜いて、≪赤≫の首を落とす。すぐそこにある未来に、笑いが堪え切れなかった。


「あは……ははははははははっ!!!」


 笑いながら、竜と半身で向き合い、自分に背を向けている子供のようなその首目掛けて氷の剣(インディゴ)を振る。

 その姿は、狂人か、狂戦士(バーサーカー)その物。

 だが、水野浩也は気付いていない。アークが肩越しに自分を見ている事に―――。

 

 氷の剣が空振る。


「―――ぁ?」


 右腕を動かさないまま、頭を倒して姿勢を低くする事で剣の軌道から逸れる。しかし、アークの動きは回避だけでは終わらない。

 空いている左手を伸ばして水野の腕を―――【液体化】して物理的な力を透過してしまう異形化した手首を、まるで当たり前の事のように掴む。


「チッ」


 水野が鬱陶しそうに掴んでいる手を払おうとすると同時に、アークがヴァーミリオンを手放して動く。


「言い忘れた―――」


 掴んだままの水野の腕を手前に引きながら、少しだけ動いて背後を取る様に位置取りを変える。


「今回は、始めっから殺す気で行く」


 瞬間、水野の腕を捻る。


「が…ギっ!?」

 

 肉体の稼働領域を超えても更に腕を捩じって、骨を砕き、筋がブチブチと悲鳴をあげる。

 握っている腕から力が抜けたのを確認するや否や、軽く飛び上がって脇に足を当て、その蹴り出しの力で―――腕を引き千切る。

 反応しようにも、それを許さない展開の速さ―――本当に一瞬の出来事。

 まるで他人事のように、自分の体から離れた腕を見ながら、蹴りの力を受けて水野の体が吹き飛ぶ。


 力任せに引き千切った水野の腕は、【魔人化(デモナイズ)】が解けて普通の人間の物に戻り、グチャグチャな傷口から体温の抜けていない、暖かい血が流れ落ちる。

 その血に触れて【バーニングブラッド】を発動。

 腕の中に残っていた血液が熱量に変換され、千切れた腕が燃え出す。


「どけ」


 一言だけ呟いて、燃える腕をエグゼルドの横っ面に叩きつける。

 黒い竜の鱗(ドラゴンスケイル)に包まれたエグゼルドの頭。物理的な力も、炎熱も効かない最強の鎧に守られているその頭に、燃える腕がゴギッとめり込む。


『グベァ―――!!?』


 竜の顔が横に吹っ飛び、引っ張られて巨大な胴体が空中を舞う。

 衝撃で剥がれ落ちた黒い鱗が地面に散らばり、全力で噛み合わされていた牙が数本折れて地面に突き刺さる。

 一緒に吹っ飛びかけたヴァーミリオンだけを回収し、爆発的な燃焼力と引き換えに燃え尽きて黒い炭となった水野の腕を地面に捨てる。


 ヴァーミリオンを真っ直ぐエスぺリアに向ける。


「さっきの戦力差云々の話だが、勘違いするなよ?」

「…え?」

「アレは、“お前達に勝てない”と言ったんじゃない。“お前ら如きが何千匹居ようが、俺は倒せない”と言ったんだよ。少しは理解出来たか、間抜け共?」


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