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8-32 再会

 敵達が大人しくしているように睨みを利かせてから、白雪をポケットにそっと入れ、パンドラを抱き上げてガゼル達の元に戻る。


「連れ戻して来た」


 サラッと報告すると、ガゼルとフィリスが驚いているような、喜んでいるような、警戒しているような、なんとも形容しがたい顔をアークに向けた。


「お前、アークだよな…?」

「当たり前だろ。何言ってんの?」

「いや…なんか、突然強くなり過ぎじゃねえか?」

「そうか? 自分じゃ良く分からんけど、まあ…少しは強くなってんじゃない?」


 アークの“少し”を正座させて問い質したかったが、状況が状況なのでこの場は全員スルーする。


「私は、その…上手く言えないのですが、強さよりも、アーク様の雰囲気が少し変わったように思うのですが…」

「ああ、確かに」


 フィリスの見て来たアークと言う人物は、普段は見せない心の奥底に凄まじい熱量を抱えている、まさしく≪赤≫の継承者に相応しい炎のような人。

 今のアークはこうして話している時はいつも通りに思えるのだが、時々見せる無表情の時の雰囲気は…果てしなく続く空のような…波一つ無い大海原のような…人を超越した圧倒的な存在感。それなのに、近くに居ても息苦しさはなく、むしろ心地良さや安心感を与える、なんとも不思議な雰囲気なのだ。

 前の状態のアークを知らない真希だけがクエスチョンマークを浮かべて「そうなの?」と話を遮らない程度に会話に参加する。


「……それに関しては…まあ、否定はしねえけど…。つっても、今は“スイッチ”が入ってるってだけの話なんだよ」

「「「スイッチ?」」」


 アークの言った事の意味が分からず、全員が首を傾げる。

 それぞれが口を開いて問い返そうとすると、その前にパーカーのポケットがモソモソと動いて小さな頭が顔を出す。


「ぅうん……あれ?」


 背中の蝶のような羽を揺らしながら、ポケットから顔を出してキョロキョロと辺りを見回す。


「お、目覚ましたか白雪?」


 アークが声をかけると、ハッとなってポケットの中からポカンとした若干間抜け面で声の主を見上げる。


「ぇ? ………父様?」

「おう」


 3秒程たっぷりとアークの顔を凝視した後、突然爆発したように―――


「父様ーーーーーっ!!」


 体を喜びを表す黄色に光らせながら飛び上がり、いつも以上に力を込めてアークの顔に縋り着いて頬擦りする。


「父様っ、父様ーっ!!」

「はいはい、心配掛けてゴメンな」


 自分の顔に縋り着く小さな妖精を、手の平で覆うように優しく撫でる。アークの手の感触にポロポロと涙を流す。


「もう…もう! いったい何処にいってたんですのっ!!」

「その辺りの話は一段落ついてから纏めて話すよ」


 ポンポンっと背中を叩いてから、優しく白雪を引き離す。


「それで、俺の剣(ヴァーミリオン)知らねえか? どっかで落としたみたいなんだけど、誰か回収したりしてない?」

「はい、私が持っていますわ!」


 アークの手の中に、妖精のポケットに収納されていた片刃の深紅の剣を取り出す。

 受け取った剣を軽く振って調子を確かめる。

 その数度の素振りの動きでガゼルは気付いた。


(なんつうキレのある動きをしやがる…)


 元々アークの剣技は相当な物だった。

 見た目と年齢に似合わない、怪物染みた腕の小さな剣士。

 だが、今の剣は全く別物と言って良い。今まで出会った誰よりも早く、美しい剣と体捌き。ガゼル程の戦士であっても見惚れてしまうそれは、まさしく“剣の業”。

 見た者に「斬られてみたい」と思わせる程、心を捕らえて離さない力。


「おっし、大丈夫そうだ。サンキュー白雪」


 お礼を言われて、「えへへ」と顔を赤くしながら喜ぶ。


「さってと、それじゃあ―――」


 ヴァーミリオンを握り直し、待たせている敵達に向き直ると……アークの目の前にはルナが居た。

 突然近くに現れた仮面女に、皆がビックリしている中、アークだけがさも当たり前のような顔で応対する。


「あれ? 睨めっこしてたんじゃねえの?」

「遺憾ではあるが…あのまま睨み合いをしていても、おそらく今の私では奴を仕留められない」


 仮面の奥の瞳が、忌々しげに“阿久津良太”を見る。


「アレと戦ったのか?」


 アークの目に、殺意に近い闘士が浮かぶ。それほどまでに、敵への憎悪は深かった。


「戦ったと言える程の事もしていないがな…」

「で、その感想は?」

「ヤバい」

「分かりやすい感想、あざーッス」


 あまりにも端的な感想を言われて、思わず半笑いで返してしまった。それで気分を害してないかとチラッと盗み見ると、ルナはジッとアークの顔を見ていた。

 そして、他の人間には意味不明な事を聞いた。


「≪赤≫よ。お前、“原初(オリジン)”に至ったのか?」

「ああ、多分な。まだ試してないけど、多分やれる」

「そうか…。本来ならば止めるべきなのだろうが―――いや、良い。ともかく、気を付けろよ?」

「何をどう気を付ければ良いのか分かんねえけど、まあ、分かったと返事しておく」


 ≪赤≫と≪黒≫の継承者としての会話が終わり、改めて戦闘行動を中断して、アーク達の会話が終わるのを律義に待っていた(睨みを利かせて待たせていた)敵達に向き直る。


「待たせたな? そんじゃ、ちゃっちゃと再開しようか?」

「あらぁ、坊やってばぁ―――」


 両腕が潰されたピンク髪の女―――ではなかった。


「ババア、なんで体黒くなってんの? 焼いたの? 日焼けサロンに行ったの?」


 エスぺリアは人の姿ではなくなっていた。

 真っ黒な魔素で形作られた、女性らしい流線型のボディーラインの―――魔物の体。

 元のピンク髪の体は、ゴミのように地面に打ち捨てられピクリとも動かない。


 普通なら混乱と動揺に渦に呑まれて冷静さを失う事かもしれないが、アークには驚きも混乱も無い。

 何故なら、目の前と同じような姿の存在を見た事があったから。


――― 魔道皇帝アデス・ジン・エグリーズ


 ルディエを襲った自称皇帝が、まさに今のエスぺリアと同じだった。


(もしかして、あっちの巨人の方も、ただの魔物じゃなくて魔素体? とか言う状態になった元人間か? ……あれ? そういやあの巨人の声…もしかしてパンドラの腹をぶち抜いた大男か?)


 正体に勘付いた途端に、巨人へのヘイトが増す。


「黒くなったんじゃないのよぉ。この姿が、本来のす・が・た」


 先程は腕を潰されて余裕の仮面が剥がれ落ちていたが、魔素体となった事で精神的にも立ち直ったらしい。


「ねぇ坊やぁ? もしかしてぇ、すっこーしだけぇ強くなったからってぇ、この戦力差を相手にするつもりなのかなぁ?」


 敵の戦力は、魔物の体となったガランジャとエスぺリア、≪青≫の水野浩也、魔竜エグゼルド、いつの間にか炎の檻から脱出しているエメル、隻眼の男、そして―――阿久津良太。

 大国を30分で滅ぼせる程の過剰戦力。

 その戦力を見渡して、アークは冷静に答えを出す。


「そうだな。この戦力差は覆せないな」


 その言葉を聞いて、槍を支えにしてガゼルが立ち上がる。


「弱気になるな。俺だって、戦闘不能って訳じゃない。なんとか全員で協力して―――」


 真希がガゼルの体を支え、フィリスも「どこまでもアーク様と一緒です!」とヤル気を漲らせている……が、アークは冷めた視線と口調で返す。


「何言ってんだお前? 良いから座るなり横になるなりして静かにしとけよ。コイツ等は―――俺1人でやる」

「なっ…!? バカ野郎、早まるな―――」


 アークを制止しようとガゼルが手を伸ばすと、横合いからその腕を掴まれた。掴んで居るのは、褐色の細いルナの腕。


「良いから、奴に任せて置け」


 と掴んでいたガゼルの手を優しく押し返す。



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