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8-23 魔法使い達

「【ファイアピラー】」


 真希の唱えた魔法が発動し、子供の足元で炎が噴き上がる。

 子供…と言うよりはショタを傷付けるような事をするのは、真希の心情に反する行為であるが、目の前の少年はそんな事を気にする必要はない。

 何故なら―――


「ねえ、お姉さん? 本気出して良いんだよ?」


 何故なら、魔法が効かないから。

 小馬鹿にしたように、炎の中を歩いて出てくるリューゼには火傷1つない。それどころか、服にも焦げが見えない。


「そう? それじゃあ【バニシングレイ】」


 灰色の光が降り注ぎ、光に触れた木々や地面を消滅させる。

 リューゼは目の前の光に目を細めながらも歩みを止めず、空から絶えず差し込む消滅の光をスタスタと素通りする。


「60工程の超魔法でも無効……」


 先程からずっとこの調子だ。

 どんな属性、下位上位の魔法であろうと、リューゼに対しては全て効果が発揮されない。

 水野の使っていた【マジックキャンセル】とは別物。

 スキルの力だとすれば、完全な上位互換。下手すれば、上限なしに全ての魔法のダメージを無効にする超強力なスキルだ。


(うーん…とってもまずい…)


 真希の攻撃方法は魔法1つだ。通じなければ、ジ・エンド。

 今までも魔法に高い耐性を持つ相手や、水野のように一定以下の魔法の無効化する武器にも出会った事はある。

 だが、魔法を完全無効にする敵には出会った事がないし、そんなトンデモな相手が居るとは思ってもみなかった。

 一緒に居るフィリスも魔法特化な人間であろう事は間違いないので、戦いは絶望的過ぎて目眩がしそうだった。


「ほーら、行くよ!」


 ダンっとリューゼが跳ね上がる。明らかに人間離れした、子供らしからぬ超人的な身体能力。

 空中で不自然な加速をしながら真希に迫る。

 水野程のスピードはない、ちゃんと視覚では追えている。だが…普段の動かない固定砲台的な戦い方が癖になっていて、避ける選択肢が頭に浮かばない。

 いつもの戦いならば、敵の攻撃は【アースガルズ】で全て受ける事が出来る。だが、リューゼは魔法の効果を無効にしている。もし、それが自身のダメージだけでなく、触れた魔法全てに効果を発揮する場合、防御魔法が無意味になる。それを頭では理解しながらも、真希の体は反応しなかった。

 だから、代わりに後ろに居たフィリスが反応した。


「【フラッシュ】!」


 何の攻撃力もない、ただ閃光を振り撒くだけの魔法。

 攻撃魔法は意味がないのは真希が先に見せてくれていたので理解していた。だから、あえて相手の視界を潰す事だけを考えてチョイスした魔法。

 狙い通りに、目の前で突然焚かれた光にリューゼの視界は真っ白に塗り替えられ、焼き付いた光で視界が奪われる。

 その隙にフィリスはダッシュで後ろか真希の体を掴み、即座に魔法を唱える。


「【短距離転移魔法(ハーフポータル)】」


 2人がその場から消えると同時に、目標を見失って無茶苦茶に振るわれたリューゼの蹴りが通り過ぎる。


「ああ、くそっ! 目が……」


 ゴシゴシと目元を拭っているが、閃光で焼かれた視界はそう簡単には戻らない。

 そんなリューゼから少しだけ離れた場所に2人は転移していた。

 真希の腰を後ろから抱えるようにしていた手を離して、フィリスは一歩下がる。

 リューゼが暫く攻めて来ないのを確認してから、顔だけ振り向いて会釈程度に頭を下げる。


「ありがとう。また助けられちゃった」


 お礼を言われて、興味無い風を装ってプイッと顔を背けるが、やはり耳は赤くなっている。


「そ、それよりも、あの子供はどうやって倒すのだ? 魔法以外の攻撃手段はあるのか?」

「ない」


 淀みの無い即答。

 変に嘘を言われるよりはマシだが、正直フィリスはちょっとだけ泣きたい気分だった。


「……これからどうするんだ?」

「ショタを快楽に溺れさせて戦闘不能にする」

「………どこまでが冗談だ…?」

「全部」

「殴るぞ」

「ごめんなさい」


 漫才のようなやり取りをして、気分が落ち着いた真希は改めて戦い方を考える。

 あの子供の分かっている能力は魔法無効。あの変身した大男の仲間だとすると、何かしらの特別な攻撃能力を持って居そうな気もするが、今のところ余裕を見せているのか使って来る様子はない。

 本気で倒そうと思うなら、その余裕を見せている今がチャンスだ。


「エルフさんは近接戦闘は……ダメそうだよね?」

「多少杖術と体術の心得はあるが、あの身体能力を相手にどこまで通用するかは疑問だな? それとエルフさんではない、私はフィリスだ」

「うん。それじゃあフィリスちゃん」


(ちゃん付け……なのか)


 長命のエルフとしては、明らかに自分の方が圧倒的に年上なので、色々複雑な気分だった。


「奥の手使うから、ちょっとだけあのショタッ子を足止めしておいてくれる?」

「奥の手?」

「そう、奥の手。ガゼルもあの秘密にしてたドラゴンっぽい姿を見せて戦ってるんだもの。私だけ手札伏せたままなんてズルイでしょ?」


 そう言って少しだけ誇らしげに笑う。

 クイーン級の冒険者に期待される1番の要素は戦闘能力だ。だからこそ、戦いでの勝利はクイーン級の義務と言っても良い。

 その期待に答える事が出来そうで、真希は小さく笑う。


「……大丈夫なのか?」

「任せて」


 言いながら【楽園の知恵の実(エデンのリンゴ)】を裏表紙からペラペラと捲る。


「私も、一応クイーン級だからね? この肩書が伊達や酔狂じゃないって事を見せてあげる」


 手元の本の何も書かれていない白いページに手を置く。


「じゃあ、ショタッ子の相手暫く宜しくね?」


 視界不良から立ち直ったリューゼが、忌々しげにフィリスを見ていた。

 いちいち真希から気を逸らす必要もなく、完全にフィリスを狙っている。


「なんだよお前…! 雑魚の癖に邪魔すんなよ!?」


 子供とは思えない殺気を放ちながら、フィリスに向かって走る。

 対してフィリスは、攻撃魔法を使わずに足止めに徹する。


「【フリーズ】」


 水野が冷気を放ってやったように、地面を凍らせて機動力を奪う。

 凍った地面に足を踏み入れても、リューゼ自身が凍結する事はない。しかし、大きく踏み出した足がツルリと滑って盛大に転ぶ。


「ぁいたっ!!」


 普通にすっ転んだので思わず「子供か!?」とツッコミを入れそうになった。


「【チェーンジェイル】」


 転んだままのリューゼを、地面から生えた鎖が結び合い、絡め合い牢のように取り囲む。


「それ、無駄だから!」


 転ばないように足をプルプルする程ふんばりながら立ち上がり、自分を捕らえている鎖を草でも抜くように軽々と抜いて引き千切る。


「ああっ! もう、邪魔くさいな!」


 癇癪を起こしたように叫んで、地団太を踏む。途端に、凍っていた地面がひび割れて、魔法の効果がかき消された。

 そして透かさず距離を詰めて来る。

 転移魔法で逃げる…のは後ろに真希が居るので出来ない。先程のように視界を潰そうと魔法を唱えようとした瞬間。


「“喋るな”」


 一瞬、1秒にも満たないその短い時間、フィリスは“声の出し方”を忘れて魔法を唱えられなかった。


(なんだ、今の…!?)


 その一瞬で一気に距離が詰まる。

 魔法を口にする時間は無い。受けるにもタイミングを逃している。

 来るべき痛みに歯を食いしばった瞬間、後ろで真希が魔法を唱える。


「【チェンジポインタ】」


 真希とフィリスの位置が入れ替わり、リューゼの拳の前に真希が放り出される。

 だが、それも計算通り。

 魔法を唱えるような余裕はない。だが、何も出来ない訳じゃない。

 例えば―――破いた【エデンのリンゴ】の1ページを使って能力を発動するとか…。


(ショタを傷付けるのは嫌だけど、それを看病する事で愛が芽生えるかもしれない!)


 バカな事を考えながら、向かって来る拳の前に軽く丸めたページを投げる。

 「無駄な抵抗を!」とでも言うようにリューゼが笑い、構わず拳を振り抜いてその紙を叩き落と―――せなかった。


「ぁぐぅっ!!?」


 丸めたページに触れた途端、その中に刻まれていた“破壊”の術式が勝手に発動して、小さな子供の体を内側から破壊する。

 体中の血管が弾け、骨が折れ、内臓が拉げる。

 人形のように手足を投げ出して地面を転がり、まともに呼吸も出来なくなって喉が空気を求めて喘ぐ。


「な……なんで……魔法…が…」

「今のは魔法じゃないよ」


 【エデンのリンゴ】の裏ワザとも言うべき使い方。

 1ページ丸ごと消費する事で、魔法としてではなく、本来魔法に込められるべき効果だけを直接発動させるスキルのような使用法。


「くっ…そぅ……」


 意識を保てなくなってガクッと頭が地面に落ちる。

 殺すつもりはなかったが、完全に殺すところまで行ってしまったようだ。

 とは言え、この少年が本当に神器狩りだとすれば、クイーン級としては殺す方が正しいのだが。


「…ショタを殺すのはやっぱり気分が悪い……」



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