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8-22 継承者達

 風に乗って氷の粒が周囲に舞う。

 小さな氷の一粒一粒が鋭い刃となり、ルナに襲いかかる。


「全身から血ぃ噴き出しなよ!」


 心底楽しそうに、水野が更に冷気を周囲に撒いて、追い打ちの為の氷の刃を量産する。


「≪青≫いの…ウルサイからもう少し静かに戦ってよ」


 いちいち相手を挑発するような事を言いながら戦う水野に、うんざりしたらしく、かぐやは空気の流れを操作しながら文句を言う。

 それに対し、気を悪くした風も無く、むしろその反応が楽しかったのか更に機嫌を良くして喋る・


「何言ってるんだ≪白≫のお嬢ちゃん? 魔神の継承者が潰し合ってるんだぜ? もう少し楽しく行こうぜ」

「ばっかばかしい…付き合いきれないわね」

「はっ、釣れないねぇ」


 ≪青≫と≪白≫の表面上だけの取り繕ったような会話を聞きながら、ルナは【空間転移】でガゼルや真希と距離を取る様に移動する。

 ルナも含めた継承者全員に言える事だが、基本的に広範囲の大規模攻撃が得意だ。対個人でも戦闘能力は発揮されるが、威力を追求した戦い方をすると必然的にそう言う戦い方になる。ルナの地形操作しかり、アークの炎しかり、そこは全員の共通点と言える。

 ルナはともかく、相手にしている2人が周りを気にして威力を抑えるような事をする筈もないので、他を巻き込まないように距離をとっているのだ。


「2人揃って、呑気に話している余裕があるのか?」


 追って来る2人を重力で捕らえる。


「ぐっ…!」「くぅ…」


 高速で動いて居た2人の足が止まり、地面に膝をつく。


「はっはぁ、良いねえ≪黒≫いの! アイツ等がやたら警戒していたら、どの程度かと思ったが、やるじゃねえの?」


 水野の言葉には答えず、無言のまま先程ガランジャにしたように【地形操作】で土を操り、2人の四肢を狙う。


「甘いね!」


 転移で重力の拘束を抜けて、目の前に水野が現れる。

 すでに氷の剣を振りに入っているが、ルナは避けない。変に避けようとすると、重力に縛られながらも、周囲の土を風で吹き飛ばしてルナの攻撃を回避している≪白≫が、何をして来るか分からないからだ。

 それに―――


「お前がな?」


――― 避ける必要すらない。


 手の甲で氷の剣を受け止める。

 【肉体硬化】のスキルを持つルナは、自分の体をアダマンタイトやらヒヒイロカネの領域まで硬くする事が出来る。ただ、全身を硬くすると関節が動かなくなるので、硬化させるのは攻撃を受ける部位だけ…と言うのが能力を使う上でのコツだ。


「え…?」


 正面から生身で剣を受け止められた事に動揺し、瞬間水野の動きが止まる。

 ルナはその隙を逃さない。

 心臓を抜くつもりで手刀を繰り出す。

 硬度を限界まで上げたルナの手。自分の手で有る為、武器を振るよりも格段に速く、立ち回りの際の幅も広い。そして何より、継承者の怪物染みた身体能力で振り回される“それ”は並みの武器では相手にならない程の威力を出す。


「しっ―――!」


 殺すことへの迷いは無い。

 相手が自分と同じ継承者であるのなら尚の事だ。

 むしろ、魔神の強さを知っているからこそ、その力を世界に害為す存在にする訳には行かない、と言う使命感さえある。

 水野の反応は無い。


(攻撃を頭が認識するよりも早くトドメを刺す!)


 が、その攻撃が届くよりも早く横槍が入った。

 飛んで来たのは枯れて落ちた、細く尖った木の枝。枝と言っても人の腕程の太さで、長さも1m以上ある。その枝が、砲弾のような速度でルナの脳天目掛けて飛んでくる。

 やった犯人は考えるまでもない。

 視線の端で、這うように重力の拘束から抜けた≪白≫の姿が映る。アレが、風に乗せて枝を撃ち出して来たのだろう。

 手前の地面を操作し壁にする。バキャっと軽い音をたてて枝が折れる。

 そして、枝に気を取られた隙に水野が転移で距離をとっていた。

 逃げられた事を少しだけ残念に思いながら、≪白≫の能力を上方修正する。


(撃ち出しが速い…。あの速度なら、【肉体硬化】無しで受けたら体を貫通しそうだな)

 

 弾は石でも枝でも、そこら辺に転がっている物で良い上に、風の通る場所があるならどこからでも撃ち出せるとなると、多少なりとも警戒が必要だ。

 とは言え、物理的な物を飛ばして来るだけならば、重力で叩き落とす力技が通用するので、それ程脅威は感じていない。


 ≪青≫も≪白≫も自由になって、お互いノーダメージ。

 仕切り直しだ。


「はんっ、流石噂の≪黒≫。1対1(サシ)の勝負だったら、今ので死んでたぜ」


 死ぬ、とは言っても本当にそれで終わりな訳ではないのをルナは知っている。

 ガゼルから≪青≫との戦いの話は一通り聞いて居るので、奴の手持ちのスキルに【輪廻転生(リインカネーション)】が有るのも情報として頭に入っている。


「2人がかりで戦ってるのに抑えられてるなんて、屈辱だわ…」

「んな事言ったら、俺達は2人共刻印を使ってるのに、アッチは生身のまんまだぜ?」


 力量差は歴然だった。人数的なアドバンテージを持ってしても埋まらない程に。


「頭首の御坊ちゃん曰く、【魔人化(デモナイズ)】の上のモードも持ってるらしいって事だしなぁ。ちゃっちゃと本気出して貰いたいねえ?」

「その必要性を全く感じないのだが?」


 【魔人化】の上の状態になれる事を認める発言。

 だが、その事実以上に挑発された事で水野の顔から笑みが消える。


「はっ、はは…その余裕がどこまで続くのか見せて貰おうじゃねえの!!」


 血走った目でルナを見据えながら、地面を滑るようなダッシュで突っ込む。そして、その言葉を口にする。


「【魔人化(デモナイズ)】!!」



*  *  *



 1人の女が、静まり返ったエルフの里(アルフェイル)を軽い足取りで、ダンスのステップを踏むように歩く。

 特徴的なピンク色の髪を風に靡かせて歩く姿は、ランウェイのモデルのようであり、舞台の上のダンサーのようにも見える。


「あらぁん? 出遅れちゃったかぁしらぁ?」


 誰も居ない里を見回しながら女は呟く。

 口元に指を当てて小首を傾げて可愛い姿を作る。見てくれる人間は居ないが、自分が可愛いと再認識する為のナルシズムな行動なので全く問題ない。

 エスぺリア、それが彼女の名前。

 ガランジャやリューゼと同じく、頭首たる御方に忠誠を誓う1人。


「まったくもぅ~。私が雑用係みたいじゃなぁいぃ?」


 プンプンと、可愛らしく怒ってみる。

 だが、口にする程の怒りは本当は感じていない。思わぬところに頭首への御土産が転がっていたからだ。

 蔑むような薄ら笑いが思わず零れて、自分の背後をついて来ていた真っ黒な甲冑騎士のような魔物が引き摺っている物を見る。


 金色の髪を藍色のリボンで結んだ、作り物のような綺麗な顔をしたメイド。お腹の部分に綺麗な穴が空き、グロテスクな傷口が露出している。

 そして魔物のもう片方の手には、意識を失った緑色の髪の妖精の子供。


「≪赤≫の従者ならぁ、多少は役に立つわよねぇ?」


 小悪魔…いや、悪魔のような見た者を怯えさせる笑顔でクスクスと笑う。

 ひとしきり笑い終わると、両手を広げて演説をするように声を張り上げる。


「さあ、皆ぁ! 狩りのぉ時間よぉ!!」


 エスぺリアの声に呼ばれて、影の中からウゾウゾと何かが蠢き這い出す。木の影から、エスぺリア自身の影から、立てられた看板の影から数え切れない程の魔物がエルフの里の中に現れた。

 1匹残らず、今すぐにでも獲物を探しに飛び出し、サーチ&デストロイで手当たり次第生き物をグチャグチャにしたい! と血に飢えた目で荒い息を吐いている。


「狙いはぁ、森の中に散ったぁ亜人達よぉん。さあ、行きなさぁい! 1匹もぉ逃がしちゃダメよぉ!」


 魔物が森の中に一斉に四方に散って飛び出す。

 森の中に逃げた亜人を全て殺し尽くす為に。


「あっとぉ、忘れる所だったわぁん」


 懐から“それ”を取り出す。

 亜人達は逃げるのに相当慌てて居たのだろう。こんな物を忘れて行くなんて。


――― 魔竜の核


 チュッと心臓のように脈動する光を内包した宝珠に口付ける。


「さぁ、暴れ足りないでしょぉ?」


 エスぺリアの集めた魔素が核の中に注ぎ込まれる。

 核の中の光が大きくなり、手の平から跳ね上がって空中で黒い魔素に包まれる。


「蘇りなさぁい、魔竜エグゼルド!!」


 魔素が竜の形になり、霧のように不確かな魔素が物質として変換される。

 雄々しい角を、巨大な翼を、城壁でさえ一薙ぎで壊しそうな尻尾を、竜族の証である漆黒の鱗を。


『ガアアアアァァァァァァァァッ!!!!!』


 黒き魔竜は、森に響き渡る咆哮と共に再臨した―――…。



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