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8-21 それぞれの戦いを

「どうする? 連中このまま襲って来るかな?」


 分かり切った事を一応確認の為に聞いてみると、女性陣が一斉に…。


「「「当たり前だろう」」」

「…だよなぁ」


 ウンザリして溜息を吐いてみても、気持ちとテンションは落ちたまま持ち直す気配がない。

 敵は3人。

 魔物の体となったガランジャ。

 能力、実力不明の神器狩りの少年リューゼ。

 ≪白≫の継承者である秋峰かぐや。


「おいおい、何俺が居ねえ間にパーティー始めちゃってんの?」


 と、木の陰からヒョッコリ出てくる水野。

 敵1人追加。

 ≪青≫の継承者、水野浩也。


「チッ…おいでかいの! 魔素の体で一層無駄にでかくなってんだから邪魔だ! 隅っこに居ろや」

「フン、貴様こそ頭首から危ない事はしないようにと言われているだろう。戦いは我等に任せて後ろに下がって居ろ」

「ふざけんなっ! あの爬虫類にはこの前痛い目に合わされてるんだぞ!? あの仮面の女にも蹴り一発分キッチリ返さねえと気が済まねえ」

「ちっせぇ男だな…」


 怒りのボルテージが上がり過ぎて、リューゼの呆れたようなツッコミも耳に入らない。

 そんな内輪揉めを勝手にやっている間に、ガゼル達は軽く作戦会議をしておく


「どう戦う?」

「あのショタッ子は私のハーレムに加える」

「うるさい黙れ。奴等の中で1番脅威度が高いのは、あの魔物の体になった男だ」

「そう言う事なら、あの黒巨人は俺が相手をする。さっきも戦ってたし、あっちも俺を狙ってるようだしな?」


 今も内輪揉め(実際は水野が勝手に絡んでいるだけ)の最中だと言うのに、ガランジャの視線はガゼルだけを捕らえている。

 肉の体から、魔素の体に変わってどれくらい能力が上がっているのかは分からないが、ルナの重力の拘束を容易く抜けたのだから、軽く倍以上と考えた方が良いだろう。

 正直生身の状態でも十分強かったのに、更に強くなったとなると、近接攻撃を対処出来る人間でなければ苦しい。となれば、戦えるのはルナかガゼルだ。

 真希は防御魔法が破られる可能性が万に1つ有り得るので、相手をするのは危険過ぎる。

 フィリスがあのレベルの敵と対峙するのは自殺行為なので選択肢にすら入っていない。


「では、魔神憑きの2人は私が相手をする」


 なんの迷いも無くルナが言う。臆する事も無く、緊張した風も無い。


「大丈夫か? あの2人、相当強いぞ?」

「それは私のセリフだ。大体、私の肩書はキング級だぞ? 負けるような事があれば、世界中が不安になる」


 ブレないその姿に「そりゃそうだ」と苦笑してしまう。

 そしてその横で、「とすると、私の相手はショタか…グへへ」と危ない笑いを浮かべる真希。今にも口から涎でも垂らしそうな笑顔は、完全にキチ●イのそれだった。


「…あれは、大丈夫なのか?」

「まあ、あれでもクイーン級だし……一応世界最高の魔法使いだし……一応な、一応」


 不安になって何度も念押ししてしまった。

 しかし、ルナにしてもガゼルにしても、戦力が足りない状況で1人使い物にならないのは困る。かと言って、自分達にも面倒を見る余裕はない。


「「アレの世話は任せた」」

「…私か!?」


 だから、フィリスに丸投げした。

 コチラの戦い方が決まったところで、タイミング良く相手の内輪揉めも終わったようで、一瞬場が静かになる。

 睨み合ったのは1秒。

 次の瞬間には、黒い巨体が飛び出す。


――― 速い!


 などと言う言葉では片付けられない程、その速度は圧倒的だった。

 踏み出した一歩が地面を割り、音速を超えた加速が周囲に衝撃波(ソニックブーム)を撒き散らす。


「―――は?」


 ガゼルの―――竜人の動体視力を持ってしても、反応が遅れた。

 巨人の手には黒い大剣…アシュラナイトと同じ、魔素で武器を作り出す能力。刃渡り4mのクレイモア、凄まじいリーチと攻撃力に加え、恐るべき速度。

 一瞬の反応の遅れだが、その一瞬で刃は目の前だ。

 

(殺られる!?)


 自分の死のイメージが思考を満たそうとした直前、テンガロンハットの上から頭をガシッと掴まれて、お辞儀をするように下に押さえつけられる。


「伏せろ!」


 今の速度に唯一反応出来ていたルナが、反応出来ていなかったガゼルを守った。

 剣が何にも触れずに素通りし、竜巻のような剣風がガゼルとルナの体を煽る。


「助かった」

「相手を過小評価するな、死にたくないなら本気で戦え!」


 頭から手を離して、水野とかぐやと改めて対峙するルナに、心の中で「ごもっとも」と返して気を引き締める。

 ルナが助けてくれたのは、アッチの戦闘が開始される前だったからだ。次はない。

 出来るだけ人には見せたくないからと、真希の前では使わなかったが、もうそんな事を言っていられない。

 目の前の巨人は、ガゼルの持ち得る竜人としての能力の全てを出さなければ倒せない相手だ。出し惜しみは死に繋がる。

 テンガロンハットとコートを脱ぐ。


「【竜人化(ドラゴライズ)】」


 頭には2本の角。片方は変に折れてしまっているが、紛れもない竜種の角だ。

 背には蝙蝠のような羽。腰の辺りからニョロンと生える尻尾。

 そして、全身に広がる竜の鱗(ドラゴンスケイル)


「ようやく、そちらも真なる姿を見せたか?」


 剣を構え直し、少し嬉しそうに笑う。


「アンタは、こっちも全力出さねえとヤバい相手らしいからな」


 言いながら、先程投げた槍を手元に呼び戻す。

 ガゼルの槍を作るのに使われた素材は、自身の角だ。そのせいか、槍は手元に有っても無くても、ガゼルの意識が通す事で自由に動かす事が出来る。


「ふっ、それで良い。それでこそ、殺し甲斐が有る!!」


 振るわれる化物染みて巨大な剣。

 速く、硬く、重い一撃。食らえば、竜の鱗の防御を持ってしても致命傷を貰いかねない。だから、翼を羽ばたかせて横振りの剣を空中に飛び上がりながら、アクロバットな軌道で避ける。

 常に集中していないと、ガランジャの剣の振りに意識が置いて行かれそうだった。


「良い動きだ!」


 褒めているのか、自身が楽しんでいるだけなのか分からないような口調。

 空いて居た手の中に短剣を生み出して、空中を翔けるガゼルを迎え撃つ。短剣とは言っても、それはあくまで5m超のガランジャにとってであって、普通に見れば優に槍以上の長さだ。


「チッ」


 懐まで一気に突っ込んでやろうと思っていたガゼルだが、中途半端な距離で足を止めざるを得なかった。

 変に突っ込むと、近過ぎて短剣の動きが見えない。かと言って、離れ過ぎると大剣を自由に振られ過ぎる。距離をとって仕切り直しても良いが、ガランジャの音速を超えた突進からの剣戟を避けるのはシンドイので、出来ればやりたくない。

 突っ込めないし、離れられない。嫌な状況だった。



 そんなガゼルを見て、真希は少しだけトリップしていた頭が冷静になった。


「あの姿は、なんなんだ?」


 ガゼルが何かしら奥の手を隠しているのは知っていたが、まさかあんな変身を隠していたなんて予想外だった。


「奴は竜人(ドラゴノイド)だ」


 世話係を仰せつかっているフィリスが、律義に説明役に回る。


「ドラゴ…? ドラゴン?」

「竜人だ。竜と人の混血の亜人」

「ほうほう」


 今さらながら、ガゼルの<竜帝の牙(ドラゴンファング)>と言う通り名が何処から来た物なのか理解した。

 ガゼルがあの姿を人間には隠しているのを知っているフィリスが、少しだけ気を使って聞いてみる。


「……あの姿をどう思う?」

「どう、とは?」

「…恐いとか、醜いとか」

「いや別に。むしろ変身ヒーローみたいで格好良くて、好感度があがった」


 真希は特に特撮好きではないが、そう言うロマンは理解しているつもりだ。


「ふむ、そうか…」


 亜人に対して身構えたり、色眼鏡で見るような事もない。

 「少しだけアーク様と似ているかもしれないな」と密かに笑ってしまった。


「ガゼルの話はともかく―――コチラも始めようか?」


 目の前には、2人を見下す笑いを浮かべた小さな子供。


「ねえねえお姉さん達? ちょっと死んでくれない?」

「ふざけるな」

「死ぬのはゴメンだけど、代わりに貴方を天国へと連れて行ってあげましょう」

「はぁ? 何言ってんの?」

「明日の朝には、『お、お姉ちゃん…また白いのが出ちゃうよう』と泣きながら快感に酔い痴れている事でしょう」


 若干……いや、かなり血走った目をしながら静かに語る真希の姿に、リューゼは意味も分からず冷や汗を流した。



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