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8-20 魔素の体

「なるほど、つまり…≪赤≫が姿を消して、その形跡を追っている最中に亜人を殺して回っていた≪青≫に出会ったと、こう言う事で良いのか?」


 ガゼルの所々端折った1分間の説明を、ルナが5秒に纏める。


「ま、平たく言えばそう言う話だ」


(………≪赤≫はやはり姿を消していたか)


 アークが居なくなった事に関して、ルナの感想はそれだけだ。

 残念だとも悲しいとも嬉しいとも、思う事はない。

 世界のどこに行っても、≪赤≫を感じる事が出来なかった。だから、何かあったのだろうとは思っていた。そして、それが当たっていたと言うだけだ。


「……あの武器男はなんで、ここに居るのだ?」


 自分の能力で四肢を潰して、地面に張り付けにしているガランジャを見る。

 ガゼルは答えに迷う。何故なら、自分もどうしてあの男がここに居るのかは知らないから。


「本人に聞いて…」

「ふむ…、知らんと言う事か」


 無言で頷く。


「そちらの事情は理解した」

「で、これからどうするつもりよ?」

「あの男から情報を取りたいところだが……」


 全員の視線がガランジャに向く。

 四肢を潰されてなお、目力が衰えていない。むしろ、絶対に屈しない的な手負いの獣の如き目をしている。


「あれは情報吐かないんじゃないか?」

「それならそれで、さっさと殺す。奴にしても≪青≫にしても、変に生かした置いても危険なだけだ」

「それに関しては俺も同感だな」


 フィリスも2人の決定に文句はない。

 真希だけが、話の中の≪青≫と言うのが水野を指しているのだと察して、同郷の人間を殺す話をしているのだと、少しだけ顔を曇らせる。


「くっくっははははっはっは!」


 一瞬誰が笑ったのか分からなかった。

 野太い喉の奥を絞ったような男の声―――ガランジャだった。


「何がおかしい?」

「可笑しいさ。貴様達の愚かさがな」

「何?」

「お前達はもう詰んでいる、と言っている!」


 重力で地面に縛り付けられている姿で何を言っているのか? と全員が思った次の瞬間、周囲を雷光が走り抜けて、揺らめく光が結ばれて巨大な鳥籠となってガゼル達を捕らえる。


「雷の檻!?」


 フィリスが慌てながら驚いた声をあげる。

 しかし残りの3人は修羅場を潜って来た経験値の違いか、状況を認識すると同時にそれぞれが行動を起こす。

 ルナは地形を弄って地面を持ち上げ、絡み合うように空間を走る雷を遮るように土の柱を数本立てて檻を即座に解除する。

 真希は追撃に備えて全員に高位の防御魔法をかける。

 そしてガゼルは、ガランジャに槍を投擲。容赦はない。完全に殺す為だけに投げられた音速を超えた槍。

 だが、届く前に突然吹いた突風に煽られて狙いが大きく逸れ、近くの木の幹を貫通して地面に落ちる。


「今の風は…」


 不自然過ぎるタイミング。明らかに自然の風ではない。

 雷の檻も、槍を逸らした風も、ガランジャが何かした様子はなかった。だが、吹き飛ばされた水野も、使えるのは水と冷気だけ。

 一瞬思考が迷子になりかけて、つい最近風使いにエンカウントしていた事を思い出す。

 そんな思考を、ルナの声が断ち切った。


「気を付けろ、来るぞ」

「何が…?」

「決まっている―――」


 羽のように、フワッとした動きで少女が空から下りてくる。

 黒い髪に黒い瞳の純正日本人の、鹿のようなしなやかな肢体の少女。そして何より、その全身には白い刻印を浮かび上がらせた―――秋峰かぐやだった。


「≪白≫だ」

「あの子。やっぱり、この前の子か…」


(この風使いの子…アークが随分気にしてたっけ…。でも結局どう言う関係だ? 別れた女とかか?)

(≪白≫か。≪赤≫の奴が、幼馴染とか言っていたが……中身の方の話しだろうな)


 ガゼルがアークと目の前の風使いの関係を気にして、若干対応に迷うのに対して、ルナは迷わない。必要なら殺してでも止めるし、話して分かるようならそれで済ませる。相手が自分の親兄弟だろうが、他の継承者の大切な人であろうと、自分がやるべき事は変わらない。


「≪白≫いの。邪魔をするな」


 真正面から向き合って、恫喝するつもりで言葉を叩きつける。


「嫌よ」


 迷う事無く即答だった。自分のやっている事が間違いだとは思っていない、そう言う声色だ。

 だが、迷いが無さ過ぎて不自然だとルナは感じる。感情の揺らぎが見えず、まるで人形でも相手にしているような気分だ。


「おっさん何してるのさ?」


 場違いな子供の声が辺りに響き、初めてその存在に気付く。

 いつの間にか、地面に倒れているガランジャの傍で小さな男の子が、蟻を観察するようにしゃがんで、重力に戒められた大男の顔を覗き込んでいた。


「リューゼか。遅かったな?」

「それよりさっさとその姿どうにかしたら? そんな状態で頭首を御迎えするつもりなの?」

「それもそうだな。こんな姿では失礼にあたる」


 2人の間で話しが纏まったらしく、リューゼと呼ばれていた少年が立ち上がって離れる。


「あの子供は…!」

「え? 何、あの子供ルナの知り合い?」

「馬鹿者! あの子供が、私の追っていた神器狩りだ!」


 それを聞いて、フィリス達も思わず2度見してしまう。

 神器を持った強者を何人も屠って、その神器を持ち去った盗人であり殺人者。ルナが言っているのなら本当の事なのだろうが、その事実と、目の前に居る小さな子供の姿がどうしても結びつかない。

 そして、真希が誰にも聞こえないような声でブツブツと「ショタ、ショタだ。生意気でヤンチャ属性のショタだ…! でも短パンじゃないはマイナス点」と若干ヤバい目をしているのは、誰も気付かなかったので気にしないでおく。


 子供の離れたガランジャは、静かに目を閉じて呼吸を止める。

 次の瞬間―――グチャリっと音を立てて、大きな背中の肉を引き裂いて何かが空中に飛び出る。


――― 巨大な魔晶石


 魔晶石に黒い魔素が集まり空間を歪める。


「…なんだ!?」

「あれは…魔竜が復活した時と同じ……!?」


 歪んだ空間から突き出された丸太のような巨大で異形の腕。

 更に肩、頭、体、足が引っ張り出され、空間の歪みから完全な人型が“取り出される”。

 最後にガランジャの体から飛び出た魔晶石が心臓部に取り込まれ、魔素で作られた新しい体は完成した。


「どうよオッサン? 久々の魔素体は?」


 少年が問うと、5m近くある真っ黒な巨人は、異形な体に似合わず普通に答えを返す。


「悪くない。前に比べれば格段に魔素が定着し、魂の固定が安定している」

「それは何よりだね? 死ぬまでデータを取ってくれた“皇帝”に、初めて少しは感謝する気持ちになったよ」

「ふむ…アレはアレで利用価値があった。感謝をしても罰は当たらぬだろう」


 どこか楽しそうに話している、子供と魔素の巨人。

 だが、突然の変化……いや、変身を見せられたガゼル達は堪った物ではない。


「…おい、今の何だ……?」

「意識を魔晶石に移して、魔物の体に中身だけ入れ替えた…と言ったところか? 別の体を使うのが流行っているのか…?」

「何の話?」

「気にするな」



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