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8-19 更に乱入者

「ルナの奴……なんつうナイスタイミングで来やがる!」


 ガランジャのクレイモアの押し潰すような斬撃を槍でかわす。


「≪黒≫の女…現れたか」


 ガゼルを行かせず、かと言って逃がさない絶妙なラインで追い込みつつ、意識は突然幽霊のように現れた褐色の肌の女を注意する。

 ガランジャ自身もだが、他の仲間も何度か≪黒≫の女にはエンカウントしている。

 戦う選択肢をせずに始めから逃げる為だけに行動をしていたお陰で、今のところメンバーが1人も欠けていないが、それでも無傷で逃走出来た人間は1人もいない。

 4人の魔神の継承者の中で、≪黒≫だけは別格に注意が必要だ。

 継承者の魔神の力の開放には段階がある。

 1つ目がそれぞれの色の刻印の顕現。

 2段階目が肉体を異形化させる【魔人化(デモナイズ)】。

 そして、頭首の話によればもう1つ上の段階(ステージ)があるらしいのだが、それは誰も見た事はない。

 ≪黒≫の女は、その3つ目の領域に4人の中で唯一踏み込んでいると言う話だ。それならば、確かに通常の人の姿のままでの異常な戦闘能力の高さも頷ける。

 その≪黒≫の女が目にも止まらぬ体捌きで掴んでいた氷の剣を横に払い、一瞬無防備に体勢を崩した水野を蹴り飛ばす。


「どいていろ」

「ぐっ―――!?」


 サッカーボールのように木々の間を縫って、青い残光を空中に残しながら森の奥へ飛んで行く水野を見送って、ルナの瞳がガゼルと睨み合っているガランジャに向く。


「逃がさん」


 一言だった。

 だが、それがルナがガランジャに向ける言葉の全て。

 ルナの視線を受けて、「ヤバい!」と全身に脂汗が噴き出す。


(1度、退い―――)


 遅かった。

 足が後ろに向けて動こうとした瞬間には、体がルナの放った能力に捕まっていた。

 上から巨大な手で押さえつけられるような、絶対的な抗えない力―――重力。


「が……ぁっ!?」


 その場で膝を折ると、崩れた勢いに負けて体を支えられなくなり、地面に倒れて重力に拘束される。

 うつ伏せに倒れたのが不幸。

 武器庫の如く大量に背負っていた武器が、上から重力を受けて圧し掛かって来る。


「ぐがぁ…っ!」


 なんとかして重力の檻から脱出を試みようとしているが、次の瞬間にその抵抗はなくなる。

 周囲の土が盛り上がり、まるで蛇が獲物に襲いかかるようにガランジャの四肢に食らいつく。そして、容赦なく挟み込んだ部位を


――― グシャ


 潰した。


「ギぁ――――っっっ!!?」


 本来なら辺りに飛び散る血飛沫が、重力に負けて飛ばずに傷口から溢れ出る。


「逃がさんと言った」


 しかし、まだトドメは刺さない。

 聞きだしたい事は山ほどある。

 各地で色々動く過程で、何度か顔を合わせて戦闘になったが、そんなルナでさえガランジャ達の組織が何の目的で動いているのかさえ正確には把握していないのだ。

 情報は取れる時に取って置きたい。

 が、今はその前に…。

 フィリスが抱えている意識が有るのか無いのかハッキリしない真希に跪き、お腹に手を当ててトンっと軽く押す。

 真希の体がビクンッと跳ねて、瞳に生気が戻った瞬間えずいて呑み込んだ水を吐きだす。


「えほっ、げほっ、な、何!? げほ…あー…苦しい…けほっ」

「大丈夫か?」


 声をかけられて初めてルナの存在と、自分がびしょ濡れのままエルフの腕に抱かれている状況に気付く。

 そして、自分が溺れ死に仕掛けていた事も。


「助けられた、のか?」


 とルナに聞くと。


「私ではない。そちらのエルフだろう」


 助けた現場は見ていないが、状況を判断すればそれで間違いない、と思われる。


「そうか、すまない…。ありがとう助けられた」

「いや……別に、構わない」


 人にお礼を言われるのはどうにも照れる。顔を背けて誤魔化そうとしたが、特徴的な長い耳が赤くなっていたので真希とルナにはバレバレだった。

 そんな女衆を余所に、ガランジャを乱入者のルナが倒して、しかも行動も封じてしまった為、必死こいて戦っていたガゼルは槍の行き場を無くして溜息を吐く。


(なんでこう、女が強いかねえ…守り甲斐がねえと言うか…)


 「女が弱い存在なのは男の幻想だ」などと誰かが言う。まさにその筆頭とも言うべきなのが、ルナだった。真希もどちらかと言えばそちら側の女性だ。

 もう1つ溜息を吐いて、心の中での愚痴タイムを終了する。

 早い所状況を確認しなければならない。


「ルナ! お前なんでここに?」

「竜の。お前が居ながらなんて様だ…」


 ガゼルの質問に答える前に怒られた。

 しかし、その怒りはガゼルの強さへの信頼を意味しているので、文句も嫌な気持ちも湧いて来ない。「不甲斐無くてゴメンなさい」な気持ちでいっぱいだった。


「すいません……。で、お前本当になんでこんなとこに居んの?」

「例の神器狩りを追っていたら、途中で魔神の気配を感じてな? もしかしたら何かあったのかと思い急ぎ駆けつけた。ん? どうした変な顔をして?」


 フィリスが物凄く微妙な顔をしていた。

 助けてくれた事には感謝しているし、強い味方だとも思う。だが、かつて亜人を蹂躙した≪黒≫の魔神の力を持った人間が、森の中に居ると言う事実に色々考えてしまうのだ。


(助けに来てくれたのがアーク様だったら…)


 と考えてしまうのは流石にバカ過ぎるな、と自重。

 フィリスは恋する乙女ではあるが、同時に戦士でもある。今はまだ警戒を解いて良い場面では無い。


「……いや、なんでもない。気にしないでくれ」


 なんとか表情を取り繕ってルナの視線と言葉を受け流す。

 ガゼルが何か言おうとして口を閉じる。【龍眼】で嘘を見抜けるガゼルには、事情を察されたかもしれない。

 しかし、ルナも似たような少しだけ困った目をしていた。

 誰にも気付かれていないが、ルナも嘘を見抜くスキルを持っている。しかも、ガゼルの【龍眼】よりも更に強力な物を、だ。だから、ルナにもフィリスが亜人として、≪黒≫に対して色々思っている事が理解できてしまった。


(亜人と向き合う時は気を使うな…)


 ルナもルナで、亜人戦争の事実を知っている為に亜人には色々気を使っているのだ。

 キング級の冒険者は、世界中どこに行くにも自由と言うとてつもない特権を与えられている。

 その特権をフルに使って、世界中色んな場所を転移を駆使して回るうち、色んな亜人の集落の場所も知る様になった。エルフ、ドワーフ、翼人、獣人、マーマン、ケンタウルス、小人。

 色んな亜人の集落の場所を知ってはいるが、立ち寄った事はない。人ですら歓迎されないのに、因縁深い≪黒≫の継承者の自分が行って喜ばれる事は有り得ないと知っているからだ。

 だから、亜人達には気付かれないように定期的に集落の周りを見て回り、対処出来なさそうな魔物が居た時だけは知られないうちに処理する、と言う微妙な付き合い方をして来た。

 かつて、この森にドラゴンゾンビが現れた時も何とかしようと思ったのだが、ルナが気付いた時にはすでにエルフが警戒を始めていて、変に手を出すと自分の存在を気取られると思い仕方なく手を引いたのだった。


「私の事より、そちらは何故こんな所で奴等と戦っていた?」


 問われて、3人が顔を見合わせる。

 最初に視線を逸らしたのは真希だった。


「説明は任せた。私、アンタ等の後を追って来ただけだし」


 そして清々しいまでに丸投げした。


「人間への説明は人がすべきだろう」


 ついでにフィリスも丸投げた。


「そうか、では竜の。さっさと説明しろ」

「なんだろう…なんか微妙に納得いかねえ」

「そんな物は知らん。≪青≫が戻って来ないうちにさっさと話せ」



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