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8-17 魔法使いと≪青≫

 泉谷真希は魔法使いである。

 冒険者になった時から魔法使いであり、今までも一切ブレる事無く魔法使いであり続けた。

 しかし、別に好き好んで魔法使いの肩書を背負っている訳ではなく、自分に(もたら)された力が魔法使い以外の道を選ぶ事を許さなかったと言うだけだ。

 【スペルスキップ】詠唱を全て無視して即時魔法を発動できる超スキル。

 【インスタントマジック】詠唱時間を長くする代わりにディレイを無くすスキル。

 【コンバートエナジー】魔力を、魔素や酸素、熱や水分などの様々な物で代替出来るスキル。

 そして真希の手には全ての魔法の記された【楽園の知恵の実(エデンのリンゴ)】。この神器も単なる魔法を記した本ではない。

 【ブーストマジック】発動した魔法の威力を倍加させるが、引き換えにディレイが3倍になるスキル。

 【マジックドレイン】所有者に向けられた魔法を神器の中に吸収するスキル。


 真希のスキル構成の凄い所は、弱点が無い事だ。

 スキルのデメリットを他のスキルが潰す事で、スキルのメリット部分の恩恵だけを受け取っている。

 

 そんな真希だが、弱点が無い訳ではない。

 彼女は根本的に運動が苦手だ。学生時代の体育も億劫だったくらいで、成績も最低辺の常連だった。

 真希のスキルの中に運動音痴を補ってくれる物は無い。勿論魔法で身体能力を上げる事は出来るが、根本的な運動感覚のポンコツさをどうにかしてくれるような便利な魔法はない。

 だからこそ、と言うべきか、故に…と言うべきか、真希が戦いの中で辿り着いた自分の戦術は単純明快だった。

 固定砲台。

 一切動かず、回避はせず、防御は魔法のみで行う。後はただひたすら相手が倒れるまで魔法を吐きだし続ける。

 それが魔法使い、泉谷真希の戦い方だった。

 


*  *  *



 水野の体から焼けた臭いと煙があがる。

 それを見て驚愕したのは水野本人だけではない。

 【マジックキャンセル】の効果を知っているガゼル達も同様に驚いていた。


「マキの奴…魔法を通しやがった…!?」

「…あの女……何者だ?」


 ガゼルとガランシャが攻撃の手を止めてしまう程に、その事実は衝撃だった。

 男2人以上に驚いているのがフィリスだ。


「…どう……して…?」


 魔法使いとしての自分には自信があるからこそ、自分には出来ない事を容易くやってのけた目の前の人間が、どうしようもなく……恐ろしかった。

 長命なエルフであるフィリスは、人間の寿命を遥かに凌ぐ時間をかけて魔法の腕を磨いて来た。

 だが、あの人間はどう見ても20年かそこらの時間しか生きていないだろう。エルフにとっては瞬きの如く短い時間だ。その時間で自分以上に領域に到達している事が、恐くて悔しくて堪らない。


 そんな周りの反応を無視して当の本人は淡々と場を進める。


「お前の魔法無効の力は、ブレイブソードと同じか」

「ブレイブソード……? 何の話をしてやがる?」

「気にしないでくれ。コッチの話だ…」


 ノンビリ話している間に、水野は手元に作り出した水球に“治癒”の効果を付与して火傷を消している。

 真希もいちいちそれを止めるつもりはない。先程の火炎魔法は、魔法が通用するかどうかを確かめる為に撃った物なので、ダメージは最初から期待していなかった。


「お前…本当に魔法使いか…?」

「それは、『魔法使いとは何ぞや?』なんて哲学的な話しか? そうでないのなら、一応魔法使いのつもりなのだが」

「はっ……いいさ……良いぜ!? お前が魔法使いだろうが、そうじゃなかろうが、殺すなら変わりねえもんなぁっ!!」


 魔法への絶対の優位性を崩された事への怒りが、冷気となって辺りを満たす。


「お前が冷気を使うのは分かったから、もう少し加減したらどうだ? 浴衣だと寒くてかなわん」

「首が落ちれば寒さも感じなくなるさ?」

「……先程から思っていたが、お前私と同じ異世界人だろう? もう少しモラルやマナーを侵さない言葉使いは出来んのか?」

「そりゃコッチのセリフだろ? なんで別の世界に来てまで、クソ鬱陶しい理性に囚われてんだ?」

「お前は異世界で獣にでもなりたいのか?」

「ハハっ、かもしれねえな?」


 その目は全然笑っていなかった。

 この男は本気で殺人鬼にでもなりたいんじゃなかろうか? と真希は若干不安になってしまった。


「【エクスプロード】」

 

 何の躊躇もなく、水野目掛けて48工程の詠唱を必要とする爆裂系魔法を叩き込んだ。

 腹に響く爆発音と共に、爆風と熱波が森の木々を揺らし、土煙が一瞬周囲を覆い尽くす。


(当たったっぽいけど、仕留め切れてはないか…)


 探知魔法の【サーチ】と、聴覚と視覚を強化する【ラビットイヤー】【バードアイ】のお陰で敵を見失う事はない。

 転移をされると流石に一瞬意識が追い付かないが、真希の体は82工程の究極とも言える防御魔法【アースガルズ】で常に体を守っているので相手に接近されてもさほど焦りや恐れは感じない。

 

「いきなり撃つなんて酷いなぁ!!」


 言葉と一緒に、土煙を突き破って数え切れない程の水の弾丸が飛んでくる。


「【フォースエレメントシールド】」


 風、水、火、土の四属性の攻撃を遮断する盾。

 見えない壁に当たった水球が弾けて地面を濡らす。


「まったく、ガードが固くて嫌になるね!!」


 転移で背後を取るや否や、手の平を大きく横に振る。


「でも、こう言うのはどうかな?」


 不敵に笑う水野を覆い隠すように、振り返った真希の視界を遮ったのは―――巨大な水の壁。


「陸で溺れ死ぬのもレアな体験だぜ!?」


 壁が倒れて、真希を呑み込む。

 体を傷付ける効果ではない為に、防御魔法でも防げない。

 水が真希を呑み込んだまま、球状に変化して小さなプールになる。

 そして、真希は運動が苦手だ。勿論水泳もダメダメで、25mすらちゃんと泳ぎ切れないというポンコツっぷりである。しかも、小さなプールの中は真希を逃さないように、洗濯機の如く渦を巻いて自由を奪う。

 水中での呼吸を可能にする魔法はある。転移魔法ならば水の外に出られる。

 ……だが、それは出来ない。

 魔法の絶対的な弱点。それは、魔法名を発声しなくてはならない事。水の中では、ちゃんと魔法名を発声出来ない為、魔法が発動出来ないのだ。


「あっはっはははは、搦め手への対策がなってねぇなぁ?」


 プールの中で、何とか脱出しようともがいている真希の姿が滑稽で笑えた。

 その状況に気付いたガゼルが再び焦る。


「マキ!」

「行かせんと言っている」


 ガゼルの渾身の槍を2本の剣で巧みに捌き、位置取りを変えさせない。

 倒す事よりも、ガゼルを助けに向かわせない事を優先した立ち回りだ。

 だが、それも当たり前の事。真希が倒れれば、後に残るのはガゼルと、戦力になるのか怪しいエルフ1人。天秤はその時点でガランジャ達に傾く。



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