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8-15 もう一人の乱入者

 真希の登場で場が一時停止した。

 水野とガランジャは「誰コイツ?」と言う目で、転移で現れた浴衣の女を警戒し、ガゼルは「なんで居るんだ?」と驚きと面倒臭さに顔を引き攣らせている。

 誰も動かないので、場を止めた本人が口火を切る。


「来てみたは良いが、これはどんな状況だ?」


 眼鏡をクイッと上げる。

 冷たく静かな黒い瞳が、ガゼルと向き合っている2人に向く。


(筋肉質で大きな体……私が嫌いなタイプだわ。やっぱり男はもっと小さくて、か細くて、ランドセルの似合うようなのが良いと思うのよね?)


 ガランジャに対する評価は酷い物だったが、水野に対する評価は冷静にする。その理由は1つ。自分と同じ、黒い髪と黒い瞳の…異世界人だとすぐに分かったから。


(日本人…か? 20代前半、目の下にクマ…顔色も悪い、健康状態は激悪っと)


 自分と同じ異世界人が妙な青い光を纏っている事は少し驚くが、真希も人外の強さに足を踏み入れてるし、他にも不思議な力を持った異世界の人間も居るだろうと納得する。

 観察されながら、相手を観察していた真希に、堪え切れなくなったフィリスが大声を上げる。


「何故、お前がここに居る!?」


 エルフの森は人に対しては禁域だ。

 助けに来たのか、それ以外の理由で来たのかは分からないが、第一に人の侵入を否定してしまうのは、亜人の性と言う奴だ。


「そ、そうだぜ! なんでマキがここに…!? 転移魔法たって、行った場所にしかいけない筈だろ!?」

「【転移追跡(チェイスポータル)】。お前達が人の家の前で転移魔法を使ったようだから、それを追っかけて来たんだよ」


 転移魔法は全ての魔法の中でもかなりの上位だが、その更に上の魔法として存在するのが転移を追跡する魔法だ。世界でも数人しか使い手が居ないとされる程の希少さだが、真希の手には全ての魔法の記された神器【楽園の知恵の実(エデンのリンゴ)】がある。


「なんでまた、そんな事を…? 俺の事が恋しくて追いかけて来ちゃったかな?」

「地獄に落ちろ。お前達が行った先に可愛いショタ……じゃない、何やら胸騒ぎがしたから追い掛けて来たんだ」

「お前今、最初に何言おうとしたんだよ……?」


 ガゼルのツッコミを無視して、何事もなかったように話しを進める。


「ここが何処だかは知らないが、来た甲斐はあったかな?」

「助けに来てくれたのはとっても嬉しいが、出来れば巻き込みたくないくらい危険な相手だぜ?」


 ガゼルの言葉に、マキはフッと不敵に笑って見せる。

 手の中の神器のページを開き、2人の敵を見据える。


「お前は誰の心配をしているんだ?」


 冷気のようなマキの目を見て、ガゼルも思い出す。

 目の前に居る女は、いつも自分が抱いているようなか弱く、守ってやらなければならないような存在ではない。

 彼女は自分と同じランクに立つクイーン級の冒険者。<失われた魔導書(ロストブック)>の異名を持つ、自他共に認める世界最強の魔法使い、マキ=イズミヤなのだ。


「こりゃ失礼しました」

「分かれば良い。それで、あの2人は何者だ?」

「青く光ってる方がウチの国の森を潰してくれたクソッ垂れ野郎。もう1人が、それを仕留める寸前で逃がしやがった連中の仲間」

「つまり…悪者として叩きのめしても構わんのだな?」

「YES」

「ならば、問題無い」


 戦闘能力が高過ぎる人間は、どうやっても人間相手に戦う時に手加減しなければならない。

 だが、それは殺さないようにしなければならない時に限る。相手が凶悪ならば、その限りではない。そう、今目の前に居る2人のように。

 変に手加減を要求されるより、全力全開で殺しに行く方が精神的に100倍楽だ。


「そっちの話は纏まりましたか~?」


 特に焦れた風も無く、むしろ楽しそうに水野が聞く。

 相手が見慣れた日本人だった事に、妙な喜びを感じているらしい。そして、日本人を殺せる事に興奮を感じている。

 異世界で異世界人を殺しても、そこに水野は現実味を感じない。だからこそ、平気で殺せるし、亜人を虫と言いきって凄惨な殺し方も出来る。

 だが、同じ異世界人を…同じ世界の人間を殺すのは意味が違う。

 それは紛れもない“人殺し”だ。

 アッチの世界では、法律や理性に縛られて絶対に実行できなかった最悪とも言える犯罪。人の命を奪う蛮行を、コッチの世界では大手を振って行える。

 その力が―――魔神の力が水野には与えられている。


「ああ。乱入させて貰う事にするが、構わないか?」


 後から出て来たくせにシレッと言うマキ。別に相手を舐めているわけでも、挑発しているわけでもない。完全に彼女の素である。

 そんな真希の言葉に、ガランジャが感情のこもっていない平坦な口調で答えた。


「ダメと言っても、無理矢理割って入りそうな顔をしているが?」

「察しが良いね筋肉の人? アンタのような体形の人は正直嫌いだが、察しの良い人は好きだよ」

「フン、興味が無いな」


(嘘でも女に好きって言われたら、反応を返すのが礼儀だろうが…!)


 ナンパ師として、一応心の中でツッコミをいれる。

 それと、この森の守人に一応許可を貰っておく。


「フィリスちゃーん! ちょっとの間マキの滞在許可して貰って良い?」


 30m程離れた所に居るエルフに呼びかけると、迷うような…悩むような間が空いて、更に頭を抱えて2秒待って、ようやく答えが返って来た。


「戦いの間だけだからなっ!!」


 エルフの里と森に、良く知らない……いや、知っている相手でもアーク以外の人間が踏み居るのは受け入れられない。

 だが、今はあの2人を叩くのが先決だ。ここで負けるような事になれば、それこそこの森も妖精の森の二の舞になってしまう。

 事情を理解している自分でさえ、受け入れたくない気持ちが泡のように浮かんでくるのだ。きっと他のエルフや亜人はきっと良い顔をしないだろう事は容易に想像がつく。


(その時は、私が皆に謝って回る!)


 と強い決意を固めたフィリスだった。


「それで、もう始めちゃって良いのかな? そんな浴衣姿じゃ、まともに戦えないんじゃないの? まあ、着替えを待つつもりなんてねえけど、なっ!!!」


 途端に真っ白な冷気の波が真希を呑み込もうと襲いかかる。

 凍死狙い―――ではない。本命は冷気の中に隠された微細な氷の刃。数千、数万の攻撃を避ける事は不可能。一撃でもヒットすれば、その瞬間に傷口から体を凍らせる死の刃。

 真希は動かない。

 白い冷気が津波のように襲い来るのをただ突っ立って見ている。


「マキ!」


 ガゼルが助けに行こうと足を一歩踏み出そうとした瞬間、女静かに口を歪めて笑った。

 手元の神器…【エデンのリンゴ】が勝手にページをバサバサと捲り、目的のページで止まる。


「なんだこの御遊びは? 【ブレスオブギガント】」


 風―――森の木々の間を抜けて、凄まじい烈風が吹きつけて白い波を一瞬で撃ち散らす。


「……ほう?」

「貴様、私を侮るなよ?」


 開いていた本をパタンと閉じながら、眼鏡の位置を直す。


()の魔道皇帝を凌ぐ私の魔法をご賞味あれ―――」



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