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8-14 乱入者

 青い光の紋様が水野の体に広がる。

 わざわざ相手のパワーアップを待つ理由もないので、ガゼルは光が収まりきっていない水野に走り出す。

 それを見たフィリスも即座に反応し、予め用意しておいた魔法を一括して放出する。


「【アクティブフォース】【フレイムスピリッツ】【レジストアイス】【ペインハーフ】!!」


 複数の魔法を一纏めにして出した事で、本来なら魔法と魔法の間に挟まる筈だったディレイが纏めて降りかかる。少なくても2分は魔法を詠唱出来ない。

 だが、今かけた魔法は、速度上昇、筋力上昇、冷気耐性、痛覚鈍化。先にかけている【ハイプロテクション】と合わせれば、魔法で補える部分はほとんど強化した事になる。

 支援魔法を受けて、ガゼルの体は軽くなり、地面を蹴る足に力がこもる。


(サンキュー、フィリスちゃん!)


 心の中でお礼を言って、更に加速して構えもとっていない水野に突っ込む。


(一撃で仕留める!)


 先程、自分で【輪廻転生(リインカネーション)】の残りは3回だと水野は言っていた。つまり3回は心臓を貫いても生き返って来ると言う事だが、それはあくまで普通の武器で殺した場合の話だ。

 ガゼルの槍に宿っている【生命吸奪(バイタルドレイン)】を持ってすれば、残りの寿命を全て吸い尽す事が出来る。

 狙うのは心臓。

 1度殺して動きを止めてしまえば、槍を刺しっぱなしにして【輪廻転生】で蘇るまでの時間で寿命を削り切れる。


「しっ!!」


 滑る地面を踏み砕き、槍を突きだす。

 水野の反応は無い。【冷纏】による氷の盾もタイミングを逃している。


――― ()った!


 そうガゼルが加速された思考で思った瞬間、上から何かが降って来た。

 ガゼルの身の丈程もある巨大な剣―――。


「チッ!」


 超人的な判断力と瞬発力で、槍を手放して手を引っ込めたお陰で辛うじて降って来た剣を回避し、慌てて飛びずさる。

 巨大な剣は、土煙と爆発音を巻き上げて凍った地面に突き刺さっていた。


「おい、何邪魔してくれてんの?」


 水野が不満そうに、自分の目の前に突き刺さっている剣を蹴る。

 すると、剣を追うように巨大な人影が空から下りて来て、その不満に答える。


「あの竜人(ドラゴノイド)の始末は、(われ)が頭首様より命を受けている。貴様こそ、勝手な真似をするな」


 大きな体に硬質な筋肉の鎧、まるで巨大な岩を思わせる大男。そして、背中には無数の武器が収められて、まるでその姿は武蔵坊弁慶。


「チッ、うっざぃな? あのまま槍を振り切ってたら、心臓抉ってやってたのに…」


 言うと、水野の足元の氷が蠢きロボットアームのように、指先を動かして見せる。

 それを見て、ガゼルは自分が攻め込んだのではなく、誘い込まれたのだと気付く。あの巨岩のような男の乱入がなかったら、今頃血の海に沈んでいたのだ自分だったかもしれない、と冷たい汗が背中を流れ落ちる。


「ったく、頭首頭首と…狂信者かよアンタ等?」

「我等への侮辱は呑み込もう。だが、頭首への侮辱は許さんぞ!!」

「はいはい、わかったわかった、わかりましたよー」


 全く悪びれない謝罪をして、虫にするように男に向けて手を払う。


「フン」


 大男もそれ以上水野に文句を言う事もなく、刺さっていた大剣(クレイモア)を引き抜き、地面に落ちている槍をガゼルに向かって蹴る。


「取るが良い」

「意外と紳士だな」


 言われた通りに飛んで来た槍をキャッチして構え直す。

 

「貴様を屠る事は容易い。だが、我は偉大なる頭首に仕える者だ。武器を手放した相手を倒したなどと恥ずべき事を頭首に報告する事は出来んのでな?」


 ユックリと動作でクレイモアを片手で構える。あの長さなら軽く100kgは越えている筈だが、苦も無く片手で持っている。


「一応、名乗っておこう。我はガランジャ」

「ご丁寧にどうも。俺も名乗った方が良いかな?」

「必要無い。いちいち殺す相手の名を刻む程、私の心には隙間が無いのでな? 貴様は、ただ自分を殺す我が名1つ抱いて逝け」

「心にゆとりがないなんて可哀想に…そんなんじゃ女も楽しく抱けないだろ? それと、俺は名前だけであろうと男を抱くつもりはねえから」

「フン、口だけはよく回る!!」


 ドンっと地響きのような踏み足と同時に、巨体が撃ち出されたような速度で距離を詰める。

 ハッと気付いた時にはすでに目の前にクレイモアの刃が迫る。


「むぅんッ!!」

「ふっ…!」


 剣の重量と、男の筋力、そして速度、これらを合わせて考えれば、受けに回ればガゼルでも無事ではすまない。

 それを即座に理解し、一瞬受けるような動作をフェイントにして、横にステップしてクレイモアの軌道から逃れる。そこで動きを止めずに、体を半回転させて脇腹を狙って突く。


「あまいわっ!!」


 空いていた片手にはいつの間にか背中にあった曲刀が握られ、槍を切り払う。


「そっちこそ、なっ!!」


 槍は曲刀を誘う為の囮。

 本命は蹴り―――だが、ただの蹴りではない。ブーツの中では足だけ【人化】を解いている。つまり竜人(ドラゴノイド)のパワーで繰り出された蹴り。

 片足だけとは言え、人の足に比べれば倍以上の力を出しても余裕で耐えられる竜人の足だ。

 ゴギッと筋肉の鎧にブーツがめり込み、巨体が横に吹っ飛ぶ。


(いや、今の感触は―――!?)


 蹴りの感触が鈍かった事に気付く。

 ガランジャは地面に足を滑らせて着地し、ゆったりとした…それでいて隙の無い動作で構え直す。全く蹴りのダメージを感じさせない。と言うより、実際に大したダメージは受けていなかった。

 ガゼルの蹴りのインパクトの瞬間に横に飛んで蹴りの威力を逃がしていた。


「ほぉ、なるほど。エスぺリアが仕留め切れなかったのは、奴が舐めてかかっていたからかと思っていたが、中々やり手のようだ」

「アンタこそな」


(このデカ男…)


 1度の斬り結びで理解した。

 目の前の男は、他の能力は不明だが、近接戦闘に関してはガゼルが今まで戦った敵の中でトップ争いが出来るくらいの強者だ。

 前回の妖精の森跡地での戦いでは、パンドラの腹を貫く所しか見ておらず、まともに戦っている姿を見ていなかったので少し甘く見ていた。

 改めて気を引き締めたところで、そのタイミングを狙ったように、氷の矢が飛んでくる。


「っと!」


 直撃する5本は槍で叩き落とし、残りの2本は腕と脛をかすめて通り過ぎた。だが、フィリスのかけてくれた冷気耐性のお陰で痛みも冷たさも大した事はない。


「ちょっと~、何2人で盛り上がってんのさぁ?」


 氷の剣を肩でトントンっとしながら、イライラした顔で尚も喚く。


「俺が先にやってたんだから、アンタはスッ込んでろよっ!!」

「何度も言わせるな。奴の始末は我の仕事だ」


 睨み合う2人を見て、このまま勝手に潰しあってくれないものかと淡い期待を抱いたが、それが叶う事はなかった。


「チッ、仕方ないな? 一応そっちには助けられた恩もあるし、今回だけは顔を立ててやるよ?」

「ふむ、理解したか。では、お前は下がってい―――」

「早い物勝ち」

「何?」

「いや、殺した物勝ちか? まあ、良いや。ともかく、それが俺の妥協案だ」


 ガランジャが黙る。

 表情の変化が乏しが、呆れているのは雰囲気でガゼル達にも分かった。


「……良いだろう」


(妥協案呑むのかよ…!)


 心の中で文句を言ってみたが、目の前の状況は変わっていない。

 1人でもキツイ相手が2人に増えた。


(仕方ねえ、使うか)


 【竜人化(ドラゴライズ)】を使おうとした瞬間、竜人が持って生まれた直感が何かを感じる。


(これは…転移か? 何か来る)


 そしてガゼルの感じた通りに、戦場に転移の光が満ちる。


「なんだ?」「誰だ?」


 水野とガランジャが2人で気の抜けた声を出したところをみると、転移して来たのは敵ではないらしい…と言うか、ガゼルとフィリスが良く知っている人間だった。

 黒い髪を御団子にし、縁なし眼鏡に浴衣姿の女。


「ふぅ…どこだここは?」


 クイーン級冒険者、マキ=イズミヤは戦場に舞い降りた。



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