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8-9 まともに見えても…

「神器狩り…?」


 不穏な響きの言葉を、フィリスは口の中で転がした。


「文字通り、神器の持ち主を殺して、コクーンを持ち去っているらしい。ギルドが把握してるだけで、直近一週間で50人以上がやられている…。神器の総数は分からないが、かなりの数が犯人の…もしくは組織の手に渡っている事になる」


 神器は1つ持つだけでも強力なのは世界の周知である。

 それが大量に何者かの手に集まっているとすれば、それは決して見過ごせない事態だ。1人がいくつもの神器を操る事ような事になれば絶対的な脅威だが、50人以上が神器で武装して徒党を組むような事になれば、それはもう本格的に国レベルで対処しなければならない存在となる。


「神器狩りがなんのつもりでコクーンを集めているのかは知らないが、何かやるつもりなのは間違いないだろう」

「だろうな? でなきゃ、急にこんな事やり始めないだろ…」


 神器狩りもこれだけの事をやっているのだから、クイーン級の冒険者が自分を追って来る事は承知の上だろう。

 例えどれだけの神器を掻き集めようと、使うのはあくまで人間か亜人だ。1人で小国の軍事力に匹敵すると言われるクイーン級の冒険者を相手にして無事に済む訳がない。

 つまり現在の図式は、神器狩りが目的に到達するのが先か、冒険者ギルドがその前に見つけ出して叩き潰すかの勝負。

 一歩先の展開として、冒険者ギルドの各本部のマスター達は、もし相手の手を潰し切れなかった時の為に、クイーン級の招集も視野に入れているのだが…それはまだ彼等の知るところではない。


「今のところ、この国(プリアネル)での被害は無い。……まあ、そもそもの話として、神器を持っているのが私くらいしか居ないのだが…」

「俺の国は9人やられた…。うち3人はゴロツキだったから良いけど、残りの6人の中に貴族が居てな…」

「あ~…それは面倒な事になっただろう?」

「訊かないでくれよ…思い出したくも無い」


 狩られた貴族は、どう取り繕ってもバカ息子としか言いようがない貴族だった。

 親の金に物を言わせて神器や珍しい武器を買い漁り、それを冒険者や衛兵に見せびらかせる事を生甲斐とする様などうしようもない男で、周りからの評判は地に落ちるどころか地下に潜る勢いだった。

 親も親で、息子の使った金を領民からの徴収で補うような事をして評判は地下行きだった。もう親子2人の評判で地下帝国が築けそうな程、周りからは悪口しかでない。

 そして息子が“首なし”にされて、どうしようもない親なりに怒りがあったようで、ある日ガゼルの元に訪れて胸倉を掴んだ。

 ガゼルにしてみれば「なんで俺の所に?」と言う気持ちだったが、貴族相手に余計な事を言うと後々面倒なので、黙って首を揺すられて、何故か張り手を2発食らった。いい加減キレて、何もかも忘れて殴り殺そうかと思ったところで周りに止められた。


「で、何か手掛かりは掴んだのか?」


 何かを期待するようなトーンになった真希の言葉に、「コイツの方は何も情報なしか」とアッサリ神器狩りの情報を持っていない事を見抜く。


「あったらギルドに報告してるよ」

「まあ、そうだな…」


 少しだけ遠い目をする真希を見て、「ここが押し時だな」とガゼルは途方もない女付き合いの経験値から判断した。


「お互い調査も行き詰ってるしさ? 息抜きってんじゃないけど、少しだけコッチに協力して貰えないか?」

「いや…しかしだな? これからウチのギルドマスターと神器狩りの潜んで居そうな場所の洗い出しをギルドでする予定なのだが…」


 さっきのようにハッキリと断ろうとしない。

 ガゼルは内心ほくそ笑む。ハッキリと物を言う女性は、意外と押しに弱かったり、引っ張ってくれる男を求めていたりするのだ。


「そこはそれ、ギルドマスターには俺から謝って置くからさ?」

「いや、だがな…」


 「落とすならここだ!」と真希の興味を引きそうな情報を差し出す。


「それに、マキだって同じ世界の人間を放っておくなんて寝覚め悪いだろ?」

「同じ世界?」

「ああ言ってなかったっけ?」


 嘘だ。始めは断られる事を読んだ上で、とっておきの情報としてあえて言わないように手元に残していたのだ。

 そして効果は抜群だったらしく、心が揺れ動いているのが目に見えて分かりやすくなった。


「……その新人のクイーン級は、何と言う名前だったかな?」

「アークだ」「アーク様だ」「父様です」

「…? 今、声が1つ多くなかったか?」

「「気のせいだ」」


 言う割に、何故か女のローブのお腹の辺りがモゾモゾと不思議な動き方をした。

 気にはなったが、今は同じ世界の人間の事が気になったのでスルーした。


(アーク…? どこの国の人間だろうな…?)


 名前だけでは判断がつかなかったので、もう少し情報を貰う事にする。


「男か?」

「そりゃ勿論」

「……年齢は?」


 妙に真剣に聞く真希の顔に鬼気迫る物を感じて、ガゼルはちょっとヒいた。


(同じ世界の人間を心配してるって感じじゃなくね? ……なんつうか、獲物を狙う獣の目をしていると言うか……)


「ええっと…アークっていくつよ?」

「私も聞いた事がないな。……白雪も知らないそうだ」

「俺達も分からないけど、多分13…14、15くらいじゃないか?」

「(ボソ)………ギリギリショタでいけるか……いや、でも………」


 何かを悩んで頭を抱える真希の姿は、生死の選択を迫られたような苦悩の仕方だった。


「顔…顔つきはどうなの!?」

「え? …ああ、まあ…凄いガキっぽい」

「身長は!?」

「えーと、これくらい」


 と自分の胸の下辺りに手を置く。


「グッジョブ!!」

「何がだよ…」


 ガゼルのツッコミを無視して、縁なしの眼鏡をクイッと上げて姿勢を正す。


「分かりました。同じクイーン級としても、異世界人としても放っておけませんし、貴方達をお手伝いしましょう」

「今後の予定は良いのかい?」

「そんなものは無い!」


 断言した。

 「ギルドマスターが待ってるんじゃないのか!?」とガゼルとツッコミを入れそうになったが、藪蛇を突くような真似をする必要もないので呑み込んだ。


「だが、条件がある…」


 眼鏡がどこからともなく路地裏に差していた光を受けてキラリと光り、その奥の瞳が計算高く輝く。


「嫌な予感がするが……言ってみなよ?」

「そのアーク君とやらを見つけ出せたあかつきには、私の活躍がその影にあった事を十分に語ってくれ」

「自分で言えば良いんじゃん…?」

「人伝手で聞いた方が印象が良いだろう?」


 マキは若干腹黒い、とガゼルの心にメモがされた。


「お前はアークをどうしたいんだよ…?」

「ふむ。彼が理想のショタなら抱きたい、納得してくれるなら結婚もしたい」

「なんちゅう事を言ってんだお前……」「だ、ダメに決まっているだろうがっ!!」


 

――― 泉谷真希は重度のショタコンである。

 許されるなら幼稚●児や小●生も抱けると言う辺り、生粋のド変態と言って良い。更に言うなら、おねショタもショタおねもどっちも好きと言う業の深さである。

 彼女が異世界に居る事を受け入れる事が出来た最大の理由が、「この世界ならショタと結婚出来る!」だったのだから、いっそ尊敬に値するかもしれない……いや、やっぱりしない。



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