8-6 亜人3人の異世界考察
フィリスが事実を聞いてショックを受けて、復活するのに10分程を要し、結局その後に「アークが自分に言っていない事を他人から知らされるのは失礼だ」と言って、あくまで自分は知らない振りをする事にした…らしい。
そして所変わってソグラスの遺跡―――。
アークが果たして本当に異世界に行った(戻った)のか、それとも全く見当違いのどこか別の所に居るのか? それを探る為に、アークの消えたこの遺跡にやって来た。
フィリスと白雪では、見た通りに“アークが居ない”と言う事以外この遺跡では分からなかったが、クイーン級の冒険者であり竜人でもあるガゼルならば、何か分かるかもしれない…と言う事でこの遺跡に舞い戻って来た。
「他国の遺跡になんて来る機会ねえから、なんかワクワクするなぁ」
アークが居なくなった大変な時に何を言ってるんだとフィリスが怒ろうとしたが、確かに自分も初めて入る時には、人間の遺跡に入る事にちょっと気分が高揚した事を思い出して口を閉じる。
現在地は遺跡の入り口から入ってすぐの、地表に出ている研究所の1階。丁度、野盗と戦った部屋だ。
「ここに野盗が居たんだ」
「ふーん。まあ、アークが相手じゃ、野盗共の方が可哀想だったろうに…」
「そうだな。遊ぶ程の力も御見せにならずに全員黙らせていた」
「でしょうよ…」
そこらの野盗が何百人居た所で、アークに傷を負わせる事すら出来ないだろう。
ガゼルも、前に40人規模の野盗団を1人で相手にした事があったが、かすり傷1つ無く全員捕縛した。
(今頃あの野盗達は、首を刎ねられてるか、どこかで強制労働させられてるか…俺の知った事じゃねえか? あー…そう言えば、こう言う時に使う言葉が昔っから島に伝わってたっけ…なんだったかな? ジコ…じゃない…ジロ…違う…あ、ジゴウジトクだ)
無駄な思考を隅に追いやって、改めてこの遺跡を観察してみると何だか不思議な場所だった。遺跡と呼ぶにはシッカリし過ぎ…と言うより、古めかしさがない。
「この遺跡はなんなんだろうな…」
「アーク様は異世界の建物だと言っていたが……もしかして、アーク様と同じ世界の物だから色々知っておられたのか…?」
「へぇー、この遺跡異世界の物なのか?」
フィリスが「ふむ…」と悩み始めると、肩に乗っていた白雪が水を差すような事を呟く。
「あの…それは父様が他の人には黙っていてと……」
言われて、フィリスはハッとなり、ギギギとロボのような首の動きでガゼルを見る…いや、睨む。親の敵の如く睨む。今にも自分の言動を無かった事にしようとするんじゃないかと思う程殺気に満ちた目で睨む。
「睨むの止めてくれる…? その気が無くても女性に睨まれると、心が痛むんだよ」
「…し、しかし…アーク様には黙っているように言われたのに、私は…私は…!」
「分かった分かった、今のは俺の胸の中にしまっておくよ。誰にも話さないから心配しないでくれ…」
勘弁してくれ、と言うようにフィリスに手をヒラヒラさせて視線を回避する。
「けど、ここが異世界の物だとすると、アークが異世界に行っちまったってのも、いよいよ笑えない話しになってきたな?」
異世界の技術力がどれ程かは3人には分からないが、少なくても建築技術は圧倒的である事は間違いないだろう。600年前の建物でこのレベルなのだから、現在の異世界の建物はどんな凄まじい技術で作られているのかは想像も出来ない。
建築技術だけが飛び抜けて進んでいる…とは考え辛い。とすれば、異世界とはそれこそ自分達の及び付かないような、超魔術やスキルが存在する世界なのかもしれない…と3人は戦慄する。
(実際…今の9人のクイーン級のうち、2人は異世界人だしな…? ≪青≫のミズノ…とか言うのも異世界人だ。それに、あの時に乱入して来た≪白≫の娘…アークがカグって呼んでたあの子も闇色の髪と目だった…って事は異世界人か?)
世界中の人間を能力値で順位をつけたら、上位には異世界人が並んでいる。ついでに、すでにもう故人になっている、ルディエに召喚された勇者の事も強者のリストに追加した。
(アークが強いのは魔神の継承者だからだと思ってたけど、もしかして元々異世界人ってのは強いものなのか?)
しかし、自国で見て来た異世界人の姿を思い出してその考えを打ち消す。ガゼルが出会って来た異世界人のほとんどは、戦い方も知らないような普通の人間だった。
(って事は、アーク達のような一部の人間だけが飛び抜けて優れている世界なのか…)
その考えに辿り着いて納得する。だとすれば、自分達の世界と同じだな…と。
異世界人の考察はさて置き、ガゼルにはこの遺跡で確認しなければならない事が1つ出来た。
――― 異世界の技術で、コチラ側との行き来は可能なのか?
可能だと言う事であれば、アークはそれで異世界に戻ったと考えて間違いない。
では、その技術で自分達も異世界に飛ぶ事は出来るのか? Yesであった場合は―――フィリス達が追いかけるのは間違いないだろう。だが、ガゼルとしては、アークが異世界に戻ったのなら追いかけるつもりはないし、ましてや無理に連れ戻そう等と言うつもりは毛頭ない。
アークが居なくなればアステリア王国やフィリス達を始めとした亜人は混乱するだろうが、それはあくまで“コッチ側”の話であって別の世界の人間を引っ張り戻して解決して良いような話ではない。
(ま、何にしても、アークが本当に異世界に行ったのかも定かじゃない…。考えるのはもう少し調べてからだな?)
と、ここでようやく、自分が黙って考えを纏めていたのを不安そうに見ていた2人に気付く。
フィリス達にしてみれば、ガゼルはアークを見つけ出してくれるかもしれない小さな希望だ。それが難しい顔をして黙って考え込んで居たら不安になるのも当然だ。
(女性2人にこんな顔させたらいかんな…)
少し反省して、いつも通りに軽い調子にテンションを戻して話し出す。
「ゴメンゴメン、ちょっと今日のディナーにはどんな女性を誘うか考えてた」
「おい…こんな時にふざけるな!」「ですの!」
「だからゴメンって。んじゃ、気を取り直してアークが居なくなったって言う地下に行ってみようか?」
若干「本当に大丈夫かコイツ?」と言う顔をされたが、不安な顔よりはずっと良いな、とガゼルはコッソリ苦笑した。