表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
214/489

7-30 剣と銃と機械と

 酸素不足で飛び飛びになる意識をなんとか繋ぎながら、目の前の巨大なダルマのような形のロボに向けて、発火する意識を放つ。

 厚い鉄…? の装甲を素通りして、体の内側で一瞬燃えて即座に消える。


――― 残り1…!


 呼吸がマジでヤバい……あと3分…いや、2分持つかどうか…。

 魔素もクソ程薄くなってる。

 【魔素感知】だと、もう何にも視えねえ。いや、でもそっちは別に良い。問題なのは、【魔炎】での発火力がゴミみたいになって事だ…。

 くそ、あと1つで終わりなのに……。

 ………ダメだ、最後の1つはこの距離でも意識が届かない。近付くしかねえか!

 俺の後ろで、巨大な両手で俺を護り続けてくれているエメラルドに視線を送る。


「どうかいたしましたか?」


 俺は意識の糸が切れかかるくらいまで追い込まれてんのに、コイツは普通に余裕だな…? 呼吸するのにいっぱいいっぱいで、話す余裕なんてねえぞコッチは…。もしかして、呼吸しないタイプの魔獣なのか?

 なんて羨ましいんだ…!

 って、羨ましがってる場合じゃねえっつうの……マジでさっさと終わらせないと、このまま無駄死にだ。

 喋るのが辛いから、視線で「突っ込むからフォロー頼む」とアイコンタクトを送る。

 流石に読みとって貰えないかと諦めて行こうとしたが、エメラルドは静かに頷き。


「御身は御守り致しますので、万事このエメラルドにお任せ下さい」


 伝わったっぽい。

 なんか、この察しの良さはパンドラにも通じるところがあるな? 魔獣と言うよりは、執事っぽいかもしれない……見かけ以外は。

 走り出す。

 一瞬だけエメラルドの手が俺の速度に遅れ、俺の体が銃の射線に捉えられる。だが足は止めない。

 銃弾が届くよりも早く、巨大な腕が間に割り込んで盾になる。

 2m、1m―――跳べ!

 出来るだけ呼吸をしないように、息を止めながら巨体に取り付く。

 最後の1つは―――ツルリとした装甲の表面をよじ登り、パンドラの入っているカプセルの……下!

 太いケーブルが4本と、細いのが17本。

 狙うのは―――右から2番目の太いケーブル!

 ヴァーミリオンで斬ろうかとも思ったが、変に刃物を使うと余計なケーブルまで切断しそうで恐いので、やはり焼き切ろう。

 いつもならケーブルを直に触るのは色んな意味で恐いが、頭がボンヤリしているのであんまり恐怖心は湧いて来ない。

 グッと掴んだ目的のケーブルを【レッドエレメント】の熱量で一気に周りを包む硬質なゴムっぽい物ごと融かして焼き切る。

 ロボの内側からキュウンっと何かの電源が落ちる音が聞こえ、動きが止まる。


――― チェックメイトだ


 ギリギリ間に合った!!

 パンドラの入ったカプセルのロック部分にヴァーミリオンを突き刺す。


『警告――error―――』


 一瞬AIが何かを言おうとしたが、すぐにけたましいサイレンのような音にかき消される。

 残念でした! ウチのメイドは返して貰うぜ!

 カプセルのロックを力技で破壊して蓋を開ける。

 中に入っていた機械メイドの体が俺の方に傾き倒れて来るのを抱き止める。

 腹に空いた傷を治すつもりでここに来たのに、右腕が折れて胸に傷を負わせて…ゴメンな。

 グッと強く抱いて、落とさないようにダルマのような体から離れる。


「おお、主様! パンドラ殿はご無事なのですか?」


 無事…ではないな…。ここに連れて来た時よりも状態が悪化してるし…。

 しかも、その傷を負わせたのは間接的には俺だ。

 その時、フラッと視界が揺れて倒れそうになる。


「主様、これ以上は御身が危険です!」


 分かってる、と言葉ではなく視線で返す。

 流石にもうこれ以上はロイド君の体が持たない。さっさとこのデカブツを鉄屑にして脱出しよう。

 喋るのがシンドイが、口を開く。


「……【魔人化(デモナイズ)】……」


 瞬時に体が赤い異形の悪魔へと作りかえられ、力が奥底から湧き上がる。

 けど、酸素不足の呼吸困難は解消できない。

 ……倒れる前に終わらせねえと…!

 けど、その前に…。

 腕の中のパンドラを見る。目を覚ます気配はなく、ここに連れて来た時と全く同じ生命力を感じさせない死人のような顔をしている。

 けど、腕の中に抱いて居るから分かる。コイツの中の機械も、生体部品である3割の生身もまだ生きている。


『白雪、今どこだ?』

『父様!? 今はアルフェイルです! それで、パンドラさんは―――』

『今からそっちに送るから頼む』

『え?』


 パンドラのメイド服の裾辺りに小さな火を点け―――くそ…湿気った火しか出せねえ…―――その火に【炎熱特性付与】で“転移阻害無効”を付与し、【空間転移】でパンドラをアルフェイルに飛ばす。


『と、父様! パンドラさんが!?』


 意識のやり取りとは言え、酸素が足りな過ぎてキツイので白雪から意識を切る。

 さあ、残ってんのは目の前のデカブツだ…。

 

 パンドラを引き離されたと言うのに、特に何か反応を示す事は無く、一時停止のような状態から立ち戻り、改めて俺に銃口を向ける。

 その様子を見て、内心「ざまあみろ」と言う気持ちでいっぱいだった。


 確かに、パンドラが今まで取って来た俺の情報を元にしているだけあって、戦闘の流れの運び方は見事なもんだ。

 逃げ道を封じて、パンドラを人質に取り、炎を使えなくして、酸素不足で追いこむ。

 ただ1つ敗因があったとすれば、それは


――― テメエがただの兵器……いや、武器だった事だ。


 パンドラのデータを使ってたんなら知らないのは無理もない。

 俺も思い出したら、これ(・・) についてはパンドラに詳しく話した憶えがねえからな?

 俺の、この【マルチウェポン】のスキルについては…。

 俺が≪赤≫に力を貰って最初に手にしたスキルの1つ。

 その能力は、“どんな武器でも自在に操る”。

 剣でも槍でも銃でも……まあ、まさか俺自身こんなロボ相手にも通用するとは思わなかったけど、通じてしまったんだから仕方ない。

 流石に「制御権を奪う」なんて事は出来なかったが、どこの配線をどう言う順番で潰せばパンドラを連れ出しても“気付かれないか”は一瞬で理解出来た……いや、理解は出来てないのか? そうやれば出来るってのが分かるだけで、実際はどこの何の用途のケーブルを切っていたのかは俺自身全くわからない。


 ともかく、まだロボを動かしているAIは、パンドラが居なくなっている事に気付いない。そして、自分の置かれた状況がどれ程ヤバい事になっているのかも……。


 ヴァーミリオンを大きく横に振る。

 壁から俺を狙っていた銃口が破裂、切断されて、ロボの多脚の半分が空中を舞い、半分が爆発しながら地面を転がる。


『非常警報。ただちに戦闘行動を―――』


 何かを言おうとしたAIを無視して、足を無くして虫のように転がるロボを飛び上がって、上から思いっきり踏み潰す。

 グシャリと装甲とフレームが拉げ、歪んだ隙間から黒い液体が噴き出す。


 ヴァーミリオンを振り上げる。

 終わりだ。散々やってくれやがって…。テメエとパンドラを作った人間が、何を思ってこんな事をするように仕向けたかは知らないが、それもここで終わりだ。

 コイツを壊したら、パンドラを助ける方法を改めて考えねえと……と思った瞬間。


「主様―――」


 エメラルドが消えた。

 俺が消したわけじゃない―――何で…? と思った時には、俺自身も【魔人化】が勝手に解けて地面に転がった。


――― 息が出来ない…!?


 この部屋の空気が無くなった……!? このタイミングでかよ…!?

 意識が急速に遠退く。

 ヤバい……! こんな場所で意識を失ったら、マジで死ぬ……!

 抗おうにも喉が痛いやら熱いやらで、酸素を求めて自分の意識とは関係なく体が暴れる。

 苦しい―――誰か、助けて……っ!!!

 

『……ファイ……フェイ……終了………シス…テム………ノス……を起動』


 途切れ途切れに言い終わるや否や、ブツッとブレーカーが落ちるような音が響き渡り、照明が落ちて暗闇が部屋を支配する。

 何が起こった…?

 闇に目が慣れていなくて何も見えない。

 しかし、闇色の世界はすぐに終わる。


――― 残骸になりかけていたロボが光っている


 正確には、壊れかけた装甲の隙間から凄まじいまでの光が漏れ出ている。

 光が部屋中に広がり、遠退く俺の意識はその光に呑み込まれ―――…





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ