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7-29 薄い空気の世界で

 内心息苦しくて無茶苦茶焦っているが、俺自身とパンドラの事だけを考える訳にはいかんな。

 一応最悪の展開として、この研究所が吹き飛ぶ可能性がある。……まあ、その時は爆発するよりも早く俺が自分で手で、この研究所を消し飛ばすつもりだけど。どちらにせよ、この遺跡……っつか建物の中に居るのは危険過ぎる。

 白雪とフィリスは先に逃がしておかねえとな。


『白雪、聞こえてるか?』

『父様? どうかなさったのですか?』


 もっと焦った反応が返って来るかと思ったけど、いつも通りだな?

 もしかして、コッチの騒ぎに気付いてないのか? まあ、2人の居る研究室から大分下っぽいし、この部屋も密閉性むっさ高そうだもんなあ…。銃撃音も届いてないか。


『ちょっと想定外の事態』

『大丈夫なんです?』

『まだ怪我らしい怪我はしてねえけど』


 怪我はしてないが空気が無くなってきてるので結構なピンチですけどね?


『いえ、父様ではなくパンドラさんが』


 ああ、そっちね…。そりゃ、ここに来た目的はパンドラの治療なんだから、そっちの心配が第一なのは、そうですよね…。


『無事…とは言い難いな。今なんとか助けようと頑張ってる最中』

『分かりました! 私達も助けに来い、と言う事ですのね!』

『違いますけど…』


 そもそもドアはロックされてるし、転移は無効にされてるし、この部屋に入って来る事が出来ねえよ。

 それに、下手に警告を無視してここに来られると、その途端に自爆スイッチが入るんじゃないか? と言う不安もある。

 この場は俺1人でなんとかする以外の選択肢はない。


『この建物の中に居ると危ないから、ソグラスなりアルフェイルなりに戻っててくれ』

『父様は、大丈夫なんです?』

『まあ、なんとかするさ』


 なんとかするって言うか、なんとかせざるを得ないと言うか…。

 さっさと逃げる様に念を押してから、意識を目の前の現実に戻す。

 目の前にはパンドラの入ったカプセルを体に付けたロボ。

 コイツは叩き壊す。

 それは良い、問題なのは囚われているパンドラだ。先に助け出さないとコッチはとにかく手が出せない……。

 けど、


――― 糸口は見つかった


 後はこの糸を、俺がちゃんと辿れるかどうか。そして、辿れるだけの時間が有るか否か…。

 さて、どうする? 【魔人化(デモナイズ)】して一気に……いや、ダメだ。変に力見せると、AIに気取られる可能性がある。

 相手は精密機械だ。手早く、精密に…だ。

 となると、防御や回避に意識割いてる余裕が無いかもしれない…盾役が欲しいな。


「エメラルド」


 酸素を出来るだけ消費しないように最小限の炎で奇妙な仮面の魔獣を引っ張り出す。


「主様、お呼びになりましたか?」


 エメラルドの存在を感知して、自身の戦闘パターンを組み直しているのか動きが止まり、壁からの射撃も収まる。


「詳しく説明してる時間ねえから手短に言う。あいつと周りの壁の攻撃から俺を護ってくれ。ただし、攻撃はするな」

「はっ、畏まりました」


 いつも通りに仮面が傾いてお辞儀をする。

 多分…と言うか絶対に説明足らずだが、それでも微塵も問い返す事もなく、言われた通りに俺を護ろうと斜め後ろ辺りに着いて来る。

 心の中で感謝しながら、走り出す。


「行くぞ!」

「はっ!」


 俺達の動きだしを見て再開される銃の掃射。向こうは、とりあえずエメラルドを無視して、俺の排除優先と決めたらしく、銃口が全て俺に向いている。

 が、銃が火を吹いた瞬間に、その射線を遮るように巨大な手の平が現れて俺に届く前に銃弾をシャットアウトする。しかし、ロボを動かすAIも馬鹿じゃない。即座に反応して、壁をスライドさせて死角から俺を狙う。


「させません」


 焦った様子も無く静かに言いながら、俺の死角から狙って来た銃弾も、もう片方の手を出して受ける。

 知ってたけど、エメラルドの腕大きい上に超硬い…。頼りになり過ぎる。

 礼儀正しい上に頼もしい、ウチのちょっと奇妙な仮面に苦笑しつつ速度を上げる。すると、エメラルドの腕も俺の横にピタリとくっ付いて銃撃を受け続ける。


「エメラルド、大丈夫か?」

「多少痒いですが、問題と言える程の事ではありません」


 痛いじゃなくて痒いのか…。


「んじゃ、その調子で頼む!」

「お任せ下さい」


 腕の方は、上やら前やら角度を変えて俺に向けられる銃弾を素早く動いて弾いて居るのに、本体の仮面の方は俺の言葉に反応してシッカリ落ち着いたお辞儀をしている。

 余裕が有るんだか無いんだか分からんな…。

 まあ、エメラルドの話はともかく、銃撃を気にせず一直線に突っ込んだ為、ロボとの距離が一気に詰まる。

 あと6m…まだ遠い。

 5、4、3―――行けるか?

 “燃やす”と言う意識をロボの体の内側に撃ち込む。作業に必要な熱量だけを生み出すように魔素を燃焼させ、終わったら即座に消して熱量を散らす。


「よし…」


――― 1つ


 残り、34。

 焦るな、急ぐ事も重要だが、正確さが最優先。一手間違えたら、そこで終わる。

 意識を集中し直し、俺を包むように出されている巨大な腕…その外から聞こえる銃弾の跳ねる音を意識から締め出して作業を続ける。



 3分経過―――。

 時間が経過するごとに息苦しさが増して行く。

 時々、集中し続けていないと意識がブツッと切れて、体が地面に引っ張られそうになる。いよいよもって空気が薄い。

 意識が飛びそうになる度にエメラルドが声をかけてくれるから、辛うじて堪えているけど、意識が戻っても苦しくて苦しくて堪らない。

 でも…それでも手を止める訳には行くかよ……!

 ロボの体内に意識の手を伸ばして、発火と消火を繰り返す。

 今ので幾つ目だ…32? …いや、33か……?

 あと…2だ。

 酸素が回らなくて頭がフラフラして視界がぼやける。

 相手にはまだ気付かれてない。恐らく、俺がエメラルドの手の中で何かをコソコソやっている事は分かっているだろうが、具体的に何をしているのかは気付いてない……筈…多分。

 ……苦しい。呼吸が苦しくて喉が変な音をたててるのが耳障りで仕方ない…。

 くっそ…なんで毎回こんなに苦しい思いしてんだっつーの……。


 コッチの世界に来てから、本当に碌な目に遭ってねえな…。

 行く先行く先で問題が起こって…その度に痛い思いしたり、辛かったり、悲しかったり…本当嫌になる。

 けど、それを選んだのは誰だ? 俺自身じゃねえか。

 戦う事を決めたのも、事件に首突っ込んだのも、全部俺が自分の意思で選んだ事だ。

 だから―――


 途中で折れる訳にはいかねえ!



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