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7-28 パンドラの箱

 パンドラの箱。

 誰でも1度くらいはその言葉を耳にした事があるだろう。

 ギリシャ神話のその物語は、神様の国から火を勝手に持ち出したプロメテウスがその火を人類に与えてしまい、それにブチキレたゼウスが、人類に「不幸になれー」と命一杯の悪意と厄災を込めた箱を、最初の女として作り出したパンドラに持たせてプロメテウスの弟のエピメテウスに届けさせる。

 パンドラはまんまとエピメテウスの嫁となり…そして、ゼウスの思惑通りに好奇心に負けて箱を開き、地上にありとあらゆる災いを撒き散らしてしまった。しかし、慌てて箱を閉じた為、希望だけが箱の中に残った……と言うお話。



 俺が初対面の7割ロボの娘にその名前をつけたのは、正直に言って深い意味はない。

 ただ、あそこまで人に近いロボってのは、人の世界にとっては色んな意味で混乱と騒ぎを巻き起こすだろうなぁ…と。

 そして、同時に人に後一歩のところまで迫っているアイツの存在は、未来にとっての凄く大きな可能性なんじゃないだろうか?

 とか…まあ、そんな感じの事をボンヤリと考えた結果の“パンドラ”って名前だった。


 けど…こうしてパンドラの作られた意味が、俺の…魔神の継承者の排除に有ると分かってみると、我ながらなんつうピッタリかつ皮肉な名前を付けたもんだな…と。


 神話の中のパンドラが、人間達に悪意を持って箱を開けた訳ではないように、ウチのパンドラも、俺に対しての悪意とかそう言う物を持って一緒に居た訳ではないと思う。今までの献身的な態度を見ていれば、そこは疑う余地が無い。

 だが、その無垢な奉仕があったからこそ、今現在俺は囚われたパンドラを見捨てられないで居る。

 一緒に居た時間が、パンドラに人質としての価値をつけてしまった。

 ……もし、それもパンドラを作った人間の計画に織り込み済みだとしたら……いや、恐らく絶対にそうだな…でなけりゃ、この今の状況が成立しねえもん…。まあ、ともかく、パンドラやこのデカブツを作った人間は、相当たちが悪い。

 腹が立つので、製作者の思い通りに死んでやるなんて絶対ゴメンだし、パンドラも見捨てねえ!

 俺も助かって、パンドラも助けて、グッドエンドで「ざまあみろ!」と是非言ってやりたい。

 と言う訳でパンドラをあのデカブツから引っぺがす方法を考えているが……


 まったく思いつきません…。


 とりあえず突っ込んではみているが、弱点らしい物は見つからない。

 ああ、弱点つっても戦闘的な意味での弱点じゃないよ? 機械としての弱点の話だ。ここを叩かれると電源が落ちるとか、ここのケーブルが切断されるとプログラムにエラーが出るとか…そんな感じの奴を探して見たが、見つからない…。

 いや、実際はどっかにあるのかもしれないが、俺の知識ではそれらしい物が発見出来ない。

 っつか、若干だが息苦しくなってきてない?

 いよいよこの部屋の空気が無くなって来てるのか? 魔素もまだ残っているが、外に比べれば薄過ぎるし……こりゃ、本気でケツに火が付いてんな…。

 早いところ何かしら糸口見つけねえと、何も出来ないで布団圧縮袋の如く真空パックにされてしまう。


 ……何でも良い。とにかく取っ掛かりが欲しい!

 意を決してロボのガトリングの掃射と、壁からの射撃をフェイントでかわしながら剣の届く間合いまで踏み込む。とは言っても、コッチから攻撃は出来ない。

 俺の方が無理なら、ウチ側に居るパンドラ自身に何とかさせるってのはどうだろう?

 上手い事目を覚めして、逆にロボの制御権を奪ってくれたりとかしてくれると泣いて喜ぶんだが…。

 AI曰く、パンドラの人格はもう消えているらしいが、あれは(ブラフ)だと思っている。意識が無く反応を返して来ないとは言え、今記憶を消すと俺に対しての人質の価値が下がる。もし仮に、「記憶が無いならもう必要ない」と俺がパンドラをその時点で切り捨てたら、その瞬間にこの状況は崩れて、アチラさんの計画が終わる。

 だったら、コッチがパンドラを切り捨てようとした時の為に記憶は留めて置き、いざとなったらパンドラに一時的に意識を戻させて反応させる…って方が効果的だろう。


 ま、とにかく時間もねえし、ダメもとで試してみるか?


 射線を逸らしつつ、別の方向から飛んでくる銃弾をヴァーミリオンで切り払って進む。壁からの銃撃はフェイントで騙す。パンドラの記憶(データ)から俺の行動を予測しているから、馬鹿正直にフェイントに引っ掛かる。

 相手が俺の行動を予測できるように、相手がパンドラだと思えばコッチだって行動の先読みが出来る。

 大きく左に回り込むように見せかけて、銃弾を最小限の動きで回避しながら真っ直ぐ突っ込む。

 炎を目の前に撒いて、ロボのセンサーの1つか2つ騙せればもうちょい楽に行けるんだが、魔素も酸素も無駄使い出来ねえところまで来てしまっているからな…。

 3段跳びの要領で、トントンっと軽く助走のジャンプから飛ぶ。

 ここぞとばかりに銃口が空中の俺に向いた。

 射撃武器を相手に、自由に身動き出来ない空中に行くのは愚の骨頂……普通なら。だが、俺には魔人スキルの【浮遊】がある。撃ち出された何十発もの銃弾をヒラリとかわし、煽ぐように振るわれたロボアームをトンっと軽く押して退かし―――ん? ……まあ、良いか。パンドラのカプセルの刺さっている胴体部分に着地。


「よ、っと」


 銃撃が止む。流石に本体が傷付くような射撃はしないらしい。助かった…このロボに傷付いて欲しくないのはコッチも同じだからな。

 さて、静かになった今のうちにさっさとやってしまおう。

 部屋の奥から聞こえる空気と魔素を吸い出す音を聞きながら、カプセルをノックする。


「もしもーし」


 反応なし。


「パンドラ、起きろ!」

『無駄です。P.D.E.R.16-03は個を失い、“匣”の戦闘用データベースとなりました。貴方がパンドラと呼ぶ人格は消滅し、1つの武器、兵器の1部品として昇華されています』


 うっせえな、それさっきも聞いたわ! 同じセリフをご丁寧に繰り返しやがって、お前はロボか!? ………あ、ロボか。


「ダメそうか…」


 落胆の気持ちはない。ただ「ですよねー」と納得しただけだ。

 胴体がグラッと傾き、どこからともなく俺を捕まえようと背中の方から腕が伸びて来る。2本腕かと思ったら、隠し腕があったのか…。

 ただし、本来の腕に比べて、胴体の中に収納できるサイズの為小さくて細い。無遠慮に俺の体を鷲掴みにしようとしたアームの手首を逆に掴んでやる。


――― あ…コレやっぱり、そう(・・)だよな?


 いつもなら掴んだロボアームを焼き落としてやるところだが、今回は相手にダメージを与える事は出来ないのでそのまま横に払って、胴体から飛び降りる。

 途端に再開される銃撃。

 【浮遊】で空中を滑りながら、避けきれない物だけ切り払って距離を取る。


「ふぅ…」


 息苦しさがちょっと割増になったな…。

 呼吸しても体の中に酸素が入って行ってる気がしない……。


 時間が無い…! 早く何とかしねえと……!!



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