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7-26 開かれた匣

 大量の銃弾が、点ではなく面となって襲って来る。

 秒速300mオーバーで突っ込んで来る弾丸の壁―――。

 避ける、と判断した時にはもう目の前に迫っている。

 転移での回避は最初から選択肢にはない。この研究所の地下は転移無効にされている。俺が転移する為には、【炎熱特性付与】で“転移阻害無効”を貼った上で転移しなければならない。更に言うなら、【炎熱特性付与】を発動した状態だと同じ魔人スキルのカテゴリーである【空間転移】は使えない。

 つまり、この部屋の中で転移する為には、【魔人化(デモナイズ)】しなければならない、と言う事だ。

 回避が無理なら―――


「上等っ!」


 受けるしかねえだろ!!

 ヴァーミリオンに手をかけ、即座に【火炎装衣】を発動。

 体中から炎が噴き出し、鎧のように俺の体を守る。

 バチュンッと変な音をたてて弾丸が炎の鎧にブチ当たり、炎で殺し切れなかった威力が俺の肩口を襲う。


「っつぅッ!!」


 そこそこ防御に熱量割いてんのに、それでもこれだけ威力が貫通すんのかよ!?

 そう言や、向こう側の武器…ってか銃で攻撃されたのって初めてだな…。

 自分が強者だって驕っていたつもりはないけど、心のどこかに銃を「普通の人間でも使える武器」と言う下に見た意識があったのは認めなければならない。

 けど、そうだよ。考えてみれば、普通の…何の力もない人間が容易く人を殺してしまえるような力が銃にはあるんじゃねえか…。

 考えるまでもなく、魔法なんぞよりもよっぽど危ない物で、警戒しなければならない物だろうが!

 自分の認識の甘さを反省しつつ、銃弾の何発かはヴァーミリオンで切り落として、残りは熱量を上昇させた【火炎装衣】で防ぐ。だが、それでも軽い痛みが走る。

 銃ヤバい銃ヤバい!

 エグゼルドの吐き出していた魔素の弾丸並みの速度を簡単に出して来るとか恐すぎる! 威力は確かにアレ程ヤバくないけど、この連射力は堪らんだろ!!

 卑怯臭いと言うか何と言うか……。

 アッチの世界だと、こんなヤバい物を一般人が持ってたりするのかと思うと背筋が寒くなる。

 あー…日本が銃社会じゃなくて本当に良かった…。日本の治安の良さマジで万歳。


 にしても、銃の連射が止まらねえ!

 弾切れ狙うとか考えてみたけど、そんなもん待ってる間に削り殺されそうだぜ…。

 さっさとこの銃弾の雨から逸れて攻めた方が早そうだな? いい加減バシバシ銃弾が当たって痛ぇし…。


「ほっ―――」


 横っ跳びで射線から逃れ、銃口が俺を追って来るよりも早く時計回りに走る。

 背後の床で何発かの銃弾が跳ねるが、若干の恐怖心に足を止める事無く足を動かす。

 ロボまでの距離は30m―――銃弾が俺を捉えるよりも、俺が相手の懐まで踏み込む方が速い!

 普通の人間では実現不可能なスピードで、ロボの右側から回り込んで突っ込む。

 ロボの背面に繋がっていた銃口が突っ込んで行く俺を捉え、銃弾が吐き出される。

 足を止めれば前面の銃口にも捕まる! 止まるなっ、突っ込む!!

 体に当たる銃弾を感知能力で先読みして、避けずにヴァーミリオンで切り落としながら走る。

 右頭部、右足、左肩、喉元、左腕、左肩、右足、左腰―――銃弾が体に届くより早く深紅の刀身が真っ二つにする。

 銃は確かに攻撃が速い。弾速って意味でも連射速度って意味でも。

 けど、ちゃんとそれを剣の振りで叩き落とす事が出来る。

 走る速度に比例して、意識と感覚が加速していくのが分かる。

 体が危険を感じて、戦闘モードに切り替わって行く。


 パンドラを腹に抱えたまま戦われたら危なくて仕方ない。ちゃっちゃとこんなロボには御退場願うぜ!


 ロボの5m手前で跳躍―――空中でヴァーミリオンを振り被る。


「ぶっ壊れろッ!!」


 俺の動きを追ってロボの右腕が動く、ヴァーミリオンを受け止める為―――いや、反撃する為に腕を振るう。

 邪魔くせぇっ!!

 流石に鋼鉄パンチをロボパワーで振り回されたら、【火炎装衣】を貫通される危険がある。一応捌いておくか?

 勢いのまま空中で体を捻って、ロボアームを蹴り飛ばす!

 ベコンッと装甲の一部が凹み―――頭部に組み込まれたカプセルの中で、パンドラの右腕が変な折れ曲がり方をする。

 視界の片隅でそれが見えた瞬間、頭がこのロボへのダメージの危険さを理解する。


――― 振るな!!


 蹴りの回転のまま、相手を真っ二つにしようと振りに入っていたヴァーミリオンの剣閃を無理矢理外す。が、逸らし切れずに胸部の装甲が浅く斬れる。

 パンドラのメイド服の胸の部分が切れて、カプセルの中に赤黒い液体が飛び散る。


「くっそがっ―――!!」


 悪態をつきながら、襲って来る銃弾を【火炎装衣】で防ぎつつ、バックステップで距離を取りながら改めてパンドラの様子を観察する。

 右腕が変な部分で折れ曲がり胸の真ん中辺りに出来た傷―――。

 ダメージのフィードバック……!?


 このロボにダメージ食らわせると、それと同量のダメージがカプセルの中のパンドラにも反映されるって事かよ…!? どんなクソシステムだよ…ふざけんなっつうの!!


「っと!」


 40m離れた所でようやく追撃が止む。

 一息吐く。

 くそくそ言ってる場合じゃねえぞ、コレ…。

 このロボ…どうやって倒す?

 変にダメージを与えたらパンドラが傷付く。かと言って、パンドラにダメージが行く前に一撃必殺で鉄屑にするなんて、それこそギャンブルだ…。

 やっぱり、一番安全かつ確実なのは、パンドラをカプセルから引っ張り出してからロボをボコる方法だな。

 が、まるで俺の思考を読んだように―――


『警告。以下の条件に抵触した場合には、当施設のアルヴィアシステムが自爆します』

「え?」


 なんですって?

 自爆ってあれか? ドカーンってする奴だよな? ってか、それ以外ねえよな? 大体アルビアシステムって何? 未来の何か?


『1.≪赤≫の継承者がこの部屋から出た場合。2.P.D.E.R.16-03がカプセルから出た場合。3.P.D.E.R.16-03の入ったカプセルが“匣”から離れた場合』


 ……つまり、逃がさねえし、パンドラを助ける事も許さねえって事ね。念の入ってる事で、腹が立つ!


「ちなみに、そのアルビア? とか言うのが自爆した場合はどうなる?」

『半径30kmが焦土に変わります』


 何その威力…? 名前を変えた核爆弾とかじゃないよね?

 いや、待てよ? その威力の大きさ……もしかして、そのアルビアなんたらってのは、この施設の動力か何かじゃないかな? 600年間この施設に電力を供給し続けた、半永久機関のエネルギー源…。

 まあ、それが正解かどうかは、どうでも良いか!

 今問題なのは、その威力だ。半径30kmって事はソグラスも範囲内に入ってる。

 ここを自爆させる訳にはいかねえぞ!

 俺の焦りを無視して、ロボの多脚が動いて距離を詰めながら、照準を俺に合わせている。

 この戦い…俺に許された選択肢は2つに1つだ。



 俺が死ぬか、パンドラを殺すか―――…



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