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7-23 復興の手伝い

「それで坊。あんた、こんな所で何してたん? 暇なら復興作業手伝っていきぃや」

「暇じゃねえッスよ…。アルトさん達が戻って来たらすぐ移動しますし」


 今すぐにでもパンドラを遺跡に連れて行って治療してやりたいって気持ちはある。けど…少しでも復興作業を手伝いたいって気持ちも嘘じゃない。

 俺にとっては、この1度滅びかけた町は、トラウマであり、同時に人を命の…世界の儚さを教えてくれて、その大切さに気付かせてくれた町でもある。

 恩返し…って訳じゃないが、この町に力になれるならなってやりたい。


「けど、まあ…逆に言えばそれまでは暇なんで、その間だけで良ければ」

「流石坊! ウチの弟分!」

「いや、だから違いますけど…」


 アンタの弟分なんて死んでもゴメンだわ!!

 そもそもコッチはちゃんとした姉が居ますし……まあ、ロイド君のだけど…。


「んで、何から始めれば良いんですか?」

「そやね…? 坊、そんなナリやけど力有るんやろ? 腕ほっそいけど?」


 なんで、若干ディスられてる感じなんだ…? 文句言って良いかな?


「アッチの男衆が力仕事しとるから、それ手伝ったりぃや」

「へーい」


 月岡さんの指差した方には、胸板の厚いTHE・筋肉みたいな男達が汗水垂らして材木やら廃材やらを運んでいる。

 力仕事は、まあ、人並み以上には出来るだろう。そこらの常人に比べれば超人的な力があるし、荷物運びなら転移も役に立つし。


「フィリスは休んでてくれ。転移魔法使ってばっかで疲れただろ?」


 特に消費も無いスキルでの転移と違って、転移魔法は魔力と体力をゴッソリ消費する物らしいからな。


「いえ、アーク様を働かせて私が休む訳にはいきません!」


 パンドラと言い、フィリスと言い、なんでこうも俺に尽くしたがるのか…。

 嬉しい半面、俺なんかに尽くさせてゴメンなさいと言う気持ちがどうしても消えない。

 まあ、フィリスに無理させないように俺が頑張れば良いか?


「分かった。んじゃ一緒に行くか?」

「はい!」



 50m程歩いて汗くっさい男達に合流。


「どもー、手伝いに来ました」

「おお、どこの坊ちゃんかと思ったら、アークさんじゃないですか!?」


 現場指揮っぽい帽子を被っていた岩みたいな厳つい顔の男が、小走りに近付いて来てわざわざ帽子を取って俺に頭を下げる。

 この顔は憶えてる。前にソグラスが襲われた後に、荒れ果てた瓦礫の中から生きている人達を救出するのに力を貸してくれた人だ。


「どうも! そちらもお元気そうで」

「いやはっははは、町がこんな状態ですから、わし等くらいは元気にせんと!」


 帽子の男の言葉に、周りで作業していた男達も「そりゃそうだ!」「葬式みてえになっちまう!」と大笑いしている。

 たしかに、ドンヨリした雰囲気で作業してるより、元気に笑いながら作業している方が良いだろう。辛い時でも大きな声で笑っておけば、とりあえず元気は出るもんだ。


「短い時間ですけど、力仕事なら多少は力になれると思うんで、宜しくお願いします」

「いえいえ、こちらこそ! まさか、今やクイーン級の冒険者になったアークさんに手伝って貰えるとは!」


 作業中の皆も、好意的な目を向けてくれている。ソグラス住民は、なんつうか…こんな状況でも強いってか、気持ちの良い人達ってか…。

 うし、時間もねえし、さっさと働くか!


「それで、何から始めれば良いですか?」

「えー、そうですね。では、そこの材木を避難所の隣の区画で立て直しをしている家があるので、そこまで運んで貰えますかね?」

「はいよ」


 材木の長さは目測3m。

 本数は50ってところかな? 数が多い…つっても、せいぜい3件分か。

 1ターンで何本運べるか考えていると…。


『父様、私が運びましょうか?』

「白雪?」


 運ぶって言ったって、お前の小さい体じゃ―――って、ああそうか! 妖精のポケットに全部放り込めば良いじゃん!


「頼めるか?」

「はい、父様!」


 フードからパタパタと出て来た小さな姿にちょっと驚かれながらも、怯えて隠れずに材木に飛んで行く白雪の姿に「成長したなぁ」と少しだけ泣きそうになってしまった。

 積み上げられた材木に辿り着くと、その山に触れる。すると、音も無く材木が白雪のポケットと言う名の亜空間に収納されて消える。


「おお!?」「なんだっ!?」「妖精すげえっ!!!」


 いやー、流石にあの量が一瞬で消えたら驚きますよねー。

 しかし周囲の驚きを余所に、白雪が地面にポテンと座り込んだまま動かない。


「白雪、どうした?」

「父様……体が重くて…」

「ああ…」


 妖精のポケットは万能ではない。

 大量の質量を中に入れると、その何割かの重さが本人にもかかるらしい。

 ターゼン一家の荷物を運んだ時も実は辛かったと聞いたのはつい何時間前の話だ。

 地面に座り込んでいる白雪を優しく手の平に拾い上げる。


「移動は俺の仕事だな?」

「父様、ごめんなさい」

「十分だよ」


 指先で頭を撫でて慰めると、その指を掴んで頬擦りする。


「父様大好きです!」

「はいはい、俺も好きだよ」


 白雪の顔がパアーっと輝く笑顔になる。

 そのまま、重い体のまま俺の指に抱きつく。


「父様!」


 話し進まんから、このまま移動しよう。


「じゃあ、木材届けて来るんで。フィリス、ちょっと待ってて」

「はい、お待ちしています!」

「んじゃ、白雪行くぞ?」

「はいっ父様!」


 俺の指に抱きついたままの白雪を落とさないように手の平で包む。

 さて、いつアルトさんやババルのオッサンが帰って来るか分からんし、ちゃっちゃと運んでしまおう。

 背後に驚く男達の声を置き去りにして転移で飛ぶ。

 50m先で一旦着地して、いきなり現れた俺の姿に驚いた人達に謝罪の言葉代わりに少しだけ頭を下げてもう1度転移。飛んだ先で更にもう1度。

 3度目の転移で目的の場所に辿り着く。


「うわぁっ…あれ? アークさん?」

「材木のお届けでーす。サインもハンコも要らないでーす」


 コッチの現場でも現場監督風の帽子を被っていた男を発見したので、俺が手伝いをしている事を伝えて、白雪のポケットに入れていた材木を地面に吐き出す。

 それを見た現場の人達が、目を丸くして驚いた。


「っ!?」「何、今の?」「魔法…?」「いや、アレ? 妖精…?」「クイーン級の冒険者は妖精を連れてるのかよ!?」


 エヘンっとドヤ顔をする白雪を突いて窘めて、元の場所に戻る。

 

「ただいまー」

「お帰りなさい、あ…ーク様」


 往復時間20秒。

 あの量の材木をその時間で運び終わって皆が唖然としている。


「え…も、もうですか?」

「ああ。まあ、一応気になるならアッチの現場の人に確認してみて」

「い、いえ! 疑うなんて事はないのですが!」


 厳つい顔の言い訳みたいな事を聞いて居る間に、町の外にウチの連中が近付いて来るのを感じた。

 エメラルド達が帰って来たな? って事は、アルトさん達も一緒の筈。


「ゴメンなさい、コッチの待ち人が来たようなので。これだけしか手伝えなくてスイマセン」

「いえそんな! あれだけの材を運んでくれただけでも、どれだけお礼を言っても足りませんよ!」

「そう言って貰えると助かります。フィリス、エメラルド達が戻って来た。行こう」

「はい!」



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