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7-22 それぞれの悩み

 遺跡を出たら、即座にエルフの里に―――と思ったのだが、ギルドの依頼の件もあるし、エメラルド達も放置しっ放しだったのを思い出し、一旦ソグラスに戻る。

 手早く魔獣3兄弟を回収し……ようと思ったが居なくて、先にギルドに向かうと「まだ野盗も連れ去られた人達も帰って来てない」と困った顔をされた。

 まあ…そうですよね? あそこからだと歩きだと3時間くらいかかるし。転移でパッと移動できる俺等が普通じゃないんですよね…はい。

 仕方なくアルトさん達が目的の人達を連れて帰って来るのを、復興作業まっただ中のソグラスで待つ事にする。

 そして俺達は現在………


「なんや坊やないか!?」


 悪魔にエンカウントしていた―――。

 月岡美涙。俺と同じ異世界人であり、面倒事を人に向かって豪速球で投げて寄越す…正直関わり合いになりたくない人。

 と言うか、実際に今回ソグラスに来てから出会わないように逃げてました…はい。

 前よりも若干顔のラインがホッソリしてるのは、復興作業で苦労しいるからだろうが…細い目の奥には、何か読めない悪巧みが渦巻いているんじゃないかと不安になる。

 ……まあ、根っ子は善人………だと思いたい…。


「つ…月岡さん……」

「その『げっ! 会ってもうた!?』って顔はなんや?」


 まさに、それそのまんまな顔です。


「い、いやー…あまりの嬉しさに感情表現が……」

「なんや! ウチとの再開に感激しとったんかー、可愛いとこあるやん?」


 バンバンっと肩を叩いて来る。

 結構痛い……この人は相変わらず力の加減しねえなあ…。


「アーク様…この馴れ馴れしい女は?」

「父様……この人悪意しか見えなくて恐いです……」


 フィリスが俺に馴れ馴れしい月岡さんを警戒し、人の悪意に敏感な妖精の白雪は恐がってフードの中で小さくなった。

 亜人に悉く印象悪ぃなこの人は…。


「ん~? そっちのローブのは、ロボ娘かと思たら違うやん?」

「あー…えっと、パンドラは今ちょっと別行動です」


 パンドラの怪我の事を話そうかとも思ったが、助ける方法も見つかったし、ここで話して変に心配させたり……悪巧みされても困るしな…。

 パンドラの事を隠したのをバレるんじゃないかと内心冷や汗をかいた。この人、妙に勘が鋭いからなぁ…。

 しかし、俺の心配を余所にその話は軽く流されて話題をフィリス達に戻してきた。


「ふーん…それで、その子はなんや? 坊の新しいコレか?」


 とニシシッと笑いながら小指を立てて見せる。


「ちゃいますよ…。色々協力して貰ってる仲間です」

「仲間などと畏れ多い!」


 フィリスが軽く頭を下げる。


「なんや…変わった子やね…?」

「まあ……そっスね…」


 それに関しては否定はしない。


「ともかく、フィリスです」

「……よしなに」


 俺が紹介したので、一応礼儀として頷く程度に反応しながら言う。

 エルフだって事は黙っておこう。普通の人間に言っても何かと問題が多いのに、この人に言ったら、どんな厄災が俺達に降りてくるか分かったもんじゃない。


「…ご丁寧にドーモ。ウチは月岡美涙、坊の姉的立場ってところやね」

「そ、そうだったのですか!?」

「いや、違うだろ」


 俺の関係者だと一応敬語使うのねフィリス…。でも、それ完全に嘘だから信じちゃダメだぞ?


「それで? そのパーカーに隠れとるチンコイのは紹介してくれんの?」


 おっと、白雪に気付かれてたか。

 ……いや、でもこの人に見せて大丈夫か? いきなり白雪を見世物にして金取り始めたり―――は、流石にしない………と思いたい。

 フードの中で小さくなって震えてるし…って、お前はお前で恐がりすぎだろ!? 並みの魔物相手よりも恐がってないか!?

 確かにそこらの魔物より、よっぽどこの人の方が恐いけども! そこは認めるけども!


『魔物だったら父様が守って下さります!』


 あ、はい。そうですね。


「あー、コイツちょっとシャイなんで。そのうち改めて紹介しますよ」

「シャイかて、人に挨拶せんのは失礼やろ」


 仰る通りです。

 反論の余地もねえ。まあ、それでも白雪を無理矢理引っ張り出して挨拶させる気はねえけど。


「まあ、ええわ」


 良いのかよ!

 一応心の中でツッコミは入れておく。言葉に出すと、この人つけ上がりそうだし。


「それより坊、聞いたで? なんや、冒険者ギルドの中で偉ぅなったんやろ?」

「そうですね。クイーン級なんで…まあ多少は権限も持ってますし」

「ふーん、そかそか。っちゅう事は、コレ持ってんねや?」


 親指と人差し指で丸を作って俺に見せる。

 ……つまり、さっきのを訳すと「オメエ金持ってんだろ?」か……カツアゲかよ…?


「……まあ、多少は」


 行く先行く先でクイーン級をボコってたから、実はルディエの一等地に家を買えるくらいの余裕がある。

 うっわ…今まで見た事のねえ、最高のすっげぇ良い笑顔してるよ……。


「それはともかく。ウチのパーカー、スッカリ着慣れてたみたいやん?」

「そう…ですね?」


 いい加減俺のデフォルト装備みたいになってるからな、この赤いパーカー。

 コッチの世界の染色技術では出す事の出来ないこの赤は、巷じゃ焔色とか言われてて炎使いの俺のトレードマーク扱いされてるし。

 フィリスが「その異装はこの方の物だったのですか!?」と驚いてるし、白雪は自分が今恐がってる人間の服の中に隠れている事実を知って混乱してる。


「そうやろそうやろ? それでや…坊、代金を払ぅて貰おか?」

「は?」


 何言ってんだコイツ? と言う目で見ていると、菩薩のような…クソ胡散臭い笑顔で月岡さんが優しく喋る。


「坊? そのパーカーはタダやないんやで?」

「くれる時にプレゼントって言いましたよね?」

「値引きはしたるよ?」

「結局金は取るんじゃん!?」

「そう言うプレゼントも、世の中にあるんや」


 いや、ねーよ!? 何諭すように言ってんだよ!?


「坊、素直に財布を出すか、それとも指を摘めるか選び?」

「アンタ、どこのヤの付く自由業の人よ…?」


 正直「どっちも嫌だ」と言いたいが、そうするとこの人が何をするか分かったもんじゃない…。

 力に物を言わせて殺しに来るとかなら、なんとでもなるけど…。この人の人脈使って悪評広められたり、パンドラの正体やらをばら撒かれたら、俺達の行動に何かと支障をきたす。

 この面倒臭い人と、穏便に済ませられるなら、そうするべきだよなぁ…。


「……いくらですか?」

「物分かりの良い子は長生きするで?」


 言いながら指を3本立てる。

 えーと服の相場で言うと…銀貨30枚か?

 銀貨を数えようとすると。


「ちゃうちゃう」

「え?」

「金貨30枚や」

「バッカじゃねえの!?」


 どんな高級素材のオーダーメイドだよ!? しかも値引きしてコレ!?

 ボッタくりにしても程があるだろ!?


「ちなみに共通金貨な?」

「割り増し過ぎるよ!?」


 アステリア王国で使われる硬貨は基本的に王国製だ。あくまで王国内での流通貨幣である為、他国に行くとガクッとその価値が落ちる物。

 対して共通硬貨は、どの国でも一定の価値で取引出来るが、この国では王国製の硬貨よりも高い。まあ、そうしないと王国内で貨幣が回らなくなるからだろうけど…。

 いっそ共通硬貨だけ使えば良くね? とも思うが、そこはそれだ…。

 アッチの世界だって、円だのドルだのルピーだの、それぞれの国がそれぞれの貨幣でやり取りしてるし……って、この話は国同士の難しい事情が絡むので割愛する。


「なんや? 払わんのかぃ」


 あっ、ヤベ! 借金取りの目になってる!?


「払いますよ……」


 魔石の換金は、パンドラに「いつか国外に出る時の為に」と助言されて、王国硬貨と共通硬貨で半分に割って貰ってたから、幸いどっちもそれなりに有る。

 パンドラに心の中で供用の財布から大金を支払う事を謝っておく。


「はい、毎度ー」


 ……守銭奴の悪魔め。

 この人が異世界人で尚且つ女じゃなかったら、前歯全部へし折るくらいのパンチをしていたかもしれない。


「まあまあ、あの小さかった坊がこんなに金を稼げるようになってウチも嬉しいわ~」


 俺の小さい頃なんて知らねえだろうが! 言っちゃなんだが、ロイド君の体は俺が入ってから全然成長してねえよ!!


「それだけ強くなったら、もう坊には悩みなんてもん無いんやろなぁ~」


 少しだけ遠い目をしたのが気になって、さっきまでのこの人に対しての不満と怒りを忘れて尋ねてしまった。


「…なんか、悩んでるんですか?」

「んー…そやね? この町の事やら、復興費やら…外国から仕入れてる物のなんやかんや…まあ、色々やね」


 あ……もしかして、今俺が渡した金って…その為の…?

 今のこの国は王都を始めとした西側はボロボロだ。町の有様って話じゃなくて、作物とか、産業や農業の話で。

 そうなれば、もうその足りない分は東側か、外国に頼るしかない。でも、外国から物資を持ち込んで貰うなら、支払いは王国の金ではなく共通硬貨でのやり取りの方が都合が良い。

 ………まあ、この人が俺の金をそんな真っ当な事情に使ってくれるかどうかは分からないけど、そう信じて置けばこの人への怒りも治まる。


「…悩まずに生きられるなら、そうしたいもんやけど……な?」


 俺だって別に悩みが無い訳じゃない。

 パンドラの事を考えてる。

 エルフの里に避難してる妖精達の今後を考えてる。

 取り逃がした水野の事を考えてる。

 操られてるっぽい様子のカグの事を考えてる。

 その横に居た偽物の俺の事を考えてる。


 悩む事なんて、それこそ尽きない程ある。

 強くなれば悩みが消えるなんて、そんな訳はない。むしろ、大きな力を持つ奴程、頭抱えたくなるような難問がどっからともなく落ちて来るもんだ。


 俺みたいに、さ……。



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