7-21 未来の技術は凄い
「父様? それで、この遺跡で何をなさるんですか?」
「あれ? それも説明してなかったっけ?」
「はい」「畏れながら…」
これは、やってしまった…。
情報共有は仲間の基本だっつーのに…どんだけ説明不足だ俺は…。ちょっと反省。
「この遺跡には、パンドラを助ける事が出来る……かもしれない物が有る……かもしれない」
「かもしれない…ですか?」
「かもしれない…ですの?」
我ながら、凄いフワッとした話だな…? でも、ここ以外に頼れる物がないから、縋ってみるしかねえのよ。
「しかし、どうしてこの遺跡にそのような物が有ると?」
「ああ、うん、それは……」
一瞬言い淀んだが、パンドラが人ではない事は知られてるし…それにフィリスは信用できるから良いか、と改めて口を開く。
「パンドラの奴、この遺跡に眠ってたんだよ」
「っ!? そっ、そうだったのですか!? で、では、パンドラもこの世界の者ではないのですか!?」
「まあ…そう、なるのか?」
疑問符を付けたのは、パンドラがどちら側に属する存在なのか俺自身が迷ったからだ。
パンドラを形作る技術は間違いなく機械工学だから、アッチの物。だけど、パンドラは魔法を使う事を前提に作られていた。っつー事は、コッチの世界で作られた可能性が高い。
………とする、アイツはどっちの世界に分類されるんだ?
まあ、でも、それは俺もそうか? 中身はアッチ側だけど、肉体はロイド君の物だからコッチ側。
俺もパンドラもどっち着かずで似たようなもんだなぁ…。
類は友を呼ぶって奴かね?
「そ、そうっだのですね……」
「あー…あのさ、異世界の存在だからって、あんまり身構えないでやってくれると有り難い」
「あ、はい、それは問題ありませんよ? パンドラは、アーク様にお仕えする供周りの1人です。アーク様が信用されているのならば、私や亜人皆パンドラは信用に足る者だと受け入れる事が出来ます」
「ん、そっか」
いつもは亜人達の下にも置かない扱いには困っているが、こう言う時に無条件で信用してくれるのは素直に嬉しい。
亜人達とこういう関係を作って、俺に繋げてくれた先代に感謝。
「父様父様! 私も、勿論パンドラさんを変な目で見たりはしませんわ!」
「ああ、ありがとう」
俺の肩で頑張って主張して来てくれた白雪を指先で撫でると、「えへへ」と黄色く光りながら嬉しそうに笑う。
「っと、ここだ」
例の入り口に辿り着く。
大理石(?)のような良く分からない素材の入り口。俺の…っつうかロイド君の体の血をつけると認証するんだっけか?
前に来た時は彫り込みに指引っかけて傷作ったけど、今の俺だとその程度だと体が傷負わねえんだよなぁ…。仕方なくヴァーミリオンの刃で指先を切る。
チッと指先に痛みが走り血が滲む。
血以外で認証する方法ねえのかな? もしかして体液だったら大丈夫とか、そんなオチじゃねえよな?
とりあえず入り口に拇印を押すように指をつける。
『識別≪RED≫を確認。パスワードを入力して下さい』
「だ、誰だ!?」
「気にすんな、単なる自動音声だ。ジョージ・ワシントン」
『パスワードを確認しました』
入口の大理石がスライドして階段が現れる。
「こ、これは…どのような仕掛けなのですか?」
「不思議な魔導器とでも思っとけ。行こう」
薄暗い階段を下る。
白雪が気を使って、少し自身の光を強くして足元を照らしてくれるのが有り難い。
「それに、先程のじょ、ジョージ? と言うのはいったい?」
「あれは…まあ、アレだ。開けゴマ的な? 封印されたドアを開く便利な呪文的な奴だ」
我ながら恐ろしく適当な説明をしたもんだ。
でも、アッチの世界の大統領とか、そんな話ししてもしょうがねえし、こんな感じの説明で十分だろう。
「そうだったのですか!? 世の中には、不思議な言葉があるのですね?」
あっさり納得された…。
説明を疑われても困るが、そのまま疑いもせずに呑み込まれるのも、それはそれで…ちょっと不安になる。
『父様…今の本当なのですか…?』
『深く考えたらいかん』
適当に誤魔化している間に下に着く。
『お帰りなさい』
合成音声のような女の声が廊下に響き、天井のゴムチューブのような照明機が光って暗闇を遠ざける。
「こ、この光も魔導器なのですか…?」
「いちいち深く考えんな。そう言う物だと思って受け入れてくれ」
実際、俺自身がこのゴムチューブみたいな蛍光灯? をそうやって受け入れてるし。
足音がやけに響く廊下を歩いてドアの前に立つ。
音も無くセンサーが俺を感知して、本来ならばドアのノブが有る位置に灯っていた光が赤から緑に変わり、600年前の骨董品とは思えない程滑らかにドアがスライドして開く。未来の自動ドアの耐久性半端じゃねえな?
ドアの先は……当たり前だが、全く変わらずゴテゴテした機械が並んでいた。
「父様父様! 今扉が勝手に開きましたわ!? 誰かが居るんですの!?」
そんな、テレビを見たら「中に人が入ってるの!?」的な反応をされても…。
「アーク様、ここは…いったい…?」
見慣れぬ物のオンパレードに、フィリスがキョロキョロしながら目を白黒させている。
「何に使う物か、とか使い方とかは聞くなよ? 俺も知らんから」
好奇心の強い妖精らしく、フラフラとパソコンらしき機器に飛んで行こうとする白雪を捕まえて、フードの中に放り込む。
「もう! 父様何するんですの!」
「危ない物あるかもしれんからフラフラすんなっつうの」
他の物には目のくれず、部屋の奥の口を開けたまま放置されているカプセルのような物に向かう。
「これは?」
「パンドラの寝床。アイツ、この中で眠ってたんだよ」
俺が起こしてからの付き合いだけど……なんか、何年もずっと一緒に居たような気がするな? まあ、それだけ濃い日常を過ごして来たって事か。
この中には、メンテナンス出来そうな設備は無い…か。コイツは単なる保存用のカプセルだ。
「くっそ…!」
当てが外れたか…?
いや、待て…諦めるのは早い。
俺にはここにある機器を使う知識はない…けど、勝手に操作してくれる音声案内か何かあれば…!
中央に設置されているコンソール…らしき物に近付く。
えーっと…電源は入ってるのかな?
「どうなさるのですか?」
「んー…ここにパンドラを治療できる設備があるかどうか確かめようと思って…。有るなら有るで動かし方が分かれば良いんだけど」
キーボードに触れると、勝手に空中にホログラムのモニターが投影される。
未来的で使い方に迷う…。でも、基本的にキーボードとモニターがついてるなら、普通のPCと同じ扱いで良い筈……多分。
英文……じゃない? 色んな言語が入り混じった変な言葉の羅列されたホログラムのモニターに手を翳して、スワイプでページをめくる。
よしよし、平成のPCの使い方が通用する。
「ど、どうやって居るのですか!?」
「魔法です」
画面に意識が集中していたせいで、応対が適当になった。
音声案内、音声案内はーっと……コレかな?
それらしい項目を見つけて、タッチしてみる(実際は指が透過したけど)。
『何か御用でしょうか?』
あら、随分流暢な喋りの音声だこと。
「尋ねたいことだあるんだが……」
えーと…パンドラの事はなんて言えば良いんだ? あっ、型番で言えば良いのか……えーと、確か。
「P.D.E.R.16-03……? についてデータがあったらくれ」
『モニターに表示します』
合ってた。パンドラとの初対面の時に1度しか聞いてないのに良く憶えてたぞ俺!
それはともかく………モニターに表示された物が全然読めねえ…。
「読みあげてくれ」
『P.D.E.R.16-03は、当研究所によって作成された機械人形です。いずれ当研究所を訪れる―――に随行する為に作られ―――を―――する事が目的』
「なんか、微妙に飛んだぞ?」
『閲覧許可が下りていません』
言うところの“機密”ってか?
「パンド…じゃねえ、P.D.E.R.16-03が怪我した……壊れたんだが、修理する設備はここにあるか?」
『――――』
…? なんだ、この間?
聞けば即応じる機械の沈黙は、妙な不安を掻き立てる。いや、でも単に俺の質問が聞こえなかった、とか理解できなかったってオチかもしれんし。
「おーい」
『回答。修理する設備は存在する』
「!!」
おっしぁー!! と叫びそうになるのを、フィリス達の前だと思いだして自重する。
「その設備は今でも動かせるか?」
『可能』
ヨシ、ヨシッ! これでパンドラは助かる!
持つべき物は製作者。後の事を見越してそう言う設備を残してくれたのか分からないが、用意してくれた事には頭を下げて礼を言わんとな?
「フィリス、白雪! パンドラを助ける方法がここにある! すぐに戻るぞ!」
「本当ですか父様!?」
「良かった…」
喜ぶ2人を連れて、1度遺跡を出る。そのまま転移魔法でエルフの里に戻ろうかと思ったら、この建物の地下はご丁寧に転移阻害をする魔法か何かがかかっているらしい。
* * *
誰も居なくなった地下の研究所。
点けっぱなしのモニターに、誰に見せる訳でもなく文字が羅列される
『最終プロセスを開始』
『―――匣は開かれた』