7-20 野盗受け渡し
数珠繋ぎになった手下を連れて外に出ると、すでに到着していたアルトさん達とゴールド達が一緒に俺達が出て来るのを待っていた。
冒険者の数は8人。場慣れしてなさそうな新人が混じってるけど、それでも人手不足のソグラスでこの人数を寄越すのは大盤振る舞いだ。
よっぽどここの野盗を警戒している、と言う事だろう。
「あれ? 早かったですね?」
ソグラスからここまで歩いて来たらそれなりの時間がかかる。外に出ても暫く待つ事になるだろうと踏んでたんだが…。
「アーク君が苦労しているようなら、助太刀しなければと思って急いで来たんだが…」
俺達の後ろにゾロゾロと着いて来る野盗を見る。
「……必要無かったね…?」
「まあ…はい。なんか、スンマセン…」
「イヤ。それでこそクイーン級の冒険者…とコッチが褒めるところだろう」
居心地悪そうなアルトさんと、その後ろでキラキラした尊敬の目で俺を見ている新人っぽい奴等のギャップが、また…なんつうか酷い…。
「おい、坊主!」
ガシッと頭を鷲掴みにされる。
ババルのオッサンだった。
「何?」
「おい貴様、あ…ーク様から手を離せ!」
フィリスが今にも飛びかからんばかりの殺気立っていた。
だが、オッサンはそんな事お構いなしに、グリグリと頭を押さえつけに来た。
魔法の詠唱を始めたフィリスを視線で制止する。……この感じ、パンドラと同じ過ぎる。
「あれ、お前んとこの魔獣だろうが!?」
「ん? ああ、エメラルド達? そうだけど……って、オッサンは知ってるじゃん?」
ラーナエイトまでの道中で散々見せたし、何をそんなに怒っているのか分からん。
「俺は良いんだよ! 他の連中がビビっちまって大変だったんだぞ!?」
「そうなん? それは御苦労さまです」
他人事のように言うと、オッサンが若干ドンヨリした目になった。
そんなに疲れてどうしたの? と聞いてやりたいが、藪蛇そうなので止めて置く。
そして、いい加減俺の制止を振り切って、フィリスがババルのオッサンに攻撃しそうなので、オッサンの手を自分で払いのけておく。
「それでアーク君、野盗はこれで全部なのか? 神器を持っていると言うリーダー格らしき男と魔獣の姿が見えないが?」
「リーダー格は、自分の魔獣に食われて死にました。魔獣の方はどうしようもないんで、俺が適当に燃やしましたけど」
特に自慢する風でもなく、普通に報告として話したつもりだったのだが、凄ぇ尊敬と畏怖の目で見られた。
もう…どうすりゃ普通に流してくれんだよ…。
「ああ、そうそう。リーダーっぽいのが持ってた神器ですけど、持ち主が死んでコクーンに戻ったんですけど? 白雪、出してくれ」
「はい」
俺の肩から飛び立った白雪が、俺の手元に白いキャベツのような物体を落とす。
コクーン。言うところの、神器の卵。
このキャベツの葉っぱを剥いた者専用の武器やら防具やらアクセサリーやらを吐き出す、正体の良く分からん物。
かつて、俺がこの遺跡の中でパンドラと一緒に眠っていたの開けて出したのが、今首から下げている“月の涙”だ。
でも、このコクーン…アレよりも絶対デカイよな? 俺が開けたのは野球ボールくらいだったけど、コレ…バスケットボールくらいあるし…。大きいコクーン程、大きい物を吐き出せるとか、そんな感じの話かな?
「これって、どうすりゃ良いんですか? ギルドに返還ですか?」
アルトさんとババルのオッサンが顔を見合わせる。
「良いんじゃねえの? 坊主が貰っちまって」
「ああ。別に神器を取り戻すのは依頼内容に含まれていないし、それで問題ないと思うよ?」
そんな軽い感じで良いのか…?
まあ、冒険者歴の長い先輩2人が良いって言うなら良いか? 文句が出たら、その時に考えよう。
白雪に「ありがとう」と礼を言って再び神器を妖精のポケットの中に仕舞っておいて貰う。
それを見ていた皆が「あれ? コクーン開けないの?」と残念な顔をする。どうやら、俺がどんな神器を出すのかと期待していたらしい。
神器の希少性を考えれば、コクーンを見る事さえ稀だろうから、そこから神器を取り出す光景を見たいと言う気持ちは分かるが……俺はすでに神器を2つ持っている。
オーバーエンドのヴァーミリオンは、先代達が育ててくれた物をそのまま使ってるから力を十二分に発揮できているが……月の涙は、かなり酷い…。
カスラナでの戦いで成長してスキルを獲得したが、消費型―――しかも1回だけの―――であった為、現在は何の力もない指輪になっている。結局成長したのはあの時の1回こっきりで、それ以来ウンともスンとも言わない。
正直、神器2つでも持て余してる現状で、3つ目を持ってもなぁ…と言うのが俺の偽りない気持ちだ。
「さて、それじゃ戻るとするか?」
ババルのオッサンがそう切り出したので、「俺達はもう少し残って遺跡の中に残党が居ないか調べて来る」と別行動にして貰う。
別れ際、冒険者達に引っ張って来られた荷馬車に、捕らえられていた人達が乗せられるのを見送って(その際パーカーは返して貰った)、一応護衛にエメラルド達を付ける。とは言っても、ウチの子達が町に入ると絶対大騒ぎになるので、俺等が戻るまで町の外で待っているように言っておくのを忘れない。
「コッチも行くか?」
「はい!」
ほんのり女性の匂いのするパーカーを着直しながら遺跡に戻る。
残党が居るかも…とアルトさん達には言ったが、もう誰も残っていないのは知っている。ここに残る為に適当に言っただけだ。
……ようやく本来の目的を果たせる。
向かうのは、地下の研究施設。
「あの…アーク様? 今さらなのですが、ここはどのような遺跡なのですか?」
フィリスに問われて黙ってしまう。
どう話したもんかなぁ…?
チラッと様子を窺うと、純粋な知的好奇心に目を輝かせていた。
……まあ、大丈夫かな?
「ここだけの話にしてくれよ?」
と、一応釘を刺しておく。
「はい、勿論です!」「父様が黙ってろと仰るならそうしますわ」
2人の返事に満足して話し始める。
「この遺跡、この世界の物じゃねえんだよ」
「えぇっ!?」「まあ…!?」
白雪の反応が若干薄い。
まあ、白雪は俺の表層の意識が読めるから、もしかしたら言うまでもなく気付いていたのかも。
「今から行く場所は、コッチの世界じゃ存在しないようなオーバーテクノロジー…つっても分からんか…? えーと…この世界には行き過ぎた文明の物が有るんだわ。だから、今から見る物は皆には秘密で頼む」
行き過ぎた文明って意味なら、俺も見ちゃいけないんだけど…まあ、どう言う物なのか理解出来る頭がないからセーフって事で。
「アーク様は物知りなのですね? 流石≪赤≫を継承された御方です!」
そんなキラキラした尊敬の目で見られても困るんだが…。
俺がこの遺跡がアッチ側の物だって理解出来るのは、ただ単に俺もアッチ側の人間だからってだけなんだが…。
『父様、フィリスさんにお話しにならなくて良いんです?』
『まあ、折見て話すよ…』
俺が、中身だけとは言え異世界人ってのは、流石に歩きながら話すような事じゃないからな?
それに、フィリスにしてみれば異世界人にあまり良い印象を持ってないだろうし。先日の件で水野が妖精の里をあんな惨状にしてるし……それに、フィリスが気付いてるかどうかは分からないが、水野との戦いに割って入って来た俺の偽物と……カグも異世界人だ。