境界線上のまどろみ
意識だけがそこに浮いていた。
何も見えない。何も聞こえない。体が何かに触れている感触もない。
いや、そもそも体があるのか? 動かそうとしても何かが反応する気配がない。と言うか、体ってどうやって動かすんだっけ…? 普段無意識でやっていることを意識的にやろうとするとやり方が分からなくなって困るアレだ。なかなか眠れなくて横になりながら睡眠のとり方に悩むような、そんな感じ。
というか…俺、どうなったんだ? トラックに轢かれた……んだよな? 多分。いや、きっと。
死んだ? っぽいよなコレ…。体ねえっぽいし。
コレが死? 何もない真っ暗な中に自分の意識だけが浮かんでいるこの状態が?
コレはあれだな。俗に言うところのゴースト的な? 幽霊的な? そんな感じじゃなかろうか?
死んだ時の痛みを感じないのは、即死だったからなのか、それとも肉体から精神的なもの…まあ魂と仮定しておこう…が離れたからなのか。
いや、待て! 絶望するのはまだ早い! 万が一の可能性として俺が助かったということもあり得るんじゃないだろうか!
間一髪救い出されたとか、トラックが急に進路変更したとか! そんな感じで実はノーダメージでしたー的な!
………じゃあ、今のこの状況はどないやねん。となる訳で…うむ、やっぱり死んだっぽい気がする……。
……マジかよ…。
『―――…ド!』
声?
気のせい、かな?
にしても、死ぬ時は本当に唐突だったな……。
別に100歳以上生きて大往生したいとか思ってたわけじゃないけど、まさか高2で死ぬとは…そんなん予想しとらんよ。
せめて彼女の1人くらいつくってから死にたかったよ。ああ、チキショウめDoTeiのまま死ぬとは…。「おお、良太よ。DTのまま死んでしまうとは情けない」と自分でツッコミを入れてみたが、なんの慰めにもならなかった。
にしても、この状態いつまで続くの?
何も見えない、聞こえない、じゃどうしようもない。そもそも積極的に状況を動かそうにも体がないから動けない。もうコッチからは手詰まりなんですよ。
『―――ィ…ド!』
ん? また聞こえた? 気のせいじゃない!?
女の子の声だった。
俺を呼んでる……のか?
『――ロ……ィ……!』
声が遠い、けどちゃんと耳に届いた(体ねえのに耳に届くっておかしくね、というツッコミは無しだ)。
理由は分からないけど理解できる。あの声は俺を呼んでる。
俺はここにいる、ここにいるぞ!
『―――ロイド!』
誰だよ。
ツッコミ入れた途端、どこともしれない空間を彷徨っていた俺の意識が、声の方に引っ張られ、暗闇から浮上する。