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7-15 運の良い野盗

 見た事もない素材の建物。

 多数の四角い箱を並べたような、3階建ての巨大な遺跡。

 この遺跡が、異世界の研究所である事は、現在ここの主の如く振るまっている<猟犬の牙>のメンバーの中には居ない。


 そのリーダーであるブリエダと言う男は、とにかく運に恵まれた男だった。…より正確に言えば、本人が己の運を信じて疑わない男。

 幼い頃に口減らしの為に捨てられた彼は、自分の現在地も分からぬまま歩き出した。

 そのままいけば、いずれ餓死するか、それとも魔物や魔獣に襲われて食い殺されるか…。

 だが彼は生き延びた。

 偶然出会った冒険者崩れの男に拾われたのだ。後に聞いた話では、その男は冒険者を止めて悪事に手を染めるようになったそうで、1人よりも子供が一緒に居る方が人を騙しやすく、襲う時にも油断を誘いやすいと考えてブリエダを拾って育てる事にしたらしい。

 拾われた理由はともかく、男は様々な事を教えてくれた。

 戦い方、人の襲い方、魔物との戦闘の避け方、罠の張り方、色んな事を教わってブリエダが1人でも“仕事”を出来るようになる頃には、2人の周りには10人近い子分が居ていつの間にやらそれなりの規模だった。

 そんな折、ブリエダの育ての親であり師匠でもある男が死んだ。

 商人団を狙った大きな仕事だった。しかし、ブリエダ達もそれなりに大きな野盗の集まりとなって、<猟犬の牙>等と言う名前で呼ばれる程になっている。

 成功する未来しか見えていなかった。

 だが、商人団の護衛には神器を持った冒険者が居たのだ。その冒険者の相手をしたのが、ブリエダの師匠であり<猟犬の牙>の(かしら)であった。神器の力は凄まじかったが、使い手が未熟だったのが幸いし、何とか殺す事が出来た。しかし、引き換えに頭は死に、残ったのは子分達と、商人団から奪った大量の物資と金、そして―――所持者が死んでコクーンに戻った神器。


 神器の新しい所持者となったブリエダが新しい頭となったのはその翌日の話。

 その後は今まで以上に慎重に仕事をするようになったお陰で、大きな失敗は今のところ1つもない。

 いや、失敗…ではないが事件はあった。

 ブリエダが頭となって2年が過ぎようとした頃、突然魔獣に襲われたのだ。全員が死を覚悟する程の恐ろしい容姿であったが、ブリエダが苦し紛れに餌を投げると不思議とその魔獣は懐いた。

 人懐っこい魔獣…ではなく、元々ブリエダは魔獣に好かれる体質だったのだ。

 そこからの彼等の快進撃は凄まじく、ギルドに討伐隊を組まれた事も1度や2度ではない。

 ブリエダの賢かったのは、1つの場所に拘らなかった事だ。

 場所に固執すれば、詳細な自分達の居場所が知られた時点で終わる。それが彼の持論だ。

 故に、ちょくちょく拠点を変えて移動し、ギルドの追跡を上手く掻い潜っていた。しかし、その間にも仲間は増え今や20人以上の大所帯だ。


 ブリエダは自分の運を疑わない。

 だから、アステリア王国を離れない。

 この国は魔素が薄くて魔物が弱い。その上、冒険者もそこまで強くないと言うのが良い。

 ……ただ、気になる事はある。つい最近この国でクイーン級に任命された男が居る、と言う話だ。

 そこらの冒険者が束になっても退ける自信はある。だが、クイーン級の冒険者とは出会った事がない。自分と魔獣のデスギガが居れば負ける事はない、と思うが、それでも噂を聞く度に警戒心が大きくなるのは止められない。

 曰く―――世に災害と呼ばれる魔物でさえ一瞬で焼き尽くした。

 曰く―――城よりも巨大な魔物を消し飛ばした。

 曰く―――音より早く敵を切り裂く剣士。

 

 そんな不安を拭うように、ブリエダは攫って来た女を抱いていた。


 頼りない光の中、つい一昨日攫って来たばかりの縛りあげた女をブリエダは組敷いて居た。

 最初は散々叫ばれたり、暴れられたりしたが、2,3発叩いて大人しくさせて服を剥いでやれば大抵の女は大人しくなる。

 後は自分が満たされるまで女の中に欲望を吐き出し続ける。

 何度か無茶な事をして殺してしまい、子分達から「俺達が抱いてからにしてくれ」と文句を言われたが、ブリエダは全く改める気はない。

 自分が奪って来た物は全て自分の所有物だ。子分から不満が出ない程度には分け与えるが、それだけだ。

 そして今日もブリエダは女の中に欲望を吐き出し続ける。


(中々胸の形が良くて肉付きも良い、コイツは暫く飼うか?)


 自分の体の下で、虚ろな目で早く時間が過ぎる事だけを願っている女を叩いて現実に戻してやる。人形を抱く趣味はない。多少なりとも嫌がるなり善がるなりして貰わないと満足できないのだ。

 叩かれた痛みで女に微かな意思が戻り、瞳の奥で憎しみの炎が揺れているのが見えた。


(この女はまだ使えるな)


 今も何人か女は飼っているが、その中にこの女も仲間入りさせる事を決めた。

 彼らが人を攫うのは、女は抱く為で、男は魔獣(デスギガ)の餌にする為だ。

 とは言っても、女も拠点を引き払う時には殺して餌にする。手下達は文句を言うが、攫った女を連れ歩くなんて、彼らにはリスクしかない事をブリエダは知っている。

 それに、喰われる瞬間に見せる恐怖と絶望の顔には…なんとも言い難い美しさがある。

 断末魔の女の顔を思い出し、急激に快感が込み上げてくる。


「チッ…おらっ出すぞ!」


 女の中に己の快感を解き放とうとした瞬間、ドアが開いて誰かが入って来た。


「頭っ!!!」


 手下の1人だった。ブリエダの師匠が生きていた頃からの古参で、かなりの信頼を置いて居る。こんな時でも部屋に入る事を許しているのは、手下の中でこの男1人だけだ。

 しかし、女と居る時には滅多な事では声をかける事はない。にも関わらず来たという事は、そうしなければならない何かがあったと言う事だ。

 それを理解した瞬間に、噴き出そうとしていた物が急速に引っ込んで気持ちとブリエダの物が萎える。


「クッソが!!!」


 腹立ち紛れて組敷いて居た女の頬を張る。


「なんだっ!?」

「侵入者だ!」

「ぁあ? 見張りのグルタ達は何をやってんだっ!!?」

「分からん! なんとか3番の部屋に誘い込んだから、早く来てくれ!」


(どこの馬鹿だ…!? クソっ、殺しても殺したりねえ…生きたままデスギガの餌にしてやるっ!!)


 手早く服を来て女を鎖で引いて引き摺って行く。


(丁度良い、この女にもデスギガの“食事”をみせてやろう!)


 3番の部屋に向かう途中、薄暗い…魔導器の光が消えている部屋に声をかける。


「デスギガ、餌の時間だぞ!」


 ブリエダの声に反応して、暗闇の中で何かがノソリと動いて入り口に近付いて来る。


「ヒッ!?」


 女が短く悲鳴を上げ、目の前の恐ろしい魔獣に恐怖のあまり小水を漏らす。


「ククク」


 その姿に少しだけ嗜虐心が満たされて、怒りが炎が小さくなった。

 冷静さが戻り、侵入者について考える。


(何者だ?)


 普通に考えればギルドから派遣された冒険者。

 自分の師匠のような冒険者崩れが、金や食料を求めて来た…という線も在り得る。

 微妙に正体を掴みきれない不安を感じながら、後ろに魔獣を引き連れて3番の部屋に向かう。

 3番の部屋は、この遺跡の中で1番大きな部屋だ。

 相手が大人数なら、同時に少人数しか戦えないように廊下で迎え撃つ筈。だが、あえて大きな部屋に誘い込んだと言う事は、数の利は野盗側にあると言う事だ。

 3番の部屋には、すでに手下達が廊下まで溢れていて、どうやら侵入者を部屋の奥に追い込んで、入り口を押さえてブリエダが来るのを待っていたようだ。


「どけ!」


 近い方の入り口を固めていた手下達を蹴って退かし、裸の女をペットのように鎖で引き連れて中に入る。

 そこには―――


「おっ? リーダーっぽいのが来た?」

「魔獣も一緒のようですね?」


 ブリエダを指さして呑気な事を言っている小さな子供と、ローブで全身を隠したやたら顔の綺麗な女が立っていた。



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