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7-14 不思議な遺跡リターン

 フィリスの冒険者登録はアッサリ終わった。

 本来なら受けなければならない課題もなく、受付の厳つい髭が白いナイトの駒に個人認証を施して、それで終了だった。

 周りからフィリスが変な目で見られないかと心配したが、クイーン級の俺の推薦を受けたって事でむしろ尊敬に近い感情を持たれたようだったのでちょっと安心。変にいちゃもん付けられたら、折角人間に歩み寄ろうと頑張ってるフィリスの心を折りかねないからな…。


 で、これからの話。

 一先ず俺達が先行して遺跡に向かい、野盗を倒すなり捕らえるなりして、後追いで来た皆が野盗と連れ去られた人達の身柄を回収。

 まあ、細かい部分を割愛すればそう言う作戦だ。

 作戦……作戦か? 単なる流れの確認じゃね…?

 ともかく、俺等は先行って野盗をボコって、一般人達を助け出しておけば良いって事だ。



――― 30分後



 俺とフィリス、ついでに白雪は遺跡の近くの気の陰に潜んでいた。

 遺跡の入り口までは30m。

 ここまでの道中はまたゴールドに頑張って貰ったが、遺跡に近付いた所で俺の感知能力が見張りの存在を確認。

 仕方なくゴールドを戻して、フィリスを抱えて見つからないように木から木へ転移してここまで近付いた。

 感知能力の良いところは、相手が同等以上のスキルを持ってない限りは先手を取れるって事だ。この距離までは警戒してたけど、まったく反応がないところを見ると、相手の中に感知能力を持ってる奴も、探知魔法を使ってる奴もいないな?

 いや…気付いててあえて泳がせ、中に誘い込もうとしてるって事も在り得るか…。でも、フィリスが居るから、いざとなったら【長距離転移魔法(ハイポータル)】でソグラスまで一旦戻っても良いし。つっても、後追いの連中ももうソグラスを発った後だろうし、出来れば仕留めてしまいたい…。


「見張りは2人か…」


 噂の魔獣の姿は確認できない。神器を持ったリーダー共々遺跡の中か…?

 巨大な魔獣って言ってたけど、遺跡までの通路の狭さを考えればそれ程大きくはないだろう。良くてゴールドよりちょっと大きい位か? いや、縦横じゃなくて、蛇のような胴体の長さ的に大きいって事も有り得る。一応警戒は解かないでおこう。


「どうなさいますか?」


 フィリスに小声で訊かれて思案する。

 別に普通に突っ込んで倒す事は楽勝だけど、変に中に警戒を呼びかけられたら面倒だ。

 それに―――俺等の接近に相手が気付いて知らぬふりをしてるかもしれないのも、一応確かめておくか…一応な?


「フィリス、入り口を挟んだ反対側に一瞬見張りの注意を向けてくれ」

「はい」


 指先に魔法陣を描き、口の中で魔法名を唱える。

 声を出す事を嫌った為に、声が小さ過ぎて何の魔法を唱えたのかが分からなかった。

 ただ、フィリスの指先の魔法陣が消失すると同時に、対面側の木陰でガッと木に何かが当たる音。


「「っ!!?」」


 見張りの2人が同時に音のした方向に目を向け、それぞれナイフと手入れのされていない剣を抜き、ゆっくりと近付いて行く。

 はい、俺等に気付いてない事確定!

 俺達に気付いてるなら、音のした方向よりもコッチに警戒が向いた筈だ。それなのに、あの見張り2人は無防備にコッチに背中を向けている。

 さっさと黙らせよう。


「おい! 誰か居るなら出て来い!」

「ここをどこだと思ってんだぁ!? 俺達<猟犬の牙>の―――」


 誰も居ない木陰に武器を向ける滑稽な背中に転移で近付く。


「寝てろ」


 ゴッと1人目の背中を思いっ切り蹴る。空中を逆エビ反りになりながら吹っ飛んで地面を転がるのを確認しながら、振り向いた2人目を軽く押して体勢を崩し、後ろに倒れないように踏ん張ったところをカウンターの要領で殴り飛ばす。

 はいはい、入口の封鎖解除っと…。


「アーク様!」


 見張りが行動不能になったのを確認してフィリスが出て来る。


「あの…御言葉ですが、1人は生かして中の情報を吐かせた方が良かったのでは?」

「生かしてって……別に2人共殺してねえから…」


 言いながら、パーカーのフードをノックして白雪を呼ぶ。


「父様、呼びました?」

「ああ、コイツ等縛るから縄くれ」

「はい」


 ソグラスを出る前に、捕縛に使ってくれ、と大量に持たされた縄を出して貰い、ノびている2人をまとめて縛り、ついでに喋れないように猿轡をする。

 これでヨシ。


「フィリス、さっきの情報云々の話だけど、別に要らねえんだ」

「…? どう言う意味ですか?」

「言ってなかったけど、俺この遺跡入った事があるんだ。その時に隅々まで見て回ったから中の様子は大体分かるし、後は感知能力で得られる情報を照らし合わせれば、中の情報はほぼ揃う」


 まあ、魔獣や神器の情報は欲しいけど……見張りのこの2人が素直に真実を話すとも限らないし、かと言ってタラタラ情報吐かせている訳にもいかんし。だったら、コッチで得られる情報だけで動く方が手っ取り早くて危険も少ない。


「そうでしたか! 流石、≪赤≫の御か………じゃないアーク様!」


 呼び慣れるまで時間かかるかもなぁ、コレ…? まあ、気長に行こう。

 フィリスの事はさて置き、遺跡の中はどうなってるかな…っと。

 【熱感知】で見ると、熱源は全部で32。

 1つ大きいのが混じってるから、多分これが例の魔獣だな。残り31のうち13が連れ去られた人達だとすると、野盗の数は18…捕らえた見張り2人をプラスして全部で20人。

 あ…でも、連れ去られた人が生かされているとは限らないのか…? 最低数が18、場合によってはもうちょっと上かもしれない…程度に考えておこう。まあ、31人全部野盗の可能性も一応考慮しておくか。

 居るのは全部一階部分。逃げるにしても迎え撃つにしても、対応が一番早く出来るようにかな? 自分等に討伐隊が差し向けられる事も考慮してるんのか……?


「大体中の様子は分かった」

「では、突入ですか?」

「ああ…っと、その前に。来い、我が眷族!」


 噴き上がった炎からゴールド達が出て来る。


「この場の見張りを頼む。俺達以外が中から出て来たら絶対に逃がすな。出来れば捕まえて欲しいが、変に抵抗するようなら殺して構わねえ」


 人殺しをするように命じるのは心が痛むが……相手は復興を阻むクソッ垂れな野盗共だ。それに、捕まえようと無理してコイツ等が傷付くくらいなら、相手を殺してでも無事で居てくれる方が100万倍良い。

 鼻先を擦り付けて来るゴールドに「出したり引っ込めたり忙しくてごめんな?」と優しく首元を撫でると、嬉しそうに甘えて来る。


「畏まりました。それで、そこに転がっている者達は?」

「ああ、そうだった。……多分暫くは起きないと思うけど、起きて騒ぐなら適当に引っ叩いて黙らせといてくれ」

「理解しました。“優しく”叩いておきます」

「ああ…うん…」


 エメラルドの“優しい”で、見張り2人がトマトケチャップにならない事を祈るばかりだ。


「それと、もしも…だが、お前達が勝てないような奴が現れたら、俺達の事を気にせず逃げろ」

「その命令には従えません!」


 エメラルドだけでなく、ゴールドとサファイアも強い意思の灯った目で俺を見つめて来る。


「別に俺等を身捨てろって言ってんじゃねえよ…? フィリスが一緒に居るから、コッチはコッチで勝手に逃げるから、お前達は先に逃げとけって言ってるだけ」

「そうでしたか…。しかし、もしそのような敵が現れた時は出来る限りの時間稼ぎはさせて頂きます」


 エメラルド的にはここが最大の譲歩だろう。


「分かった。じゃあ、それで頼む」

「畏まりました!」


 俺と離れるのが寂しいのか、悲しそうに鳴くゴールドとサファイアに後ろ髪引かれながら遺跡に入る―――。



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