7-11 再びソグラスに
ソグラス。
良くも悪くも商人の町。活気に満ち、とにかく町の人達が元気なのが最初の印象だった。
俺が“アーク”として旅立って初めて来た町って事でも、俺にとっては色々思い出深い。
っと、村に入る前に…。
『白雪どうする? 町入るけど隠れてるか?』
『いいえ。父様が嫌でないのでしたら、私は父様の肩に居ますわ』
『そうか』
まあ、大丈夫だろう。
俺の右肩にチョコンっと座って、恥ずかしくないように姿勢を正す白雪を見てちょっと笑ってしまった。
先を歩くレイアさん達に導かれるように、ソグラスの中に足を踏み入れる。
仮設小屋っぽい簡素な作りの小屋が、長屋の如く町の西側の入り口に固まって建てられ、住人と外からのお客様の現在の住居はここらしい。
ちゃんとした家屋も在るには在るが、それは例のミミズの攻撃を逃れた数件だけだ。新しく建った物はない。
だが、瓦礫がほとんど撤去されて町の外に積み上げられている。その山の規模から、相当な大仕事だっただろう事が窺える。
町を囲む柵が木製の頼りない物なのは、流石にそこまで手が回らないからか。ああ、だから冒険者が定期的に巡回して魔物が近付く前に倒してるのか…。
俺が町へ足を踏み入れると、近くに居た人達がギョッとする。
何かと思ったら…ああ、ゴールドか? 流石に町中で連れ歩くとマズイか…。
「ゴールド、ありがとな。暫く休んでてくれ」
顔をワシャワシャしながらお礼を言うと、「がぅ」と尻尾を振る。本当にお前は癒し系だなぁ……サイズ以外は…。
俺が手を離すと、2m以上ある体が炎となって四散して消える。
「「「「「「えっ!!!?」」」」」」
新米3人やレイアさん、それに俺を注視していた皆が驚愕に顔を歪めているが気にせず歩く。
「い、今のなんだ!?」「分からん…何者だ?」「いや、アレって…アークさんじゃねえか?」「お? おお、おおそうだ!」「そうそう、あの人だよ! 前にこの町を護ってくれたのは!」「ちょっと待て! アークって、もしかしてクイーン級のか!?」「マジかよっ!? この国たった1人のクイーン級の冒険者がアレか!?」
気にしないようにしてるけど、すっげぇ俺の事話されてる気がする…。
「ねえ? あの肩に乗っているのは何かしら?」「人形…?」「じゃない!! 動いてるぞ!?」「えっ!?」「いやいやいやっ!」「マジだよ!? アレってもしかして妖精か!?」「嘘っ!? 初めて見たわ!?」「流石クイーン級の冒険者だぜ…」「ああ、本当にな」「俺達には及び付かない存在だ…」
何だろう…。特別な事はしてないのに、妙に周りからの視線が熱い気がする…。
どうやらそれは俺の気のせいではないらしく…。
『父様…ちょっと視線が痛いですわ…』
「同感」
ちょっと溜息吐きたいけど、ここは我慢して格好付けておこう。一応クイーン級…肩書上はこの国最高の冒険者だからな。
「アーク君はどこに行くの?」
「とりあえずギルドに行きたいんですけど…」
ふと考えたが、この状況でギルドって運営出来てんのか?
いや、運営出来てなきゃ、こうして冒険者が居る事もねえだろ。
「そうなんだ? じゃあ、私達も報告に戻るから一緒しましょう」
「はい喜んでー」
居酒屋みたいな返事をしながら、内心「やっぱりね」とほくそ笑む。
周りから奇異や尊敬の目で見られながら歩いて居ると、新人3人が悪戯っ子な笑顔で話し始める。
「アークさんが来たって知ったら、ギルドの皆きっと驚きますね!?」
「そりゃあそうでしょう! だってクイーン級の冒険者なのよ?」
「…そう言えばレイアさんとアークさんって知り合いなんですか?」
ユーリが突然そんな事を聞いて来た。
別に隠してた訳じゃないし、隠すつもりも毛頭ないが……そう言えば言ってなかったっけ?
レイアさんも同じような事を考えたようで、2人で顔を見合わせてしまう。
「アーク君が旅に出る時に、一緒したのが私とアルトの2人なのよ?」
「その節はお世話になりました」
俺がちょっとだけ頭を下げると、フィリスの奴も頭を下げる。人に頭を下げるなんて、どうしたんだと思ったが、後に聞いたら…俺が世話になった人…つまり俺の恩人…俺の恩人って事は自分にとっても恩人! と言う思考が働いたらしい。
「へええ!! レイアさんクイーン級のお世話をした事があるんですか!?」
「凄い凄ーい!!」
「ふふ、まあね?」
自慢げに笑うレイアさんにユーリが要らない一言を言う。
「世話をした相手に追い抜かれたって事ですか?」
「………そうね」
エグトとフィッテが、視線で「馬鹿っ!!」と抗議しているが、ユーリ本人はなんでそんな視線を向けられているか分かっていない様子。
どの世界でも空気読まん奴は最強だな…。
「アーク君は旅に出た時から強かったわよね? 最初っからアーマージャイアント3匹1人で倒してたし」
「まあ、そうですね?」
新米達が「すげえ!」と尊敬の眼差しを向けて来て、何故かフィリスと白雪が「当たり前です!」とドヤ顔をしている。
「でも、ユグリ村だとそんな事なかったわよね? ポーン級の魔物に追いかけられるぐらいに頼りなかったし」
「そッスね…。ルディエの魔道皇帝の一件で何か変な力の扉を開けちゃった……みたいな? そんな感じです」
変な力の扉って言うか、まあ、魔神の力なんですけどね…。
「凄え! アークさんも、あの魔道皇帝との決戦に参加してたんですね!? レイアさんとアルトさんも居たって言うし、この国の最高戦力が揃ってたんじゃないですか!?」
俺は参加してたっつーより巻き込まれた口だけどな?
………あの戦いには、明弘さんも居た。この国の最高戦力ってのは…強ち間違いでもなかったかもな…? それでも、皇帝に良いように暴れ回られたけど…。
「私達もそんな凄いピンチに遭ったら、なんか凄い力とか目覚めないかな?」
「もしかしたら、あるんじゃないか!?」
いや、ねーよ。
そんな都合良く能力が覚醒するのは、漫画のヒーローか…俺みたいな変な物を体に宿してる怪物だけだ。
「無茶はすんなよ…? 死んだらそこで終わりだぜ?」
死は絶対の終わりだ。蘇生の方法なんて、簡単に手が届く所にはないのは、旅と呼ぶには短い期間だが…それで身に沁みてる。
魔神の力でだって人を生き返らせる事なんて出来ない。
水野の【輪廻転生】が近い物ではあるけど、あれは蘇生じゃなくて死に戻りだし。そもそもあのスキルは寿命をゴッソリ消費するって、その場の死を回避しただけで結局死は近付いてるしな。
……パンドラも、死んだらそこで終わりなのかな…?
ふとそんな事を考えた。
根本的な話しとして、アイツの死はどこを意味するのだろうか?
パンドラのボディが壊れた時か? 電子頭脳が傷付いた時か?
………良く分からんな?
考えるのヤメヤメ…そもそも俺は頭使うの得意な人間じゃねえって散々思い知ってるじゃねえか…! 俺は、今エルフの里で眠っているパンドラを助ける事に全力を尽くす。それだけだ。